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お金持ちのおじいさんと財産目当ての奥様

作者: 阿漕悟肋

 むかし、むかしのお話です。




 あるところに、たいそうお金持ちなおじいさんがいました。

 時代が時代でしたから、爵位や領地は全て没収されてしまいましたけれど、それでも磁器や漆器、色とりどりの宝石や金貨銀貨、遠い国の地図や得体のしれない生き物のミイラまで、広い屋敷にも収まりきらないくらいの宝物を持っていました。

 旅に出ては数年帰らず、色んな宝物を集めてはしまいこむ。

 家族はおらず、使用人の一族が付き従っているのみで、一人で歩けなくなってからはため込んだ宝物の手入れをすることが唯一の楽しみ。

 そんなおじいさんが、ある日突然、結婚式を挙げると言い出したのです。

 昔の旅先で知り合ったという女性はとても美しい人ではありましたが、何しろ若く、おじいさんと釣り合うようにはとても見えません。

 周りの人は口々に、あの女は財産目当てだ、結婚なんてやめておけ、そう言いましたけれど、おじいさんは決して耳を貸しません。

 おじいさんは、その女の人が自分の財産目当てだと、重々知っていたのです。

 その身代に比べたらほんのささやかな結婚式を挙げて、二人は神様の前で、永遠の愛を誓い合いました。

 やがて寿命の尽きるまで、おじいさんはたいそう幸せに暮らしたそうです。




 目論見通り、奥様はおじいさんの宝物を全て手に入れることが出来ました。

 浮名を流した男どもや、昔の恋人、家族がおじいさんの屋敷を訪れますが、奥様は誰に対しても門を開きません。

 そう。

 本当に、奥様はおじいさんの宝物が目当てだったのです。

 これは初めておじいさんとお茶を飲んだティーカップ。

 いただいた花束を飾った花瓶。

 結婚式の日に捧げられた、一つの指輪。

 思い出や、おじいさんから聞いた様々な逸話を思い出しながら、奥様は毎日宝物の手入れを続けます。

 暖かな日差しのような毎日が、ずっと続いて。

 奥様がおじいさんと同じくらい歳をとったある日のこと、奥様は使用人に、いくつかのお願いをしました。

 使用人は、その全てを聞き逃さず、必ず果たすと約束します。

 その言葉を聞いて、奥様はゆっくりと、目蓋を落としました。




 おじいさんと奥様が食事に使っていたテーブルは、それを作った職人の孫へ。

 結婚式のタキシードとドレスをしまっていたタンスは、使用人の子どもの嫁入り道具に。

 泥の中から掘り出された大きな大きな宝石は、生まれた故郷の採掘場へ帰りました。

 帰る場所の見つからない沢山の宝物は、博物館として改装されたお屋敷に飾られます。

 亡くなられた奥様は、ドレスと指輪だけを大事に大事に抱えて。

 屋敷の庭でも二番目に日当たりのいい薔薇園の片隅に埋葬されました。

 おじいさんが、亡くなられるまでずっと、車いすで手入れをしていた薔薇園です。

 奥様のお墓の隣、一番日当たりのいい場所には、おじいさんが眠っています。

 奥様は本当に、おじいさんの財産が目当てでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだか宝物を掘り当てたかのような読後感
[良い点] え、ええ話やないか... 色々なものが詰まっているように感じて愕然とした
[良い点] 目から汗が
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