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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章25部:積荷の依頼達成

 激闘が終わりしばらくすると遠くから車輪の音がし始めた。


「怪鳥の叫び声が聞こえたから来てみれば、あんた達やるじゃねえか。そんな少人数に倒すなんて相当な手練れだな」


 髭を生やしたベテランの御者が驚いた顔で俺達の顔を見る。


「ああ、なんとかってところだけどな」


 俺は顔の泥を御者から受け取った布きれで拭った。


「えへへ。私達の自慢の仲間ですから」


 ゆーりが笑いながら自慢げに言う。


「ああ。私達は一人じゃないさ。これからも力を合わせればどんな困難も乗り越えられるだろう」


 ミネルヴァはとても満足気で充実感に満ちたという感じだ。


「まぁ、とはいえ傷は避けられないがな」


 俺の背中の雷で焼けた部分がギスギスと痛む。


「ひどい火傷の跡ですわ。またあなたは無茶をして……大丈夫ですの」


 メリエルが心配そうに尋ねる。


「あの時は大して痛まなかったが、戦いが終わって安心すると急に痛みだすものなんだな。手当てをしてくれると助かる」

「当然ですわ。功績者には労うのも貴族の務めですわ」


 メリエルはそういうとエーデルハルモニーを振り癒しの魔法を唱える。

 心地よい光が俺を包み、疲れているのもあってそのまま眠ってしまいそうだ。


「それにしてもさっきの爆風は何だったんだ。あんたらの攻撃と言うわけでもなさそうだが」

「あの木箱からです。あんな大きな爆発が起きるなんて想像もしていませんでした。あんなものをお祭りで一体何を使うのでしょうか」

「俺様も驚いたぜ。ゴスアの花火ってのはあんな物騒なのかってな」


 キッドが皮肉交じりに大量の積荷を指さした。


「祝いの花火と聞いていたがこんなものを運んでいるなんて知らねえ。積んでいる最中に混じったのだろうか?」


 御者が怪訝そうに積荷の方を見た。

 依頼の物と違うのだからそう思うのも不思議ではない。


 だがますますジークという男が怪しくなった。

 偶然なのか故意なのかそれを確かめる必要がある。

 そしてもしそれが故意であるあらば一体何の目的なのか、なぜ俺達に頼んだのか。


「ところでさっきの大口をたたいたお嬢ちゃんはどうしたんだ」


 アガタの方を見ると顔を拭い落ち込んだ顔をしていた。

 強く拳を握りしめ、口を利く様子はなくその目は少し涙で潤っている。


「どうもこうもないわよ。依頼があるんでしょ。さっさと行くわよ」

「おいおいおい。連れねえな? 俺様達の大勝利なんだぜ。もうちょっと祝っていこうぜ。マサキの剣もすごかったが、俺様の射撃も中々だっただろ?」

「うるさい!」


 アガタはキッドを怒鳴ってそのまま馬車の中へ一足先に入っていく。


「あいつ何を怒ってるんだ。白けちまったぜ」


 キッドもまたアガタのわがままと言える態度に不愉快そうに口を尖らした。


「アガタ……」


 俺はアガタの後姿を見てぽつりと呟いた。

 あいつの撒いた種とは言え、こんな風になったことに責任を感じているのであろうか。

 それともあいつの功名心を満たせなかったことに腹が立っているのかはわからない。


「メリエル、ありがとう。あとは自然に癒えていくだろう。アガタの言う通り急ごう」

「え、ええ。ですがアガタの様子もおかしいですわ。さっきまであんな不遜な態度でしたのに」

「アガタが心配なのか?」


 俺が悪戯っぽく聞くと、メリエルは顔を赤くして慌てて否定した。


「そんなつもりはありませんわ! ただあそこまで落ち込んだ様子ですとこっちも心配すると言っていますの」


 さっきまで喧嘩していた二人だが、なんだかんだ言ってもアガタのことを気遣っているのであろう。


