序章-はじまり-
-俺は高校生になった。
正門の前で立ち止まる。
まだ、冬の香りが残っている。春と呼ぶにはまだ早いな。
そんな感じに黄昏れつつ、ふと学校の方へ目をやる。学校の正門玄関前に人だかりが出来ている。
恐らく、名簿を見て自分の名前を探しているのだろう。その中で大きな声で叫ぶ奴もいれば、抱き合う奴もいる。その端には落胆した奴もいる。
俺は思う。小学生から中学生に上がる時は小学校単位で集まるわけで必ず知り合いはいるはずだと。そんなことを思いながら、自分の名前を探す。
ない。ない。ない。ない。あった。
ないが四回。つまり、俺は5組だ。ビリ尻のクラスってわけだ。
一応、知っている人がいるか確認してみる。わざわざ確認すま、で、も、、、?
いなかった。
仲のいい友達がいなかった。見覚えのある名前すらなかった。そもそも俺には友と呼べる奴が少ない。この場合、当然っちゃ当然のことだ。ま、なるようになれ、だ。
俺は幼いころから問題にぶつかっても深く考えたことがなかった。流れに身を任せていれば、きっとなんとかなるはず。そう思って生きてきた。だから、何の不安もなかった。
それからは入学式を行い。各自の教室へと誘導された。導かれるがままに僕は自分の教室であろう所へ辿り着く。小学校が同じ奴らなのか、すでに何組かのグループが出来上がっていた。俺はというと、自分の席にへばり付いていた。例えるなら、ゴキブリホイホイに捕まったゴキブリそのものだろうな。ただゴキブリと番う点があった。それは、ゴキブリのように必死に逃げようともせず、ただ、ただ、じっとしていることだ。その点に関しては、ゴキブリの方が可愛げがあるかもしれない。
騒がしい奴らが多い時こそ、俺のようなぼっちが目立つ。
ちょうど窓際の一番後ろの席に、彼女、がいた。
いつもなら、同じ人種の奴か程度で済むのだが、何故か奴に惹かれるものがあった。
彼女は窓の向こうを眺めていた。だから一目惚れってことはない。じゃ何故だ。いつもの妄想タイムに入っていると、いつの間にか教室が静まり返っていた。
「えー、初めまして。クラス担当の須郷です。えー、これから1年間、えー、よろしくお願いします。」
そんな感じに面白味もくそもない自己紹介だった。
しかも、俺の嫌いなタイプ。えー、えー、うるさいんだよ。
眼鏡かけて白髪交じりのおっさん。その口癖さえなければ何も害のない楽な担任だ。
それから、簡単に一週間の日程確認や校則についてだったり、教科書や配布物の確認をした。
そして、自己紹介が始まる。正直に言って、やる必要があるのかどうか疑問に思う。どうせ、あとで
「~君だよね?」
「わたし、~って言うんだ!」
みたいな感じで自己紹介するんだからさ。二度手間じゃんって思う。ま、どうせ俺が自己紹介する機会なんて年に数回あるかないか程度だし気にする必要はないんだがな。
そんなことを考えているうちに自分の出番が来ようとしていた。
「えー、楓馬 優斗くん。えー、自己紹介を頼みますね。」
それに対して、はい、と素っ気無く返事をする。
「初めまして、楓馬です。1年間、よろしくお願いします。」
担任同様に何も面白味もくそもない自己紹介だ。だが、これでいい。普通が一番なのだ。
だが、不愛想だったか、と少し反省してみた。
昔からそうだった。俺はいつも不愛想だった。それは今も変わらず。そのせいで周りからはいつも怖がられていた。だから、ぼっち、だった。ま、理由はそれだけではないが。
何分だろうか、興味のない奴らの自己紹介を聞いていた。いや、実際に聞いていたわけではないが。
「えー、山吹 白さん。えー、自己紹介を頼みますね。」
白か。
その響きに何か引っ掛かるものがあった。
「初めまして、山吹 白です。これから一年間よろしくお願いします。」
彼女の自己紹介で、クラス全員による無駄な自分アピール大会は幕を閉じた。
それから帰りのホームルームを終え、俺たちは帰る。いや、俺だけか。
何事もなく。
ちょうど正門をくぐった辺りのことだった。
突然うしろから声を掛けられた。
「あ、あの!友達になってくれませんか?」
白だ。
それ以来、俺は彼女と話すことはなかった。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!お兄ちゃんってば!!」
甲高い声と共に俺のみぞうちに華麗なエルボが突き刺さった。
朝から発情している、このメス豚は、俺の妹だ。
「妹よ、朝から腰を振るんでない。はしたない。」
「何言ってんの?餓死しそうな状況でも絶対に、お兄ちゃんだけには尻尾を振る事なんてしませーん。むしろ、餓死した方がましだよっ!」
汚物を見るような眼で俺を見る。
「なら、い、ま、す、ぐ、死、ね!」
躾のなっていないメス犬の襟を掴んで部屋の外に突き出す。
「ったく、朝からうるさい奴だ。」
「お兄ちゃんのばか!へんたい!遅刻するよっ!いや、してしまえ!!」
そうキャンキャン吠えたあと階段を下りていった。
遅刻なんてする訳ない。誰がそんな目立つようなことをするもんか。
そして制服に着替える。
「なんだって、あいつとは普通に話せるのにな。」
誰にも聞こえぬ声で呟いた。
-そして
-俺の高校生活が幕を開けた。
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