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MAKE A FRIEND  作者:  
他人
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いじめ

『なぜ、お前は王子に立候補したんだ?』

そう不思議そうな顔で尋ねてくる。

「ただが腹立っただけだ。」

俺はぶっきらぼうに答える。

触れて欲しくない。

俺はそんな意味も持たせて答えた。

するとそれを汲み取ったのか、

『変わったな。』

とだけ言った。

気がつくと賢治が俺の目の前から消えていた。

四時間目が終わり文化祭の準備が始まろうとしていた。

主要な役ではない人は全て裏方の作業に回っていた。

だいたい、衣装作り、照明関係、小道具等作りに別れていた。

俺たち主役組は既に練習を始めていた。

やはり皆んな、初めて演じるせいか上手くいっていなかった。

台詞に感情を込めるということは容易なことではない。なにかを演じるということは、とても難しい。

俺は改めて実感させられた。

だが、そうでもない人もいた。

それは金崎たちだ。

彼女たちの役はシンデレラ、つまり山吹を虐める。

それが妙に慣れているというか違和感がなかった。

そして山吹自身も素直にそれを受け入れていた。

いつもの四人組はその光景を見て、凄い、上手などと褒めていた。

恐らく妙な違和感を抱いているのは俺だけだろう。

そしてその妙な違和感が現実味を帯びていく。

練習が終わったあと山吹を連れて何処かへ向かう金崎たちの姿があった。

俺は、先ほどの違和感のせいか気になって仕方ない。

だから尾行することにした。

彼女たちは屋上へ向かう。

そして人目を気にするように何度か周りを見渡してから音を立てずに屋上へ続くドアを開いた。

閉じる際も周りを見渡してから音を立てずに、ゆっくりと閉めた。

明らかに様子が可笑かった。

ただ談笑するならばそこまで気を使う必要がない。

ますます怪しいと感じた俺はドアの付近まで近づいた。

聞き耳を立てると微かだが、彼女たちの会話が聞き取れた。

「今週の分持ってきた?」

そうドスの効いた声は恐らく金崎だろう。

「は、はい。」

声が震えていた。きっと怯えているのだろう。

それにしても山吹が金崎に敬語を使っているとは。

前までは友達のように接していたはずなのだが。

「それと、クラスでは敬語使うなって言ってるじゃん。」

その怒鳴り声と同時にパチンと頬を叩く音が聞こえた。非常に乾いた音だったので相当な痛みだろう。

今までタメ口を使う関係だったのに敬語を使うと怪しまれるからだろう。

そこまで彼女たちとの間に亀裂が入っていたとは思わなかった。おそらく、軽いいじめみたいなのは受けているんだろうなと認識していたが、ここまでとは。

今すぐ助けてあげたい。

だが、それが彼女のためになるのだろうか。

それに俺一人が何とか出来ることなのだろうか。

人を助けることは容易ではない。

それ相当の覚悟と力が必要だ。

残念ながらいまの俺には持ち合わせていない。

だから俺はそっとその場を後にした。

次の日。

いつものように山吹は学校に来ていた。

それも当たり前か。

俺にとっては非日常的な経験だったが、彼女からしてみればあれが日常なのだ。

いじめを簡単に克服することが出来る方法がある。

それは何か?

簡単なことだ。ただ受け入れればいい。

彼女は彼女なりに考えて受け入れたのだろう。

そしていつも通りに学校が始まり終わる。

そして文化祭の準備が始まる。

昨日に引き続き、それぞれの持ち場につく。

相変わらず俺たちの演技は下手だ。

だから余計に彼女たちの演技が際立つ。

実際には演技ではなくリアルなのだが。

浴びさせられる罵声。

容赦なく振りかざされる暴力。

もはや演技と呼べるものではなかった。

しかし事情を知らない者からすれば、ただ演技が上手いとしか見えないだろう。

それほど彼女たちはうまくやっていた。

そんな日々が続いた。

だがそんな迫真の演技が続けば怪しむだろう。

薄々と気付き始めた者もいたのかもしれない。

だが誰一人として止めることはなかった。

なぜなら自分が標的になるのを恐れていたからだ。

自分を犠牲にしてまで彼女を守る、そんな意思を持った者はいなかった。

その様子を見て金崎たちは調子に乗った。

誰も騒がない、誰も関与しない、そう感じたのだろう。

今までは、いじめかどうかの瀬戸際のような行為が多かったのだが露骨にいじめだとわかるような行為が増えるようになった。

放課後の屋上で行なっていたやり取りも教室でやるようになった。

もちろん誰も見て見ぬ振りだ。

あの委員長でさえ。

結局、みんな自分が好きなのだ。自分が可愛くて仕方ない。そんなものだ。

関わらないというのが正しい答えだ。

文化祭が3日前に迫っていた。

俺たちの演技もやっと人に見せられるレベルまでに上達していた。

毎日の努力の成果だろう。

みんながきっと上手くいくと思い始めていた矢先のことだった。

事件が発生した。

ときを遡ること1時間前。

委員長が青ざめた顔で役者組の俺たちのところへ走ってきた。

委員長の顔からして只事ではないことはわかった。

委員長が息を荒くしてこう言った。

「山吹さんがいなくなったの」

別に気になるような事ではない。

どうせトイレとか、校内のどこかへ行っただけだろうと俺は思った。

一度、呼吸を整えて青ざめた顔で委員長がこう続けた。

「私は文化祭に出られません。だから他に代役を立てて欲しいです。すみません、自分勝手なお願いだとは十分承知しております。ですが、皆さんの努力を無駄にはしたくありません。どうかお願いします。さようなら。」

そう丁寧に綺麗な字で書かれたメモを読み上げた。

最初は事件と呼ぶには少々大げさだと思っていたのだが、いまの話を聞いて俺は認識を改めた。

これは立派な事件だ。

簡単な話だ。今までのことを思い返して欲しい。

彼女は虐められていた。

彼女は無視されていた。

彼女は思いつめていた。

追い詰められた人間がすることはだいたい予想がつく。

そして俺はそれを経験したことがある。

だから確信もって言える。

「自殺。」

俺は低い声で言い放った。

それを聞いて一番に反応を示したのは委員長ではなく金崎だった。

それもそのはずだろう。

今まで虐めていた者が自殺しようとしているのだ。

「そんなわけないじゃない!」

彼女は甲高い声で叫ぶ。

狭い準備室のせいか余計に声が響いた。

「と、とにかく急いで探しましょう!」

慌てた様子で委員長が呼びかける。

その呼びかけに応じて皆んなが一斉に準備室を飛び出した。金崎、ただ一人だけを取り残して。


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