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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章37部:災いの予兆

 街へ到着すると俺はエリザベートから降りてメリエルへの礼をほどほどに済ませて、街を抜けた向こうにある城門を目指して走り出す。

 時間的にはまだ間に合うのでなんとか依頼を達成して、命だけは助かりそうとわかったため俺は内心とても安堵していた。


「マサキ! よかった無事なのですね。ありがとうございます。本当にありがとうございます……」


 城門の前ではゆーり達が俺を戻ってくるのを待っていた。

 ゆーりは俺に飛びかかって心から礼を述べながら抱き着く。


「あんな大言を吐いたのよ。戻ってこなかったらぶん殴っていたところよ。まぁ、あんたなら戻ってくるって思ったけどね。それであの我侭お嬢様は」

「安心しろ。全員無事だ。メリエルならもうすぐやってくるだろう」


 俺はアガタなりの祝福の言葉を受けながらちょうど後ろに親指を向ける。

 整備された道に響く蹄の音と一定のテンポで刻まれる鼻息。

 振り返るとそこにはメリエルが手綱を握ってエリザベートをゆっくり歩ませていた。


「災難でしたわ。あの方はどれだけ無茶をすれば気が済むのかわかりませんわ。何時間も野を走らせて、魔物の村に突っ込ませて、挙句の果てには川を飛んで越えたのですわよ。どれか一つでも破たんしてもおかしくなかったのに」


 ため息を吐きながらメリエルが愚痴をこぼす。

 二人きりの時のような俺を信頼していた口ぶりからとは打って変わっていた。


「またあなたはそんな無茶をしたのか……」


 ミネルヴァが俺に不安そうな眼差しを向ける。


「まあな。だが無茶とは言え勝算もあった。そもそも多少のリスクを冒さないと間に合わない案件だったんだ。まぁ、依頼を達成して俺とメリエルが無傷で戻ってこれたのは幸運としか言いようがないがな。運命の神様がいるのであれば感謝したいくらいだ」

「そうですよマサキとメリエルは無事に生きて戻っています。それだけで十分ですよ」


 ゆーりの方は俺達が戻ってきたことについて過程はどうあれ笑顔で喜んでいるようだった。


「まぁというわけだ。さて最後の総仕上げといこう。ネルトゥスの怒りを収めてもらわないとな」


 ネルトゥスもといリーベルに会いに城の中へ入ろうとすると屈強な門番が槍を交差して行く手を遮った。


「なんだ貴様達。ここをなんと心得るか。許可無き者は通さぬ」

「用無き者は立ち去れ。貴様達のような一般庶民が立ち入る場所ではない」


 門番は苛立った口調で俺達を止める。


「リーベル様に用があるんだ。話は通してあるだろう。ゆーりとマサキという二人組から届けものがあると」


 俺が王女の名前と用事を手短に言うと、門番は舌打ちとともに槍を元に戻し俺達を通した。


「リーベル様は三階の部屋だ。あとその物騒な武器はこちらで預からせてもらう。そんなものを持ってぶらつかれたらたまらんのでな」


 俺は素直に門番の言うことに従って武器を渡した。


「リーベル様にはくれぐれも無礼のないように。そして手短に頼むぞ。我々も祭りの警護などで忙しい身だ。ずっとこの武器を預かるわけにはいかん」


 門番はそう苛立ったような口調で俺とゆーりを通すが、残ったアガタ達を通さなかった。


「貴様達を通す道理はない」

「それに銀髪の女、貴様は特に怪しい。貴様からゴスアの人間と剣を交えた時と同じ卑しい感じがする。もしかしてゴスアの人間か。野蛮な人間がどうしてここに入ろうとする。さっさと立ち去れ」


 門番がミネルヴァの顔をまじまじと見て冷たく言い放った。


「あいつらは俺の協力者なんだ。特に金髪の女性は最大の功労者であり、リーベル様に会いたがっている。決して失礼なことはしない」

「だが部外者は部外者だ。許可無き者は立ち去れ。さらにゴスア人もいる。この城内でやらかさないという保証がどこにあるというのだ」

「ははは。野蛮なゴスア人が今度は城内で爆発を起こす気か? 賑やかなことだな」


 俺が必死に訴えても門番は頑なに通そうとしない。


「ちょっとあんた達さっきから聞いてみれば、ミネルヴァのことを言いたい放題ね。ミネルヴァはあたし達の仲間なのよ。あんた達の親玉から直々に依頼を受けてこなしてきた男の仲間のね。それを卑しいとか野蛮とか……!」

