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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章30部:いざ観劇へ

 酒を飲んでぐっすり眠った後の俺は人々が元気に活動する音と窓に泊まっている鳥の声で起きた。

 俺は起き上がりうーんと体を伸ばす。


 そしてとりあえず目覚ましもかねて体をさっぱりさせようと風呂へと向かうのだった。

 向かう途中でふらふらと歩いているアガタとすれ違う。

 アガタは階段を上るたびによろけるので、いつ転んでもおかしくはなく非常に危なっかしい。


「うー。頭が痛いわ。これじゃあたしの天才の頭脳も活かせないじゃない」

「それだけ言えれば十分だろ。おとなしくしていろ」


 アガタの腕を俺の肩へと回し体制を固定させる。


「うーん。何よ、あんたは平気なの? あたしはね……吐きそうよ」

「お前がむちゃくちゃに飲み過ぎただけだ。とりあえず飯は食わずスープだけ飲んでろ」


 階段を下りなんとかエントランスまで連れていき、近くのソファーでアガタを寝転がせる。


「俺は風呂入ってくるから、お前はそこで待ってろ。あとこれでも飲め」


 俺はそう言ってグラスに水を注いで、具合の悪そうなアガタに渡す。

 するとアガタはその水をものすごい勢いで飲み干し、大きく一息をつき顔色が多少良くなった。


「ふぅー。少しだけすっきりしたわ。もう一杯よこしなさい」

「次からは自分で汲めよ」


 俺はそう言ってまたグラスに水を入れてアガタに渡した後、浴場へと向かった。


 浴場では風呂から上がったのか湯気を出しながらさっぱりした風な白いバスローブ姿のメリエルと出会う。

 下ろした金髪が艶やかに輝き、気持ちよさそうな表情をしたまま髪をかき上げていた。


「あら、マサキではありませんか。あなたもお風呂?」

「ああ、ちょっとさっぱりしたくてな。昨日のことは覚えているか?」


 メリエルは口に指を当てて考える。


「んー。あまり覚えていませんわ。頭がふわふわとして気持ちよくなってからは特に」


 この様子だとミネルヴァにかけた言葉などは一切記憶にないようだ。


「まぁお前も飲み過ぎには気を付けろよ」


 俺はあの時の様子のことをあえて話さず、ただ背を向けながら手を振りながら奥へと入っていく。


「どういう意味ですの?」


 メリエルが何か呼びかけていたが俺は答えなかった。

 何も考えずにしばらく湯船に浸かった後、軽く体を洗い体をすっきりさせる。


 風呂から上がって服を着替え、俺は自室へと向かう。

 エントランスにはアガタがぐったりして口を開けたまま姿勢でどこか遠くを見つめている。

 俺の存在には気づいておらず、自称天才とは程遠いアホ面に呆れながら階段を上がる。


 部屋に戻り外出用のシャツに着替え、適当に寝転がって飯時まで時間を潰す。

 普段ならこういう時間はスマートフォンをいじってくだらないニュースを見てるか、ゲームのレベル上げやレアドロップ狙いをしているものだが、それがないとなるとどうやって時間を潰すか難しいものだ。

