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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章42部:緋駆馬

 昨日の国を跨ぐような大きな移動とジークとの戦い、そして魔物の群れとの戦いで蓄積した疲労を完全に取り去ったので気持ちよく起き上がった。


 ジークに再び挑むとなれば今度こそ命を奪いにくることは間違いない。

 それも俺やミネルヴァ、アガタ、メリエルだけでなくゆーりとキッドも殺しに来るはずだ。

 だからこそゆーりだけは逃げられるように加速翡翠持たせて、最悪の場合を備えて俺達の蘇生ができる準備を整えていた。


 蘇生のデメリットである信頼度が消えてしまうことは、おそらく記憶を失うということなのだろう。

 そのように考えると恐怖が中で蠢いて額に冷や汗が伝った。


 だが一方で何としても勝ち残って生き残らないといけないという意思が強くなる。

 記憶を失いゆーりを孤独にさらすわけにはいかないのだ。


 支度を整えて部屋を出ようとした時に階段を騒がしく駆け下りる足音の後、俺の部屋のドアを叩く音をした。


「あんた起きてる? いつまでも寝てないでさっさと行くわよ」


 扉を開けるとそこには準備万端といった様子でアガタが立っていた。


「ああ、起きているぞ。少しの間考え事をしていたんだ」

「ふーん。ジークのこと?」


 俺はその言葉にこっくりと頷いた。


「ま、悩んでも仕方ないわよ。話し合いのできる感じでもないし、どれだけ強敵だろうと戦うしかないわね」

「お前の方は大丈夫なのか。あの時のジークの言葉をまだ引き摺ってはいないだろうな」


 俺がアガタに問いただすとしばらく黙った後口を開く。


「……悔しいけどあいつのいうことは正しいわ。私の学んでいる魔導は戦争の道具、人殺しの術よ。だけどこの力をどう使うかはあたし次第なの。だからあいつに何と言われようと、あたしはこの力を自分のために行使するわ。今度はあいつを倒すつもりよ」


 口は勇ましかったがアガタの手は震えていた。


「そう強がるなよ、アガタ。お前がそういうなら止めはしないが、決して無理だけはするなよ」

「わかっているわよ。あたしには夢があるの。そのためにはどんだけ辛いことも苦しいことも立ち向かうって決めたわ。あいつになんて言われようが止まりはしない」


 アガタの言葉には決意がこもっているように感じられ、俺はその言葉を聞き届けてアガタとともに一階へと降りていく。

 アガタの覚悟を直に聞いて俺は少しだけ勇気づけられたような気がした。

 俺より年下の女の子が戦意を奮い立たせ立ち向かうのだから、俺も恐れている場合じゃないのだ。


 一階ではすでに仲間達が集合していた。

 仲間は普段通りの装いで、ミネルヴァは鍛冶屋から白銀に輝く鎧を受け取り、自慢の大盾を背負っている。

 だがどの顔つきも真剣そのものであり、ジークと戦う準備はできていたようだ。


「これで全員ですね。では朝ごはんでも食べてから、早速ゴスア帝国へ向かいましょう。腹が減ってはなんとやらですので」

「それはいいのですが、ゴスア帝国へ行く方法はありますの? わたくしのエリザベートも二人で乗るのが限界ですわ。だからと言って馬車では遅いですし、歩きなんて論外ですわ」