「なんだこの小娘。我々にたてつく気か」

「アガタ、もういいんだ。私が立ち入れないのは薄々感づいてはいたさ」


 アガタがカッとなったのか門番たちに噛みつくように言うが、ミネルヴァがそれを止めて残念そうに顔を横に振る。


「それにあんたも、あんたよ。せっかく頑張ったのに会わせてもくれないなんて、一言くらい文句を言った方がいいわ」

「……いいえ。あちらがそう言うのなら仕方ありませんわね。わたくし達はここで待つことにしますわ」

「もう! このわからずやのポンコツ共に普段の嫌味くらい言ってやりなさいよ」

「ご迷惑をおかけするわけにはいきませんのよ」


 メリエルもまたおとなしく引き下がるが、その顔は俯いており暗く哀しいものだった。


「こうなったらあたしがこいつらをぶっ飛ばして……」

「そこまではやらなくていい」


 アガタが何か企んでいたようななので、俺は近づいてそれをやめさせた。


「こうなったら無理を聞いてくれる感じではない。俺達が行ってくるから皆はそこで待っていてくれ」

「あんたがそういうなら……」


 アガタは渋々引き下がりミネルヴァの後ろに隠れるが、わざと見えるように門番たちへあかんべえした。


「こら。少しは我慢しなさい。わたくし達の品位まで下がってしまいますわ」

「こうでもしないと落ち着かないのよ」


 俺とゆーりは中庭を抜けて城の中へ入っていきリーベルに会いに行く。

 城の中は灯りで眩く、甘い香りや豪勢な内装に俺達は圧倒されながら階段を上り。




 三階へと上り近くのメイドに話しかけて事情を説明すると、メイドは快くリーベルの部屋を案内する。

 ノックを行い丁寧にお辞儀をして扉を開けると、そこには待ちくたびれたという感じで椅子にもたれている高級そうなドレスを身に纏ったリーベルの後姿があった。


「お待たせしました。なんとかご依頼いただいたものをお持ちしました」

「遅いではないか。いつまで私を待たせる。危うくネルトゥスの力で貴様達を焼き尽くすところであった」

「縁起でもねえこと言ってくれるな」


 俺が苦笑いをしながらリーベルの冗談とも言えない発言を聞いた。


「まぁ、とにかく見てくれ。これが依頼いただいたサイン色紙。しっかり三人組の名前が載っている」


 俺はそう言って色紙を取り出してリーベルへ渡し、書かれた文字を指さしながら説明する。


「ああ、これは確かに……うっ」


 リーベルは色紙を受け取って確認を行うと、気を失ったかのように俯いてしばらく動かなくなる。


「ええ……どうしましょう。私何もしていませんよね」

「大丈夫だ。多分ネルトゥスのご降臨だろう」


 ゆーりが不安そうに俺に尋ねる。

 案の定気を失ったリーベルが雷に打たれたように覚醒し、瞳色が黄色になり髪の毛が逆立った。

 どうやらネルトゥスに変わったようだ。

 ネルトゥスは目を輝かせて色紙を食い入るように見る。


「おお、これだこれだ。我はこれが欲しかったのだ。我がコレクションがまた増えてしまう。なんという幸せだ」


 ネルトゥスは嬉しそうにその色紙を持って、無数の色紙の入った棚の引き出しに保管した。

 上機嫌で鼻歌交じりで行った様子は国の根幹をなす覇統鬼の姿には見えない。


「お気に召してくれて何よりだ。それを手に入れるのには苦労したんだ」

「貴様の苦労などどうでもよい。要は我が手に入ったかどうかだ。それにこれだけで終わりではなかっただろう」


 ネルトゥスが椅子でふんぞり返って期待するような顔でこちらを見ている。


「これを見てくれ」


 俺が古ぼけた書物を取り出す。


「この古そうな本は……ふむ。なかなか年季が入っていそうだが、ただ古いだけのものはごまんと読んできた。そんなもので我の目をごまかすのはできんぞ。その気であれば貴様を殺して我が力を取り戻すまで」


