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MAKE A FRIEND  作者:  
他人
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一歩前進して一歩後進する。

 ああ、寝不足だ。

 辛い。

 あんなに悩んだ挙句、返信できなかったとかキモイわ。

 昨日の自分を殴り飛ばしたい気持ちが込み上げてきた。

 もうこのことは忘れよう。

 寝不足のせいかいつもに増して授業がつまらなかった。

 そんな怠い授業を乗り越え放課後を迎えた。

 だがこの後には班長会議というイベントがある。

 昨日の失敗を活かして…

「お、楓馬!」

 こういう時に限って。

 声の主は賢治だった。

 返事すらしていないのに俺の方へ走ってきた。

「帰りか?」

 そう言いながら肩を組んでくる。

 暑苦しい。

「いや。」

 えっと言わんばかりに驚く。

 本当にわかりやすい奴だ。

「おまえ、まさか、部活に入部したの??」

 いや、違うだろ。

 入るとしたら何部だよ。

「おい、何部だ??」

 いや、入っていないんだけどな?

「おいおい、早く教えてくれよ。」

 あー、めんどくせー。

「入ってない。」

「だよなー。入るわけないよな!」

 うざいな。

「んじゃ、なんで帰らんの?」

「班長会議。」

 また驚いた表情をする。

「うそだろ?」

 どうせおまえが?って言いだすんだろ。

「やっと乗り越えられたのか。」

 真面目な顔で言う。

「違う。押し付けられただけだ。」

「それでも、俺は嬉しいよ。頑張れよ!」

 そう言って賢治は去っていった。

 本当に嵐のような奴だな。

 俺は速足で指定の教室へ向かった。

 やはり既にたくさんの班長が集まっていた。

 そして昨日と同様、一分前くらいに扉が開かれた。

 友達野郎だ。

 奴は俺を見つけるなり横にやってきた。

 目立つから来るな。話しかけるな。

 そんな思いは届かず…

「はぁ、はぁ、ご、ごめんなさい。はぁ、遅れてしまいました。」

 と俺に謝る。

 いや、明らかに謝る相手違うだろ。

 それにぎりぎり間に合っているから謝る必要もないだろ。

 今日も相変わらず息を切らしていた。

 女の子って忙しいんだろうな。

 その日の班長会議は自由研究のテーマを決めるという内容だった。

 それから三時間にも及ぶ話し合いの結果、【集団】に決まった。

 なぜこのテーマに決まったのかというと、これから3年間ともに過ごすクラスメイトとの関わりを考えるということらしい。

 正直、意味がわからん。

 ま、恐らく宿泊研修は集団行動を学ぶものみたいなところがあるからだろう。

 宿泊研修後、各班がレポートを作成しそれをクラスで発表するらしい。

 学年の前での発表ではなくて心底ほっとした。

 その説明のあとお開きとなった。

 各自が帰り始めた。

 が、俺は教室の前で待っていた。

 すると友達野郎が出てきた。

「あ」

 と反応する。

 そして笑顔で

「待っていてくれたんですか!ありがとうございます。」

 と言う。

「昨日は、そ、その悪かった。」

 友達野郎は首を傾げる。

「え、どうしたんですか。急に。」

 あ、こいつ気付いていない。

 いや、それどころか何で謝っているのかもわかってない。

「いや、なんでもない。」

 恥ずかしい。

 死にたい。

 結局、一人で舞い上がっていただけか。

 ださいな。

 たかがメールの返信ごときで。

「そうですか。では帰りましょうか。」

 そして俺たちは学校をあとにした。

 沈黙の時間が続く。 

 ただただ俺たちの足音だけが聞こえる。

 そんな沈黙を破ったのは友達野郎だった。

「静かですね。」

 そうだな、と言おうとしたが上手く声が出なかった。

「昨日、メール届きましたか?」

 そのときだけ異常に声が響いた気がした。

 言うのはこのタイミングしかない。

「そ、それについてなんだが。」

 やはり声が上手く出ない。 

 おそらく暫く声を出していなかったせいだろう。

 唾液が足りない。

「返信しようとしたんだ。」

 友達野郎は俺が答えるのを待っているようだ。

 相槌すら見えない。

 友達野郎がどんな表情をしているかもわからない。

「どう返事したらいいか、わからなくて。」

 そう言うと、

「え。」

 と拍子抜けした声をだす。

「どういうことですか?」

 これは言うしかないよな。

「そ、そのどんな内容で、どんな雰囲気がいいのか。それがわからなかった。」

 あ、はははは、と声を出して笑う。

 失礼な奴。

 うぜーとか思っていると、

「ごめんなさい。なんだ、そういうことだったんですね。馬鹿みたい。」

 うわーとことん嫌いな奴。 

 性格悪すぎだろとか思っていると、

「私が、ですよ。だって、返信がなくてきっと嫌われているんだろうなって思っていたんです。だから、明 日、直接聞こうって思ったんです。」

 え、そういうこと?