 ただ何もしなくても時間は過ぎていくもので、腹を空かせた頃に一階へと降りるとゆーり達が待っていた。


「あ、マサキ。今からご飯ですか」

「ああそうだが。ゆーり達もか?」

「そうなんですよ。もうお腹ペコペコです」


 ゆーりが軽い足取りで食堂の中へと入っていき、俺達もそれについていく。


 食事が運ばれて腹を満たしている最中にメリエルが口を開いた。


「ところであなた達は今日は予定とかありますの?」


 俺達は首を横に振る。

 アガタは気にも留めずにスープを飲む。


「でしたらとっておきの催しがありますの。まずベルーコと言えば芸術の国ですわ。そして大劇場がある唯一の国ですの」


 メリエルが机をたたき目を輝かせながら、俺達の顔色を伺いながら期待を込めた風に言う。

 机を叩く音で周りの利用者から俺達の方へ視線を感じた。


「観劇をしますわ。お祭りも近いこともあって有名な劇団もやって参りますの。そしてさっきチラシを見たところ今日が初公演みたいですわ」


 メリエルがチラシの日付と思しき個所を指さしながら熱く語る。

 チラシには幼い少女と片目のない男性が描かれていた。

 おそらくこの二人が主役なのだろう。


「私はいいですよ。なんだか楽しそうですし」

「私も同感だ。演劇と言うものを観たことがないからこれを機に見てみたい」

「悪くはねえな。せっかくだから見ておくか。何か菓子でもつまみながら見ると案外面白いしな」


 ゆーり達はメリエルの提案に頷いた。

 せっかくこの世界に来たのだから十分楽しみたいし、演劇を見るという経験もあまりしたこなかったので新鮮に感じるかもしれない。


「……まぁ俺も暇で退屈していたころだ。その提案にのろう」


 アガタは無言のままスープを飲んでいた。


「あなたはどうなんですの。どうせ興味ないだの言うのはわかっておりますけど」

「見てやってもいいけど、まずはこのあったかいスープを飲ませないよ。じゃないと頭がぼーっとするの」


 アガタがメリエルに目を合わせず汁をスプーンですくっては口に運ぶという動作を繰り返す。


「でしたら決まりですわね。お昼一番に向かいますわ。遅刻は承知しませんわよ」


 メリエルが食事をほどほどに切り上げ、よほど待ち遠しいのかいち早くチラシを持ちながら食堂を出ていく。

 俺はその姿を見送り食事を再開した。




 部屋に戻り特に何もする事もないので、窓の外に移る人々の動きを眺めて時間を潰した。

 時刻は昼を回り支度を整えて部屋を出る。


 エントランスではきれいなドレスに着替えてはりきっているメリエルが待っていた。

 他の仲間はいつも通りの格好である。

 ゆーりはいつもの黒いローブを着ており、ミネルヴァは鎧の下の黒いインナーではなく、黒いボタンシャツを着て動きやすそうなズボンを履いている。

 アガタはいつもの白いブラウスに赤いサスペンダースカートであった。

 メリエルは演劇を楽しみにしているのかニコニコしている。


「さぁ、揃いましたわね。では向かいますわよ」

「メリエルは演劇が好きなんですね」

「小さいころからたくさん見てきましたの。演劇の物語を見るのはとても楽しいですわ。驚くような展開や魂を揺さぶるような登場人物の叫び、人々のすれ違いながらも重なっていく想い、叶わぬ恋を追い求める悲劇も、もしくは掴み取るハッピーエンド。あるいは今の世相を皮肉ったお芝居。演者の演技もあってどれも素晴らしいですわ」

「初めて見るのでどんな話かわかりませんが、メリエルをここまで楽しくさせるとなりますととても楽しみです」


 メリエルは今まで見てきた様々な芝居のテーマを語っていき、ゆーりはそれを聞いて楽しそうに頷く。

 ベルーコの劇場へ向かうメリエルの足取りは今までの遅い歩みとは違いとても軽い。

 今まで見てきた演劇について語っているのを聞きながらだと到着するのはあっという間であった。


「すごい人の数だな。この様子だと今回のメリエルが見たがる演劇が楽しみだ」


 ミネルヴァが劇場の外は人だかりを見ながら感心する。

 俺達は最後尾へと並び受付されるのを待った。


 しかしながら列は思うように前に行かず並びながら窮屈な思いをする。


「あーもう! いつになったらあたし達の番になるのよ! つくころにはへとへとで疲れちゃうわ!」

「おやめなさい。みっともないですわ。それに疲れているのはみんな一緒ですわ。少しは我慢しなさい」


 大声でわがままにわめくアガタをメリエルが諫める。

 傍からこの二人の様子を見るとどちらが年上かわからない。

 アガタが子供っぽい行動をすることはなんとなく予想はついていたが、周りから好奇の目で見られるのはひどく恥ずかしい。

 特にゆーりより小さい子供から指をさされているのは目も当てられなかった。


「ところで今回の演劇はどんな話なんだ?」


 俺が時間潰しに質問する。


「ジュリアスという右腕が人ならざる形をした少女の物語ですわ。その異形な腕を恐れられ誰一人友達のいなかったジュリアスが、名もない片目の男から勇気をもらうというお話らしいですわ。その名も『小さな勇気』ですわ」

「何か題材でもあるのか」

「いいえ。オリジナルの話を題材にしてるようですわ」

「ふむ。なるほど今回のは序章であって今後も続編があるようだな」


 ミネルヴァがチラシを読みながら補足で説明する。


「今回の祭りに合わせてこともあって舞台の方もこれまでのものとは違いますの。ジュリアスを演じるのは今活躍中のクリスですわ。多忙な中出演しているっていう話ですわ。あー今から待ち遠しいですわ」


 メリエルが胸を押さえて目を瞑って期待を膨らませている。

 よほどこの劇が見たかったのだろうと俺はその様子を見て考えた。


 劇について聞いてからしばらく待ってようやく俺達の番になる。

 五人用の席は空いているがその席は値段の桁が違う特等席であった。


「うわ。すごい額ですね……」

「まぁ、せっかくならいい席で見たいですわ。今回たまたま席が空いているのは願ってもいないことですわ。ここにしましょう」


 ゆーりがその額に驚いたが、メリエルは有無を言わさずその座席を即決した。

 メリエルはゆーりから袋を受け取り金貨を何枚も取り出し座席代を支払う。

 チケットが交付されると俺達に渡していった。


「さぁ行きますわよ。わたくし達は二階の前列ですわ」


 メリエルが受付の階段を上り指定の席へと向かっていく。

 俺達は見失わないようにメリエルの後姿を追うのであった。

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