 ネルトゥスが不審そうにその本に目を配って、左手に稲妻を走らせてゆーりの方を睨みつける。

 ゆーりは怯えた顔で後ずさるとすぐに俺の方を見た。


「そう怖い顔をしないでくれ。まぁページをめくってくれてその価値がわからないようならしょうがないがな」

「ほう。大した自信だな。我の鑑識眼は一級品であると自負しておる。それがどういうものかすぐに判断できる」


 ネルトゥスはそう言って文字が掠れた表紙を捲ると鋭い目を丸くして、その書物を持って俺の顔を見ながら指さした。


「貴様、これはもしかして」

「ああ、そのもしかしてだ」

「これは歪んだ歯車。もはや絶版となっていた書物ではないか。ああ、懐かしい。我も所有していたが眠っている最中に捨てられてしまってな。我は怒りのあまりその関係する者に天誅を下したものよ。芸術品を大事にしないものに相応しい末路で愉快であったな。いやあの時は不愉快だったかもしれんな」


 平然と殺した旨を聞いてネルトゥスは今でこそ少女の姿をしているが、根源にあるのはやはり人に恐れられる鬼そのものであると感じたのだ。


「これを我にいただけるのだな」

「ああ、その代わり俺達の命だけは勘弁してくれ。死にもの狂いだったんだ」

「覇統鬼は約束を果たす。所望するものをいただく時は貴様達の所望するものを叶える務めがある故な」


 ネルトゥスは満足気に頷いており上機嫌であり、俺の渡したものについての評価は上々のようだ。


「それにしても貴様のようなものがこんな貴重な書物を持っているとはな。人とは見かけによらぬものであるな」

「もとはと言えば俺のものじゃなくて、友人からいただいたものなんだ。あいつも演劇とか芸術に目がなくてな」

「ほう! 貴様の友人に芸術に興味がある者がいるとな。是非とも語らいたいものだ。我のみならずリーベルの方も芸術方面に興味があるのでな」


 メリエルの話に食いついてきて興味がある風だ。


「それに王族と言うのは大変でな。年頃の友人がおらんのだ。王族に憑りつく我が言うのもなんであるが、ひどく不自由で寂しそうだ。だから我が観劇に向かうのは我の楽しみがほとんであるが、宿主の気を紛らせるのも含まれておる」

「随分と宿主思いなんだな」

「常に宿主とともにする身なれば互いに感情の共有もするものなのだ。ただ長く生きすぎたあまり少し感傷的になってしまったのかしれぬな」


 ネルトゥスは自分の胸をギュッと掴んで物思いにふける。


「だったらメリエルと仲良くなればいいですよ。あ、メリエルってのはさっきマサキが言っていた友達のことです。きっと彼女も喜んでくれますよ」

「友達か。悪くはない。少しはリーベルの気も紛れるだろう」


 ゆーりが顔を出してメリエルのことを紹介すると、ネルトゥスはまんざらでもないという顔をする。


「いいですね。メリエルもきっと喜んでくれますよ」


 ゆーりがニコニコしながら楽しそうに笑う。

 メリエルにもこのことを報告したらきっと喜んでくれるに違いないだろう。


「それじゃせっかくなんて、下にメリエルがいますので……」

「ちょっと待て。それだけじゃないだろ。聞くんだろラインゴッドのことを」

「あ、忘れてました。えーと。ネルトゥス、ちょっといいですか」


 すぐに行動を移そうとするゆーりを俺は引っ張って当初の目的を話すとゆーりははっとした顔をする。

 どうやらメリエルのことに連絡することに注力しようとしたため、当初のネルトゥスと会う目的について忘れていたようだ。


「私はラインゴッドという場所を目指して旅をしているのですが、心当たりや行き方についてご存知ですか」

「ラインゴッドはそもそも我々の故郷であるとしか言えぬな。そしてその行き方についてか……それがな」


 ネルトゥスが口を開きかけたその瞬間、下から耳をつんざくような凄まじい爆発音と大きな震動がした。

 すると下から人々の慌てふためく声や、何かが燃えている音と崩れる音が辺りを包んでいく。


「一体何事だ! それにさっきの音は何事だ!」


 ネルトゥスが叫んだ。


「おいおいおい。俺様がせっかく寝ていたのに。さっきの音は」


 ゆーりのカバンの中からキッドが寝ぼけた顔を出して辺りを見渡す。


「マサキ、さっきの音は? それにこの揺れは……」

「わからない。だが嫌な予感する。明らかに普通じゃない」


 何が起きたのかを理解できなかったが、ただ確かなこととしてひどい胸騒ぎがする。

 とても何か恐ろしいことの前兆か、大きな陰謀の歯車が動き出した音だろうか。

 一切見当がつかないが俺達はこれから起こる事態に身構えることしかできなかった。

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