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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章44部:決戦! 孤高の修羅ジーク

 成り行きとはいえ戦うことになった以上、できる限り騒ぎを起こさないように手短に倒すことに注力した。

 兵士の太刀筋はひどくゆっくりと俺の目に映る。


「甘いな」

 そんなのろまな攻撃を交わして兵士の足を払ったり、命までとらないようにみねうちを仕掛けて相手の戦意を削いでいった。

 そしてできるだけ音を立てないように、剣同士のつばぜり合いが起きないよう交わして反撃という動きを心掛ける。


「さっさと片付ける。ミネルヴァ、行くぞ」

「ああ、任せてもらおう。悪いが蛮行を働く者には報いを受けなければならないのでな」


 俺とミネルヴァが前線で戦い後方でアガタとメリエルが援護するといういつもの陣形であり、もはや最適解の必勝パターンとなっていたのだ。

 助けを呼ぼうとする兵士には一人ずつメリエルが『カームサイレンス』を唱え声を出せなくして、予め想定された問題を解決していく。


「戦いの騒音まではかき消せませんが、騒ぎを聞きつけて増援が来るということはありませんわ」


 あらかた片付くと一人の兵士のサイレンスを解き、囲んで逃げられないようにして事情を聴くことにした。


「さぁ、根掘り葉掘り聞かせてもらうわよ。なんであんた達がこんなボロボロところに押し掛けたのかを。回答によっては怪我することも考えておきなさい」


 アガタが片手に炎を燃え上がらせながら尋ねる。

 本人はその炎で危害を加えるつもりはほとんどないが、脅しとしてはとても効果的であり兵士は怯えて声が上ずっていた。


「く、詳しいことは知らねえ。ただ上官からここの店主が怪しいから調べて来いって言われて。それで入ろうとしてもいくら呼んでも出てこないから、確認のために力ずくで」


 兵士は助けを請うように情けない声で説明した。


「……もういいわよ。あんたがロクな情報を持っていないってことがわかったわ。さっさとあたし達の前から消えなさい。それでこう伝えておきなさい。店主と思しき人間は頑なに口を割ろうとしなかったとね。正直に話したらどうなるかわかってるわね?」


 アガタが炎をさらに強めると兵士はさらに怯えて、何度も首を縦に振り従うことを強調する。

 そしてその炎を消すとこの場から去るように合図を送り、兵士は仲間を見捨てて一目散にこの場を跡にした。


「とりあえず中に入って、あいつが何者かを聞きださないとな。今は気絶しているが目が覚めたり、巡回しているものがこの状況を目撃した時面倒だ」


 俺は扉をノックして尋ねてみるが何も反応がない。

 扉に何か注意書きが書かれていたが、俺はこの世界の文字をよく知らないため読むことができなかった。


「本日休業中ですって!? あいつ前来たときは暇そうなくせに、なんで休んでのよ。毎日が休みみたいなもんじゃない」

「休業中ならあいつはいないんじゃないか」

「そうではありませんわ。この外壁に強い魔導の防壁が張られておりますの。おそらく中の人間が操っているのですわ」


 俺達が話し込んでいると店の中から鍵が開く音がして、ボサボサ頭のメガネをかけた老け顔の店主が顔を出し、俺達の顔を見るや否や舌打ちをした。


「チッ。さっきまで騒がしさから一転静かになったと思って、様子を見に来たら今度は以前のガキか。さっさと失せな。俺の時間を邪魔するな」


 店主が扉を閉じようとするがアガタが声を上げて食らいついて引き留める。


「ちょっとあんた少しはあたし達のいうことを聞きなさいよ。この国はいまとっても危険なのよ。主にジークっていう軍人のせいでね。心配しているわけじゃないけどさっさとそんな埃のこもった部屋を出た方が身のためよ」

「ジークがどうとか知ったこっちゃねえ。それにゴスアに何の愛着もない。手掛かりがなければさっさと店を畳んでどっかへ行くだけだ。まぁここに拠点を構えてずっと待っていたが、ロクな情報もなかったから潮時かもな」


