笑顔でお別れをしよう
そのあと俺は体調不良を理由に帰宅した。
部屋に戻るなり、ベッドに横たわる。
先ほどのことを思い出して後悔する。
山吹に過去の話をしたことではない、赤ん坊のように泣き喚いたことだ。
思い出し羞恥心に駆られる。
「ったく、だせえな。」
ただ同時にスッキリした。後悔はしているが、誰かに話せたことで肩の荷が少しは軽くなった気がする。
それもあの言葉のお陰なのかもしれない。
「死ぬことなんて考えたらだめだよ。きっと、楓馬くんが死んでしまった賢治さんに出来る唯一の償いは賢治さんの分まで生きて、幸せになること。...だから、死ぬなんて絶対に許さないから。」
落ち着いたあとに掛けられた言葉だ。
俺は許してほしいとか思っていない。ただ、どうすればいいのか困っていた。その答えをずっと求めていた。
その言葉を好きな人に言ってもらうことが出来た。俺はなんて幸せ者なんだろうか。
きっと世界中どこを探しても十は見つからないだろう。
山吹に『ありがとう。』とメールを送り、眠りについた。
泣き喚いたせいだろう、気を失うように眠りにつくことが出来た。
―その日、不思議な夢を見た。
―とても懐かしい光景が目の前に広がる。使い古された木製の机。そして木製の椅子。
―休み時間に寄りかかった窓際。授業内容が残された黒板。
―どれも懐かしい。
『久しぶり、でもないか。』
―懐かしい声。
『懐かしいよな。ここに寄りかかってよく話をした。ここに座って勉強をした。ここに立って問題を解いた。どれも懐かしい光景だ。』
―懐かしい光景に声。でも、姿だけが見当たらない。
『すまんな、本当は会いたいんだが、そうもいかないんだ。あの世の事情ってやつだな。』
―笑えない冗談だ。
『やっと前に進めたんだな。』
―お陰さまでな。
『何言ってんだ。俺は何もしてないぞ。』
―そうじゃない。
『はいはい、これからはお前と女の子の物語だ。』
―お前は?
『死人に口なし、ってやつだ。』
―それじゃ...
『そう俺は完璧にあの世送りってわけだ。心残りだったことも無事に解決したことだしな。
なに哀しいことじゃない、むしろ喜ばしいことだぞ。』
―...
『お前は優しくて強い奴だ。お前なら幸せになれる。』
―...
『初恋の相手、取られないように頑張れよ?』
―...
『もたもたしてたら、俺が取っちまうぞ!』
―...
『そろそろ時間だ。最後にお前の声を聞かせてくれないか?』
―...
―声が出ない。空気が溜まっている。
―あ...
『優斗...』
―あり...う
『笑えよ、笑ってくれよ...それじゃなきゃ...』
―涙が止まらない。
『笑顔でお別れできないだろ...?』
―彼も泣いていた。
―精一杯、笑顔を作る。
『ったく、酷い顔だぜ...さようなら...』
―一瞬だが、賢治の姿が見えた。