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他人
14/37

本物の気持ちは、どんな形であれ伝わる

本番が始まる前のこと。

私は委員長に呼び出されていた。何やら大事な話があるとかで。

二人きりの場所に連れていかれる。そこで楓馬君から話を聞いたことを聞かされた。

別に怒っていない。むしろ事情を説明してくれた彼には感謝している。

きっと私の口からは言い出せなかったと思う。

「山吹さん。貴女、楓馬君に伝えたいことがあるでしょ?」と委員長が言い出した。

あまりにも唐突なことだったので私は対応に遅れてしまった。というよりは図星だった。

「無言は肯定ってことよ。」

何も答えないのはずるい。そしてもう隠すことは出来ないだろう。

「うん。」と私は答えた。

その返答を待っていたのだろうか委員長が笑顔になる。

「なら、その気持ち伝えなさい!」

と私の肩を叩いた。


ブーと大きな音を合図に私たちの劇『シンデレラ』が幕を開けた。

私の出番から始まる。

ナレーションが入り終わると照明が付けられた。

私が一生懸命に掃除をしている。

そこへ京子たちが笑いながらやってくる。

「今日は王子様がお嫁さんを探すためにパーティーに参加するらしいわよ」

「あら、本当なの?お姉様。」

「ええ、本当よ。」

「私、行きたいですわ!」

と京子たちの楽しそうな話が聞こえる。

私は京子が近づいていることに気が付かなかった。そのためぶつかってしまう。

「なにをしているの?」とご立腹の様子。

「掃除でございます。」と私は答える。演じている訳ではないけど声が勝手に震えてしまう。

京子が、「掃除の際に主人にぶつかる使用人がいるわけないだろ!」と私のことを叩く。

はっきり言って撫でる感じの弱さだけど私は身構えてしまう。

「ごめんなさい。ごめんなさい。」と何度も謝る私。これはもう口癖だ。

それを見て笑うさやかと桃花。ああ、いつもの風景だったな。

嘘でも良かったから私の味方をしてほしかったな。

そして飽きると京子たちが去っていく。やっと終わった。演技だとわかっていても少々辛いものだ。

一気に照明が落とされ私だけが照らされる。

「ああ、神様。なぜ私はこのような仕打ちをお受けにならなければならないのでしょうか。」

私は天に向かって祈る。ああ、何度お願いしたことか。

「どうかこんな惨めな私をお救い下さい。」

そこで暗転した。

とりあえず無事に一章が幕を閉じた。

水分補給をすると台本を少し目を通すと私は立ち位置に移動した。

委員長のカウントと共に照明が付く。

「ここかー!!」の叫び声と共に案内役の関くんと馬車役の菅くん、鏡屋くん、伊藤くんが出てくる。

「シンデレラどの!!」と馬車が叫ぶ。

あれ、そんな台詞あったっけ?と私は少し動揺してしまう。

思わず笑ってしまうところだった。危ない。

「ささ、お姫様。こちらへ。」と関くんに案内され私は馬車に乗り込む。馬車はただの張りぼてなので中は空だ。私が馬車の中に入ったのを見て、「それでは出発進行!!」と仲良く四人で叫ぶ。

みんなで叫ぶっけ?

馬車が動き出すと同時に暗転する。二章も無事に幕を閉じた。

彼ら、アドリブが多かったな、怒られちゃうのかな?と思っていると委員長に褒められていた。

「良かったわ!最高!」とべた褒めだ。

「文化祭は楽しまなくちゃな!」

「そうっすよ、姉貴!」

「全てさらけ出すべ?」

「…」

とそれぞれ言いたい放題だった。

次は楓馬くんの出番か。彼は反対側にいるので、どんな様子かは分からない。気が付くと委員長の姿がなかった。

楓馬くんらしき人影がゆっくりと舞台の上を移動しているのがわかった。その歩き姿はあまりにもぎこちないものだった。見てわかる。かなり緊張している。

「大丈夫かな…」と私は呟く。

「照明が付きます。」と照明係の声が聞こえた。すると照明が付いた。

衣装を纏った王子様役の楓馬くんがいた。

後ろから、「案外、様になってるじゃねえか。」と声が聞こえた。

『頑張れ!』と私は心の中で叫ぶ。

楓馬くんはガラスの靴を持ち上げながら、「ああ、このガラスの靴がお似合いの姫様はいないのだろうか。」と精一杯叫んでいた。その声量は過去最大のものだった。私は鳥肌が立った。

