恋人って何をすればいいんだろうか。
部屋のベッドの上に転がる。
「...はぁ。」
とため息がこぼれる。
相当、身体が疲労していたようだ。ため息と共に身体の中の空気が抜ける。
「俺と山吹は付き合っているのか...?」
正直に言って実感が湧かない。夢ではないのか、と思うが疲れている身体が何よりの証拠だろう。
山吹のことを待ち続け、逸れてしまった山吹を探し回った。
帰り道では、慣れない下駄を履いて歩いたため、足が擦れ歩けない山吹をおんぶして帰った。
今日は本当に沢山のことがあった。
そして、今日のことは一生忘れないだろう。
寝る前に山吹にメールでもしておこう。
『今日は本当にありがとう。これからも、よろしくな。』
と質素な短い文を送る。これだけで山吹には俺の気持ちが伝わるだろう。
山吹からの返信を待たずに俺は深い眠りについた。
家に着くなり、下駄を脱ぎ捨て、浴衣もその場に脱ぎ捨てる。
下着姿のままでソファーに飛び込む。
溢れ出る気持ちを抑えることが出来ない。
嬉しい。幸せ。嬉しい。幸せ。
その二つの気持ちが止まらない。
「...優くん。」
そう彼氏の名前を呼ぶ。一人でいる時は勝手に「優くん」と呼ぶことにした。
最近、そう呼びたいな、と思っていたが彼の前ではそんな風に呼ぶことなんて出来ない。
だから一人の時くらいは呼ばせてもらおうと思う。
ふと家に忘れていった携帯のことを思い出した。私が携帯を忘れてしまったことで優くんには大変迷惑をかけてしまった。
携帯を見ると優くんからメールが来ていた。早速、内容を確認する。
『今日は本当にありがとう。これからも、よろしくな。』
と簡単な短い文だったが、それだけで十分だった。
すぐさま返信する。
『私の方こそありがとう。たくさん迷惑をかけて、ごめんね。
こちらこそ、よろしくお願いします。』
長文なんていらない。これだけで私の気持ちが伝わるはずだから。
携帯を大事そうに胸に抱えたまま眠りについた。
起きると午前十一時ごろを過ぎていた。
とりあえず部屋着に着替え、一階に降りていく。
テレビの音が聞こえる。消し忘れたのだろうか。
「おはよう、お兄ちゃん。」
と笑顔で挨拶してくる妹がいた。
「いま、昼食を作ってるからね~。」
と台所の奥から母親の声がする。
どうやら慰安旅行から帰ってきたようだ。
とりあえず食卓の椅子に腰を掛ける。
「ね、ね、お兄ちゃん、どうだったの...?」
と興奮気味に聞いてくる。妹には告白すると伝えてあったので、その結果を聞いているのだろう。
山吹から聞いていないのか。自分からは言い辛いよな。
どうせ、後々こいつにはバレるであろうから隠したってしょうがないと思い、答える。
「...成功した。」
なぜか付き合うことになった、と言うのには抵抗があった。間違ってはいないんだが...
何というか単純に恥ずかしい。
「...せ、性交...!?」
「...漢字ちげえよっ!」
どうして、こいつは...こんなにも下品な生き物なんだ。
「...優くんっ!...ゴムはするのよっ!!」
「だから、してないって!」
...訂正しよう。こいつ、ではなく、こいつら、だ。
やはり遺伝というものは凄いな。こいつらの血が混ぜっていなくて良かった。
「...そうなんだ、付き合うことになったんだね。」
どこか少し寂しそうに呟いた。
妹にとっては少し複雑なところもあるだろう。こればかりは仕方ない。誰のせいでもない。
そう割り切ったつもりだったのだが、そんな妹の顔を見ると少し罪悪感に駆られてしまう。
ごめん、と言いそうになったが堪える。それこそ妹に対して失礼だろう。
俺たちの間に微妙な空気が流れる。
「...優くん。突き合うのは良いけど、G、O、M、U、だけは忘れないでね。」
と出来立てのチャーハンを運びながら言う。
本当にこの母親は空気が読めるのか読めないのか、よくわからない人だな。
でも、今のはファインプレーだった。
「そう言えば、母さん、なんか上機嫌だけど何かあったの?」
「...ナンパされたから、じゃない?」
と少し引き気味に答える。
「...ナンパ。」
本当にどうしようもない母親だな!
俺たちは、やれやれといった感じでチャーハンを口に運んだ。
俺はベッドの上でゴロゴロしていた。
ここ最近は色々な事があり一日過ぎるのが早かった。
だが、今日は部活もなければ用事もない。非常に退屈であった。
ちなみに部活は来週まで休みだ。どうやら新部長の有栖が家族旅行をするらしい。
龍が、有栖抜きで活動しては意味がない、と意味が分からないことを言い出し休みになった。
俺からしてみれば非常に有難い。
忙しい時は休みが欲しいと感じ、休みが続くと忙しいのが懐かしく感じる。不思議だなと思う。
そう言えば返信していないなと思い携帯をとる。
さっそく返信をしようと思ったが何を送って良いか分からない。
起きると昼の十二時を過ぎていた。
久しぶりにこんな時間まで寝ていた。どうやら、あのままソファーの上で寝てしまったらしい。
毛布が床に落ちていた。冬場だったら間違いなく風邪をひいていただろう。
下着姿のままシャワールームへ向かう。汗臭いなと思いながら下着を脱いでいく。
蛇口を捻る。
「...冷たっ!」
どうやら寝ぼけて水の方を捻ってしまったらしい。慌ててお湯の方に切り替える。
一通り身体を流し終わったあと、バスローブを巻き食卓へ移動する。
食卓の上にはメモと昼食のパスタが置いてあった。
『おはようございます。気持ちよさそうに寝ていたので起こさないようにしました。すみません。
食卓の上に置いてあるパスタは一度温めてから召し上がってくださいませ。
わたくしは夕食の買い出しに行って参ります。』
どうやら使用人の方が毛布を掛けてくれたようだ。
メモに書かれた通りに電子レンジで温め直す。カルボナーラで、とても美味しかった。
紅茶を作り、自室へ運ぶ。
今日はとてもゆっくり休むことが出来る。最近は部活や私情で忙しかった。今日は久しぶりの完全オフの日だ。
読書、勉強、何をしようか。
あ、そう言えば優くんから返信が来ているかもしれないと思い携帯を開く。
だが、返信は来ていなかった。
少し寂しい。哀しい。何か送ろうかな。優くんと沢山話をしたい。...会いたい。
早く返信をしなければ。焦っていた。
何て返せばいい?
やはり電話の方が良いのだろうか。
早く返信来ないかな。もうこっちから送るべきなのかな。
何て送ればいいんだろう?
やっぱり電話の方が良いな。
「恋人って何をすればいいんだ。」
「恋人ってどんな風に振る舞えばいいの?」
「わからない。」
「わからないよ。」
「「恋人って...」」
「難しい。」
「複雑!!」
今回も読んで頂きありがとうございます。
最近、忙しくなかなか倶時間がありませんでした。今後も忙しく書く時間があまりとれないと思います。
更新が遅れてしまいますが、何卒宜しくお願い致します。
前回、恋人になった二人ですが、今回からリアルタイム方式で書いていこうと思います。
リアルタイム方式って、なんだと思う方もいると思うので少し説明させていただきます。
ざっくり言えば優斗視点、山吹視点、両方を同時に書いていくことです。そうすれば、彼らの状況がより伝わるのではないかと思いました。
ですので、こんな形で書いていこうと思います。なにかありましたらコメントお願いします。




