第2章26部:ベルーコ王国到着
ベルーコ王国に足を踏み入れた俺は華やかで芸術的な気品あふれる街並みに度肝を抜かれる。
白を基調とし乱立された建物はどれも屋根が高く、壁面には祭りが近いからか派手な装飾が施されている。
建物の屋根の方を見上げると、奥に小高い丘にそびえたつ城がひときわ目立った。
「あの城は?」
「ベルーコ王国の王族が住んでいますの。ここからまっすぐ進み丘の手前にあります大きな広場でお祭りが行われるのですわ」
「へぇ。それじゃあその広場に集まって祭りを楽しむってわけか」
「そういう方がほとんどですが、街中にも出店がありますのでそちらを楽しむという方もいますわ。ただお城から遠くなりますので催し物などを見るとなるとあの広場がうってつけですわ」
「なるほどな。それじゃ花火を見るとなるとその大きな広場が特等席といったところか」
「そうですわ。いつも夜空にきれいな花を咲かせますが、今回はゴスアが提供しているだけあって見ごたえのある内容になるに違いありませんわ」
メリエルの声が弾んでいる。
どうやら今回のお祭りに関しては心待ちにしていたようだ。
「それでは覇統鬼のネルトゥスと対話するのはそのタイミングと言うわけですか」
「ネルトゥスは数多の花火に包まれて巨大で荘厳で煌びやかなその姿を見せますわ。派手な演出や美しいものが好きとのことらしいですの。ですが話し合いというのは難しいかと思われますわ」
「なんでですか?」
「覇統鬼の宿主と行使者が代々ベルーコの王女だからですわ。現在即位しているリーベル王女が直接広場に姿を見せるということはなく、城の中で多大な力を支払い巨大な姿として顕現させるといわれていますの。体力をとても消耗するとのことですので危険が起きないようにと配慮しているのですわ。加えてネルトゥスは国民全体に語りかけますので、わたくし達にわざわざ目が留まることなんてほとんどありえませんわ」
「そうなんですか……うーん。どうにかしてお話ししたいですね」
ゆーりの問いにメリエルは即座にすらすらと返答した。
過去にこの祭りに参加したことがあるのか詳細についても知っているようだ。
街全体が祭りの準備で慌ただしいが、人々はどこか準備そのものを楽しんでいるような表情である。
飾りつけや店の準備に精を出す男衆や、主婦同士の楽しげな笑い声や子供同士でじゃれあう賑やかな声、人でごった返して活気の溢れる市場。
ゴスア帝国とは別の意味で賑やかであった。
「こっちは指定の場所に依頼品を納品させてもらう。護衛ご苦労さん。小さい嬢ちゃん。報酬はギルドから受け取りな」
髭をたくわえた御者はそう言って俺たちに手を振り、城の方面に向かっていった。
「ありがとうございましたー。これでやっとひと段落というところですね」
ゆーりが大きな声で返事をし、御者が見えなくなるまで手を振り続けた。
「そうだな。とりあえず報告に向かおう」
「へっへっへ。あの目が眩むような大金が俺様の手元にくるのか。たまんねえな」
キッドが目を輝かせそわそわする。
その様子を見てアガタが小言を挟んだ。
「全部あんたのわけないでしょ。ちょっとは考えなさいよ」
「ケッ!さっきまでメソメソしていたくせに立ち直るのがはえーこと。まぁいただく報酬は譲歩して俺様の取り分の五割り増しってところだな。特別サービスは高えんだぜ。このダークネスケルベロスに使用された弾丸や魔力のカートリッジは……」
「はぁ。呆れた。どんだけがめついのよあんた」
夜なべして作った改造銃について語りいかに費用がかかるかを力説されるも、アガタはまるで興味ないという感じでため息をついた。
「そういうのってアガタも興味あるんじゃないんですか」
「はぁ!?あんなおもちゃじゃなんの参考にもならないわ。あんなのおもちゃの銃に簡単な魔法と魔力を注入しただけじゃない」
「でもそれって魔導と何が違うのですか? 気になってはいたのですが具体的にどう違うのかわからなくて」
ゆーりの素朴な疑問にメリエルが割り込んで説明する。
俺もその点については気になっていたので深く頷いた。
ゲーム内でも魔法と魔導という単語はでてきたが具体的な違いと言うのは明言されていない。
ただ魔法は敵だけでなく味方も対象に取ることができるが、魔導は敵のみを対象に取るということはなんとなく理解していた。
「あなたそんなことも知りませんでしたの!? 全然違いますわ。魔法ってのは魔を律するってことで、魔力を人に向けてもいいように中和したり緩和して放っていますの。だから魔力を放つ時はわたくしが持つような魔法具と呼ばれる杖が必要ですわ。杖が魔力を変換して回復したり敵の動きを止める魔法にしますわ。いい魔法具は魔力の変換の効率が良かったり、より多くの魔力を魔法として放たれますの」
メリエルが話に入ってきたせいかアガタが頬を膨らませ機嫌の悪そうな顔をする。
自分の知識を披露する格好の場面だったのにそれを奪われたからであろう。
