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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章49部:傀儡だった過去へ

 息も絶え絶えとなりながらも、ジークの闘志はまだ消えておらず俺達の方を睨みつけている。

 しかし自慢の刀もなく、腹から流れ出る血を必死に片手で抑え、かろうじて立っているという状態だ。


 本来なら情けや哀れみで止めを刺さないと思えるが、この男は違う。

 また何を企むかわからない。


 それにジーク、ないしはアシュラはあらゆるものを奪い踏みにじってきた。

 人の命、人の心を、過去だけでなく現在も。


「さぁ、一気に畳みかける。頼むぜ、メリエル!」


「わたくしからですわね。わかりましたわ。全力で参りますわ!」


 メリエルはエーデルハルモニーを振って、鮮やかな煌めきの軌跡を描きながら、大きな魔方陣を宙に描いて詠唱する。

 魔方陣が展開され眩い光を放つと、ジークの周りに無数の光弾が囲むように浮いていた。


「無数の輝きよ。光の旋律となり彼の者に光の鉄槌を。邪悪を砕け!


 『グリッターシンフォニー』!」


 ジークの周りに展開された光弾は、まるで音楽に合わせて踊るように動き、ジークにぶつかっては弾けていく。

 光弾の動きは舞踏の盛り上がりを象徴するかのように加速していき、最高潮に達すると目を覆うほどの強烈な光が広がり、圧倒的な爆発とともに炸裂した。


「ここまでの、力があるとは……」


 吹き飛んだジークは口から血を吐き出して、かろうじて立ち上がり俺達を睨みつける。

 反撃を加えるよりもクライマックスアーツの連続発動で、その隙を与えることはない。


 続けてアガタが待ってましたと言わんばかりに俺の顔を見たので、俺は小さく合図を送る。

 アガタの魔導書がすさまじい勢いでめくられていき、アガタは生意気で自信満々な笑みを口元に浮かべていた。


「次はアガタの番ですわ。これまで見せ場があまりなかったので、そのうっ憤を晴らしなさい。わたくし達の魔導士に恥じない活躍をするといいですわ」

「なんか気に食わない物言いね。まぁいいわ。早くあいつに魔導を撃ち込まなきゃって思ったのよ。あいつにはあたしの魔導を舐めた代償を支払う必要があるわ。もう躊躇しない。あいつをぶっ飛ばすつもりで放つわ」


「それにしてもお前、最後にはこだわりがあるくせに、それ以外の順番にはこだわりがなかったんだな」

「最後以外ならね。最後ってのは一番目立つし、一番偉いし、何より一番かっこいいじゃない」

「そうかよ。今のお前も十分かっこいいがな」


 俺はとりあえずアガタの機嫌を損なわないようにとりあえずおだてると、アガタはそれを真に受けたのか胸を張り顎を上げて上機嫌な表情を浮かべた。


「だったら、今からあたしのかっこよさに、あたしの魔力に震えなさい。誰が天才か教えてあげるわ」


 アガタは本を閉じ、ジークの元まで風の魔導を用いて素早く零距離まで接近し、ジークの腹に向かって両手をかざす。

 足元から地響きのような強い揺れを感じ、元をたどればアガタの方向であった。

 アガタのかざした両掌から生じた真紅の輝きが増していく。


「これを受けて立っていられたら大したものよ。その野心とともに燃え尽きなさい! これがあたしの本気よ!


