第1章2部:初めてのクエスト受注
他愛もない雑談をしているうちに目的地の酒場に到着した。
まだまだ日中だというのに外からでも中の騒ぎの声が聞こえるほど賑やかである。酒場はサティーナアンという名前で、俺達はとりあえず中へ入ってみる。
賑やかな酒場のイメージ通り、そこには冒険者が掲示板を見つめて思案していたり、荒くれ者が酒を飲んだり腕っぷしを競っていた。
物珍しく観察していると、遠くで受付をしている女性がこちらに気づき、ゆーりの方まで歩いてきた。
「あなた? 駆け出しの冒険者ですか? 随分若いようですが」
「は、はい駆け出しの新米召喚士のゆーりです」
(駆け出しも新米も似たようなもんだろ)
受付の女性に話しかけられ、ゆーりは緊張し、固まった様子だった。相変わらず口調がぎこちない。
「ふふふ。駆け出しの方はクエストを受ける前に、ギルドへの登録が必要なの」
女性はそういうとパーティメンバーそれぞれに用紙を配っていった。
内容はギルド加入への同意書と、簡単な自己PRであった。
どういうことが得意か、戦闘におけるメリットはどういうものかを記入するとのことだ。
なるほどソシャゲで言うならボスの適性などを記入するのが一般的だが、そういうことの代用か。
隣に空欄の枠があるが、右下に小さく『点』とか書かれている。おそらくキャラの評価の点数だろ。ギルドによってキャラクターの能力が客観的にみられるらしい。
「ゆーりさん、その青いクリスタルは…‥!? ふふっわかりました。ではゆーりさん以外の方はこちらに来てください」
とりあえず記入を終え用紙を提出すると、ゆーりを除いたパーティメンバーが受付の女性によりステータスを確認される。
なるほど受付の女性のあの驚きから青い水晶は特別な証になるのか。確かにゲーム中でも主人公アバターは青い水晶を持っていたな。
俺が一人考えている間に、女性は慣れた手つきでキーボードがあるように手を動かしていた。ミネルヴァ、アガタと確認が続き、メリエルが終わった後に、俺の番になった。
どうやら俺が最後らしい。
「それでは、マサキさん。あなたのステータスを確認させていただきます」
「どうぞ」
受付の女性は最初は淡々とステータスを確認していったが、次第に顔が笑いをこらえているように膨れてきた。そしてスキルの確認の画面で、ついに大きな笑い声を発した。
「ふふふ……はっはっは……今時こんな属性変化だけのスキルしかありませんか? 他には何か覚えませんでしたか?」
「へ?」
「ふふっ……それも個性の一つですよね。ステータスもどれも平均以下、というか全体的にワーストに近いですね。かろうじて運と速さだけが平均を下回っている程度で済んでいます。幸いマサキさんはお仲間のパーティメンバーに恵まれておりますので、冒険には困ることはなさそうです。ただしアタッカーというロールは戦闘面では特に重要な役割を果たしますので頑張ってください」
激励しているつもりだが、あまりにも失礼な物言いに怒りを通り越して呆然としていた。
アガタが後ろでにやにやした顔でこちらを見ている。
ミネルヴァとゆーりは心配そうな顔をし、メリエルに至っては興味なさそうにリボンをいじっている。
周りの荒くれもの達が大きな声で笑い始めた。
おそらく俺の話題であろう。他の冒険者はひそひそと話しながら、俺を避けるように動き始めている。
「しかも無属性なのですか? 確かにどのパーティでも戦力としてはカウントできますが……デメリットの方が大きいのではないでしょうか」
確かに彼女が言うように無属性というのはリスクが高い。
インフィニットサモンサーガには7つの属性で構成されている。
火、風、土、水の自然四属性と、光と闇の陰陽二属性。そしてどこにも属さない無属性。
