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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章18部:ゆーりの危うさ

 部屋に入りベッドに腰を掛けて俺は部屋を見渡した。

 昨日は同じ部屋にゆーりがいて、ちょこまかと動くのを見たり、話したりして飽きなかったが、いざこうして一人になると案外何をすればいいかわからないものだ。


 普段ならゲームをしたりインターネットをしていたが、今はそうはいかない。


 何もすることがないのでとりあえず窓の外を眺める。

 夜が深まりほとんどの店は閉まっていた。

 灯りがついているのは民家や酒場くらいのものだ。

 そしてジークと出会った神殿のようなものが建立している騎士団の建物を見る。


 噂とは違いまだ灯りがついておらず、何かが行われている形跡もない。

 もし噂が真実ならば、これから行われるのだろうか。


 しかし次第に眺めることも飽きてきて、読むことができないのだが古本の一冊でもあればよかったと痛感するのであった。


 しばらくするとドアを叩く音が聞こえた。


「マサキ、ご飯の時間ですよー」


 声の主はゆーりであった。

 飯のこととなると一目散に連絡しているのだろう。


「ああ、わかったすぐ向かう」


 俺は立ち上がり、ドアを開けてゆーりとともに食堂へと向かった。


「何をしていたんですか?」

「いや特に何も。ゆーりは何かしていたのか」

「私はずっとご飯のことを考えていました」

「こいつの大食いっぷりには本当に考えられないぜ。腹の中どうなっているのか見てみたいくらいだ」


 キッドがゆーりの傍をふわふわと飛んで呆れた物言いをする。


「そこまで食べることが幸せってのも羨ましいかもしれないな」

「えへへ。何か褒められている気がします」

「ああ、そう思ってくれ」


 ゆーりははにかんでいるが、俺は投げやりな返事をした。




 階段を下り一回の受付を横切った先に食堂がある。

 中に入ってみるとそこは食堂と言うよりはレストランであった。


 奥の席でアガタが手を振ってこちらに呼びかけていたので、俺達もその席へと座る。

 メリエルはメニューを退屈そうにじっと見つめていた。

 座席はアガタと反対側に座っており、あれから声をかけていた兆候もない。


 俺がメリエルの隣に座り、何も言わずメニューに視線を落とすメリエルに囁く。


「謝らなくていいのか」


 メリエルは無視を決め込んでいるのか俺の言葉には一切反応しない。

 俺が今度はメニューを見始めようとすると、メリエルがとても小さな声で返事をする。


「……あとで礼を言いますわ」


 俺は無言で小さく頷いた。

 どうやら全員が見てる場で謝ったりするのはおろか、誰かに頭を下げるのを見られることすら嫌なようだ。


 貴族のプライドというのは俺が思う以上に高いんだな、ということを感じずにはいられなかった。

 それから俺達は注文を行い、夕食を食べ始める。


 相変わらずゆーりは特大の料理を注文し、がつがつと食べるその姿にもはや何も感じることはなかった。


「あんたの食べっぷりはもはや尊敬できる域ね」


 アガタがパスタをくるくる巻きながら言う。


「えへへ。アガタさんもどうですか?」

「そんなつもりで言ったわけじゃないわよ」


 ゆーりが無邪気に笑っており、アガタはため息をついた後パスタを口に運んだ。


 メリエルが少量のパンを食欲なさそうに食べて、俺は不安になった。

 アガタに頭を下げることがそんなに嫌なのだろうか、アガタはそんなことすぐ忘れそうなものなのに考え過ぎではないかと言おうとしたが、言いとどまった。

 メリエルにとってその行為自体に何かあったのではないかと疑り深くなってしまう。


 食事を終えて席を立ち、レストランから出てエントランスで、メリエルがアガタを引き留めた。

「……アガタ、あなたは少し残りなさい。話がありますの」

「は? いったい何の用よ。あたしは忙しいの。何でもいいけど手短にして」


 その声になんだなんだと、ゆーりとミネルヴァとキッドが振り向く。


「あいつらにはあいつらの話があるんじゃないのか。ここはあいつらに任せよう」

「少し気になりますが、そうですね。何か大事なことのようです」

「ああ、人にはそれぞれ事情があるものさ。いつもいがみ合っている二人だ。何かあったんだろう。ここはじっとしておこうじゃないか」

「同感だ。というか俺様は飯を食って眠くなってきた。遊び疲れちまった。ゆーりにさっさと部屋を開けてもらわないとな」


 ある程度事情を知る俺が、ここは空気を読むことを呼びかけると、三人はそれぞれ同意し、階段を上り部屋へと向かった。


 これならメリエルもアガタに対して何か物言いしやすいはずなので、俺は安心して自室へ戻った。

 部屋でぼーっと時間を過ごした後、部屋に置いてあった寝間着を持って浴場へ向かい、明日に備え寝る準備を整える。


 エントランスにはメリエルとアガタの姿はない。

 どうやら話の方は既に終わっているようだ。

 俺はエントランスを横切り、別棟にある大浴場で汗を流した。


 思えば結構な距離を移動したのではないだろうか。

 ロジャー邸から馬車を使って近くの街へ行き、そこからゴスア帝国へと入った。

 地図を見ていないため実際どれくらい移動したかはわからないが、それほど近い距離でもないだろう。


 そしてミネルヴァの悩みや、アガタの一面、メリエルの抱える何かを見て、ゲームキャラの内面を見れたようでとても興味深かった。

 ゲーム内で語られていないことなので、ひどく人間的な側面を感じさせる。


 どうやらここに露天風呂はないらしく、ありがちな好奇心で女湯への覗き見などはできなさそうだ。残念。


 風呂から上がり着替えた後、エントランスで白を基調にして黒のラインが入った寝間着姿のゆーりを見つけた。

 どうやら風呂から上がったばかりで、顔が火照り体からぼんやり湯気がでている。


「あ、マサキ。マサキもお風呂だったのですか?」

「ああ、そうだが」

「とっても気持ちよかったですね。疲れが取れるといいますか、生き返るといいますか」

「随分とババ臭いな……」


 風呂上がりのゆーりの黒い短髪はボサボサで一切乾かしている様子がない。


「風呂あがったら乾かした方がいい。髪が痛むし、風邪をひくかもしれない。あとメリエルがそういうの見ると小言で何か言われかねないぞ」

「うーん。確かにそうかもしれませんね。後で乾かしますね。心配してくれてありがとうございます」


 屈託のない笑顔で礼を述べるゆーりに、俺はなんとなく危うさを感じた。

 無頓着で済めばいいのだが、元から思慮深いタイプではないため、後先考えることをしない。

 内に潜む芯の強さは、時に直情的に動き無謀なことをやらかすかもしれないのだ。

 そうならないように俺がいろいろ教えたり、補佐することが必要ではないかと思った。


「ところでキッドは? 一緒に風呂に入ったのか」

「いいえ。キッドは部屋でぐっすり寝ていますよ」

「そうか」


 俺がもしキッドなら合法的に女湯に入れそうなものなのにと考え、まだまだキッドもお子様だなと鼻で笑った。


 会話をほどほどにして階段を上り部屋へと入る。

 そして明日への疲れを残さないように、静けさに包まれて目を瞑った。

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