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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章48部:幸運の女神

 煙が立ちこみジークがまるで虫けらを見るように俺達を見下している。

 ジークの笑いがこだまし俺は絶望に打ちひしがれながら、その声を聞いていた。


 もうだめだ。

 逆転の奇策も実らず、全員仲良く全滅する。

 そして混沌に満ちた世界へ、と。


「いや、あれを見ろ!」


 キッドが叫んで、煙幕が霧散していき絶望の象徴となったジークの方を指差した。


「いかに策を弄そうが、弱者は滅びゆくのです。どんな抵抗も無駄です。所詮はあなたの言う可能性とはちっぽけなものだったのですよ」

「……ちっぽけかもしれません。ですが鬼の力を得た代償が、どれだけ心を鬼に染めようが、驕った心を生み出すのです。それが一瞬の綻び。あなたを倒す可能性です!」

「な……貴様……! 力が……その手を離しなさい」

「嫌です! 絶対に離しませんっ!」


 目を凝らすとジークの右隣には、籠手のある右腕を両手で二度と離さないと言わんばかりに握っているゆーりの姿があった。

 ゆーりはその腕を強く握り、苦悶に歪むジークを毅然とした表情で見つめている。


「あなたは私が短剣を落としたのを見て、これ以上の策はないと。だからこそ、その時こそ、この捨て身の動きが、できるんです!」

「貴様、あの短剣を落としたのは、まさか!? これを」

「いいえ、あれは本当に落としました。ですが、いつもマサキがやったように、機転を利かせれば、打開策はあるんです! あとは実行するだけの勇気です!」


 俺はゆーりの方から一筋の緑色の光の粒子が待っているのを発見する。

 ナイフを投げた後に加速翡翠を使って、驕って無防備となったジークへ一瞬のうちに接近をしたのだろうか。


「あいつ……こんな時まで……無茶をしやがって」

「だが、これで結果オーライってやつじゃねえか。あんたがいつもやるようなことじゃねえか。ま、なんにしても俺様たちはなんとか生き残れたってことだな。んじゃ、俺は休憩させてもらうぜ」


 キッドは役目を終えたと言わんばかりにゆーりのカバンの中へもぐりこんでいった。


「ふふふ。人の子が、そこまでやるとはな。さぁ、我の力を奪ったように、アシュラの力を、覇統鬼の力を奪い取れ!」


 ネルトゥスが後ろから感服したように腕を組んで、ゆーりに向かって叫ぶ。


「ええ、わかってます。ジーク! 皆さんを解放しなさい!」

「ガアアアアアッ!! 弱者の分際で! 大人しく消え入ればいいものをぉおおおお!!」


 ゆーりはさらに強く腕を握ると、その握った手から強い光を放ちだし、ジークの足元から黒いオーラの様なものが吸い寄せられゆーりの方へと入っていく。


「くぅ……うぅ……まだまだ、いけます……ああっ!」

「お前ならやれる! 頑張れ!」

 