「あんな声が出せるのかよ。」とクラスメイトも驚いているようだった。

続いて、「私は、この靴に相応しい姫様と結ばれたい。」と叫ぶ。

その台詞を合図として横から京子、さやか、桃花の順で出てくる。

それぞれが所定の位置に着くと、「まあ、王子様。わたくしがこのガラスの靴を履いてもよろしくて?」と京子が言う。

「準備してね。」と委員長が言う。「ええ、どうぞ。」と楓馬くんが言う。

京子が試すが履けない。

「どうやら貴方は違うようです。」

悔しそうに京子が下がる。

「では、今度はわたくしが。」とさやかが試す。

同じく失敗。

「どうやら貴方でもないようです。」

悔しそうにさやかも下がる。

「いよいよ、わたくしの番ですね。」と桃花が試す。

同じく失敗。

「ああ、やはりこのガラスの靴に相応しい姫様おらぬのか。」

悔しそうに桃花が下がる。それが合図だ。「頑張れ。」と委員長に背中を押され私は出る。

ゆっくり、ゆっくりと歩く。すると楓馬くんと目が合う。すると、「おや、そこの姫様。貴方はまだ試していませんでしたね。どうでしょうか?」と叫ぶ。

それを聞いた私は近づく。そして楓馬くんの前で止まる。

「わたくしも試してよろしいのでしょうか?」と言い履こうとするが、京子たちの邪魔が入る。

「王子様、王子様、自ら履くような意志のない、そのような方には試される必要がないかと。」と京子が。

「王子様、王子様、そのような勇気のない方が試される必要はないかと。」とさやかが。

「王子様、王子様、わたくしその方が気に入らないですわ。」と桃花が。

最後のは本音なのかな。私は気になる。

それを聞いた楓馬くんは少しだけ考えるそぶりを見せ、こう言う。

「貴方はどうしますか?」

私は楓馬くんと同様に少し考えるそぶりを見せて言う。

「わたくしに似合うかどうか分かりません。」

そう言いながら履く。すると無事に履くことが出来た。でも少しきついな。

それを見た楓馬くんが、「おお、貴方が私の運命の人なのか!」と叫ぶ。すると舞台が暗転する。

三章も無事に終わった。ここでシンデレラの物語は終わりだ。これから始まるのは私の物語。

大丈夫、大丈夫。きっと伝わる。

「大丈夫よ。伝えたいという気持ちがあれば、どんな形であれ伝わるわ。」と不安がっていた私を励ましてくれる有栖。彼女はいつも…

「ごめんね。」と私は言う。違うんだ、伝えたいのはその言葉じゃない。

「わかっているわ。私は白の友達なんだから。」と微笑む。

私は泣きそうになる。そんな私を見ていた、

「頑張れ。あいつは言わないとわからない奴だから、ぶつけてやれ!」

「何かあったら俺が殴ってやる。」

「大丈夫だべ。あいつはああ見えて良い奴だから。」

「…うん、優斗はいいやつ…」

と四人組が声を掛けてくれた。

「みんな、ありがとう。」と伝える。「言えるんじゃない。」と有栖が言ったのは誰にも聞こえなかった。

『楓馬くん、君が羨ましいよ!』と心の中で叫ぶ。

「でも…」と私は有栖の顔を見てから私は舞台に出る。

『私も負けないぐらい素敵な友達ができたんだから!』と心の中で叫ぶ。

委員長のカウントダウンが始まり、『運命の人だと言われ結ばれることになり幸せな生活を送っているシンデレラ。彼女がいまその日々の感謝を王子様に伝える。』とナレーションが入り終わったあと照明が付いた。

いよいよ私の新章の幕開けだ!!

