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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章38部:悪夢の来訪者

 激しい爆発音で場内は騒然としており、当のリーベル王女もといネルトゥスも当惑してた。

 誰かしら王女の身を案じる者が訪問することであるが、退路の確保や危険の排除が済んでいないのかまだこちらまで訪れていない。


「ああ、どうすればよいのだ。心は鬼とは言え、身は人として脆弱なのであるぞ。さらに今は力が弱まっておる。このような状況を狙われては危険なのだ」


 想定していない出来事なのかネルトゥスは慌てふためいている。


「待て。とりあえずはここからの脱出を図った方が先決だ」


 俺がネルトゥスを抑えようとすると、部屋の外から男性の声が聞こえてきた。


「その心配は必要ございません。おとなしくしていただけましたらそれだけでよろしいのです」


 聞いたことのある声色の声の主は勢いよく窓を叩き割って姿を現し俺達に顔を向ける。

 鋭い黒い目にメガネをしたオールバックの黒い軍服を纏った男性。

 腰に携えた刀とこちらに不自然に友好を示そうとするにこやかな表情、それはまさに依頼人であるジークであった。


「ご無沙汰しておりますリーベル王女、いえすでにネルトゥスとして覚醒しておりましたか。計算が少し狂ってしまいましたが特に問題はありませんね」


 ジークは深々と礼をして、ネルトゥスの逆立った髪や金色の瞳を見つめる。


「お前、なのか」

「おや? それにマサキさんにゆーりさん。どうしてここに。ああ! ご依頼の件について誠にありがとうございました。私の計画を手伝っていただいて大変助かりました。御礼が遅くなってすみません」


 ジークは俺たちの方にも仰々しく礼をして愉快そうに笑みを浮かべた。


「計画? いったいどういうことなんですか!?」

「それにつきましては詳しくはお話しできませんし、あなた方には関係のないことです。ただ大変助けになったとだけと申し上げましょう。ですがここまで物事が順調に進みましたが、まさかあなた方が同席していらっしゃいますとは。私の勘というのもあながち捨てたものではありませんね」


 ジークは顔を抑えて嬉しそうに笑いだす。

 狂気に満ちた笑いに俺は戦慄しゆーりもまたひどく恐れているようであった。


「貴様、その仰々しく人を食ったような態度、ジークか。裏切り者め。我が部屋に無断に立ち入っておって! 万死に値するぞ」


 ネルトゥスは左腕をかざして電撃を放つがジークは軽々と避ける。


「ネルトゥス様。私を失望させないでください。私の実力についてはご存知でしょう。ゴスアに入ったからと言って安く見積もられては困りますのですが。それになぜ全力を尽くさないのですか。私はこのために力を磨き身を砕いてこの場に臨んだというのに、なんですかそのくだらない攻撃は。もっと殺めるつもりで、殺意を込めて、葬るつもりでかかっていただきたいものです」

「貴様……! 我を愚弄する気か」


 ジークがネルトゥスを挑発すると、本調子ではないネルトゥスは心底悔しそうにして跪く。


「なるほど。力は弱まっているようですね。ですが私にはあなたが必要なのです。計画を完了するために、我が野望を叶えるためにね。そのために私はあなたのことを研究したといっても過言ではないのですから」

