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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章45部:悪鬼降臨

 前回戦った時と違いジークの方から攻撃を仕掛けてきたため、攻めてくるジークの剣筋は苛烈である。


「さぁ、受けてみなさい。この程度で倒れないでくださいよ」


 ジークはそう言うと俺達から一歩下がり、深く腰を落とした思うと一瞬でその姿が消えた。

 そして一筋の大きな光が俺達の傍を駆け抜けかと思うと、今度は横から現れて抜けていく。

 何かと思うと衣服が切り裂かれ血が流れたのを確認すると、思い出したかのように激痛が走った。


「もしかして、すれ違いざまに攻撃しているのか……!?」


 それは俺だけではなく他の仲間も同様に切り傷を受けており、それぞれ斬られた箇所を抑えて苦悶の表情を浮かべる。


「あれを止めないと、攻撃を加えるどころか、このまま全滅です!」


 ゆーりが叫んだのを聞いて、俺は目を凝らして縦横無尽に駆け巡る光の筋を交わしながら見つめる。

 冷静に見渡してその動きはよく観察すると不規則に見えるが、ある法則と言うか壁に反射して動いているように考えられた。


 なるほどと俺は一人ごちて次に俺に向かって一直線にやってくる光が来るのを待つ。

 そしてジークが俺の背後へ通り過ぎる前に何とか弾くことができた。


「ふぅ。ラッキーってところだな。だが想定上にダメージを受けてしまったな」


 早すぎるためタイミングを合わせることができず、勘で剣を振って防御したということに等しい。

 それがたまたまジークの剣とかみ合っただけである。


 弾いて隙ができたところで反撃をしようとしたが、寸でのところ思いとどまり間合いを取って態勢を立て直す。

 ジークからすれば隙ができた瞬間をわざと作り出し、こちらの攻撃を誘い出す戦法かもしれないのではないか、と考えたのだ。


 加えて他の仲間も俺同様に無数の切り傷で負傷しており、すぐに一気呵成に攻めたれる状況ではない。


「ほう。なかなかやりますね。その調子で防いでみてください。もちろん次も期待していますよ。そうでなくては楽しくない。そうでなくては強者ではないのです。さぁ私をもっと楽しませてください」


 ジークが余裕を浮かべ納刀しながら俺を挑発する。

 おそらく反撃をしていたら、カウンターで真っ二つにされていた可能性あったので俺は内心ほっとした。


 本人の方も俺が偶然防いだということを十分理解しているが故の発言だ。

 次は防がれるはずがない、防げるものなら防いでみろという意味がくみ取ることができた。


「どうすんのよ。バカキ。いつまでもそいつの攻撃を受け止めるわけにもいかないし、反撃もできないんじゃこっちには何もできないじゃない」


 後方で呼びかけるアガタの言う通り、防御もいつまで持つかわからないし反撃もできなければこっちが一方的にやられるだけだ。

 あいつの盲点を突かない限り攻撃を与えることすら難しいのは言うまでもなかった。


「どうするマサキ。こちらの連携攻撃は軽くいなされてしまうぞ。だがここで立ち向かうのはほとんど無謀だ」

「難しい選択だな。だがあいつに一泡ふかすことならできる。アガタ、あいつにフレイムショットをぶつけろ。遠慮はするなよ」


 アガタが緊張とともに息をのんだ後、決意を固めた顔をする。


「今度は外さないわよ。当たれ!」


 アガタが火球を勢いよく放つ。

 意識が高ぶり高揚しているのか火球の大きさや、速度が以前のものと違っていた。


「素晴らしい! 素晴らしい魔導です! その魔力、その魔力。それこそが魔導の本質、真骨頂です。良い成長です。あなたはきっと素晴らしい魔導士になるでしょう。ですが、その成長を見届けるまでに命を散らすのはもったいない。花が満開になる前どころか、蕾の前で狩るというのは、いささか名残惜しいです!」