王子様役の楓馬くんと向き合う形になる。思った以上に近い。拍動が大変なことになっている。

私は演じることは得意だ。だからシンデレラには平気になれる。

でも素直な自分を演じるの苦手だ。無理なのかな…

『伝えたいという気持ちがあれば、どんな形であれ伝わるわ。』と有栖の声が頭の中で響いた。

そうだよね。きっと綺麗事を並べても気持ちがなければ相手の心には届かない。だけど下手くそでも良いから気持ちがある言葉は相手の心に届くはず。

私は大きく息を吸う。

「王子様。」

楓馬くんの目を真っ直ぐに見つめる。逃げちゃだめだ。


…届いて!私の気持ち................!


「わたくしは貴方に感謝しています。惨めだったわたくしを救ってくださったこと。わたくしに本物を教えてくださったこと。わたくしを孤独から解放してくださったこと。初めてわたくしのお友達になってくださったこと。わたくしは貴方から様々なことを学び与えてくれました。

きっと貴方がいなければわたくしはこの場に立っていることはなかったでしょう。

貴方がわたくしを闇から救ってくださっていなければ、わたくしは今頃…。

本当に今までありがとうございました。そしてどうか、これからもよろしくお願いします!」

と私は深く、深く礼をする。

そう私は君に救われた。君の言葉に。どれだけ嬉しかったことか。嘘でもいいから言ってほしかった言葉。

私は君に言葉じゃ伝えきれないほどに感謝しているの。

これは用意された台詞じゃない。私の本音だよ。

いま楓馬くんがどんな表情をしているのか分からない。

沈黙が続く。すると楓馬くんの声が聞こえた。

「顔を上げてくれシンデレラよ。」と言われ私は顔を上げる。それを見た楓馬くんが続ける。

「私も貴女に感謝している。貴女の存在が私の中で止まっていたものを動かしてくれた。貴女だけではない私はたくさんの方に感謝している。

私は彼らに感謝している。彼らは私に居場所を与えてくれた。

私は彼女に感謝している。彼女は私を手助けしてくれた。

私は親友に感謝している。親友は私に勇気を与えてくれた。

そして、シンデレラ。君に伝えたいことがある。長い間共に過ごしてきていたが一度も口に出来なかった。


…私は…貴女のことが好きだ。」

だめ、止まって。嬉しいはずなのに。どうして。

私は涙をこらえきれなかった。涙で前が見えない。気が付くと楓馬くんの腕の中にいた。

ああ、また抱きしめてくれたんだ。楓馬くんは優しい。


それからのことは良く覚えていない。

有栖に茶化されいじられたことだけは覚えている。

楓馬くんと気まずくなるかと思ったら普通に接することができた。普通に会話をしたしメールのやり取りもした。残りの時間は有栖と過ごした。

私たちの劇が思った以上に反響が良く、のちに舞台発表部門の最優秀賞を受賞することとなる。

一日目が終わった。

二日目。

朝からは昨日の舞台発表の話で盛り上がっていた。もうその話はしないでほしいものだ。

最後のシンデレラの台詞が良かった、とあちこちで聞こえる。その度に私の全身が赤く染まる。

意外と案内人と馬車のキャラも大反響だったそうだ。

私は教室に居辛くなりトイレに避難することにした。

「今日どこをまわる?」と有栖に聞かれた。

特にまわりたいところもない私は返答に困った。そう言えば楓馬くんって部活に所属していたような…

「ねね、楓馬くんって部活に入っていたよね?」

「え?たしかね、二次元愛好部だっけ?そこに所属していた気がするわ。」

なんで知っているんだろう、と突っ込むのを堪えた。

たしか有栖ってアニメオタクだったよね、うん、良いかも。それに…

「そこに行こうよ!」

と私は提案してみた。それを聞いた有栖がにやける。

「ふーん、楓馬くんね。」

有栖の言いたいことはすぐに分かった。間違いでもない。

「わかりやすいよね、白は。」とからかわれた。

それから私たちはトイレをあとにした。

教室に戻ると机に一人で頬杖をついている楓馬くんがいた。

それを見た有栖が、「私は感謝している。」と楓馬くんの真似をする。

なにしてるんだろう。ぜんぜん似てないし。

それを聞いた楓馬くんが振り向く。

「なんだ、お前たちか。」

「それは真似していたのが私たちだったから落胆しているのかしら?