「あ、マサキもメリエルも先に入るなんてずるいです」


 ゆーりとミネルヴァも馬車へ乗り込み馬車が動き始める。

 ベルーコへ向けて車輪が回りだした。


 湿地を駆ける馬車の中はさっきの戦いの疲れからか安堵の顔を浮かべている。

 ただ一人を除いて。


「アガタ、どうしたんだ。自分の服が汚れて落ち込んでいるのか?」


 俺が神妙な面持ちののアガタに冗談っぽく話しかける。


「違うわよ。あんなこと言って何も出来なくて、あんた達にも迷惑かけて、それにあんた達をこんな怪我にしたあたしに怒っているのよ。放っといて!」

「なんだよ。やっぱりそんなことか」


 俺は肩をすくめた。


「そんなことじゃないわよ! あんたの怪我は大丈夫なの!? ミネルヴァは!? あんな風に引きずり回されて……」

「その点は抜かりありませんわ。どこかの誰かさんと違って自分のできることはしっかり果たしますの」


 メリエルが髪をいじりながらごく当たり前と言った口調で話す。


「あんた達の忠告を聞いておけばこんなことにならなかったのに。大魔導士が聞いて呆れるわ。何が伝説よ……あたしってやっぱり……」

「いいんだ。アガタ。私達はエルダーグリフォンの縄張りを通っていたんだ。遅かれ早かれ狙われていたのは間違いないさ。逆に私達が戦闘態勢の時に現れて好都合だったんじゃないか」

「あと、あなた。あなたは天才なんですわよね? 天才だったら天才らしくもっと誇りを持ちなさい。いじけている姿なんていつも以上に腹立たしいですわ」


 ミネルヴァが自分を責めようとするアガタをたしなめる。

 メリエルはアガタを強く叱責している。

 これはメリエルなりの励まし方なのだろう。


「落ち込んでも仕方ありませんよ。何はともあれ、あんな大物を倒して御者の人に褒められたんです。しかも誰一人欠けることなくてですよ。皆さん本当にすごいです」

「そうだぜ。あいつを倒した勇名は広がるぜ。さらに報酬が増えて、俺はもっとお菓子を食える。考えただけで最高だぜ」


 ゆーりがその場を明るく取り繕い、キッドがにやけた顔つきする。

 ゆーりの言う通りエルダーグリフォンという強敵を犠牲もなく倒したのは間違いないのだ。


「というわけだ。自分のせいだって責めるのはそこらへんにしとけよ。挽回する手段なんていくらでもあるんだ。あとお前の加速と俺の剣技の合わせ技、あれは楽しかった。今回みたいなことがあればまた頼む」


 俺は服についた泥に視線を落とした後、アガタの目を信頼を込めて見つめる。


「あんた達……ありがとう。そうよね。確かに落ち込んでも仕方ないわ。一つくらいの失敗が何よ。それを取り返す成功を重ねればいいだけじゃない! 成功は1%の失敗と99%の才能よー!」


 アガタが立ち上がり自分を励ますように叫ぶ。


「またうるさくなりますわね。本当勘弁してほしいですわ」


 メリエルは頭を抱えてため息を吐くが、どこか嬉しいそうな笑顔を浮かべる。


「ははは。いいじゃないか。こっちの方がアガタらしいってことでさ。なぁ、マサキ」


 ミネルヴァが朗らかに笑いながら俺に話を振る。


「ああ、そうだな。黙れって言いたくなる方がアガタらしい。まぁ本人も調子を取り戻したみたいだしな」

「だったら大きな依頼も達成できたことですし祝賀会ですね! ベルーコに着いたらおいしいもの食べましょう!」

「食べてばっかだな、おい……」


 ゆーりな無邪気な言葉にキッドが小言を漏らした。


 和やかな雰囲気のまま時間は過ぎて御者から到着の声がする。

 どうやらベルーコに到着したようだ。

 荷物を下ろし納品を完了することで、無事今回の依頼は達成したことになる。


 しかしあの積荷の爆弾のことがふと頭をよぎった。

 本当にこれだけでいいのだろうか、と考えながら俺は馬車を下りた。

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