夏休みが明ける
週が明けると学校が始まった。
高校一年生の夏休みには本当に様々な事があった。
部員たちと合宿をして殺されそうになったり、妹を傷つけてしまったり、好きな人と結ばれたり...
楽しいこともあれば、悲しいこと、辛いこともあった。
でも、いま、幸せかと聞かれたら俺は満面の笑みで答えるだろう。
-幸せだと
教室に入るといつもより騒がしかった。きっと皆、長期休みが明けて積もる話があるのだろう。
俺にはそんな話が出来る人はいない。というか皆とほぼ毎日顔を合わせていた。
一通り教室を眺めると、恋人である山吹はまだ来ていないようだった。
山吹と恋人になったから一緒に登校するなんてことはない。なぜなら、俺たちが恋人であることは二人の秘密にしているからだ。
山吹に至っては、親友である有栖にさえ言っていないらしい。
それなのに俺は...妹と母親に知られてしまっていた。
これに関しては不可抗力だった。ゆえに仕方ない。それに妹と母親は家族だ、ノーカウントだろう。
俺はそう心に言い聞かせた。
いつものように四人組が集まっていた。どうやら、人前では有栖と話さないらしい。
有栖は有栖で本を読んでいる。もしかしたら、有栖が望んでいることなのかもしれない。
金崎と...あれ?
金崎が一人で携帯をいじっていた。一緒にいる橋本と須藤の姿が見当たらない。
俺は席へ着く。すると四人組が駆けてきた。
「おいおい、久しぶりだな。」
と琴音が声を掛けてきた。
最後に会ってから一週間しか空いてないけどな。
「おう。」
取り敢えず、そう答えておく。
「どうやら元気だったみたいだな。」
と龍が聞いてくる。
「お前たちこそ。」
珍しく雄大が無口だった。相変わらず叶も無口だ。
琴音に聞いてみたところ、学校が始まってしまったためらしい。
なんともまぁ...下らない。
四人組が去っていくと山吹が教室に入ってきた。鞄を持っていなかった。どうやら俺が彼らと話している間に来ていたようだ。
そしてチャイムが鳴り久しぶりの授業が始まった。
やはり久しぶりの授業とあって、いつも以上に疲れてしまった。
全授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。何とか六時間授業を乗り越えることが出来た。
今日の放課後から部活動が再開するので、俺は部室へ向かう。
部室の扉を開けると既に有栖と四人組が趣味活動に没頭していた。正直この部活の存在意味がわからない。ただ二次元好きな人が集まってオタトークしているだけだ...
「はぁ...」
肩をトントンと叩かれ、俺は振り返る。
するとほっぺに指を刺される。犯人は山吹だった。
「部室の前でため息なんて付いてどうしたの?」
「久しぶりの学校で疲れたんだ...」
「そっかっ!行こう。」
そう言われ部室に入る。誰一人、俺たちのやり取りに対して何も言ってこなかった。
どうやら俺たちの存在に気が付かないくらい集中しているようだ。
そして俺と山吹は互いの定位置に着く。
山吹は本を読み始める。俺は...寝ることにする。疲れた。
...徐々に意識が遠のいていく。
身体が妙に揺れる。俺は目を覚ます。
「やっと起きた。みんな帰ちゃったよ。」
山吹が起こしてくれた。
「...い、いま何時だ?」
まだ完全に開きっていない目を擦る。
「七時過ぎくらいだよ。」
どうやら俺は三時間近く寝てしまっていたようだ。
「...帰るか。」
「...うん。」
外に出ると、生温い風が吹く。八月ほどの暑さはない。
俺たちは二人横に並んで歩く。
他愛のない話をしながら歩く。
そしていつもの分かれ道で別れる。
「じゃあな。」
「じゃあね。」
-次の日
俺は昨日と同じような時間に登校した。
いつもの四人組、有栖、山吹も既に登校していた。いつものように四人組は固まって話している。有栖と山吹も何やら二人で話していた。
そして相変わらず金崎は一人でスマホをいじっており、橋本と須藤は二人で話していた。
六時間授業を終え、放課後を迎える。昨日以上には疲れてはいなかったが多少の疲労感はある。
部室へ向かうと四人組しかいなかった。
山吹は昨日メールで用事があって来られないと言っていた。
「有栖は?」
いつも先に来ているはずの有栖の姿が見受けられないため聞いてみる。
「なにか用事があるとか言って帰った。」
と琴音が答えてくれた。他の三人は自分のことに夢中だった。
有栖と山吹が二人で示し合わせて休んだのかと少しだけ考えてみたが、それはあり得ないと言う決断に至った。
ということは久しぶりに俺と四人組だけの部活動だ。
だからといって特別なにかがあるというわけではない。ただただ各自のやりたいことをやるだけだ。
では俺は昼寝をしようか...と思った矢先だった。
俺のスマホに電話がかかってきた。誰かと確認すると有栖からだった。出るか出ないか迷ったが意を決して出ることにした。
他の奴らの迷惑になると部室から出る。扉が開いても誰一人顔を上げることがなかった。
周りに誰もいないことを確認すると電話に出る。
「...もしもし?」
「遅い。」
感情のこもっていない声が聞こえる。
怒っているということが電話越しでも分かる。
「それで何の用だ?」
「話したいことがあるの。だから今すぐ五組の教室まで来てくれないかしら?」
そういうとプープーと電話を切られてしまった。なんともまぁ自分勝手で破天荒な奴なんだろうか。
部室にいても寝ることしかないので俺は行くことにした。
教室の扉を開くと有栖が一番前の席に座っていた。俺は向かい合うように教卓の前に立つ。
「あんたみたいな先生がいたら、私、不登校になるわね。」
目を細めながら言う。
相変わらず嫌味しか言えないのかよ。
今思えば、有栖と会話したのは久しぶりだった。
「それで話は?」
「急かす男は嫌われるわよ?」
「はいはい。」
なぜか妙に当たりが強くなっている気がする。気のせいだと良いのだが。
「さて本題に入るかしら。」
そう言うと腕を組む。
「あなたに知っていて欲しいこと...いや、知らなければならないことがあるわ。」
今回も読んで頂きありがとうございました。
更新が遅れてしまい本当に申し訳ございません。
忙しくなかなか執筆が出来ない状況です。ゆっくりとですが投稿を続けて行くつもりですので応援の方よろしくお願いします。




