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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章23部:湿地を越えて

 最短距離を進む馬車の中の空気は重い沈黙に包まれていた。

 アガタとメリエルは互いに一切口を開こうとせず、その静かな膠着状態が馬車の雰囲気を支配している。


 ミネルヴァは何か悩み事があるかのように外の光景を眺めていた。

 これまでに心を押さえつけどうやって盾として全うするかを考えていたミネルヴァに、いざ自分の身を案じろと言われて困惑するのは無理もない。

 俺は悩みの種を聞こうとしたいが、外と同じ曇り空のような重い空気で切り出せないでいる。


 ゆーりの方を見たが、ゆーりも両手を膝の上に置き肩を強張らせて委縮していた。

 一言も発言できない一触即発な空気を感じていたのだ。


 キッドがふらふらと飛びながら神妙な面持ちで俺の方へ飛んできて、周りに聞こえないよう耳元で囁いた。


「なぁ、この空気きつすぎじゃないか。居心地悪すぎて窒息しちまうよ。全部あのわがまま女と貴族かぶれ女のせいだろ」

「ああ、そうだが。こればかりはどうしようもない。到着を待つか、何かをきっかけに氷解するのを待つか」

「こんなことなら魔物でも出てきてほしいくらいだ」


 キッドが皮肉っぽくぼやく。

 確かにこの中で拘束されるくらいなら魔物の戦闘することで忘れたい。

 だが強敵ではなくそこら辺の弱い魔物に限るが。


 日が高くなり次第にじめじめした空気が充満したころ、先頭の御者から声がかかる。

 馬車内の雰囲気は相変わらずでさらに湿気が加わることで、一刻も早くベルーコへ到着してほしいという気持ちに駆られてしまう。


「ここからはベルーコへの湿地帯を通ります。できるだけ乾いたところを通り、水辺に近づきませんが、足元が悪いため揺れるかもしれません。ご注意ください」


 俺は返事もせずにその声をじっと聞いた。

 馬車が湿地の上を動きが鈍くなるものの突き進んでいく。

 車輪が舗装されていない道を行くため、先ほどの平たんな道より揺れが激しかった。


「一体何が……もしかして魔物でしょうか」


 しばらく進むとゆーりの胸のクリスタルが青く光りだし、その後に御者の方から大きな声がする。

 声色に焦った色がしていた。


「魔物だ! 前方にキラービーの集団だ!」

「やったわ! 魔物よ! あんた達さっさと行くわよー」


 アガタが目を輝かせて勢いよく馬車から飛び出した。

 俺達もすぐに馬車から降りて魔物がいつ現場へ向かう。

 湿地と言われてるものの通るルートを選定していたためか、足元が少しぬかるんでいる程度であった。


 前方には巨大な蜂の魔物である、キラービーが針を輝かせて飛んでいる。

 ゲーム中では序盤の雑魚的だ。

 一般的な蜂と違い大きいため動き自体は緩慢そうだが、その太く鋭い針に刺されたら痛そうである。


 俺達はとっさに陣形を組み、キラービーと対峙する。

 前方に鎧で身を包んだミネルヴァ、その後ろに俺が剣を構え、後衛にはアガタとメリエルが援護をするという形だ。


「さぁ、こんな雑魚はさっさと蹴散らすに限るわ」


 アガタが魔導の詠唱を開始すると、キラービーが即座にアガタを狙い突っ込んでくる。


「アガタの体質には困ったものだ。行くぞミネルヴァ」

「ああ、さっさと片付けようじゃないか」


 俺とミネルヴァがキラービーの行く手を遮るような立ち位置まで動き、アガタの詠唱を完了するまで防御する。

 ミネルヴァが針の一刺しを交わし的確に巨大な盾で払い、そこを俺が切りかかりキラービーを仕留めた。


 確実に処理できるのは間違いないが、このままでは効率が悪い。

 無駄に体力を消耗し攻撃を受ける可能性があるのだ。


「あんた達離れなさい。こういうのはね、まとめて燃やした方がいいわ。こんな雑魚にかまっている時間なんてないのよ。ヒートストーム!」


 集団を形成しているキラービーの周りを取り囲むように炎の渦が巻き起こり、強烈な熱風が辺りを包んでいく。

