人の意志なんて関係ない
-数日後
...金崎と仲良くなる
なんて目標を掲げたのは良いが、実際には何をすればいいのか、どうすればいいのか、わからない。
というより、今日も学校にすら来ていない。
これで三日連続の欠席だ。
人間関係の問題よりも、進学の方が問題なのでは?と思う。
金崎が学校に来ない以上、俺に出来ることはない...
「...はぁ。」
自然とため息がこぼれる。
「楓馬くん、何か意見でもありますか?」
ため息をついた俺に委員長が聞いてくる。
...しまった。
今はHR中で、『体育祭』のメンバー決めを行っているのだった。
金崎の対処について考え込んでいて、すっかり忘れていた。
「...い、いや、何にもないです。」
今年の体育祭では、男子と女子によって競技種目が異なる。去年は一緒だったとか...
男子は、サッカーとバスケ。
女子は、ソフトボールとバレーボールだ。
もちろん共通競技もあり、組対抗リレー、クラス対抗大繩が行われる。
体育祭は、三日間行われ、各組でチームを組み戦う。文化祭と同様、もしくはそれ以上に盛り上がるそうだ。
...なぜなら、優勝した組には賞金が与えられるからだ。
みんな、本気になって戦うそうだ。お金がかかっているのだから当たり前といえば、当たり前だ。
そんでもって、、今こうして真面目にメンバー選びをしている最中なのだ。
...勝てそうだな、意外と
クラスを見渡すと、いかにも馬鹿そうなのしかいない...実際に俺たちのクラスの平均点は最下位なのだが。
その代りに運動が出来る奴は集まっていた。それに、女子もそれなりに運動ができそうな人が結構の数がいる。
...馬鹿が多いが。
-イケイケ男子を中心に話し合いが進む
委員長とイケイケ男子を中心とした女子が次々にメンバー構成をしていく。
ちなみにイケイケ男子の名前は久代 弘大だそうだ。
...今知った。
気が付くと俺と琴音はサッカーに登録され、龍と雄大、叶はバスケに登録されていた。
...おいおい、人の意志は無視ですか?
俺にも一応、人権があるのだけどなぁ。
まぁ、どっちの競技でも構わないのだが。
女子の方は...
山吹と有栖、金崎がソフトボールに登録され、橋本と須藤はバレーボールに登録されていた。
...橋本と須藤が一緒ではないのが痛いが、山吹と金崎、それに有栖も一緒なのは救われたな。
それから各チームに別れ、キャプテンや細かいことを話し合うことになった。
俺たちのサッカーチームは、ちょっとイケメンな佐々木 翔が務めることになった。
その佐々木を中心に話し合いを進めていくが、授業でサッカーをやったことがないため、一度、練習してから細かいことを決めることになった。
...つまり、どこかで練習するってことか。めんどくさいものだ。
ただでさえ、金崎というめんどくさい問題を抱えているというのに...
これじゃ、暫くは平穏な日々は来ないな。
異常に長く感じたHRが終わり、放課後を迎えた。
今週、俺は教室掃除だった。
同じ班である四人組はせっせと掃除をしている。
手を休めると何を言われるか分からないので、俺も黙って手を動かす。
あっという間に掃除が終わり、部室へ向かおうとした時だった。
廊下で同じ学年の男子とすれ違った。
「...あれ?」
すれ違うと同時に声を掛けられた。
顔を上げ、その声の持ち主の顔を見上げる。
俺は驚愕した。
「...なんで、お前が。」
その男子は俺と同じ中学校で、同じクラスだった奴。
俺を貶め、賢治を自殺に追い込んだ主犯グループの一人...上林 空
「なんでって、俺もこの高校を受けて受かったからいる。それだけだよ。」
...相変わらず、鼻にかかる言い方をする奴だな。
「いやー、それにしても久しぶりだな。」
...うざい。
「そうだな。」
「急に学校に来なくなっちゃうからさ、心配したよ。」
...黙れ。お前に心配なんてされたくない。
「...あ、そう言えば、賢治のことは残念だったな。」
...黙れ。黙れ。黙れ。
「まさか、自殺、するなんてな。」
...殺す。
「...そこまで、思いつめていたなんてな。」
奴の発言、態度に我慢が出来なくなった。まるで、自分は関係のないことのように話す。
何より、賢治の自殺のことを軽く思っていることが許せなかった。
殺したい。今すぐにでも賢治と同じ目に遭わせてやりたい、そう思った。
俺は奴に殴りかかろうとした。
-そのときだった
奴の後ろに賢治がいた。
賢治は首を横に振る。まるで...
『やめてくれ。』
そう言っているようだった。
構えた拳を引っ込めた。
その行動を見て、奴は笑う。
「大切な、大切な友人の仇すら取れないとか...」
奴は俺の襟を掴み、顔を近づけてくる。
「お前がそんなんだから、賢治が自殺したんだ。...賢治を殺したのはお前の弱さだ。お前が賢治を殺したんだ。...覚えておけよ?...お前もいずれ賢治と同じ目に遭わせてやる。」
小声でそう言うと手を離し、去っていった。
「...はぁ。」
...また一つ、面倒な問題が発生したな。
今日は部活に顔を出すのをやめるか。
「...賢治、ありがとう。」
誰もいない廊下に向かって感謝の言葉を吐いた。
...本当に人の意志なんて関係ないのかよ。
俺にも一応、人権、あるんだけどなぁ。
頼むぜ、神様。