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第二十一話:異世界攻略第一幕エピローグ~夜会にて~


 狩猟祭が終わって三日後、優勝を遂げたエーリッツェ隊を代表して、俺とリーガハルが王城に招かれていた。入賞した上位五チームの栄誉を称える式典が催されるからだ。


 式典にはアルガスト王国を代表する王侯貴族や諸国の有力者たちが集い、狩猟祭がこの国で最も権威ある催しであることを物語っていた。


 ただし、武を重んずる王国の国民性だろうか、参加者の服装はフランクというか普段通りというか着飾っている人は偉そうな人に限られるようだった。


「ずいぶん変わった服装だな、マーサ。だが何故だろう、妙に似合っているというか、シンプルなのに上品さを感じるのは俺の気のせいだろうか」


 勝手がわからなかった俺は、この世界の者には馴染みがない地球製の黒いスーツ姿で、クールに決めて参加している。


「気のせいではないぞ、リーガハル。この服は外の世界では最もクールなブランドの逸品なんだ。生地も最高級品を使っているからな」

「ブランド?」

「ああ、このケースでは仕立て屋のことだ」

「そうならそうと言え。お前の言葉は分かりにくいものが多い」


 リーガハルは渋い顔を作ったが、彼は俺がこの国アルガスト王国に早くなじむように注意してくれているのだ。嫌味で言っているのではなく、俺のことを心配してくれていることが分かるからこそ、彼の心配りには感謝の言葉しかない。


「教えてくれてありがとうな、リーガハル」

「礼を言われるほどではない」


 そう言って照れる姿は精悍な風貌に似合わず可愛らしい。


 それはさておき、このスーツは俺が外の世界から来ている事と、神秘性を印象付けるための演出である。そしてこの演出は、ある程度の効果を発揮していた確信することができた。その話はまたの機会にするとしよう。


「聞くがよい我が国が誇りし精鋭たたちよ。今宵この場に招かれし貴様らはその誉れを心に刻み、更なる高みへと昇り詰めんこと余は期待しておる。貴様らの奮戦に応え、我が国最高の酒と食事を用意した。存分に堪能していくがよい」


 会場の一段高いところで、国王らしき人物が有難いご講釈を垂れていた。俺とリーガハルはそれを軽く聞き流し、最高級の食事とやらを堪能している。というか美味い。


「これは何の肉だ?」


 脂身はほとんど入っていないが硬くもなく柔らかすぎることもなく肉汁が多い肉だ。その味は絶品で、地球では味わえない極上の味だった。ほんのり塩味でスパイスも弱めにしてあるが、その肉々しい野性味あふれる味わいは肉を食っている感満載の至福感を味あわせてくれる。


 それはまさに肉の王様、キングオブミート。この肉に比べたら霜降り和牛なんて豚の餌だ。霜降り和牛を悪く言うつもりはないが、あのサシが入った肉はマイベストボディを維持するうえで天敵だった。脂身の甘さなんてクソくらえであり、肉のうま味は肉質によって与えられるべきなのだ。脂に頼るようではダメだということがこの肉を食って良く分かった。


 あたりを見渡してみれば、城に招かれたほとんどのハンターたちは、男女問わず肉に夢中になっていた。これほど美味い肉が出されればこうなるのも納得である。


「これはアトロ嬢がしとめた茶毛竜らしいぞ。食うのは俺もはじめてだ」

「何で今頃?」


 アトロが茶毛竜を倒してからずいぶん時間が経ったはずだ。それが何で今頃出てくるのだろう? とかなんとか考えていたら背中越しに答えが返ってきた。


「熟成に時間がかかるのですよ。あれほどお強いのに何も知らないのですね」


 振り向けば、そこには民族色豊かなと言ったらいいだろうか、フリルと造花でふんだんに盛られた一種独特なドレスの少女が立っていた。歳は十代後半だろうか、健康的な日に焼けた肌の女性が多いこの国において、その少女は色白く透き通るような肌をしていた。


「熟成ですか。不勉強で恥ずかしいかぎりです。それで……」

「シルフィーネと申します。倒竜の英雄マーサさん」

「ああ、これは失礼いたしました。私は平沢昌憲と申します。呼び方はマーサでかまいません」


 とかなんとか気障ったらしく返していたら、横にいたリーガハルがツンツンとわき腹を突いて耳打ちしてきた。


「この方は第三王女シルフィーネ・ティロル・アルガスト様だ」


 なるほど今まで見てきたこの国の女性とは雰囲気が違うはずだ。艶がある栗色のショートヘアに藍色のクリッとした(まなこ)か似合っていて可愛い少女だが、それ以上に気品というか品格がにじみ出ている。さすがは王族といったところか。


