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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章29部:依頼達成の夜

 階段を駆け下りてくる音が外から響き、間髪を入れずに俺の部屋が開かれる。


「ご飯の時間よ! マサキさっさと来なさい。あたしの大手柄の時間ってわけね」

「騒がしいかと思えばやっぱりお前か。ちょっと待ってくれ。着替えるから」


 アガタのテンションの高さに辟易するとベッドから起き上がる。

 近くの棚から着替えを取り出し背中が破れたジャージを脱いだ。


「ちょっとあんた! 女の子の前で何堂々と着替えてるのよ。変態よ! けだもの!」

「お前の方こそいつまで見てるんだ。嫌ならさっさと出ろ」


 妙に早口でまくしたてるアガタは目を手で覆いながら顔が紅潮している。


「いつまでいるんだ……終わったぞ。いつまで目を覆っているんだよ。さぁ行くぞ」

「え、ちょっと。急すぎじゃない」


 俺が気にせずにさっさと着替え終わると鍵を持って、アガタの手を引っ張りながら部屋から出る。

 エントランスではゆーりとキッドとミネルヴァとメリエルが待っていた。

 どうやら俺とアガタが最後のようだ。


「定刻通りですわね。遅刻しなかった分褒めてあげますわ」

「なんか全然褒められた気がしないわ。もうちょっと感情をこめなさいよ」


 降りてきて早々メリエルが偉そうに言う。


「さぁ行きましょう! 私はもうお腹ペコペコですよ」

「間食していたのによく言うぜ」


 ゆーりが元気な声で手を上げて俺達に呼びかけてそのまま満月亭を出る。

 店は近くにあった酒場にすることにした。

 高級そうなレストランにする案もあったが、俺達の格好やおそらく騒ぐことを考えると迷惑になりかねないからだ。


 酒場は夜ということもあってか、騒いでいる酔っ払いや会話に花咲かせる集団によって賑やかである。

 俺達はアルコールが充満している空間を掻き分けて、奥のテーブルに腰を掛けた。


 俺はあまり酒が得意ではなかったがとりあえずビールを選ぶことにする。

 仲間達も酒を注文しており、この世界には未成年による飲酒などは特に規制されてはいないようであった。

 飲み物が出そろい俺達は乾杯しようとするが、すぐ飲み物を口にしようとするゆーりを俺は止める


「こういうのはまず祝って乾杯するんだ。それではゴスアからベルーコの輸送の依頼お疲れ様。今日は労いもかねて楽しもう。乾杯!」

「かんぱーい」


 俺がグラスを上げると皆もつられてグラスを掲げて、グラス同士が弾きあう軽い音が響く。

 そして一口飲んでみて酒の味を楽しむ。

 涼しげな炭酸がほのかな苦みを残しながら喉を通り全身へと染みていく。

 たくさん飲む方の性質ではないが一仕事終えた後の酒と言うのは非常に気持ちがいい。


「あまりあたしってお酒って好きじゃないのよね。こんなものより果物を潰したジュースの方が好みだわ」


 アガタはぶつぶつ文句を言いながらビールを一気に喉に流し込む。


「そんなに一気に飲むとすぐに酔ってしまいますわよ。せめてお上品に飲みなさい」


 メリエルはワイングラスを揺らしながら注意をし、そして口に含み十分咀嚼し味わっている。


「ふむ。お家で出したものより質は落ちますが、十分飲めますわね」

「ああ、久しぶりに飲む酒も美味いものだな。飲み過ぎると体に毒だがたまに飲む分には心地よい」


 ミネルヴァはウィスキーのロックを味わいながら飲み、一息ついて感想を述べる。


「お酒って飲むの初めてなんですが、不思議な味ですね。体もぽかぽかして気持ちよくなって。でもおいしくて食べ物も進みますね」


 ゆーりがグラスを両手に持ち少しずつ飲んでは、ポテトフライをつまみながら笑顔で俺に向かって言う。


「俺様用のグラスもないのが残念だぜ。今度は自前のものを持ってきた方がよさそうだな」


 キッドはつまみを口に頬張りながら言う。




「だからぁあたしはぁあの人に感動したのよ。こんなあたしでもぉできることがあるってぇ……ヒック」

「うんうん。そうなんですね」


「お兄様は、素晴らしい方ですわ。剣の才能も、人を導く人望も、そして美貌もありますの。わたくしとも、よく遊んでくれましたわ。それに引き換えお父様ときたら……」

「ふふ。メリエルの兄上殿は貴族としても優秀で、妹思いの良いお方なんだな」


 楽しい宴の時は楽しそうに語り合う声とともにゆっくりと溶けていく。


「あた、しはぁ……凡才じゃ……なぁくて……天才なの……よ。あたしにはぁ……夢があ、るの……うーん」


 俺は酒をほどほどにし水だけを飲むようにしたが、アガタは浴びるように飲み続け机に突っ伏して酔いつぶれていた。


「騒がしいと思えば、また犬が……吠えてますわね……あら召使、いましたのね……次のお酒を準備なさい……ああ、お兄様も……」