「手掛かりって何よ。あんた何か探してんの?」

「ガキどもには関係のないことだ。と言いたいところだが、どうせ何も知っていないだろうがダメ元で話してやる。グラッディオという男について何か知っていることはあるか」


 その男の名前には聞き覚えがあった。


「噂の武器商人ってやつか? だがそいつなら多少は知っている」

「……ほう。どんなことだ。期待だけはさせてくれるガキどもだ。いいだろう。話くらいは聞いてやる」


 店主が俺の話に食いついて来たので、俺はジークのことと併せてベルーコ王国に起きた惨劇と、その裏で操っていると思しき商人の話をした。


「なるほど。ベルーコの事件はただの魔物の反乱であると話を聞いていた。だがそこにまでグラッディオが噛んでいるとはな。いよいよあいつもやることがえげつなくなってきた。それにジークという男。胡散臭いとは思っていたがグラッディオとも内通していたとはな。ククク」


「それで俺達は別の事情で、ジークを倒すためにこちらを来たってところだ」

「あんた達のことはどうでもいい。それにしてもジークに問いただせばグラッディオについて有益な情報が得られる可能性があるわけか」


 店主は顎に手を当てて呟き、何かを企んでいるように笑う。


「ところでお前は何者なんだ。なぜそこまでグラッディオを追うんだ」

「……特に深い理由はない。俺は古物を好んで集める商人と言うだけだ。グラッディオはただの同業者でしかない」


 口ではそう言っているがその口ぶりには深い因縁があるのは明らかであった。

 だが今ここで聞きだしても話してはくれなさそうだ。

 この店主がグラッディオを追ううえで、重要なキーパーソンになりうるであろうと考えた。


「想定したよりかは大事な情報を持っていたな。礼を言わせてもらおう。名は何という」

「俺はマサキ。この小さい召喚士のゆーり達と旅をしている」

「その名前覚えておく。俺はリガードという。ではこうしてはいられん。久しぶりの仕事だ。腕が鳴る」


 リガードはそう言って自分の作業に没頭するためなのか、会釈もせずに扉を閉めた。


「なんなのよあいつ。せっかく心配だからこっちに来たっていうのに。助けた礼もせずまた引きこもっちゃって。いけ好かないおっさんね」


 アガタが頬を膨らませてさっきの男について愚痴をこぼす。

 アガタなりにも心配していたようだが、あのリガードと言う男にとっては些細なことなのであろう。


 それよりもリガードにとってはグラッディオが気になって仕方なく、やたら古い本を集めて自分の趣味に興じるだけではないということがわかった。


「そうですね。同じジークに会うのなら私達と協力する方法もあったわけですし」

「きっと何か事情や因縁があるんだろう。おそらく俺達から申し出てもあいつは断っているだろうよ」

「本当に無駄足だったわね。無暗に人助けなんてするもんじゃないってことかしら」


 俺達はあの店主の名前がリガードであるということ以外、特に有力な情報を得ないままその場を後にした。

 グラッディオという男を追う時があれば力を借りることもあるが、ジークを倒しリーベル王女を救うという現在の目的と比べると優先度は落ちてしまう。


 今はひとまずジークの元へ急ぎ、当初の目的を果たすことになる。

 ジークがどこにいるかという確証はなかったが、考えられる場所はあそこしかいない。

 そして今もその場所でネルトゥスもといリーベル王女もいるのであろう。




 兵士の目を掻い潜り到着したのは、ゆーりとともに深夜に忍びこんだ祭壇のある、ゴスアの騎士団の厩舎であった。

 大きな門の前にいた兵士たちは不思議とどこかへ行っており、その周辺は無人である。


 祭壇のある大きく荘厳な建物から禍々しさすら感じ、俺達は息をのんで近づいていった。

 門には錠がかられており解除せねば中に入ることができない。


「どうすんのよ。敵の目の前でお預けなんて」

「今からこの鍵を探すなんてほぼ不可能ですわ。時間もかかりますし、何よりもさっき以上の戦闘が予想されますわ。別の方法を探さないと」

「だったら裏口を使うのはどうだろうか」

「いや、あそこも閉まっている可能性がある。時間の無駄になってしまうのであれば、ここで開けた方が方が確実だ」


 俺達が様々なことを思案するが打開策が一向に見つからない。

 いたずらに時間だけが過ぎ去っていき、緊張は次第に焦燥へと変わり始めていくその時にゆーりが口を開いた。


「あのー。さっきおじさんからもらったこの短剣を使えば」