「ゆーりから頂いたエーデルハルモニー素晴らしいですわ。魔力変換の効率が段違いですの」
メリエルがそう言うと腰に装備してあるエーデルハルモニーを、余裕そうな表情をしてまるでアガタに見せつけるように振る。
ステッキの描く軌跡が色鮮やかに輝く。
アガタは早く話したくてうずうずしているようであった。
「あー魔法の話はそれくらいにして魔導について説明するわ。ありがたく聞きなさい。そもそも魔導っていうのは直接魔力をぶつける手段のことよ。魔導書や魔力を含んだ武器などを通じて己の魔力を増幅させ、魔力を炎とか氷などにそのまま変えるの。魔力をそのまま打ち出すから威力は、魔道に使用する魔力や放つ魔導の種類によって変動するわ。どんな魔導でも行使するには、魔導を構成させる訓練や魔導書を解読する技術が必要だけどね。簡単なものならいいけど、強力な魔導を放つとなるとそれ相応の準備が必要ってわけ。まぁあたしは天才だからその訓練や解読もさほど苦労しなかったけどね」
身を乗り出しながら自慢を含みながら話すアガタはさながら子供のようであった。
だがとても弾んだ声で楽しそうに話しているため水を差すのも野暮と言うものだ。
「それじゃ私にも魔法が使えるんですか?私もメリエルみたいに回復できるとか」
メリエルが口に指を当てて思案すると口を開いた。
「道具があればいけますが、実用的に行使するのとは別問題ですわ。道具があるからっていきなり自分の魔力だけでわたくしみたいなことはできませんわ。扱うにしてもそれなりの素養や訓練が必要ですの」
アガタがキッドに指を向けながら、メリエルの話に付け加えるように話を続ける。
「まぁ、あのクソガキみたいに物そのものに魔法を仕込んで、足りない魔力を別のところから補うとすれば誰でも魔法を使えるわ。便利な反面使い捨てだったり、高価な割に故障とかは多いらしいけどね。魔導にはそんな欠点はないけど」
「おいおいおい。魔導バカわがまま女が俺様の閃きに嫉妬してやがるな」
キッドは自分の銃を丁寧に撫でながらにやついた顔をしていた。
ダークネスケルベロスという当初はおもちゃの銃も中身が工夫されているとなると侮れない。
「だったら魔導より魔法の方が使いやすいということですね」
「あんた……あたしの前でそんなこと言う?まぁ否定はしないわ。魔法が工夫次第で誰でも使えることを考えると、魔導より魔法の方がいいって思うわよね」
ゆーりが今すぐ自分が使える方法となるとその選択肢が出るのは当然であるが、アガタからすれば決して心地の良いものではない。
アガタとしては難しいが魔導について自分も学びたいなどの前向きな答えが欲しかったのであろうか。
「でも扱いが難しい分魔導の威力は魔法よりも強烈なのはご存知の通りよ。例えばメリエルと未来の大魔導士のあたしじゃぜーんぜん違うわよね」
アガタのメリエルと比較して舐めたような発言をしてしまい、メリエルの琴線に触れたのか冷静さを欠いた大きな声で否定する。
もはやアガタ本人のヘイトを集める技術は元来のものであると俺は痛感するのであった。
「まぁ!?わたくしに対しての当てつけではなくて?わたくしはヒーラーですわ。あなたみたいな野蛮で魔導をぶっ放す必要がありませんの。それに支援に特化できるという点で魔法を選択しましたの。あなたみたいに目立つ必要なんてありませんわ」
「あたしの魔導のすごさを証明するにはうってつけの比較材料よ。あんたは後ろで援護に徹しておけばいいの。あたしがとどめをどかーんといただければいいんだから」
「はぁ……だからあなたの相手は疲れますわ。あなたの魔導がすごいのは認めますが、問題は性格ですわね」
「ずっと言っているでしょ。あたしはこういう性分なの。今更変えるつもりなんてないわ」
再びアガタとメリエルの間で言い争いが勃発しようとし、アガタはメリエルの目を睨みつけている。
メリエルの方はとても面倒くさいという風に髪をいじり大きなため息を漏らした。
だがそこに朝方のような険悪な感じはない。
「やれやれ。あの二人は相変わらずだ」
「ふふっ。喧嘩するほど仲がいいというやつかもしれないな」
俺が独り言を言うとミネルヴァが俺の肩をポンと叩いて微笑んだ。
そして微笑ましいものを見るように二人の様子を眺めた。
隣でゆーりが困ったようにおたおたしており、その後ろでキッドが笑いながら飛んでいる。
ベルーコの中にあるギルドへ向かう足取りはとても賑やかで飽きることはなかった。
祭りを待ち遠しくしているのか様々な装飾が飾られた建物を俺達は横切り、慌ただしく準備をする人々が行きかう昼過ぎのベルーコの街を抜けていく。
俺は依頼を達成して安堵しきっており、あとは観光して祭りでも見るだけだと計画する。
しかしあの積荷の中身や強烈な爆発についてちらついてくるのだ。
何かひと悶着が起きるという直感をなぜか感じるのであった。