 ジークが刀を回して火球を振り払う。

 しかし切り裂かれた火球に追加効果の爆発が巻き起こり、ジークは面食らって初めて防御の態勢をとった。


「ただのフレイムショットじゃないわよ! 少しは驚いた?」

「ほう。何か仕込んだというわけですね。面白いです」


 爆炎の隠れて俺が飛び出して斬りかかるが、ジークはそれすらも見越したように受け流す。

 視界が悪いからか動きの俊敏さが以前よりはなかった。


「アガタの魔力が想像以上に高まって、強烈な魔導へと変貌しているな。これはいけるかもしれない!」


 一瞬見せた余裕が生み出したこちらの反撃の機会を無駄にしたくない。


「あなたも以前よりは力強くなっていますね。まるで誰かの力を借りたように!」


 笑みを浮かべるジークの言う通り俺の腕に力がかつてないほど入っており、振る速度や威力が向上している。

 まるで白髪の男性の時のような力を与えられているように。


「あなたも私と同じです。戦いを、この刹那を、瞬きすら許されない命をやり取りを楽しんでいるというのが感じられます!」

「うるさい!」


 俺は一心不乱に攻撃をするが、やはりジークの体には届かず全て受け流される。

 アガタの放った煙はまだ立ち上っているので、ジークはまだ俺の攻撃以外を予測できないはずだ。


 俺の背後から光輪がジークめがけて放たれる。

 メリエルが俺とジークの打ち合いで足が止まっているところを見計らったのだ。


「そのタイミングなら当たるはずですわ。おとなしくなさい」


 だがジークはすぐに気づいて、俺と距離を置いてその光輪を交わす。

 俺もその隙を見逃さずにさらに畳みかけようと纏わりつくように前へ進む。


「いい線いっています。ですが、お忘れではありませんか。隙を把握してそれを補ってこそ一流であることを」


 ジークが地面に剣を擦らせてカウンターの切り上げを俺めがけて放とうとする。

 まだまだジークの顔は余裕であり、むしろ俺が無防備になる瞬間を待っていたと言った風であった。


「さらば、勇ましき剣士。君もまたもっと強くなれました。名残惜しいですが、お別れです」

「まだ俺はこんなところでくたばらねえ! むしろお前がこれを無意識にしてくれる瞬間を待っていた」


 俺はすぐに飛び退いてそのカウンター攻撃を空かそうとする。


「無駄です。あなたは既に近づきすぎています。その程度飛び退いても逃れることはできません!」

「逃れられないなら、防ぐだけだ」


 俺とジークの間にミネルヴァが盾を構えて飛び込む。

 ミネルヴァの盾がジークの強烈な刀を弾き、ジークは苦悶の顔を浮かべた。

 鋭利な斬撃でもミネルヴァの堅牢な防御を切り裂くことはできないようだ。

 そして初めて発生したジークの明確な硬直に、メリエルの放つカームサイレンスが直撃した。


「……!」

「これであなたはしばらく自分の技を打つことはできませんわ。その忌まわしい隙を消す切り上げと、その一瞬の高速移動も、そしてあなたの光の刃もね」


 ジークが目を細めてメリエルを睨みつけて、自らの感情をあらわにする。

 とはいえまだ強烈な攻撃力は残されたままであり、ジークは駆けだしてメリエルを狙いに定めた。


 だがそのジークの目論見もミネルヴァの前には無駄に終わってしまい、刀がメリエルに届く前に強固な盾に阻まれる。


「いつもなら後衛は魔導で仕留めるつもりだったのだろうが、これなら直接斬りかかるしかない。ならば防御する方はわかりやすい」


 ミネルヴァがジークの受けた攻撃をそのまま跳ね返すように、盾を振り回してぶん殴る。

 ジークにカウンター技である二の太刀が放てず、かといって回避も間に合わないため、ミネルヴァの勢いよく振り回される盾を直に受けて吹き飛ぶ。


 クライマックスアーツを放つにはまだジークは無防備ではない。