「それってどういう……きゃっ!」


 疑問を投げかけて聞き出そうと近づくゆーりを、ジークはまるで虫けらを払うようにゆーりを片手で跳ね除けた後、ネルトゥスを持ち上げる。


「貴様、何を……!」

「おとなしくしてください。大丈夫ですよ。直に目が覚めます。それではそれまで幸せな夢を」


 そしてジークは眼鏡を外して目を見開きネルトゥスを睨みつけると、ネルトゥスは目が開いたまま催眠にかかったように硬直する。


「邪魔だけはしないでいただきたい。さて、これで用はすみました。マサキさん、ゆーりさんありがとうございました」

「ま、待て!」


 ジークはそう言うとネルトゥスの目を閉じさせ、背を向けて窓から飛び降りようと身を乗り出そうとした。

 その時俺達の後ろからジークに向かって勢いよく火球は放たれたが、ジークは振り返ることなく交わしたので火球が掠りもせず窓の外へと消えていく。


「ちょっとあんた。何怪しいことしてんのよ。会った時からうるさくて変なやつで怪しいと思ったけど、本当に危ないやつだったのね」


 下からアガタ達が俺達の様子を伺いに駆けあがって来たようだ。

 騒ぎに紛れて分断されることは避けたかったためこの判断は俺達にとって助かるものであった。


「これはこれは、ゆーりさんのお仲間の方々。どうやら皆さまご参集のようで。あと僭越ながら助言とさせていただきます。先ほどの鋭い魔導でしたがもう少し精度を上げた方がいいですよ。あのままですと止まって見えますので」


 アガタの声を聞いてジークはこちらの方を振り向き仰々しく一礼をする。


「ならこれならどうよ!」


 ジークの挑発に乗ってアガタは風の刃を連続で繰り出すが、ジークに一回も当たらず部屋がますます散乱するだけであった。


「ふふ。甘いですよ。もう少し自分の力の加減と状況を冷静に見据えた方がよろしいかと」

「うるさいわね!」


 ジークがにこやかな笑顔を崩さないまま魔道を放ったものの命中しなくて苛立っているアガタを見た。


「ですが今回はあなた方と相手をするつもりなんて毛頭ありません。もちろん殺すなんてことも考えておりません。なぜなら時間の無駄ですし体力も無駄に消耗していますからね。立ちふさがる障害を乗り越えるのではなく、それをいかに回避するかが最も危険性が低く確実なものですからね」

「だがこの状況をみすみす見過ごすこともできないんでな。リーベル王女は返してもらうぞ」

「ええ、わたくし達に出会ったことが運の尽きですわね。四対一の状況ですわ。おとなしく観念なさい」


 メリエルは俺にジークから隠しながらエーデルハルモニーをちらつかせて合図を送っている。

 おそらくどこか確実に決まる時にジークの動きを止める算段であることを直感的に理解した。


 俺はミネルヴァから『真紅ヴォーパル)滅鬼刀(エッジ)』を受け取ってジークに斬りかかるふりをするが、ジークはリーベル王女を担いだままであり俺は剣を寸前で止める。


「私に攻撃するとリーベル王女にもけがの可能性がありますよ。私としてもそのようなことは避けたいので、ここは見逃していただけませんか」

「くっ。少しでもビビってくれたらこっちはやりやすかったんだがな」

「その認識は甘いです。ですがこのままでは埒があきません。少し私の実力を披露しないとあなた方も納得しなさそうですね。もう歯向かっても無駄でもあると痛感する必要があります。まぁ最低限に殺さない程度ですがね。あなた方の功績と言いますか比較的困難な依頼を果たしていただいた借りがございますので、私としても最大限に寛容な処置として施させていただきます」


 ジークは窓際に固まって動けないリーベルを置いて、腰元の刀の柄に手をかけて構える。


「さすが現在のゴスアの騎士団長だ。あの構えに隙が一切生じていない。騎士としても古今東西、相当な手練れなのは間違いない。だが相手にとって不足はない。それに協力すれば勝機はある」

