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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
永劫の鏡奪還編
5/75

第1章3部:通常戦闘(ウルフの群れ)

ゆーりが掲示板の前へ行き受注するクエストを選んでいる。

 魔物の討伐や、採取の手伝い、荷物の護衛など様々な種類に分かれていた。


 その中でも貴族の依頼人が、家に伝わる宝物を取り返してほしいという依頼は報酬が際立って高かった。

 報奨金の桁が一つ違うのである。

 それもそのはず貴族から依頼のクエストが真っ先にクリアーを推奨されているのだ。


「お姉さん。これ受けてもいいですか」


 ゆーりが宝物奪還のクエストを指さすと、受付の女性は少し困った顔をした。


「うーん。そのクエストは、このギルドからも多数の参加者や、依頼人直属の騎士を派遣してもまだ達成できていないのよ。賞金首の山賊が強くてね。手を焼いているのよ。何度もこのギルドから派遣しては失敗しているから、依頼人の方もうんざりしてるのよ。次失敗したらどんな評判を噂されるかわからないわ」

(なるほど。苦労している理由もゲームと一緒というわけか)


 俺は受付の女性の説明を聞きながら、うんうんと頷き。

 言葉が終わったところで口を開いた。


「安心してください。その依頼は俺たちが責任をもって達成してみますよ。ちょっと難しい方が俺達の実力を示す機会になるしな」

「私もマサキに賛同だ。困っている人を助けないわけにはいかない。そしてマサキの名誉の回復にも繋がるなら喜んで参加しようじゃないか」

「ふん! まぁあたしの才能をこんなクエストに使うのはもったいないけど、せっかくだから受けてやろうじゃない。難しいらしいけどあたしがいれば楽勝よ」

「わたくしはどちらでもよろしくてよ。ですがやるからにはヤシアリンセ家の名にかけて、失敗などありえませんわ」

「おし、これで決まりだな」


 パーティメンバー全員の承諾を受けて、俺はゆーりを笑顔で見る。

 ゆーりも俺の方を見て微笑んだ。第一段階はこれでクリアーだ。


 拒んでいる受付の女性も俺達の意志に折れたようで、しょうがないといった風に依頼について語りだした。


「まずはここを北に向かい街道を抜けた先の、ショウイゼ家に向かってください。そこで依頼人の貴族である。アルベルト=ショウイゼに話を聞いてください」

「わかりました。とりあえずはアルベルトさんの家に向かいます。ありがとうございます」


 ゆーりは深々と礼を言うと。俺たちはその酒場を跡にする。

 野太い人をバカにしたような声や、舌打ちが聞こえたが俺は無視した。


「それにしても北ってどこまで行けばいいんだよ」


 ゲームならワンボタンでスキップできるのにと思いながら俺はため息をついた。


「とりあえず行くしかないみたいです。徒歩ですが」

「ええ~~!? また徒歩ですって!? もううんざりよ!」


 アガタが子供のように駄々をこね、頬を膨らませて俺の顔を見た。


「マサキさーん。あのねーあたしねー」

「あのなぁ。そんな都合いいときだけ俺の方を見やがって。お姫様抱っこはしねーぞ」

「何よ。バカキ。あたしがせっかく頼んでいるのに。そんなんじゃモテないわよ」


 俺とアガタが他愛もないことを話す間に、メリエルは自分のカバンから何か笛の様なものを取り出した。


 そして笛を吹くと、軽やかな音色が辺りに響き始める。聞くだけで元気になりそうな音色だったが、俺達のために鳴らしたわけではない。

 音色の後、遠くから砂埃を上げながら影が駆けてきた。


「エリザベート。こっちですわー」


 エリザベートと呼ばれる白馬が、メリエルに向かって駆けていき、飼い主の前で礼儀正しく停止した。

 メリエルはエリザベートを優しく撫でると、エリザベートは嬉しそうにいなないた。


「いい子ですわ。エリザベート。それではアルベルト様のもとへ向かいますわよ」


 メリエルはエリザベートに慣れたように跨ると、北を指して進み始める。


「何よあいつ! ずるいわ! 私にも乗せなさいよ」


 アガタがエリザベートに強引に乗ろうとして、エリザベートの腹に触れると、エリザベートは激しい動きをし始めた。

 それにびっくりして、アガタは尻もちをつく。

 メリエルはエリザベートを制止させようと手綱を強く引いていた。


「エリザベート! どうどう! エリザベートは飼い主以外にはこういう態度をとりますの。ごめんあそばせ」

「むぅぅぅ。飼い主に似て、馬までも面倒くさいようね!」

(どっちが面倒くさいんだよ)