 俺はアガタに俺の背を捕まるように合図を送る。


「さぁ、この一瞬に大打撃を与えるなら、この瞬間しかない。頼むアガタ」

「また、これをやるのね。だけどあの感覚、思ったより楽しいのよね!」


 アガタが楽しげに笑って、風の魔導を放つ。

 そして俺の体が猛烈な風をジェット噴射の要領で急加速していき、ジークめがけて一直線で突き進む。


「これがお前への手向けだ。その野望が砕ける時だ!」


 凄まじい速度を全身に感じながら剣を構えて、迎撃体制のジークを狙う。


「光輝玉砕!」

「!!」


 一瞬の出来事であった。

 俺とアガタは加速の反動と切りつけた衝撃で吹っ飛び態勢を崩して地面へ転がる。

 振り返りジークの方を見ると、刀の半分が折れて腹から血が勢いよく噴き出ていた。


「やったか!?」

「そんな……まだジークは、ジークはまだ倒れません!」


 ゆーりの叫び通りジークは倒れず、ゆっくり俺の方向へ振り返った。

 口から血が流れており、メガネがどこかへ吹き飛んでおりその冷徹な目が露わになっている。


 血だらけになりながらもジークが再び口元に笑みを浮かべ、刀を捨てて大きく拍手をしていた。

 腹から血は滴れ落ちて、出血多量で立つことすらままならないはずなのに、俺達は動揺が隠せていない。

 そしてジークはサイレンスが解けたのか、嬉しそうに笑い始めた。


「ククク。クハハハハ。ハーッハッハッハッハ! ここまで私を追い詰めたのは、これまでの生活の中であなた達だけだ……これが危機、これこそが死の間際なのですね。この瞬間、この闘争、この痛覚、この流血、そしてこの憤怒。待っておりました」


 俺達はなぜか喜んでいるジークに絶句していた。

 とどめを刺そうにも得体の知れない恐怖が全身を包み込み、ジークの元へと歩むことができない。


「なんて気味の悪さなの……」

「恐ろしい男ですわ……」

「待っていた、だと? まさか……そんなことを」


 仲間が口々に呟いていた。


「さぁ、ここからが私も真の力を手に入れる時です。きっとこの宴に参加したいと疼いているのではないでしょうか。全ての材料はそろいました。今こそ私は、『鬼』とならん。力を、もっと強大な、人知を超えた、圧倒的な力を!!」


 ジークは両手を広げて叫んだ。


「まずいぞ。あの男、我と同じように覇統鬼を、アシュラの力を取り込む気だ!」


 ゆーりの傍にいるネルトゥスが傷口を手で抑えながら言った。

 アシュラの像より禍々しいオーラがジークを包みこみ、辺りを凄まじい衝撃で椅子や扉など辺り一帯の物が吹き飛ばされていく。

 俺達は姿勢を低くして吹き飛ばされないようこらえることしかできない。


 衝撃波が収まりジークの方を見ると俺は愕然とした。


 上半身が肌蹴て隆々とした筋肉の上に奇怪な文様が浮き出ており、傷口は完治していた。

 その背後には四本の赤い腕が浮いている。

 髪の毛は白く変色し、目を開くと瞳の色が金色となっていた。

 そして額には大きな目が開き、邪悪な金色の瞳がぎょろぎょろと動いた後、俺達を見つめる。


「素晴らしい力です。これこそ私が求めていたもの。飽くなき闘争を司る鬼に相応しい力です。これなら全てを支配し、強き者こそが生き残る混沌への扉が開かれます。お待たせしました、ゆーり様達。ここからはアシュラの力を披露して差し上げましょう」


 ジークにアシュラの力が芽生え、それに加えてリーベル王女と違い意識すらも完全に支配して、圧倒的な暴力を手にした。

 さっきの戦いはほんの前哨戦にすぎなかったのだ。

 ここからが本番、命をかけた血で血を洗う死闘は激しさを増していく。

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