「絶対あんたに一泡吹かせてやるわ。見てなさい。誰の喧嘩を買ったのか思い知らせてやるわよ」


 ミネルヴァはこの城にあったものと思しき何の変哲もない長剣と盾をその手に持っていた。


「その構え、ゴスアのものですね。主に大剣を得物として古来から受け継がれていたものですが、その長剣でどうするのか見ものです」


 ミネルヴァとジークは見合いながらどちらかが隙を曝け出すのを待っていたが、ジークに向かって風の刃がアガタの方から放たれる。

 ジークはその刃を難なく交わすが動いたことで膠着していた状況に変化が生じて、そのタイミングでミネルヴァが攻撃を仕掛ける。


「捻りがありませんね」


 ジークはミネルヴァが渾身で振り下ろした剣先をギリギリに回避して、ため息交じりに腰を深く下げて抜刀術を放つ。

 刃の動きが見えぬほどの強烈な斬撃であったため、ミネルヴァはとっさに盾で防御しても盾ごと弾かれてしまい腕が痺れているのか大きな硬直をさらしてしまう。


「た、盾が! 凄まじい斬撃だ……」


 動けなくなったミネルヴァにジークは勢いよく頬を殴りつけて、クリーンヒットしたのか失神させる。


「うっ……」

「お前、よくもミネルヴァを。だがそこで渾身の斬撃を放ったのがお前のミスだ、ジーク! 武器の都合上、次の攻撃に移行するまでにどうしても時間がかかる!」


 刀を振り切って止まっているジークに向かって俺は飛びかかって剣を振り下ろす。

 だがジークは刀を鞘に戻さず逆手で刀を持ち力を込めて床に擦らせた。

 そしてその勢いの反動を解放させつつ斬り上げる。


「隙がないとはこういうことを言うのですよ。自らの弱点を把握していないわけがないではありませんか。それを克服し昇華させてこそ真の強者へと道は開かれるのです」


 その鋭い一撃に対して剣をぶつけたが剣より伝わる衝撃は激しく、振り下ろし切る前に弾かれてしまい空中でバランスを失い着地と同時によろけてしまう。

 ジークはその隙を見逃さず俺の腹に強烈な回し蹴りを放ち、俺は激痛とともに壁に叩きつけられた。


「ぐっ……だがまだ終わっていない!」

「ここまでやればもはや外しませんわね。お縄の時間ですわ。おとなしくしなさい。ライトニングバインド!」


 メリエルがエーデルハルモニーを取り出して魔法を放とうとする瞬間、メリエルの持つ杖がジークの放つ閃光に弾かれてしまう。


「だから言いましたよ。隙が無いとね。そもそもあなたが何かを隠しているのは明らかでした。隠していたつもりでしょうが、その雰囲気や挙動を敵に悟られるようではまだまだです。四人まとめてきてもこの程度のことしかできぬとは少々拍子抜けですが、頑張った方でしょう」


 ジークが物足りないという表情で淡々と話す。

 腕を抑えてジークを睨みながら後ずさるメリエルに向かってジークは刀を鞘に納めて歩いていく。


「さきほども申し上げましたが命までは取りません。ですが次に歯向かってこないという保証もありません。ですのでその厄介な腕を潰してしまおうかと」

「お、おやめなさい。わたくしに近づかないで……」

「大丈夫ですよ。痛いのは一瞬です。一瞬でその腕が体から切断されます。それに命を取らないという言葉は真実ですよ」


 ジークの眼鏡の奥の目が邪悪に歪む。

 メリエルはその顔を見て口が震え怯えだす。


「……あんた。さっきからメリエルがやめろって言ってるでしょ。それでやめないってのはどういう性分なわけよ」


 ジークはアガタから放たれた風の刃を頬に受けて血が流れる。

 そしてその歩みを止めて風の刃が放たれた方向へ首を動かした。

 先ほどの邪悪ともいえる笑みが消え、穏やかであるものの怒りを含んだような表情になる。


「せっかくの時間でしたが、興が削がれました」


 ジークはそう呟くと一瞬にしてアガタの懐に飛び込み、その首を掴んで持ち上げる。


「……っ! は、はなしなさいよ」

「あなたに一つお伝えしておきましょう。あなたもお使いの魔導と言うのは強烈な魔力を相手にぶつけることを主としています。魔力は炎や刃や槌、爆発など様々な力として具現化されます。どれも人を殺めるには十分な資質を持っているのです。つまり魔導と言うのは相手を殺すことに特化した技術として洗練されているのです」


