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MAKE A FRIEND  作者:  
他人
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彼らの過去

「お兄ちゃん。気を付けてきてね。」

 そう妹に送り出された。

 そう今日は宿泊研修だ。

 なざこんな朝早くから学校へ行かなければならないんだ。

 昼くらいからでも良いだろう。

「めんどくさい。」

 独り言をつぶやいていると、いつもの分かれ道についた。

 すると山吹に偶然出くわした。

 俺も驚いたが向こうも驚いたらしい。

「あ。」

「あ。」

 こんな感じだ。

 少しの間、二人とも立ち止まっていた。

 すると山吹の方から

「おはようございます。」

 と挨拶をしてきた。

 俺もそれに返す。

「おはよう。」

 と。

 それから何も言わずに俺らは歩き出す。

 この前の一件からなぜか気まずさを感じていた。

 それは俺だけなのかもしれない。

 いや、向こうも同じだろう。

 あんな場面を見られてしまったのだから。

 どんな言葉を掛けていいかわからない。

 しばらく歩いていると学校が見えた。

 すると山吹が立ち止まる。

「宿泊研修、お互いに頑張りましょう。そして、楽しみましょうね。」

 そう微笑む彼女。

 俺には少し悲しそうに見えた。

 そして彼女は小走りで学校の中へ消えていった。

 俺も遅れて学校へ向かった。

 簡単なホームルームを終え、各クラスのバスへ乗り込む。

 二階建てのバスとかなり豪華だった。

 お陰さまで一人で二席使うことが出来た。

 あの四人組は相当仲が良いのかペアで座っていた。

 バスの中はお祭り騒ぎだった。

 そのせいで寝ることが出来なかった。

 それから四時間ほどバスに揺られ目的地に着いた。

 そこは大きな湖がある自然豊かな場所だった。

 今日から二日間ここで過ごすのだ。

 バスを降りた瞬間から班行動の開始である。

 俺は嫌々にバスを降りる。

 次々とクラスの連中がバスから降りて班ごとに集まっていく。

 しかし、俺の班の奴らは集まらない。

 もう既にほかの班は集まっている。

 それなのに俺の班の奴らはまだ集まらない。

「先生、俺の班員がまだ集まりません。」

 と担任に報告した。

 すると一斉にみんなが俺の方を振り返る。

 うわー恥ずかしいー。

 目立ってるなー。

 なんて思っていると、その直後に走ってやってきた。

 俺は殺意が湧いた。

「いやー、すまないな。みんなで同人誌を読んでたら酔ってしまってよ。」

 とデブが。

「なかなか良かったべ。」

 とひょろ長が。

「なんだよ、お前には見せねーよ。」

 とイきりが。

「................おえ。」

 と吐く無口くん。

 開幕から波乱万丈。

 先が思いやられる。

 無口くんが嘔吐してしまったせいで俺たちはさっそく他の班と別行動をすることとなった。

 他の班は荷物を置いたあと周辺の自然観察へと出掛けた。

 虫が苦手な俺からすれば正直なところ有難い話だった。

 残された俺たちがやるべきことは…

「おい、こっちの台、人参が一本足りないぞ!」

「わかってるべ。今もってくべ。」

「おい、てめえボケっとすんな!」

「................おえ。」

 みたいな感じに夕食の素材を用意することである。

 用意するって言っても採ってきたり買ってくるわけでもない。

 ただダンボール箱の中から取り出して各調理台に持ってくだけである。

 作業はシンプルなものなのだが、全クラス分やるため結果的に重労働となった。

 約一時間かけて無事に作業を終えた。

 他の班は絶賛自然観察中のため俺たちは自由行動となった。

 俺たちは特にやることもやりたいことも無かったため部屋で待機することにした。

 部屋は至ってシンプルな作りだった。

 二段ベッドがこの字のように三個設置されており中央に丸テーブル。

 トイレ、風呂、洗面所は共有ペースにあるようだ。

「ふむ、悪くないな。」

「そだね。」

「そうっすね!」

 と奴らからも太鼓判が押された。

 あれ、そう言えば無口くんがいない。

「あれ、もう一人は?」

「ああ、まだ吐いている。」

 とデブが答えた。