それとも美少女ではなく私たちのような芋女だったせいかしら?」

と有栖がからかう。有栖と楓馬くんってこんなに仲が良かったっけ?

「前者だよ!!」

と少しだけ頬を染めていた。

「んで、何のようだ?」

「あなたの部室を案内してほしいの。」

「部室?」

「ええ、二次元愛好部だったかしら?そこよ。」

「なんで?」

「何か出し物をしているでしょ?」

少し考えている様子の楓馬くん。

「…きょうみあるの?」と聞いてきた。すると「ええ、白が。」と有栖が答えた。

えええ、まさかこのタイミングで私にふりますか!!

少し動揺しながらも、「それ、言わない約束だったでしょ!!」と有栖に怒った。

本当に悪戯好きで困るなぁ。

私たちは楓馬くんに部室に案内される。部室の前に来ると『君に二次元の良さを伝えちゃうぞ!新規部員募集中!ただし美少女のみに限る!二次元愛好部より』とでかでかと看板が立てかけられていた。

うわー、本音丸出しだよ。

それを見た有栖が、「なら私たちはクリアね。」と呟いているのが聞こえた。

いや、私をまきこまないで!?

「失礼するわ。」と有栖が扉を開け入って行く。

ええ、楓馬くんより先に入って行くの?

私は慌ててその後に続く。その瞬間、大きな歓声が上がった。凄く歓迎されているみたいだった。私のあとのに続いて楓馬くんが入ると静まり返った。

本当に看板通りなんだね…

「わかりやすいな!」とツッコミを入れる楓馬くん。

それからは四人組が色々解説をしてくれた。どれも初めて聞くものばかりで訳が分からなかった。有栖の方歩見ると真剣な眼差しで話を聞いていた。その姿を見て来て良かったなと思った。暫くしてから楓馬くんが、何か飲み物を買ってくると言って部室から出ていってしまった。

それを見ていた有栖が私に向かって、「一人じゃ大変だろうから白も行ってあげなよ。」と言った。

それに便乗して他の人達も、「説明で忙しいから頼む。」と言う。そんな感じで私は部室を追い出された。

部室の扉を開くと、遠くで楓馬くんの姿が見えた。私は大きな声で「待って!」と叫ぶ。

聞こえたのだろうか楓馬くんが振り向く。私は走って駆け寄る。そして、「私も行く。」と伝える。

そして私たちは二人で買い物をすることになった。

なぜか意識してしまう。みんなと一緒にいるときは平気なのになぜだろう。

楓馬くんも同じなのかな?

やっぱり昨日、その、好きとか言ってくれてたし。でも、あれって恋愛感情とかじゃなくって友達としてだよね…?

などと考えていると余計に気まずくなった。

すると少し高い声で、「な、なんで付いてきたんだ?良かったのか?」と楓馬くんが歩きながら言う。

私は答える。「有栖が行けって。」

あれ、ぜんぜん声が出ないや。だめだ…完璧に緊張してるよ…

聞こえているよね?無視されたとか思われてないよね?

「興味がないとか?」

ああ、良かった聞こえていたみたい。次こそは…

「そんなことない。どちらかと言うと私より有栖の方が二次元好きだよ。」

あれ、また声が出ないや。

「その、彼女たちの前では隠していただけ。」

「そっか。」

「うん。」

会話が続かない。

「あ、そうだ!昨日の劇どうだった?」

頑張って話題を振ってくれるのは有難いけど、よりによってその話題か…答え辛いじゃんか!!

「…」

返答に困り俯いてしまう。

ああ、だめだよね、絶対に無視されたと思ってるよね。

本当に申し訳ないな、なにか答えなきゃ!