 淡々と語っていくジークはその締めあげる力を強めているのか、アガタはますます苦しそうなうめき声を上げる。


「いいですか。人を殺すために魔導はあるのです。剣と違って相手を殺すという感触に触れず安全な位置から確実に仕留めることができるのです。ですがあなたには残念なことに人に向ける殺意が極めて低い。それでは魔導を使う意味がないのです」

「ち、違う! そんなことは! そんなことは……ないわよ」


 ジークはアガタを持ち上げている手とは別の手から光る刃を生成して、アガタの眉間に突き立てる。


「本当はこのようなことをしたくありません。ですが興を削いだ挙句に、そのような当てる気のないふざけた魔導を放ったのです。その罪は重いですよ。生殺与奪は私にあるということをお忘れなきよう」

「い、いや。やめて。こんなのって……」

「やめろ! それ以上は!」


 泣きながら息も絶え絶えに許しを請うアガタを見て、俺は咄嗟に叫んで動き出そうとするが、立ち上がることすらままならないのでジークを止めることができなかった。


「将来有望な若者を殺すというのは非常に心が痛みます。ですがこれくらいが見せしめとしてちょうどいいでしょう。壮大な計画と尊い犠牲は切り離せないものであるのは皮肉なものです」


 ジークがアガタの額に刃を突き刺そうとした瞬間に、小さな黒い影が体ごと突っ込みジークをよろけさせその反動でアガタを掴んでいた手を放した。


「や、やめてください。私の、私の大事な家族に手を出さないでください!」


 その声の主はさきほどまでその様子を見守っていたゆーりであった。

 最も戦闘能力のないゆーりが俺達の迷惑をかけないように待機していたが、見るに見かねた状況に体がでてしまったのであろう。

 その証拠に声は震え足元もがくがくとふらついていた。


「……弱者は死すべし。弱い者ほどこうも強がり、無謀と勇気をはき違えるものです」

「わ、私が犠牲になっても、メリエルは、み、みんなは私が守ります」


 ジークが虫けらを殺すように表情をなに一つ変えず、腕を広げてメリエルを守ろうとするゆーりに狙いを定めて、刀に手をかけた。

 その時に部屋の入口より無数の声がした。


「リーベル王女ご無事ですか!? そしてその男は!」

「あの顔、もしかしてゴスア帝国のジークか!?」

「なぜあいつがここに。ベルーコを抜けたはずでは」

「とにかく王女をお守りしろ。そして排除するのだ」


 騎士達が部屋になだれ込もうとする様子を見て、ジークは深いため息を吐いて刀から手を放してリーベル王女を再び担ぐ。


「こう時間がかかってしまいますので、人を殺めるというのはしたくなかったのです。私もついむきになってしまうところがあり、猛省すべき点ですね。ですが次は慈悲を与えません。それでは皆さん、私はリーベル王女との血が沸き心が躍るひと時を楽しむとしましょう」


 ジークはリーベルを担いだまま窓から飛び降りてしまい、直後下に待ち構えた竜を思しき乗り物に跨り闇夜とともに消え去った。


 俺達五人の状況はジーク一人に圧倒されてしまい、肉体のみならず精神的にも疲弊している。

 俺とミネルヴァは気を失いそうなほどの強烈な打撃を受け、メリエルは先ほどの恐怖が抜けきれないのか硬直したままであった。

 命を取られかけたアガタは必死に呼吸を整えるが嗚咽が混じっており、ゆーりは気が抜けてしまったのか大きな声で泣き始める。


「チッ。逃げられてしまったか」

「だが城下にはまるで狙いを定めたかのように魔物が迫ってきています。どうなさいますか」

「追撃は後だ。まずは魔物たちを片付けるぞ」


 だがジークを追おうとする兵士たちの声から、まだ戦いは始まったばかりであり、事態は深刻な方に傾いていることを知らされるのであった。

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