 ゆーりの言葉を聞いて俺ははっとした。

 鎧をも断ち切る鋭さであれば可能かもしれない。 

 大げさに言った可能性も十分にありえるが、今はそれにかけてみるしかなかった。


「それでは、やってみます」


 ゆーりは親方からもらった黒い刃の短剣を取り出して、慎重に錠に向けて切り込みを入れていく。

 すると錠はまるで果物のように切れていき、あっという間に半分に切断され門が開いた。


「わー! やった。やりましたよ。すごいです。この短剣」

「なんという切れ味だ。親方の言う通りの技術だ」

「確かにこれで切り裂かれた時、鎧はおろか盾すらも貫通しかねない。敵の手に渡らなくてよかったと痛感する」


 無邪気に喜ぶゆーりを尻目に、俺とミネルヴァがその短剣の切れ味に舌を巻いてしまう。

 ミネルヴァの言う通りゴスアンシールドすらもこの短剣の前ではただの板同然に切れてしまうのだろう。

 俺達は不気味なほど静かな中庭を抜けて、祭壇のある建物に近づいてその門を開いた。


「やっぱりここにいたのか」


 そこには傷だらけで片膝をついてジークを睨みつけるリーベル王女の姿をしたネルトゥスと、いかにもつまらなさそうな顔で見下しているジークがいた。

 彼らの後ろにありアシュラの像が俺達を睨み、ジークもまたこちらに向き直りメガネの奥の冷徹な瞳をこちらに向ける。


「これはこれは皆さん。ここに来るとはどういう了見ですか。私に報酬の交渉でもしにきたのですか」

「何をわかり切ったようなことを言っている。俺達の装備を見たらわかるだろう」

「ジーク! 私達はリーベル王女を助けに来たんです。今すぐこちらに渡してください!」

「クックック。何を言っているのですか。リーベル王女というか覇統鬼ネルトゥスは私の計画に必要な駒。簡単に渡すわけにはいきません」


 ジークは笑みを浮かべながら刀に手をかける。

 やはり話し合いが通じる相手ではない。


「やめろ、人の子よ。これは我の問題だ。貴様達の力を借りる気はない」


 ネルトゥスは息も絶え絶えに強がるが、どう見てもジーク相手にどうにかなるはずがなかった。

 衣服はぼろぼろで口から血を吐いたような痕があり、怪我をしているのか必死に左腕を抑えている。


「ネルトゥス、ここは俺達に任せてくれ。あんたはもう限界だ。後は俺達がなんとかする。いろいろこいつには報いを受けてもらわないといけないからな」

「ほう。それは私への宣戦布告ということでよろしいですか。ならば受けて立ちますが、ここからは命の保証はしませんよ。一度私の情けで拾われた命を再び投げ捨てようということなのです。助ける義理や利点はすでにありませんし、計画を邪魔するのであれば排除せねばなりませんのでね」


 ジークが腰を深く落として刀に手をかけて構える。

 どういう返答であれ戦闘をするつもりのようだ。


「ネルトゥスの戦いはいささか拍子抜けでしたのでつまらなく思っていたところです。皆様は私を楽しませてもらおうでありませんか。くれぐれも前回のような失態を見せつけないようにね」

「ジークが来ます! 皆さん戦闘の準備を。相当手強いです。気を引き締めてください!」


 ゆーりが最後方に移動し、俺達に呼びかける。


「油断したら死ぬのはわかっている。こっちも無策ではない。一泡吹かせてやる」

「ジーク、あなたはあまりにも罪深い男だ。人を虫けらに部下や魔物を駒にするような者はゴスアの騎士として許せない。今ここで断罪する」

「あんたにはね、言いたいことが山ほどあるわ。だけど一つだけあなたに言わせてもらうわ。絶対にあんたを許さない」

「あなたはあまりにも罪深く、卑劣な男ですわ。今更許しを請いても許しませんわ。ベルーコの人々の悲しみ、その身を以てあがなってもらいますわ」


 俺達はそれぞれ頷いて臨戦態勢を整えた。


「それでは孤高の修羅と呼ばれた私の実力をお見せしましょう。ジーク、参ります」


 そしてジークが刀を引き抜いて目にもとまらぬ速度で俺に向かって、無数の斬撃の軌跡を描きながら切り込んでいく。

 ミネルヴァの援護をしてもらうか、それでは予定していた倒す算段と狂ってしまう。


 俺は意を決して剣を前方に構え『千変万化エレメンタルスイッチ』を付与して迎え撃とうとした。

 襲い来る鋭い斬撃と、明確な殺意に冷や汗が止まらないが、自分を奮い立たせるのである。

 野望の阻止と俺達の明日のために。

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