「狩猟祭の優勝おめでとうございます。それから、王国の民たちを救っていただいたこと、心よりお礼申し上げます」

「勿体ないお言葉です」


 少女とはいっても相手は王族だ。無難に返したつもりだった。いや、冷静に自分の言葉を振り返ってみても(かん)に障ることは言っていないと思う。それなのにだ。


「お兄様が勝てなかったのは商人たちに見る目がなかっただけですからね!」


 キッと上目遣いで睨みつけられてそんなことを言われてしまった。


「大体あなたたちはぅグッ……」


 そんな彼女の口を物理的に塞ぎ、謝ってきたのはかの第二王子マーガッソ殿下だった。俺たちと最後まで優勝を争った張本人だ。


「ぷふぁっ、何をなさるのですかお兄様。それにマーサさん、巷では倒竜の英雄なんて持てはやされているみたいですけど、べ、別に貴方のことを認めたわけではありませんからね!」


 マーガッソ殿下の腕から抜け出したシルフィーネ姫はまくし立てるように言いたいことを言ってどこかへと走り去った。


 しかも最後のセリフは顔を真っ赤にして噛みそうになりながらだった。これはあれ、一種のツンデレというやつではなかろうか。もしそうだとしたらアニメでしか見たことがない貴重な場面に遭遇したことになる。



「愚妹が失礼した。根は悪い奴じゃないんだ。許してやってくれ」



 少し話はそれるが、彼女の言動を許すも何もない。ちょっとビックリしただけだ。負けず嫌いの人には何人も出あってきたし、そんな性格のなほうが向上心があって成績もよかった。だから彼女のような性格の人が俺は好きだ。


 逆に本音を口にしない人のほうが俺は苦手だし、お金目当てで近寄ってくる大人たちは皆、最初から耳にやさしいことばかりを言ってきた。


「別に気になんかいません。それよりも良い戦いでした」

「確かにいい戦いだったな。だが、そんな戦いも最後のあの戦いの前では霞んでしまったがな。一応俺も王族の端くれとして礼を言っておこう」


 なるほどマーガッソ殿下は、噂どおりにフランクな人柄だった。今日は正装でキメているが、先日のハンタースタイルのほうが様になっているような気がしてならない。


「ところでだな、一つ願いがあるのだが聞いてくれるか?」

「なんですか?」

「そう身構えるな。大した願いではない。お前のあの黒い剣を見せてほしいんだ」

()()()()です。重いから気をつけて」


 彼の言葉にかぶせるように返答し、超速で剣を差し出した。もちろん持ち手のほうをマーガッソに向けてだ。お気に入りアイテムである覇者の剣を気に入ってくれるとは嬉しいことである。


「なるほど覇者の剣か、いい名前だ。それにこの色と常人では持ち上げるだけで腰が笑いそうになる重量感、竜種を一刀両断できる切れ味といい名剣であるな」


 覇者の剣を手に取ったのはマーガッソではなく、さっき偉そうな挨拶をしていた筋骨隆々のナイスミドルだった。彼の名は俺ですら知っている。そう、アルガスト王国国王サルガッソ陛下その人だった。


「てめぇクソ親父。横から出てきてんじゃねぇ。それは俺が見せてもらうところだったんだ」

「ほざくな青二才めが。貴様のようなイノシシにこの剣は贅沢だ」


 突然国王と王子がおっぱじめた親子喧嘩を、周りの重鎮たちはいいぞいいぞと煽っていた。物理的な殴り合いにまでは発展していないが、二人はいかつい顔を近づけてガンの飛ばしあいに興じている。


 しかし俺はそんなことより、覇者の剣をその名と共に称賛してくれた国王にものすごい親近感を覚えていた。そしてこうも思った俺もこの面白い親子を煽ってみようかと。


「陛下、それほどお気に召されたのならあと一振りあるので献上いたしましょう」


 本当はあと二振りの剣を作っていたが、面白そうだから一振りだけ献上してみようとい悪魔のささやきに俺は乗ることにした。性格が悪いと罵ってくれて結構。こんなに面白そうな奴らがせっかく目の前にいるのだ。俺は自分の欲求を満たすことを優先させてもらう。


「おお、おお。これを献上してくれるのか!」


 サルガッソ国王に渡した剣は覇者の剣のマイナーチェンジ版だ。中心に魔力伝導繊維が入っていないだけで、強度的にはごく僅かだが覇者の剣を上回る逸品である。


「覇王の剣といいます」

「おお、なんと素晴らしい名だ」

「なぁ親父ぃ、その剣譲ってくれよ。覇王の剣は現役ハンターの俺にこそふさわしいと思わないか? ()()の」

「なぁにを抜かすかかこの戯けが。貴様は余の馬車を無断で潰したそうじゃないか――」


 その後もこの親子は醜い言い争いを続けていた。楽しい余興を見せてもらった礼ではないが、マーガッソがあまりにも不憫に思えてきたので、コッソリとお付きの役人にオリハルコンの槍を彼に渡すようにと置き土産をして城を後にしたのだった。

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