 苦しそうなゆーりに向かって俺は無意識に応援の言葉を投げかけていた。

 聞こえているかどうかはわからないが、俺はそう叫ばずにいられなかったのだ。


「グゥウウゥウッ! アシュラの力が……! 私の力が、圧倒的な力が、頂点に立つべき力が……奪い去られる……! こんな、弱者如きにぃぃいいいっ!!」


 両者はともに苦しそうな呻き声をあげているが、ジークの方は腕の籠手が溶けていき、上半身に描かれた文様が消えていき、額の目が徐々に閉じていく。

 ゆーりの方は禍々しいオーラを取り込んでいる最中で、必死に抗っているように見えた。


「うぅぅ……なんなのよ、もう。変な夢も見るし、なんか頭が痛いわ。気分最悪よ」

「うーん……何か、嫌な夢を見ていた気がしますわ。」

「でも、それどころじゃない気がするわ……そう、ジークは!? 一体はこれはどういうこと!?」

「それにミネルヴァ、ひどい怪我ですわ。すぐに手当てしますわね」

「メリエルか……すまないな……」


 アガタとメリエルが目覚めて、アガタは辺りの状況を確認して俺達へと問いかけ、メリエルは状況を察したかのようにミネルヴァの治療にあたった。


「全部あいつのおかげだ。それに、お前らが目覚めたことで一気に形勢逆転だ。ジークのアシュラの力は失われつつある。あとは……」


 俺は再びゆーりとジークの方へ視線を戻す。


 そこには力を吸い取られ過ぎたのか焦燥して目を瞳孔を見開いているジークと、無防備に立尽したまま俯き前髪を垂らして顔に影をつくっているゆーりがいた。

 その右腕には先ほどジークが身に着けていたような籠手を装備している。


「弱者の分際で……アシュラを返せ! 貴様には過ぎたものだ!」


 ジークが地面に落とした自分の刀を拾って、無防備なゆーりへと斬りかかる。


「危ない!」


 俺が叫んでもゆーりは一切返事をせず、かといって構えを取ることもせず、このままだと真っ二つに切り裂かれるのは明白だった。


 しかしジークの気配に気づき無拍子で、襲い掛かる刀の方向へ振り返ると、白刃取りの要領で刀を受け止める。

 ジークの言っていた殺気を感じ取るという能力を一時的に身に着けたのだろうか。


「バカな! 人間程度なら易々と切り裂く私の刃を、受け止めるとは!? 力比べでは負け知らずの私の剛剣を!?」

「諦めてください。人の力に戻ったあなたでは、今の私に傷一つつけることはできません」

「貴様! 弱者の分際で、偉そうな口を! アシュラの力を手に入れても、私にとどめを刺すことはできん。経験が違う!」

「だから私達は仲間を作るのです。足りないところを互いに補っていくために! あなたを倒すのは、私じゃなくていい」


 ジークは飛び退いてゆーりに居合抜きを連続で放っていくが、目を瞑ったゆーりが籠手を起用に動かして攻撃を全て無効化していく。

 焦ったジークはさらに勢いを増して、流麗な剣技と言うよりは精彩を欠いたがむしゃらな攻撃へと変わっているように見えた。

 それでもゆーりは瞬き一つせず襲い掛かる殺意のこもった刃を無力化し、ついにゆーりの体へと到達することはないまま、ジークの抜刀術は終わってしまう。


「き……貴様ぁ……! 舐めたことを。反撃するまでもないということか!」

「いえ、今から反撃を開始するんです。さぁ、報いを受けてください。あなたは、とても許されないことをしたのです」


 ゆーりは素早い動きでジークの懐へ潜り込み腹に向かって渾身の一撃を加える。

 血反吐を出しながらジークは吹き飛び、アシュラの像があった場所へと激突してしまう。


「あんた、よくもやってくれたわね。あいさつ代わりよ。受けてみなさい!」


 そこにアガタが追い打ちとして大きな火球を放ち、爆発が巻き起こる、


「不愉快な連中め。弱者は弱者らしく、おとなしくしていればいいものを。ならばこっちにも考えがある」


 だがジークはそれでもよろよろと立ち上がり、怒りに満ちた眼で俺達を見つめて叫ぶ。

 その形相からは今までの冷静さは完全に失われ、それが感情を露わにした本来の姿のように見えた。


「こんなところでは終わりではない! 私は誰よりも強くならねばならん。こんなところで貴様達に足踏みをするわけにはいかんのだ! 何をしてでも勝つ!」


 ジークは標的をゆーりからネルトゥスへと変え、勢いよく首元へ向かって刃を放つ。

 傷ついているとはいえまだまだ剣の勢いは衰えておらず、生身で浴びた場合は一たまりもない威力であるのは言うまでもない。