「…恥ずかしかった。」

「そっか。」

会話が続かない。するとかなり大きめな音でぐーとお腹が鳴ってしまった。

死にたい。今すぐにでも私を埋めてください。

そんな私を気遣ってくれたのか、「なにか食うか。」と言ってくれた。

私は涙をこらえながら、「うん。」と答えるので精一杯だった。

すると楓馬くんは私を落ち着いた雰囲気のカフェに連れて行ってくれた。

楓馬くんが先頭を切って中に入るとボーイッシュな女子生徒が元気な声で、「いらっしゃいませ!」と声を掛けてくれた。可愛い。

そして、「お客様こちらです!」と席へ案内される。席へ向かう途中に、「カップルです!」と叫ぶ店員さん。

違うんですけど!?なんて大声で否定できるわけないじゃん。

またしても私たちの間で気まずい空気が流れる。

席に着くとメニューを楓馬くんが受け取った。楓馬くんはまず私に渡して見せてくれた。

「あ、ありがとう。」

中身は至ってシンプルでとても良心的な価格だった。残念なことに食べ物系がなかった。

「じゃ、私はレモンティーにするね。」

そう言って私は楓馬くんにメニュー表を渡す。

「じゃ、俺はミルクティーかな。」そう言って楓馬くんは店員さんを呼んでくれた。一通り注文する。

なにか話題を作らなきゃ。何がいいかな…と考え込んでいるうちに結局、お互いに一言も発せずただ飲み物が運ばれてくるのを待つことになってしまった。

すると、先ほどの店員さんが「ロイヤルミルクティーとレモンティーです!」と大きな声で持ってきてくれた。

用意されたおしぼりで手を拭く。すると楓馬くんがおしぼりを見て何かニヤついていた。

なにかあったのかな。

とりあえずお互いに、「いただきます。」と言ってから口にした。何故かいつもより甘い味がした。

無言で飲み続ける。なにか話題を振ろうと思ったとき、楓馬くんが言った。

「食べようと言ったのに結局、飲み物を飲んでるね。」

一瞬あたまの中が点になったが改めて考えると確かにそうだった。なぜか急に面白くなった

「そうだね。」と笑った。

きっと気遣って面白いことを言って場の雰囲気を和ませてくれようとしたのだ。そんな勇気をもって言ってくれた楓馬くんには感謝をしなきゃ。

「その、ありがとうね。」と私は感謝した。

それを聞いた楓馬くんは少しだけ照れ臭そうにして頬を赤く染めていた。

お互いに飲み終わったタイミングを見計らってカフェをあとにすることにした。カフェから出ると紅茶を飲んだ影響だろうかトイレに行きたくなった。楓馬くんを待たせては悪いと思って、「お手洗いに行くから先に行ってて」と伝えた。私は少しだけ駆け足でトイレに行った。

無事にトイレを済まし鏡の前に立つ。気が付くと普段はあまり意識はしない髪型を何故か念入りに気にしていた。そんな自分の姿を見て少しだけ恥ずかしくなった。

トイレを出るなり不安感が押し寄せてきた。

ああ、人が多いな…楓馬くんには先に行ってと言ったけど一人で戻れるかな…

私は来た道を引き返そうとした。すると窓ぐ際に楓馬くんが立っていた。私は思わず驚いてしまった。先に行っていると思っていたはずの楓馬くんが私のことを待っていてくれたからだ。

私は思わず、「待っててくれたの?ごめんね!」と言ってしまった。

ああ、また口癖が出てしまった。感謝の言葉を伝えたいのに…

それを聞いた楓馬くんがこう言った。「こういう時は謝るんじゃなくて感謝するもんだ。」と。

思いがけない言葉を掛けてくれて私は嬉しかった。私は叱ってほしかったのだ。

いまならちゃんと言える。「…ありがとう。」と私は伝えた。

それを聞いた楓馬くんがすこし笑顔で、「それじゃ行くか。」言って前を歩く。大きな背中だ。

いつか楓馬くんの横を歩きたいな。そんな日がくると良いな。

と私は思いながら小さな声で、「うん。」と返事をした。


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