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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章17部:メリエルの後悔

 アガタの手をよく見ると一冊の本が抱えられていた。

 そして片手でドアをノックする。


「あんた、ちょっといいかしら」


 すると部屋の中からメリエルが顔を出す。

 少し不機嫌そうな顔でアガタに応対している。


「なんですの。いきなり私の部屋に入って来ようとするなんて」

「あんた、暇だったでしょ」


 アガタが開口一番、生意気な言葉を口にした。

 いきなり言われると誰だってさすがに眉間に皺が寄ってしまうだろう。


「だったらなんですの。用がなければさっさと帰ってくださいませ。騒がしくされると頭が痛くなりますわ」


 メリエルが目を細め、舐めたような口調で追い払おうとする。


「本当あんた、少しはものの言い方でも勉強したらどうなの」

「あなたの方こそ、人の体調くらいは考えた方がいいですわよ。あと人に話すときの礼儀というものも学んだ方がよくてよ。特にその口調は早く正した方が身のためですわ。知性の欠片も感じませんわ」

「あたしはもともとこういう話し方なの! あんたに指図されてやめるなんて、まっぴらごめんよ」

「まぁ、なんて生意気な言い方ですの。聞くだけで虫唾が走りますわ!」


 二人は顔を近づけ、いがみ合って口論を続ける。


「あー! あんたもムカつくわね。まぁいいわよ。これ渡すだけだから」


 そう言ってアガタはメリエルから顔を離して、唇を噛んで手に持っていた本を乱暴に渡す。


「これは……戯曲? どうしてわたくしに」

「あんたどうせここにいる時、暇で退屈だったでしょ。それで暇でも潰せばって思っただけ」

「……犬のくせにお使いくらいはできますのね」


「もう! 本当に素直じゃないわね。んじゃあたしは部屋でも戻るから精々それでも読んでるといいわ。勘違いしないでよ。暇ほど嫌なものはないと思っているだけだから」

「あっ……」


 アガタが怒ったまま踵を返し、青い長髪を大げさに揺らしながら、自分の部屋へ向かってすたすたと歩いていった。

 ドアが勢いよく開けられ、叩きつけるように閉める音が響く。


「おいおい、すごい音だな。あいつ怒りすぎじゃないのか」


 俺が何も知らないという風に登場し、本を抱えてもう片方の手を伸ばし、何かを言いかけているメリエルに話しかけた。


「ええ、そうですわね……」


 メリエルが呆然と立ち尽くしていた。


「ところでその本どうしたんだ? 見たところ古い本だが」

「え、ええ、これはさっきアガタから……」


 メリエルが本の表紙に視線を落とす。

 古ぼけた表紙に、ぼろくなって黄ばんだページ、かなりの年季が入っているのだろう。


「とても古い本だな。知っているのか?」

「……これは歪んだ歯車という絶版になっている戯曲ですわ。著名な作家であるヘイルメン・ヒースの幻の作品ですわ。秀才の主人公は日々勉学に励み、期待に応えることに生きがいを感じる一方で、期待を裏切れないという重圧を感じ始めますの。期待という歯車と周囲の重圧という歯車がかみ合い主人公は当初は成功をおさめ続けるのですが、次第に疲弊し、高まる期待と増していく重圧に苦しみ、主人公は誰にも弱みを見せることなく失踪するという話ですわ」

「どうしてそんな話が絶版になるんだ」


 俺が何気なく疑問を投げかける。

 こういう話はまだありきたりで絶版にするほどでもないと感じたからだ。


「勉学に励んでも何も得ることはないという印象を与えたからですわ。自分を抑えつけ、痛めつけても、結局苦しむだけとわかったら、最初からそんなことしなくなりますの。これが演劇で披露された時は大喝采のようでしたが、その内容の生々しさから反面教師と言った感じで、歯車族という勉学をせず遊び呆ける若者が増えてきましたの。地域によっては治安が悪くなることもあり、国民の質も落ちてきた結果、歪んだ歯車は一冊残らず燃やされ、演劇も中止になり、作者も火あぶりにされましたわ」

「そんなことがあったんだな。そんな本をどうして」

「それが不思議なのですわ。わたくしも歴史の中でしか知らない本ですし、もはやこの世に一冊も現存していないと思っていましたわ」


 メリエルが本の埃を払いながらまじまじと見つめる。


「アガタがそんな本を見つけるなんて」

「いえ、あんな犬にこの本の価値なんてわかりませんわ。どうせ適当に見つけたに決まっていますわ」


 俺が感心したように言うと、メリエルが即座に否定した。

 確かに魔導にしか興味のないあいつがこういう本の価値を知っているなんて到底考えられない。


「ですが、アガタにあんな一面があるなんて意外でしたわ」


 メリエルがアガタが去っていった方向を見ながら呟いた。


「同感だ。自分のことしか考えていないようなやつなのに、本を渡すなんてな」


 メリエルの抱いた感想は尤もで、あれだけわがままなアガタにメリエルの退屈に気遣うなんて想像できなかった。


「ですがわたくし、あんなきついことを……お礼も言えませんでしたわ……」

「気にすることじゃねえ。あいつのことだ。きっとすぐ忘れるだろうよ」

「いえ、そういうことではなくて……」


 俺が慰めようとするがメリエルは俯き、真っすぐな金髪を垂らしてひどく落ち込んでいた。

 その様子は少し異様にも見える。


「……アガタに謝りに行くか?」

「い、嫌ですわ! あんな失礼な犬ごときに頭を下げるなんてこっちから願い下げですわ」

「やれやれ。どっちなんだ。素直じゃねえな」


 俺は猛反発するメリエルを見てぐしゃっと頭を掻いた。


「まぁ謝ったり、礼を言うタイミングなんていつでもあるんだ。アガタにもらったそれでも読んで、ちょっとは気分でも変えておけ」

「……ええ、そうしますわ」


 メリエルが返事するとそのまま部屋の中へと入り、静かにドアを閉める。

 その時のメリエルの横顔はやはりどこか暗く、落ち込んでいたままだった。

 普段の余裕そうで見下したような感じではなく、何かの影を引き摺っているように見えるのだ。

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