どんな形であれ伝わればいい
この話に興味を持って頂きありがとうございます。
初めての方は最初から目を通されると嬉しいです!
今回の話で…急接近................!?するかもしれません。
ブーと大きな音を合図に俺たちの劇『シンデレラ』が幕を開けた。
シンデレラが一生懸命に掃除をしている。
そこへ三人の悪女が笑いながらやってくる。
「今日は王子様がお嫁さんを探すためにパーティーに参加するらしいわよ」
「あら、本当なの?お姉様。」
「ええ、本当よ。」
「私、行きたいですわ!」
とシンデレラに聞こえるようにわざと大きな声で話す。
そして金崎がシンデレラに近づき、ぶつかってしまう。
「なにをしているの?」とご立腹の様子。
「掃除でございます。」とおびえた様子で答えるシンデレラ。
「掃除の際に主人にぶつかる使用人がいるわけないだろ!」とシンデレラのことを叩く。
やはり迫力に欠けている。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」と何度も謝るシンデレラ。
それを見て笑う橋本、須藤。
俺はこのとき自分自身の拳を強く握っていることに気が付かなかった。
飽きたのだろうか三女が去っていく。心身ともにボロボロなシンデレラ。
一気に照明が落とされシンデレラだけが照らされる。
「ああ、神様。なぜ私はこのような仕打ちをお受けにならなければならないのでしょうか。」
シンデレラは天に向かって祈る。
「どうかこんな惨めな私をお救い下さい。」
そこで暗転した。
舞台の上ではせわしなく人が行き来している。
俺は何か妙な違和感を感じていた。
「ここかー!!」の叫び声と共に案内役の龍と馬車役の雄大、琴音、叶が出てくる。
「シンデレラどの!!」と馬車が叫ぶ。
どの??というか馬車に台詞ってあったっけ?
シンデレラを城まで運ぶだけじゃないの?
「ささ、お姫様。こちらへ。」と案内人。
シンデレラが乗り込む。
「それでは出発進行!!」と仲良く四人で叫ぶ。
馬車が動き出すと同時に暗転する。
ま、何ともアドリブが多かったことだ。確実に怒られるだろう。
でも楽しそうで良かったなと俺は思う。
さあ、次はいよいよ俺の出番か。
「王子!準備!準備!」と小声で委員長に急かされる。
幼いころから大勢の注目を浴びるのが嫌いだった。そして慣れていない!
口から心臓が飛び出してしまいそうだ。一歩が重い。
自分の立ち位置に着く。委員長の方を見ると手でカウントしていた。
死のカウントダウンだ。さん。ああ。に。神よ。いち。お助けよ。
ぜろ、の合図と共に照明が付く。
なんとまあ眩しいんだろうか。そして目の前には人がたくさん!!
俺は一呼吸置き、ガラスの靴を持ち上げながら、「ああ、このガラスの靴がお似合いの姫様はいないのだろうか。」と精一杯叫ぶ。お口が乾いていたせいで少々掠れはしたが上出来だろう。
続いて、「私は、この靴に相応しい姫様と結ばれたい。」と叫ぶ。
すると横から三姉妹が、金崎、橋本、須藤の順で出てくる。
それぞれが所定の位置に着くと、きっと「まあ、王子様。わたくしがこのガラスの靴を履いてもよろしくて?」と金崎が言う。
「ええ、どうぞ。」
試すが履けない。
「どうやら貴方は違うようです。」
悔しそうに金崎が下がる。
「では、今度はわたくしが。」と橋本が試す。
同じく失敗。
「どうやら貴方でもないようです。」
悔しそうに橋本も下がる。
「いよいよ、わたくしの番ですね。」と須藤が試す。
同じく失敗。
「ああ、やはりこのガラスの靴に相応しい姫様おらぬのか。」
悔しそうに須藤が下がる。
するとステージの端からゆっくりとシンデレラが現れる。俺はステージの端に立っているシンデレラを見つけ、「おや、そこの姫様。貴方はまだ試していませんでしたね。どうでしょうか?」と叫ぶ。
それを聞いたシンデレラが近づいてくる。そして俺の前で止まる。
「わたくしも試してよろしいのでしょうか?」と言い履こうとするが、三姉妹の邪魔が入る。
「王子様、王子様、自ら履くような意志のない、そのような方には試される必要がないかと。」と金崎が。
「王子様、王子様、そのような勇気のない方が試される必要はないかと。」
「王子様、王子様、わたくしその方が気に入らないですわ。」
最後のは私情だろうが!