「勝てないとわかって標的を変えたのか。あなたの相手はそちらではない。これが今までで望んできた闘争だろう?」


 メリエルの魔法で体力を回復したミネルヴァが盾を構えて防御し、今までの借りを返さんとばかりに余裕な表情を浮かべる。

 ジークの持っていた刀が弾かれた。


「傀儡如きが! 最後まで逆らうか」

「もう、貴様の指図はきかない。これから自分の意志で、自らの道を進む。私は人形ではない。私はミネルヴァ。ゆーり達家族の一員だ!」

「何をほざく! さっさと殺しておけば、こんなことには……もう貴様にも愛想も尽きた。容赦はせん」


 ジークは先ほど弾き返され地面に落ちている、ゆーりの黒いナイフを拾い上げて、ミネルヴァの方向に照準を合わせる。

 不敵な笑みを浮かべた後勢いよく投げ放たれて、ミネルヴァの盾越しの心臓に向かって一直線に突き進んでいった。

 鉄の錠を切れ味たるや、もしかすればゴスアンシールドで防御しても貫通してしまう恐れがある。


「まずいです! このままではミネルヴァさんが!」

「わかってるわよ。でもあたし達じゃどうにも……! 魔導が間に合わないわ」

「わたくしも作る簡単な結界程度では、何の足しにもなりませぬわ」


 仲間たちが口々に叫ぶ。


「ハハハッ! 最後はお仲間の武器で死ぬがいい! よかったではないか! 家族とほざいた傀儡の貴様が、同じ家族に殺されるなんて、とても愉快だ! 最期の瞬間まで、掌で踊ってくれるのがね!」


 ジークが邪悪な笑いを浮かべて声高らかに笑う。

 このままではミネルヴァが……


 そのように考えると居てもたってもいられず、俺はミネルヴァにもとに刃が到着する前に間に合えと言わんばかりに駆け出した。


「な……!? マサキ!?」

「一人の女を幸せにするのが、俺の約束だ。勝手に違えてくれるなよ! お前の幸せな顔を見るまで、俺もお前も死なせない! もう悲しい顔なんてさせねえよ」


 勢いよく放たれた短剣がミネルヴァに到達する前に俺は剣を一振りして弾いた。


「あんたがやったように、俺も真似させてもらった。もっとも、俺の方が刃こぼれもしていないみたいだし、より完成に近いってわけだな」

「貴様ぁ……どこまでも味な真似を! 眼光の効果がなかったことと言い、最大な障壁は、貴様だったというわけか」

「お前がこれから何をしようがもう無駄だ。もう技は見切った」

「ほざくな!!」


 ジークが鞘に収まった刀を引き抜くと同時に姿を消した。

 すれ違いざまに一閃を繰り出すという戦法なのだろう。


「言ったはずだぜ。お前の技は見切っている、と」


 突風が吹き荒れ一筋の光が俺の傍を通り過ぎようとしたその時、『真紅ヴォーパル)滅鬼刀(エッジ)』を大きく横に薙いだ。

 刀を弾いた音がして、確かな手ごたえを感じた。


 ジークが姿を露わし、脇腹から血が流れているため手で抑えながら俺達を睨みつけている。


「ぐあああっ! よくもぉ!」

「お前の攻撃は、常にリズムが同じなんだ。決まりきった動き故に、隙を突かれるような動きでもカウンターを出せる。こっちの動きを読んで反撃をしているんじゃない。もとから反撃を受けるように隙を作っていたんだ」

「だが、この一閃を弾き返した理由には、ならんぞ」

「そんなのはただの勘だ。だが、今の俺には幸運の女神がいるんだぜ。負けるわけがねえだろ」


 俺はそう言って横にいるゆーりに目配せした。

 ゆーりはそれに深く頷いて答える。


「それでは、マサキ。今こそ絶好の」

「ああ! とどめの時間だ。そろそろ決めるぜ!」


 ジークは弱っており、きわめて無防備な状態だ。

 全身に力が沸き上がり、クライマックスアーツを放つ絶好のタイミングとなっていた。


「とどめは、ミネルヴァに任せた。お前の過去を清算するときだ」

「……ああ。ありがとう」


 ミネルヴァが何か吹っ切れたのかさっぱりした顔で俺に微笑む。


「えー!? あたしじゃないの!? なんでよ! どうして! こういうのは可愛くて強い天才魔導士に任せるべきでしょ」

「あなたは少しお黙りなさい。少しくらいは空気を読むことを覚えるべきですわ」


 割り込んでくるアガタを何かを察したメリエルが引き離す。

 全身に失われていた力を取り戻し、確信した。

 長き死闘に終止符を打つ刻が来たのだ。

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