 火炎がキラービーをまとめて燃やし、追加で発生する爆発で跡形もなく消え去った。


「ざっとこんなもんね。さっさと次へ進むわよ」


 アガタが得意そうに言い馬車へ戻ろうとした時、上空から突風が巻き起こる。


 大きな翼と四足の体躯そして鋭い嘴を持った魔物が降り立った。


「やーっと現れたわね! あんたを倒してあたしの伝説の一部にしてやるわ」

「アガタ! 頑張ってください」

「いやだがちょっと待て、こいつは……」


 アガタが満面の笑みで魔導の詠唱を開始した。

 おそらくこの魔物がグリフォンであるのは間違いない。

 だが大きさが聞いていた話と違うのだ。


 そのグリフォンがこちらに敵対意識はなく、塵となったキラービーの方を見つめていた。

 もしかしたら先ほどのキラービーを餌として捕食するつもりだったのだろう。


 そしてグリフォンがそれを確認し飛び立とうとした時に、アガタの火球がその体を直撃し撃ち落とされる。


「さぁ、これでとどめよ! あんたはあたしの自伝の一ページになるのよ。焔に燃え尽きなさい。クリムゾンバーニング!」

「アガタ、おやめなさい! その魔物は!」


 メリエルが強く叫ぶが、アガタの耳には届いていないようだ。

 立ち上がろうとするグリフォンにアガタが高速で近づき、両掌を向けて至近距離で強烈な真紅の火炎を放つ。

 炎はグリフォンを包み込み無数の煌めく爆発が巻き起こる。

 グリフォンの悲痛な絶叫が辺りに響き渡った。


「あーっはっはっは。さーっすがあたしね。強敵と言われたエルダーグリフォンを何もさせずにやっつけるなんて。あたしって本当に天才ね」

「さすがアガタです。今晩はおいしい焼き鳥ですね」


 アガタが腰に手を当てて上機嫌になっている。


「なんてことをしているんですの! 自分が何をしたのかわかっていますの!?」

「何ってあたしが天才的な素晴らしい魔導でエルダーグリフォンを倒したってことでしょ。もしかしてあたしの強さに見とれちゃった? それとも嫉妬? いやー大魔導士になるってのは辛いわねー」


 メリエルはアガタに対して非難めいた口調をするが、当のアガタはまるでわかっていない。

 それどころか自身の功績を棚に上げて嬉しそうな表情だ。


「あー……もうかける言葉がありませんわ……」

「アガタ、さっきあなたが倒した魔物なんだが。水を差して悪いが、エルダーグリフォンではないのだ。その子供のタイニーグリフォンという魔物なんだ」

「えー!?」


 ミネルヴァが言いにくそうにさっきの魔物の正体を明かすと、アガタは少し固まって顔が真っ赤になる。

 自分の活躍が言うほど大したことがないとわかり恥ずかしくなっているのだろう。


「それでさっきの叫びを聞きつけてエルダーグリフォンがやってくるのではないだろうか」

「だったらなおさらいいじゃない。これからが本番ってことね。燃えてきたわ」


 ミネルヴァの残念そうな声に、アガタは俄然嬉しそうにする。


「あなた本気で言っていますの!? 倒せるかどうかわかりませんのよ! 安全にベルーコへ向かいたかったのに、これじゃ台無しですわ」


 メリエルが頭を抱えて助けを求めるように空を見上げる。


「いーや、エルダーグリフォンを倒さなきゃあたしの気が収まらないわ! さぁ来なさいエルダーグリフォン! 天才の未来の大魔導士であるアガタ様が相手してやるわ」


 アガタはとてもワクワクした表情をしており、エルダーグリフォンの心待ちにしている。


「おーい、あんた達。さっさと目的地に向けて移動するぞ」

「もうちょっと待って! 今からメインイベントが始まるのよ!」


 後ろでベテランの御者が大声で呼びかけるが、アガタが叫び返す。


「メインイベントなんて、勘弁してくれ。こっちは面倒なことは起きてほしかったのに」


 アガタのエルダーグリフォンを待ちかねて期待している声に、俺は呆れてぼやいてしまうのだった。

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