それを聞いた俺は少しだけ考えるそぶりを見せ、こう言う。
「貴方はどうしますか?」
シンデレラは少し考え言う。
「わたくしに似合うかどうか分かりません。」
そう言いながら履く。するとピッタリとはまる。当たり前なのだが。
それを見た俺が、「おお、貴方が私の運命の人なのか!」と叫ぶ。すると舞台が暗転する。
これで俺の役目は終わりだ。あとはナレーションが入り皆で挨拶をするだけ。
「終わった。」とため息をついた瞬間、後ろから後頭部を叩かれた。
「終わってない!王子様とシンデレラの役目はもう一つあります!こっちです!」と委員長に引っ張られ舞台の上に連れ出された。
「とりあえず頑張ってください!」と小声で励まされる。
いま置かれている状況を飲み込むことが出来ない。
え、なにこれ。台本にないじゃん。
『運命の人だと言われ結ばれることになり幸せな生活を送っているシンデレラ。彼女がいまその日々の感謝を王子様に伝える。』
とナレーションが入り終わったあと照明が付いた。
シンデレラである山吹と向き合う形にある王子様役の俺。
なにこれ凄く気まずい。
あの一件以降、俺は山吹とまともに話していないし顔も合わせていない。
山吹がゆっくりと息を吐く。
「王子様。」
そう言うと俺の目を真っ直ぐに見つめる。
「わたくしは貴方に感謝しています。惨めだったわたくしを救ってくださったこと。わたくしに本物を教えてくださったこと。わたくしを孤独から解放してくださったこと。初めてわたくしのお友達になってくださったこと。わたくしは貴方から様々なことを学び与えてくれました。
きっと貴方がいなければわたくしはこの場に立っていることはなかったでしょう。
貴方がわたくしを闇から救ってくださっていなければ、わたくしは今頃…。
本当に今までありがとうございました。そしてどうか、これからもよろしくお願いします!」
と深々と頭を下げるシンデレラ。
彼女の言葉で俺は理解することができた。
これはシンデレラではなく山吹自身の言葉。
そしてこれは王子様ではなく俺に対しての感謝でもある。
完璧なアドリブ。誰が言い出したのだろうか。いや、そんなことは今となってはどうでも良いこと。
彼女が本音をぶつけてきた。なら、俺がすべきことは一つだけ。俺も本音で答える!
「顔を上げてくれシンデレラよ。私も貴女に感謝している。貴女の存在が私の中で止まっていたものを動かしてくれた。貴女だけではない私はたくさんの方に感謝している。
私は彼らに感謝している。彼らは私に居場所を与えてくれた。
私は彼女に感謝している。彼女は私を手助けしてくれた。
私は親友に感謝している。親友は私に勇気を与えてくれた。
そして、シンデレラ。君に伝えたいことがある。長い間共に過ごしてきていたが一度も口に出来なかった。
…私は…貴女のことが好きだ。」
いつの間にか彼女は泣いていた。その涙を見た俺は彼女を強く抱きしめた。
そこで暗転した。
俺は後悔はしていない。
この場で言うのは間違っていたのかもしれない。
このタイミングで言うのは間違っているのかもしれない。
でも俺は本音をぶつけると誓った。もうこれ以上、自分を偽り手遅れになるのは嫌だ。
それならば本音をぶつけた方がいい。たとえそれが俺にとって悲しい結末になろうとも…
それからのことは良く覚えていない。
色んな人に茶化されいじられたことだけは覚えている。
山吹とはどうなったかというと至って普通だ。普通に会話をするしメールのやり取りもする。
文化祭期間はずっと有栖と行動を共にしていた。俺は四人組と一緒に行動した。
俺たちの劇が思った以上に反響が良く、のちに舞台発表部門の最優秀賞を受賞することとなる。
二日目。
朝からは昨日の舞台発表の話で盛り上がっていた。
特に最後のシンデレラの台詞が良かったらしい。意外と案内人と馬車のキャラも大反響だったそうだ。
ったく、主役の俺も少しくらいは評価してほしいものだ、なんて心の中で愚痴っていると後ろから
「私は感謝している。」と俺の声を真似ている奴がいた。
全然似てないし、一体、誰よと思い後ろ振り向くと有栖と山吹がいた。
「なんだ、お前たちか。」
「それは真似していたのが私たちだったから落胆しているのかしら?
それとも美少女ではなく私たちのような芋女だったせいかしら?」
「前者だよ!!」
ったく、山吹と有栖なんて美少女だろうが。
「んで、何のようだ?」
「あなたの部室を案内してほしいの。」
「部室?」
「ええ、二次元愛好部だったかしら?そこよ。」
「なんで?」
「何か出し物をしているでしょ?」
え、そうだったの?知らないんですけど…?