「だって、楓馬くん、思っていることすぐ顔に出ているからです。」

 けっこうポーカーフェイスでいたつもりだったんだけどな。

 周りにはそう見えていたのか。

 今度から気を付けよう。

 それにしても何で俺の名前を?

「ほら、いまだって何で名前を知っているんだって顔してましたよ。」

 そう言って微笑む。

 こいつが鋭すぎるだけじゃないかと思った。

「そんなにバレやすいのか。」

「はい。」

 と元気よく返事する。

「名簿見たんです。自己紹介すらしてないのに馴れ馴れしくし過ぎたなと思ったので。」

 自覚、あったんだな。

 実はいうと俺は名前知っていたけどな。

 ただ、自己紹介もしてないのに知っているときもいので聞くことにした。

「名前は?」

 それだけで通じたようだ。

「山吹 白です。」

 やまぶきしろ。

「よろしくお願いします。」

 と深くお辞儀をする。

 いい奴なのか悪い奴なのかいまいち掴みにくい奴。

「ああ。」

 とだけ返事をした。

 それから他愛のない話をした。

 主に話していたのは向こうだったが。

 俺はそれに相槌を打つだけだった。

 そして別れ、家に帰った。

 帰るとすぐに【これから、よろしく。】とだけ返信した。

 すると直後に【はい、こちらこそ!】と返ってきた。

 それから朝起きてメールし、会議のあと一緒に帰り、寝る前にメールという関係が続いた。

 班長会議は忙しくなる一方だった。

 班員への連絡。

 これが特に大変だった。俺の班だけかもしれないが。

 時間があまりとれないので会議が少し早めに始まることもあった。

 それでも山吹はぎりぎりに来ていた。

 そして毎回、息が上がっていた。

 その都度、俺が最初から説明してやっていた。

 そろそろそれがめんどくさくなり、俺は聞くことにした。

 直接聞く勇気がなかったのでメールで聞くことにした。

【なんで毎回ギリギリなの?】

【毎回、迷惑かけてごめんなさい。掃除があるので…】

 掃除!?

 三十分以上かかる掃除があるか!

 と声を上げてツッコミを入れたくなった。

 あまりに大声を出してしまうと、めんどくさい奴が来てしまうので。

 ま、掃除なら仕方ないな。

 

 いつものように学校が終わった。

 今日であのブラック会議は終わりだ。

 いつもの教室へ向かい、いつもの位置に座った。

 相変わらず、ほとんどの班長が集まっていた。

 こいつら掃除してんのかな。ってか、普通は免除だよな。

 俺ですら免除してくれてるのに。

 きっと山吹の班の奴らが気の利かない奴らなんだろうな。

 そう思いながら山吹の班メンバーを思い浮かべて納得する。

 準備をしようと鞄から筆記用具を取り出そうとするが、

「ない。」

 鞄のどこを探しても筆記用具が見当たらない。

 机の中だと思い、自分の教室へ向かう。 

 幸いなことに早めに気が付いたため時間的にはまだ余裕があった。

 そして教室に辿り着く。

 すると不思議なことに扉が閉まっていた。

 人がいたら嫌だなと思いつつ開けた。

 開けた瞬間、目の前の光景に俺は啞然とした。

 そして無意識のうちに声が出ていた。

「お、おまえ何してんだ。」

 彼女は平然と答える。

「掃除です。」

 いや、おかしいだろ。

 教室掃除なんて一人でするもんじゃないだろ。

 そういうのは大抵なにかの罰とかだけだろ。

「いや、それはわかる。他の奴らは?」

 彼女は手を止めずに答える。

「帰りましたよ。」

 は、掃除を一人に押し付けて帰った?

「え、何とも思わないの?」

「はい。慣れているので。」

 慣れている?

 俺には理解できなかった。

 それ以上、突き止めることはしなかった。

 なんとなく察してしまったから。

 少し近づいたであろう山吹との距離が、また遠ざかった気がした。

 そして宿泊研修の当日の朝を迎えた。

 



 




 



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