 『クリムゾンバーニング』!」


 真紅の輝きが一瞬にして俺の視界全体に広がった。


 直後メリエルの放った『グリッターシンフォニー』を超える爆発が巻き起こる。

 祭壇全体が揺れ俺達もまたその衝撃に吹っ飛ばされないように踏みとどまるのが精いっぱいだった。


 アガタの魔導を直撃したジークは意外にも留まってその場で膝崩れるが、間髪を起きずに大きな爆発の起きた跡から小規模の爆発が無数に発生する。


「ガァアアアアアッ! 小娘が……今のは効いたぞ……」


 その爆発を受けてジークは大きく吹き飛ぶが、大分弱った様子とは言え立ち上がり、まだ戦闘態勢を取り続けていた。


「次はあんたの番よ。あたしの次位に派手に決めてもいいわよ」

「あいにく競争事ってなると、俺は一番を取りたくなってくる性分でね。一番を目指すつもりでやるぜ!」

「言ってくれるじゃない。見せてみなさいよ! あんたの本気を」


 無防備なジークへ向かって、地面に落ちているジークの刀を投げ渡した。

 ジークは足元に投げられた自分の刀を見た後に、俺を睨みつける。


「なんの……真似だ……」

「せめてお前とはどっちが強いかをはっきりさせる必要があるからな。手負いとは言え、俺くらい叩き伏せられるだろ」

「後悔……するなよ」

「後悔をするつもりもなければ、そもそも予定すらない。あんたのプライドすらも叩き潰さないと、気が済まないんだ」

「貴様……私を愚弄するか!」


 怒りに歪んだ表情で足元の刀をすぐさま拾って俺に向かって斬りかかる。

 もはや冷静さや技巧などは微塵も残っておらず、感情のまま俺を両断するかのような上段。


「落ち着いているお前は強かった。俺達が束になっても倒せないくらいに。だがそんな暴力的な感情に支配されているようじゃ、俺に勝つのは不可能だぜ!」

「あ……? あ……?」


 振り下ろされたジークの刀を、俺は『真紅ヴォーパル)滅鬼刀(エッジ)』で受け止めた後弾き飛ばした。

 ジークの怒りに満ちた顔が刀を失ったことで怯えた表情へと変化し、一層無防備な状態となる。


「や、やめろ……それ以上は……意味がない……」

「初めて味わったか? それが弱い奴が見せる恐怖、俺の家族に刻み込んだ感情だ!」


 俺はジークの腹に膝蹴りをかます。

 ジークが口から血を吐き出し大きくよろめいた。


「受けてみやがれ。俺の剣を! そろそろ決めるぜ!


 『無限乃無型(ファンタズマゴリア)』!」


 俺はジークを斬りつけながら、その間に蹴りを中心とした体術を繰り出していく。

 剣を切り返し次の斬撃を繰り出すまでの一瞬の間に、体術を挟み込むことで流れるような、まさに型にとらわれない連撃となるのだ。

 飛び上がって剣を振り下ろしてはすぐさま足払いを繰り出したら、すぐさま剣で切り上げ、回し蹴りを行いその勢いを利用してすれ違いざまに一文字に斬りつける。

 そしてすぐさまジークの方向へ振り向いて、抜刀術の要領で再びすれ違いざまに一閃で切り返した。


「……ガハッ……」

「だがこれで終わりじゃない。立て。お前にとどめを刺すのは、俺じゃないんだ」


 俺の背後からゆっくりした足音がする。

 確実に一歩ずつ踏みしめるようなその歩みからその強い意志を感じることができた。


「さぁ、ミネルヴァ。お前の過去に決着をつけるんだ。お前の手で」


 腰を下ろして頭を垂れているジークをミネルヴァが剣を抜いて見下ろす。


「ジーク、あなたにはまだアシュラの残滓が残っているのだろう」

「ああ、その通りだ……ならば、それに免じて……私を助けてくれ。貴様はアシュラに認められた唯一の戦士だ。ゴスア帝国の騎士として、名誉と褒美、そして寵愛を受けた恩があるのなら……」


 ジーク、いやアシュラが懇願するように顔を上げてミネルヴァの瞳を見つめている。

 ミネルヴァに触れようと手を伸ばすが、ミネルヴァはその手を払いのけた。


「だがあなたは、与えるだけではなく、大事なものを奪った。それがどれだけ苦しかったか、わかるものだろうか」

「一体、何を奪ったというのだ……貴様のためを、思い、アシュラとしての、覚醒の依代のために……」

「豊かな感情、限りある生命。人として生きる者に備わっている、尊きものをだ!」


 ミネルヴァの強い物言いにアシュラはひどく狼狽えた。


「わからない! なぜそのようなものが必要になる。感情を殺せば、合理的な判断ができる! 生命がなくなれば、どのような時でも永遠に戦い続けられる! それゆえに凄まじい戦闘技術を覚えたのではないか! 一体何を間違ったというのだ」

「そもそもが間違いだ。マサキや、様々な人が教えてくれた。あなたの奪ったものが、私の成長を、さらなる高みへと誘ってくれるのさ」


 アシュラはミネルヴァの顔をじっと見つめて、その言葉に耳を傾けていた。

 その言葉の意味を理解しているのか、ジークの胸の奥に届いているのかはわかりかねない。


「誰かのために戦うという使命。自分の身を顧みるという自己防衛。まぁ、私の鎧もボロボロになってしまい、まだまだ三流だということを実感したがな」


 ミネルヴァはジークに踏まれた自分の鎧を見て苦笑した。


「だが確固たる目的を持ち貫くという意志こそが、何にも勝る最大の武器になる」


 ミネルヴァの剣を強く握る音が聞こえ、冷徹とも言えるほど固い決意を秘めた表情で無防備なジークを見下ろしていた。


 その剣先はジークの胸部を指している。

 剣先が光り、逃げきれずに震えているジークを反射していた。


「や、やめろ……私は、永遠の命を手に入れ、無限の闘争へ向かわなくては……ならないのだ」

「さらばだ。アシュラ」


 ミネルヴァがジークの胸に剣を勢いよく突き刺す。

 さらに力を籠め始めて剣がジークの肉体を深々と貫いていき、そして完全に貫通した。


 ジークは呻き声すら発さず、ただ絶命して困惑で硬直した表情をしながらぐったりと倒れている。


「傀儡の過去は捨てた。私は、これからは私の意志で生きていく」


 ミネルヴァは剣を引き抜いて、絶命したジークに背を向けて俺達の顔を見た。

 俺達に向けたミネルヴァの顔が、どこか愁いを帯びた雰囲気がなくなり、さっぱりとして視線を真っすぐしているのが印象的だ。


「終わったんですね……」


 ゆーりがミネルヴァの元へと歩いた後、血を流しながらもう動かなくなっているジークへ視線を移す。


「ああ。だが彼もまたアシュラの被害者さ。天稟があった故にアシュラにそそのかされた。そして国を捨て守るべき民を捨て、力への欲求の赴くまま姦計を張り巡らせ、世界中を混乱に叩き落そうとしたんだ」