いや、と言うか俺は部員じゃない。なんて言えずに、「…きょうみあるの?」と聞くと、「ええ、白が。」と有栖が答えた。即答かよ!
「それ、言わない約束だったでしょ!!」と山吹が怒っていた。
俺は美少女二人を連れて汚部屋を案内する。
部室の前に来ると『君に二次元の良さを伝えちゃうぞ!新規部員募集中!ただし美少女のみに限る!二次元愛好部より』とでかでかと看板が立てかけられていた。
それを見た有栖が、「なら私たちはクリアね。」と呟いているのが聞こえた。
と言うか、こいつら二次元を布教する気あるの?部活動の目標見失っているだろ。
「失礼するわ。」と有栖が扉を開け山吹と共に入って行く。
その瞬間、大きな歓声が上がった。俺が入ると一気に静まった。
「わかりやすいな!」
それからは四人組が色々解説をしていた。山吹が来たいと言いていたそうだが山吹以上に有栖が興味を持っていた。有栖たちとの温度差を感じてしまった俺は居辛くなり飲み物を買いに部室をあとにした。
すると部室の扉が開く音がして、「待って!」と声を掛けられた。
振り向くと山吹がいた。
「私も行く。」
そして俺たちは二人で買い物をすることになった。
なぜか意識してしまう。やっぱり昨日のせいか。
「な、なんで付いてきたんだ?良かったのか?」歩きながら話す。
「有栖が行けって。」
いつも以上に声が小さい山吹。注意して聞いていないと聞こえないくらいだ。
「興味がないとか?」
「そんなことない。どちらかと言うと私より有栖の方が二次元好きだよ。」
なんだって??まさか有栖が二次元に興味があったとは…
「その、彼女たちの前では隠していただけ。」
「そっか。」
「うん。」
そして沈黙がやってくる。話が続かない。気まずい。何か話題がないか。
「あ、そうだ!昨日の劇どうだった?」
「…」
俯いてしまう山吹。
あ、しまった。この話題はタブーだ。
俺たちが気まずい空気になっている原因なのに。
「…恥ずかしかった。」
「そっか。」
また沈黙。話が続かない。素人の俺には出来ません。話の輪を広げるなんて高等テクニック。できません。
すると、ぐーと可愛らしい音が聞こえた。
「なにか食うか。」
「うん。」
なんてやり取りをしたあと俺たちは落ち着いた雰囲気のカフェに入った。
もちろん生徒が出している出店。
中に入るとボーイッシュな女子生徒が元気な声で、「いらっしゃいませ!」と声を掛けてくれた。
そして、「お客様こちらです!」と席へ案内される。席へ向かう途中に、「カップルです!」と叫ぶ店員。
またしても俺たちの間で気まずい空気が流れる。
席に着くとメニューを受け取った。中身は至ってシンプルでとても良心的な価格だった。
俺はロイヤルミルクティーを頼み、山吹はレモンティーを頼んだ。
お互いに一言も発せずただ飲み物が運ばれてくるのを待った。
すると、先ほどの店員が「ロイヤルミルクティーとレモンティーです!」と大きな声で持ってきてくれた。
用意されたおしぼりで手を拭こうとしたら何やら文字が書かれていた。
『ファイトです!お客様!!』
余計なお世話だ!!と叫びながら叩きつけたい気持ちをグッと堪えた。
とりあえずお互いに、「いただきます。」と言ってから口にした。味は普通。
俺は沈黙だけは避けようと頑張って話題を振る。
「食べようと言ったのに結局、飲み物を飲んでるね。」
我ながら頑張った方だが周りから見れば、なに当たり前のことを言っているの?こいつ、状態だ。
ま、山吹はそんなことを言う女の子ではないはず…!
「そうだね。」と微笑んでくれた。
「その、ありがとうね。」と何故か感謝された。
それを聞いた俺は無性に恥ずかしくなり俺たちはそれから一言も話さずにカフェをあとにした。
カフェから出ると山吹が、「お手洗いへ行くから先に行ってて」と言った。
俺はトイレから離れたところで待つことにした。
トイレから出てきた山吹が俺の姿を見るなり驚いた表情をした。
「待っててくれたの?ごめんね!」
「こういう時は謝るんじゃなくて感謝するもんだ。」
「…ありがとう。」
「それじゃ行くか。」
「うん。」
そう言って俺は前を歩く。
山吹はその後ろを歩く。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
いかがだったでしょうか?
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次回も楽しみにして頂けたら嬉しいです。