仲直り大作戦スタート
家に帰った俺は冷えた体を温めるために風呂に入った。
湯船に浸かると冷え切った体の芯が温められ、血行が良くなっていく。
脳の働きも、心なしか活発になり始めた気がした。
...いや、前言撤回。ダメだ。なってない。むしろ回りが悪い。気持ち悪い。
自分では長風呂していると感じなかったが、かなり長い時間、湯船に浸かっていたようだ。
風呂から上がるとフラフラしながらリビングのソファーに腰を落とした。
「...はい、これ。」
妹が冷えたコーラを差し出してくれた。
...なんだ、今日のこいつ、まじで可笑しい。
「あ、ありがとう。」
蓋を捻ると勢い良く炭酸が溢れだす。慌てて口で押えた。
ティッシュを取ってもらおうと...
妹の姿がなかった。ただ、物凄い勢いで階段を駆け上る足音だけが聞こえた。
...間違いなく、あいつの仕業だな。
本当にしょうもないことをする奴だ。
濡れたパジャマを脱ぎ、新しいパジャマに着替えたあと自室へ戻った。
妹に小言を言おうとしたが、そんな気力も残っていなかった。湯あたり強し。
ベッドの上に転がると携帯を開いた。山吹から感謝のラインが来ていた。
『なんとかできるように俺も協力する。』
と送る。
なんとかする、とは言ったのは良いが実際、俺に何が出来ると言うのだろうか?
金崎との関係は、はっきり言って最悪なものだ。災厄な出来事があったからだ。
-あれは...宿泊研修でのこと。
班で自分の趣味を共有するという糞みたいな企画があった。
その企画で、俺たちの班と山吹たちの班がペアを組むことになった。
俺たちの班員は二次元のことしか発表しなかった。それを気持ち悪がった金崎と俺が衝突した。
先に言っておくが、俺は二次元のことを庇ったわけではない。あくまでも、俺の友人が馬鹿にされたのが許せなかっただけだ。友人というよりは...繋がり、か。
本当にあの出来事は災厄だった。それ以降、金崎と関わることはなかった。
そんな俺が金崎たちを何とかできるものだろうか...?
-有栖か
困り果てた俺は中立的なポジションにいる有栖に協力を要請することにした。
本当はあんな奴に頼みたくはないのだが...そんなことは言っていられない。
ラインで話そうと思ったが、上手く文では伝えられないと思い、電話にすることにした。
...あいつが出てくれるかは分からないが
一コール、ニコール、三コール...四コール...
『もしもし?』
どんだけ出るの遅いんだよ。
思わず口にしてしまいそうになり唇をかんだ。
それにしても心底嫌そうな声だった。
「俺だ。」
『なに?オレオレ詐欺?...そんな手口に私がひっかるとでも?』
めんどくさい奴だ。
「相談したいことがある。」
『どうせ涼子のことでしょう?』
「ああ、そうだ。」
『かっこつけて任せろとは言ったものの、涼子とのパイプがなく、焦ったと...?』
腹立つが正論だ。
「ああ。」
『残念だけど、私にできることはないわ。』
「何でもいい。」
『...はぁ。はっきり言って、私には興味がないことだもの。』
本当にはっきりと言いやがった。
『涼子と白の仲が戻ろうと私にはどうでもいいことよ。』
...それはどういうことなのだろうか?
短い期間だったが、金崎たちと一緒に過ごしていたはずなのに...
仲直りしなくてもいいということなのか?
「なぜだ。」
『...私に居場所が出来たからよ。』
「...居場所。」
それは山吹が以前求めていたもの。そして、今は金崎が求めているもの。
有栖にとっての居場所は、二次元愛好部だろう。
あそこは彼女が求めていた場所に違いない。誰もが有栖の趣味を受け入れてくれ、共有することもできる。彼女にとっては楽園みたいなものだろう。
だから...だから、無理に金崎たちと仲直りする必要がない。
だって、自分の趣味を隠してまで付き合う価値がないから...
『...白が涼子のことをどう思っているかなんて分からない。ただ、私にとってはどうでもいい存在でしかないのよ...悲しいのだけれど。』
「...そうか。」
『...ええ、そうよ。』
有栖の協力は期待できないか...そう思っていたときだった。
『...ただ、直接的な協力はしないけれど、間接的な協力ならしてあげるわ。私の親友である白が仲直りを求めているからね。』
それは願ったり叶ったりだった。
直接的ではなくとも有栖の協力があるのとないのでは大違いだ。
「ありがとう。」
『でも、ただではないわ。解決した暁には、それ相当の見返りを要求するから。』
「わかった。」
そう言うと別れの言葉もなく電話を切られた。
その要求とやらが恐いが、そんなこと、今はどうでもいいことだった。
それは解決した後に考えればいいことだ。
有栖の協力を得られた俺は少しだけ気が楽になった。
取り敢えず、今の状況を整理してみた。
-金崎は独り。
-橋本と須藤は永遠の仲。金崎は正直に言ってどうでもいい。
-山吹は金崎たちとまた元に戻りたいと思っている。
-有栖は...うん。
はっきり言って無理な状況だ。山吹以外誰一人と仲直りしたいと...ん?
そう言えば、金崎の気持ちはどうなんだ?
彼女がどうしたいかは誰一人言っていなかった。つまり...金崎の気持ちは誰一人知らないということか。この状況を打破するためには金崎の気持ちを知らなければならない。
...それも無理難題だ。
「さて、どうしたものか。」
ほぼ話したことのない金崎と腹を割って話すためにはどうすればいい?
というか俺に腹を割って話してくれるのだろうか?
一つの課題をクリアするのに対して障害が多すぎる。
今回の件は骨が折れそうだ...
-金崎と仲良くなる
まずはこれが最優先事項だろう。
今回も読んで頂きありがとうございました。
この作品と並行して書いていた小説を投稿しました。
ファンタジー系RPGを題材にした小説となっています。是非、読んで欲しいです。
題名→ 仮想世界〈リアル・ワールド〉