「あ、それは……」


 メリエルの疑問にゆーりは口ごもってしまう。


「その時はあの騎士に頼もうじゃないか。何か力になりたいと言っていたからな。専ら白兵戦が得意だが、メリエルほどでなくても私も乗馬なら多少の心得はある」

「ミネルヴァが乗れるとしてもこれでも四人しか運べませんわ」


 ミネルヴァを計算に入れてもメリエルの言う通りあと一人を運ぶことができない。

 ゆーりをここに置いておくにしても不安であり、そもそも本人がじっとするつもりなんてないだろう。


「しょうがない。俺が馬に乗る」


 こうなることは予め予想しており、俺が仕方なさそうに挙手をする。


「あなたがですの!? 本当にできますの? 落ちたりしたら掠り傷じゃすまないこともありますのよ」

「そう慌てるな。昨日のメリエルの乗馬の技術を見たんだ。見よう見まねでやれないことはないだろう」

「はぁ。わかりましたわ。では一言助言を。乗る際はしっかり重心を真に捉えて振り落とされそうになってもその姿勢を崩さないこと」


 メリエルがため息交じりに俺にアドバイスをする。

 今まで自分のバイトにおいてもろくに教えられることはなく、見て覚えろのスタンスであったためそういう意味での学習能力には自信があった。


「これで全員ゴスアまで到着できるな。決まったのならさっさとさて腹ごしらえでもしよう」


 俺が食堂に向かおうとするとゆーりが心配そうに俺の手を握って話しかける。


「マサキ、本当に大丈夫ですか。馬に乗るのは初めてですよね」

「心配するな。こういう無茶ぶりは今までに何度もこなしてきた。今回も何とかなるだろう」

「……そうですね。いつもそうやって乗り越えてきましたしね。本当に頼りになります」


 ゆーりの心配が一転して笑顔に変わる。

 予行練習もなしにいきなりの乗馬でありどうしても不安であったが、ゆーりの笑顔を見るとその不安も吹き飛ばしてしまう。


 そして俺達は朝食を腹八分目ほど食べ空腹を満たして、ゴスア帝国へ向かう準備を進めるための馬をベルーコ王国の騎士団より調達に向かった。




 騎士達の駐屯所に向かうと出撃の準備を整えているのか慌ただしい空気が張り詰めていた。

 その中でてきぱきと指示をしている昨日の騎士に話しかける。


「ああ、貴様達か。昨日は世話になったな。見よ、我々も貴様達に後れを取るわけにいかんのでな。自国の守りを固めるだけでなく打って出る準備をしているのだ」


 替えの武器や防具だけでなく食料などを慌ただしく馬車に詰めており、これからの戦いが大規模になることを予感させた。


「どうした。何か言いたげであるといった様子であったが」

「ええ、そうなんです。ちょっと言いにくいんですが」


 ゆーりが言おうとすると騎士はそれを遮るように言葉を挟む。


「貴様の言わんとしていることはわかる。さてはゴスアへ行くあてがないのであろう」

「す、すごい。よくわかりましたね。そうなんです。それがゴスア帝国へ行くため早馬がいないんですよ」


 ゆーりは感心しているが、むしろその自分の無計画さが騎士達の目から見てもすぐに見抜かれたということだろう。


「そういうことならここは我々にひと肌脱がせてもらおう。借りがあるうえに、貴様達のような精鋭は我が騎士団にもいない。別動隊として存分にその武勇を発揮してほしかったところだ」

「こっちから頭を下げようと考えていたが、そっちから申し出てくれるならこれほどありがたいことはない。さっそく借りれる馬を案内してくれ」


 俺達は騎士についていき厩舎の脇にある馬小屋へと到着する。

 どの馬も毛並みが美しく筋肉も均整についており無駄がない。

 素人目から見てもツヤがあって優れているのがわかる。



「ここから好きな馬を貸し出してやろう。どれも我が騎士団が手塩にかけて育てた馬ばかりだ」

「ふぅん。なかなかきれいに手入れされていますわね。わたくしのエリザベートと競争するといい勝負をするかもしれませんわね」


 メリエルが感心したように馬を観察し、一頭ずつ頭を撫でて確かめていく。


「私はこの最も筋肉が鍛えられたこいつにしよう。鎧やこの盾を担ぐとなると早さよりも態勢を崩さない屈強さが欲しいのでな。よろしく頼む」


 ミネルヴァは寡黙そうな黒い馬を選んだ。

 鼻息もせず老獪さを感じさせるほど落ち着いており、ミネルヴァの言うことに従い馬小屋を出ていく。


「うーん。どれも立派に見えてどれかを選べって言われると迷ってしまいますね」

「こんなものどれも一緒なら適当に選べばいいのよ……ってこいついいわね!」


 アガタが興奮した様子で指さしたのは、一際目立つ燃えるような赤い毛並みを持ち、無駄な肉が削ぎ落されたひと際スマートな馬であった。


「なかなかいい選択だな。こいつは代々ベルーコで受け継がれている名馬だ。一日で大陸を横断すると言われるほど早く、走った後が炎で焼けたようになることから『緋駆馬ひがけば』と呼ばれている。だがな」

「だが、なんなのよ。かっこいいし早いってことなら迷わずこいつにするわよ」


「『緋駆馬』は気性が悪く、人を選ぶのだ。今までこの馬に認められたのは二人しかいないのだ。一人はベルーコの建国に携わり様々な戦いを勝利に導き、その戦いぶりを『天翔砕地』と評され、敵味方問わず畏怖されるほどの圧倒的な力を持っていた戦士ウンセン。そしてもう一人が、貴様達が倒すべき相手であり、ベルーコの裏切り者ジークだ」


 ゆーりとアガタはその逸話を聞いて言葉を失ってしまう。

 だが俺は構わず『緋駆馬』に近づいて、触ろうとするが馬自身が俺を拒絶するような反応をする。

 そして俺を乗り手として認めていないのか気性が荒くなっていた。


「アガタと好みが一緒ってのは気に食わないが、俺もこいつが気に入った。ジークが認められたって? 俺達はそいつを倒しに行くんだ。だったら俺が乗れない道理はない」


 俺は『緋駆馬』の目をじっと見つめていると、俺の内に何かが動き出したように心臓にドクンという強い鼓動を感じ取る。

 すると『緋駆馬』は途端に素直になり俺の言うことを聞くようになる。


「なんだと!? まさか貴様が認められたというのか!? もしくはそこまでの逸材、ということなのか……」

「マサキ、ちょっと。あんたずるいわよ! あたしも乗りたいわ」

「もしかしてマサキは……マサキはもしかしなくても……!」


 『緋駆馬』を手なずけて可愛がっている俺に対して周りが驚きの声を上げた。


「まぁ、こんな風になんとかなっちまったからな。それじゃこいつは借りていく」

「……貴様達なら本当に何かをやり遂げてくれそうだ。幸運を!」


 俺はそう言ってその燃えるような赤い馬を連れて厩舎を出ていく。

 先ほどの胸に感じた急な痛みは既に収まっていたが、変な違和感を残したままであった。

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