それぞれの属性には弱点を突いたときに大ダメージを与えたり、逆に被ダメージを抑えたりする効果がある。
その中でも無属性は全ての属性に均等にダメージを与えられるが、その分他の属性より多めにダメージを受ける。
無属性はゲームが始まったころは確かにいたが、アップデートが進むにつれてなかったかのような扱いになっていた。
「よう! まさかそんなステータスで冒険するのか? 命は大切にした方がいいぜ。属性変化なんてよわっちかったら何の意味もないしな。ドカンと攻撃できるスキルがあればいいんだが、まぁないものはしょうがねえな。 しかも無属性なんだって? まぁ悪いことは言わねえが、頑張れや」
「そうよそうよ! バカキ! ちょっとは戦えるくらいになってから登録しなさいよ」
荒くれ者の一人が俺に近づき、笑いながら俺を肩を強く叩いていた。
アガタがそれに続いて俺を罵倒する。
それを見て他の冒険者達もクスクス笑い始めた。
俺は言い返せないままそのまま立っていた。すると隣でミネルヴァが荒くれ者の酒を持っている手を掴み、大きな声で注意した。
「こら! やめろ。マサキは私たちの大切なパーティメンバーであって、苦難をともにする仲間だ。マサキの辛さや弱点を私たちが補えばいいのだ。逆に私たちの至らないところをマサキが助けてくれればいい。それでいいではないか。それを貴様達にどうこう言われる筋合いはない」
そういうと荒くれ者はぐっと黙り込んだ後、気合いの様な咆哮とともにミネルヴァに向かって右ストレートを放った。
ミネルヴァはそれを手で受け止めると、すかさず荒くれ者の腹に向かって拳を突き出した。
鈍い音ともに荒くれ者はその場で倒れ、悶絶している。一瞬にして空気が凍り付き、誰もこのことについて一切話題をしなくなった。
アガタは顔面が青ざめてがたがた震え、ゆーりもまたとても驚いたように震えている。
「私はどうも、仲間が傷つけられるのを見ると黙ってられない性質でね。さっき知り合ったばかりで、実力もわからないうちは能力を疑ってしまうのは理解しよう。だが信頼などはこれから作ればいいと私は考える」
きりっとした顔のまま倒れた荒くれ者に言い放つと、ミネルヴァはアガタを見た。
アガタは震えながら首を縦に何度も振っていた。
「ミネルヴァ。すまないな。とっさにフォローしてもらって」
「いや、いいんだ。我々はさきほど初めて顔を合わせたばかりだ。あんなこと言われる筋合いはどこにもないさ。貴方には可能性がある。それをじっくり見させてもらうさ」
そう言いながらミネルヴァは俺へ笑顔で振り向いた。
しかしながら俺への評価には少しへこんだ。
最低ランクの能力で何ができるかはよくわからないが、過去のやりこみでカバーできるだろう。というかそれくらしかないのだ。
「あ、あ、あのごめんなさい」
ゆーりが駆け寄って来て、なぜか俺に謝ってきた。
「どうしんだよ。急に」
「わ、私のせいでマサキがこんなことに言われるなんて」
「おいおい。気にするんじゃねーよ。俺を召喚してもらったのは何かの縁だろ。ゆーりが気にすることじゃない。ミネルヴァの言う通りこれから見返せばいい。そうだろ」
俺が気丈にふるまうが、ゆーりの方はどうも自信がなさそうだった。まぁ最低ランクに言われても説得力もない。
「んじゃ、まぁ気を取り直してクエストでも受注しようぜ」
とりあえず俺達の実力を証明する必要があると考え、クエストの受注を提案した。なにはともあれ一度は戦闘を経験する必要がある。
さらに序盤ならレベルを上げるために、これだけメンバーが強ければ全滅の心配はない。
このクエストを通じて強くなれば、この酒場に入り浸っている連中を見返すことにもつながると考えた。
長くなりましたが、次で初戦闘です。
ソシャゲっぽい世界観を出せるように頑張ります。