 アガタの子供が言うような捨て台詞を聞いて俺はまたため息をついて肩をすくめた。


「まぁ、いいじゃないか。何もないよりこっちの方が見ていて元気になる」

「常識的なことを言うのは本当にミネルヴァくらいだよ」


 ミネルヴァの言葉で俺は何か救われたような気分になった。

 個性的なやつらがいる中に、俺をかばってくれたりする常識人がいるだけでなんとかやっていけそうな気がする。


「と、とにかく頑張りましょう。いくらなんでもそこまで遠いはずはありません」


 ゆーりが士気を高めようと応援した。このパーティの実質のリーダーだから、それに適した行動と言える。


「ゆーりの言う通りだ。とりあえず行こうぜ」


 このまま喧嘩してもらちが明かないので、依頼人である貴族の家に向かい始める。

 たまにアガタが何か文句を言っているが、極力聞かないようにしている。

 前を行く馬上のメリエルはさすが貴族のお嬢様と言ったところで、背筋を伸ばし無駄がなく非常に様になっている。


「この街道を抜けた先が依頼人の貴族さんのお家のようです。ですがちょっと待ってください。この先魔物が潜んでいるようです」


 しばらく道に進むとゆーりが道に指をさして、俺達に注意喚起をした。


ゆーりの胸のクリスタルが淡く輝いている。どうやら近くに魔物がいるとこれで知らせてくれるようだ。

 道の周りはうっそうと木が連立しており、茂みの中から魔物が飛び出してきてもおかしくない。

 俺たちは何が来てもいいように、とりあえず武器を構えながら、その街道を進むことにした。


 道なりに進むと、近くの茂みからガサガサと揺れる音がする。

 俺たちがそこに視線を移したその時に、背後の茂みからウルフのような魔物が襲い掛かってきた。


 その気配にいち早く気づいたミネルヴァが、アガタに襲い掛かろうとしていたウルフを盾で防いだ。

 ウルフは盾に弾き返されてひるんだが、すぐにまた飛びかかる姿勢を取っている。


「あ、ありがとう……」

「どういたしましてだ。まずはこいつをこらしめてやろうじゃないか」

「ええ、そのつもりよ。ちょっとカチーンときちゃったし。生意気な動物にはあたし直々にお仕置きをしてあげるわ」


 アガタは動揺した様子から切り替えると、魔導書を広げ、足元に魔方陣が浮かび上がる。

 そして魔方陣が完全に展開すると手のひらから火球を放った。

 その一連の流れはあっという間であった。


「フレイムショット!」


 火球がウルフにあたると、ウルフは吹き飛んだ。態勢を立て直したのち、大きな声で吠えはじめた。

 すると周りの茂みから他のウルフが姿を現し、俺たちを取り囲んだ。


「え、なにこいつら。こんなにいるの?」

「さっそくピンチって感じだな。だが切り抜けるしかねえ。千万変化エレメンタルスイッチ


 俺は剣を風属性のウルフの弱点である火属性にした。


 属性を変化すると突っ込んで、ウルフに向かって剣を振り下ろし叩き落す。

 この世界に転生してから身体能力は向上しているのか、ウルフが飛び退く前に、攻撃を当てることができた。


「まずは一匹だ!」


 俺が再び剣を構え直そうとすると、ウルフ達が一斉に飛びかかってきた。


 俺は間一髪で前転をして回避する。

ウルフは飛びかかりぶつかった際に互いに牙や爪で傷つけており、怒りに満ちたように強く吠えはじめた。


 その後動きの速い一匹が俺に向かって突進し始める。

 俺はとっさに防御の体制を取れず、直撃を覚悟した。だが素早く駆け付けたミネルヴァが盾で俺をかばった。


「大丈夫か!?」

「ああ、おかげさまでな」


 俺は再び剣を構え直してウルフたちと対峙する。


「さぁ、エリザベートいきますわよ」


 背後に控えていたメリエルが、馬に騎乗したままウルフの一隊に突っ込んでいき、ウルフは頑強なエリザベートに吹っ飛ばされ、散り散りになっていた。

 強い衝撃を受けているのにも関わらず振り落とされず姿勢一つ変えないあたり、メリエルは乗馬に関して相当慣れているのだろう。


 俺とミネルヴァはそのウルフたちを各個撃破していく。一匹のウルフが再び集まろうと吠えはじめたが、そのウルフの下から強い突風が巻き起こり、集まってきたウルフ達を鋭い風で切り裂いた。


「あーっはっはっは。あたしたちに逆らうからこういう目にあうのよ!」

「み、皆さん、お、お怪我はありませんか」


 最後方で待機していたゆーりが俺達に駆け寄ってきた。


「なんとかな。礼ならミネルヴァに言ってくれ。あいつが俺達を一生懸命守ってくれたんだからな」

「私は皆の盾として使命を果たしただけだ。ただ皆が無事なものほど嬉しいものはないな」


 ミネルヴァは少し頬を緩め、照れくさそうに返した。


「まぁ、あたしの魔法で一網打尽だったけどね。つまり一番目立っているのはあたしよねー」

「お前は真っ先に狙われてビビっていたけどな」

「な、なんですってー!? どの口が言うのよ、バカキ!」


 アガタが顔を赤くしてギャーギャーと喚き始める。

 黙っていれば確かにかわいいのだが、こいつには早いうちにスルースキルの習得を目指してほしいと思わざるを得ない。


 一方でメリエルは初めての戦闘が終わったのに関わらず、我関せずというような興味もない表情で、ドレスのよれを直していた。


「なんかメリエルは平常通りって感じだな。戦いが終わって安心した顔や嬉しい顔をするものだと思うんだが」

「当り前ですわ。これくらいでいちいち感情を出すようでは、貴族としての余裕がありませんわ。わたくしはヤシアリンセ家の娘として、常に高貴かつ余裕に立ち振る舞わなければなりませんの」

「偉いところのお嬢様ってのも大変なのかもな」

「その通りですわ。あなたのような平民とは違い、貴族という上に立つ人間は常に心の余裕が必要になりますの」


 余裕たっぷりに講釈たれるメリエルに対し、俺は抑揚のない返事をしていた。


「だーから、貴族って嫌いなのよね! 嬉しいときは嬉しいくらい言いなさい。ちょっと、返事くらいしなさいよ!」


 後ろからアガタが食って掛かってきたが、メリエルはまるで聞く耳を持たずに手綱を握っていた。


 さっきのウルフとの戦いから戦闘は発生しなかった。


 本来のゲーム同様に先ほどのウルフとの戦闘を終えると、そのクエストの一部分が終わるのだ。

 パーティメンバーの強さは最高レアなだけあって強く、今後も比較的に楽に進みそうという手応えを感じていた。

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