「まぁ、なにわともあれ一件落着ってことね。ジークの野望を阻止できたってことで」

「ですが、あまりにもあっさり過ぎませんこと?」

「はぁ!? あんた何不吉なこと言ってんのよ。剣が刺されて蘇る人間なんているはずないでしょ。常識で考えなさいよ。常識で」

「いえ、あくまで嫌な予感が……あっ! あれをご覧なさい」


 メリエルが何かに気づいて恐る恐るあるところへと指を指した。

 そこはアシュラの像があった場所で、上方の巨大なアシュラの顔の横に精気のない顔でぐったりした姿のジークがいつの間にか腰を下ろしている。


 そんなジークの周りには黒いジェル状のものがジークを支えるように蠢いており、ミネルヴァによって突き刺された胸の傷から黒いジェル状の物体が流れ出ているのが確認できた。


「……アト一歩ダッタトイウノニ。コノ男ノ肉体ナラバ、アシュラトナリテ、復讐ヲ、アノ忌マワシキ計画ヲ破壊デキタノニ。秩序ダッタコノ世界ヲヤリ直スコトガデキタハズガ」


 その声はジークから発せられたものではなく、妙にエコーがかった不気味で得体の知れないあの黒いジェル状の物質が言葉を発しているのであろうか。


 俺達全員は絶句してしまう。

 あの声の主は、俺達が依頼を受けた時に遭遇した初めての強敵、俺を殺しかけた物質に酷似していた。


 スクラーヴェリッター。

 あいつと同一人物か、それとも別の固体かはわからないが、こちら側の味方ではないことは確かだ。


「コイツノ体ニ残ル、アシュラノ残滓。闘争デエタ力。ソシテ依代デハナイガ、コイツノ体ヲ生贄ニ……」


 そう独り言を呟いて黒い物質の一部が鋭利な刃物に姿を変えて、もう動かなくなったジークの体を切り刻んでいく。

 悲鳴も上げることができずに、ただ肉を小刻みに解体する音と血が滴り落ちる音が祭壇に響いた。


「むごいことを……」


 ミネルヴァが口を開いて露骨に怒りを露わにする。


「もしかしてあいつって、あたし達が倒した、気持ち悪い奴じゃないの」

「そのようだが、あいつはこちらにまるで気づいていない」

「でも何が目的であんなことをしているかわかりませんわ。さっきは復讐とか計画とか言っていましたけど、詳細は分かりませんがそれがあいつの目的ではなくて?」


 メリエルの何気ない考察で俺の脳裏にある言葉がよぎった。


 『無限召喚計画』


 『永劫の鏡』にそう日本語で書かれた言葉だった。

 意味もわからなければ、詳細はなくただ単語だけが宙に浮いている状態だが、何か特別な意味――スクラーヴェリッターについて紐解く手掛かりになるのかもしれない。


 俺がそうこう思案しているとスクラーヴェリッターは作業が完了したのか、ジークの遺体をを串刺しにしたまま、ジークの血とスクラーヴェリッターの黒い体液が混ざった不気味な痕跡を残しながら移動し、像の下にある台座にもはやジークだったものを捧げる。


「サァ、蘇レ! 破壊セヨ。コノ狂ッタヨウニ統制サレタ世界ヲ。暴虐ノ限リヲ尽クスノダ。ソシテ奴ヲ握リ潰スノダ!」


 突如として地面が揺れ、アシュラ像の周りに黒いオーラが巻き起こり、それが周囲を吹き飛ばす衝撃波となる。

 俺は身を屈めて衝撃から体を守りながら、その様子を確認しようとするが、オーラが立ち上っていきながら次第に天井を突き破っていき瓦礫が落ちてきた。


 次第に拡大していくオーラが祭壇全体を破壊しながら、その大きさを明確に伝えていく。

 とてつもない大きさになることは想像も難くなかった。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 そして咆哮とともに黒いオーラが払われ、そのヴェールを明らかにする。

 仏像のような体躯に、背後に浮かぶ四本の腕、憎しみに歪んた凶悪な表情に額で蠢く巨大な瞳。

 そして天を貫くほどまで大きさ、まさに世界を揺るがす大きな存在。

 歩くだけで大地が揺れ、人間を虫けらのように踏み潰す。


「まさか、顕現するとは……」


 ネルトゥスが怯えながらその巨人を見て呟く。

 俺もこの姿には見たことがあった。

 もしかして復活を止めることはできなかったということか。


「マサキ……あれは一体……」


 ゆーりが助けを求めるように呆然と俺の顔を見つめる。


 世界に災厄をまき散らす悪鬼。

 こいつはゲーム内でもエンドコンテンツの一つの覇統鬼、破壊する者――覇統鬼アシュラなのだ。

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