 まだ治っていなかったのかよ。

「様子を見てきてやってくれないか。」

「班長だしね。」

「俺らにはやることがあるからよ。」

 はいはい、そうですか。

 ま、班長だし。

 班員に管理はしなきゃな。

「わかった。」

 俺は返事をして部屋をあとにした。

 扉を閉めるとき中の方から微かに「さっきの続きを見ようぜ。」と聞こえてきた。

「はぁ、仲間思いなのか自己中なのか。わからないな。」

 とため息をつく。

 館内の中を探し始めた。

 最初は洗面所。次にトイレ。風呂場。ロビー。

 いそうな所は全て回った。

「いない。ったく、どこだよ。」

 ロビーのソファーに腰を掛けながら文句を言う。

 それにしても開放感が素晴らしい。

 ロビーの上は吹き抜けとなっており、またガラス一面になっていて大きな湖を見ることができる。

 その一面に広がる湖を見ていると何やら人影みたいなのがいた。

 窓に近づいてみると、なんとラウンジがあるではないか。

 俺はラウンジへ続く入り口を開け、外へ出た。

 その人影に近づいてみると、無口くんだった。

「こんなところにいたんだな。」

 そう言いながら俺は彼の横に座った。

「うん。景色がいいしね。それに空気が美味しい。」

 え、ええええ。

 俺は啞然だった。

「あはは、喋るんだって驚いたでしょ。

 君ってわかりやすいよね。顔にすぐ出るんだもん。」

 ああ、やっぱりそうなのか。

 山吹も言っていたしこう立て続きに言われると認めざるを得ない。

「前にも言われた。なんでいつも無口なんだ?」

 この際だから聞きたいことは聞くことにした。

 これも班長の務めだろう。

「口を出さないようにしているんだ。」

 彼は答えてくれた。

「なぜ。」

「仲を壊したくないからかな。」

 きっと彼は包み隠さずに話てくれるようだ。

「なに。」

 彼は遠くをじっと見つめ答えた。

「僕は空気が読めないんだ。

 だからきっと彼らの雰囲気を壊してしまう。いつも楽しそうでしょ?

 僕はあの楽しい雰囲気を壊したくないんだ。

 それに無口でも十分楽しめているしね。

 君は知らないだろうけど、彼らは凄く仲間思いなんだ。」

 そうだったのか。

 そんな理由があったとはな。

 キャラを演じているだけの奴かと思っていた。

「そうか。そう言えば、お前らって凄く仲がいいよな。昔からの知り合いかなにかか?」

 彼は笑った。

「そうなのさ。ネットコミュニティーで知り合ったんだ。

 話があってね。同い年ってのもあったんだろうね。 

 でも、それだけじゃない。僕たちは三次元が嫌いなんだ。

 そんな共通思想を持っていたってことが大きいかな。

 それで琴音が同じ学校に通おうって言いだして。最初はみんなは冗談だと思っていたけど、琴音は本気  だったんだ。それから話し合って一度、直接会うことにした。

 そしたら、こんなに面白い人たちがいるんだ。一緒にいて楽しい人がいるんだって思って、みんな即決  だった。同じ学校へ行こうってね。

 ちなみに、ゆーだいと龍は北海道出身なんだよ。」

 羨ましいと素直に思った。

 こんな友達、仲間がいたら。

「いいな、そういうの。」

 その話を聞いて俺は思った。

 こいつらは本物かもしれない。

「えへへへ。」

 と心の底から嬉しそうに笑った。

 きっと彼のその笑顔は忘れることはないだろう。

 それから彼の昔話や馴初め話を聞かされた。

 彼は終始、幸せな表情をしていた。

 そろそろ他の班が戻ってくる時間が迫っていたため俺たちは部屋へ戻ることにした。

 部屋に戻ると奴らは相変わらず同人誌を読んでにやついていたのであった。

 今までは苛ついたが、話を聞いたあとではそんな気にはならなかった。

 むしろ、輝いて見えた。

「へ、眩しいな。」

 そう誰にも聞こえない声で呟いた。

 少しして他の班の奴らが戻ってきた。

 それからは夕食を作り、風呂に入り、忙しなく時間が過ぎていった。

 気が付くと就寝時間だった。

 無口くん以外、寝る気配がない。

 彼らは二次元について語り合っていた。

 俺はそれを無視して目をつむる。

 数秒もかからずに夢の中へ落ちていった。

 そして無事に一日目が終わった。


 


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