 メリエルも同様にワインを飲み続け目が虚ろとなっている。

 ミネルヴァはゆっくりと程よく飲み、時折意味深に俺へ微笑みをかけた。


「皆さんどうしたんですか!? もしかして幻覚を見せる毒でも盛られていたのですか?」

「いや、そうじゃなくてこいつらは酒に酔ったんだろう。問題ない。どうせ明日頭が痛いとか言うだけだ」


 酒を飲み続けるゆーりは平気な顔で、むしろ酔っているアガタとメリエルの様子に困惑し焦っていた。

 俺はこの酒盛りが終わった後に、この酔いつぶれた二人を担いでいくことを想定してため息を吐く。


「どうしたんですか。ため息なんか吐いて。もしかして楽しくありませんか?」

「いやそういうわけじゃないんだ。ただこいつらを運ぶってのが少し面倒だな、と」


 俺はアガタとメリエルに親指を向ける。


「マサキはそこまで考えていたんですね」

「まぁそこまで面倒するのが当然だしな。放置して帰るわけにもいかないし」


 賑やかな酒場は夜が更けていくにつれて次第に客が減っていき、それに伴って騒がしさも収まってきた。

 テーブルで酔いつぶれて突っ伏せた客もいるがそれは店の人が肩を叩いて起こしている。


「もう閉店時間のようだ。今日はひとまずこれくらいでおひらきといこうじゃないか」


 ミネルヴァが立ち上がり虚ろな目をしてメリエルを立たせようと手を握る。


「わたくしは、ひとりでいけますわ。子供では、ありませんのよ。レディとして、扱いなさい」

「その割には足元がふらついているようだが?」

「うーん。なんだか眠くなってきましたわ。エリザベート、わたくしを運びなさい」

「私とエリザベートの区別がついていないようだな。こんな姿エリザベートに見せられないんじゃないか」


 ミネルヴァが冗談っぽく言ってもメリエルは反応がなくミネルヴァにもたれかかっている。


「お母さま……」

「どうやら今度は母親扱いされているようですね」

「ふふ。さすがにこれには参ったな」


 ふらふらのメリエルを担いでミネルヴァは困惑しながらも少し嬉しそうに笑った。


「おいアガタ、行くぞ」


 アガタの肩を優しく叩いても案の定反応はなく、涎を垂らしながらぐっすり寝ていた。


「仕方ない。ちょっと骨が折れるが持って上がるしかないな」


 俺が寝息をかいてすやすやとしているアガタをおんぶする。。

 勘定はゆーりがキッドの指示に従いながら済ませて、俺達は満月亭を目指して酒場を出た。


 灯りが少なくなり人通りもない帰り道で空を見上げると星が流れているのが見える。


「流れ星か」

「珍しい物なのですか?」


 ゆーりがよくあることのように尋ねる。


「ああ、俺の世界、いや俺の地方じゃあまり見かけなくてな。だから星が消える前に願い事を三回唱えると実現するなんて話がある」

「へぇ。そうなんですね。なんだかロマンチック」


 俺は転生したことを言いかけるが、慌てて言い直した。

 ゆーりが感心したように空を眺めながら言う。


「ゆーりは何か願い事なんかあるのか?」

「んー。まずは皆さんの無事ですね。次にラインゴッドへ行くこと。あとはーお腹いっぱいご飯が食べられることですね。」

「最後のはすぐに実現するじゃねえか。それ」


 キッドが呆れた物言いをする。


「キッドは何かあるんですか?」

「俺様はもちろん誰よりも大金持ちになってたくさん甘いものを食べる、だな。こんな額じゃまだまだ足りねえけどな」


 キッドがにやりと笑みを浮かべて自らの野望を語る。


「ミネルヴァは何かあるのか?」


 俺がミネルヴァに聞くと、ミネルヴァは一しきり考えた後答える。


「私もゆーりと同じく皆の無事かな。今度は私も含めて」


 ミネルヴァの顔が酒のせいなのかわからないが少し赤らんでいる。

「マサキは?」

「俺は……もっと世界を旅してみたいだな」

「いい夢ですね。安心してください。私がいる限り世界中のどこでも行くことになりますので」

「はは。そいつは嬉しいな」


 ゆーりが胸を張る。

 確かにゆーりの言う通りラインゴッドを目指すとなると、遠いところへ行くことになるのは間違いない。

 俺としてはこの世界の隅々を探索し満喫したいだけなのだが。


 満月亭に到着し俺はアガタの部屋である六階まで上がる。

 思ったより重労働で部屋の前につくころには息も絶え絶えだった。

 そしてゆーりの懐から鍵を探し出し、扉を開けてベッドに寝かしておく。


 その時に見た部屋の様子だが、衣服がちらかっているものの机の上に不思議と整然とされていた。

 魔導書が広げられ脇にあるノートでは書き殴られたように文字が書いており、何かを書いている途中のようだ。


 俺はそっと部屋から出て、自室に戻りベッドに倒れこむ。

 そして何かを考えるのも面倒になり、そのまま深い眠りへと落ちていくのであった。

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