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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章11部:ミネルヴァの謎

 空腹を訴えているゆーりにつれられる形で俺達は下の食堂へ向かう。

 灯りがついており幸いまだ開いているようで、俺達は戸を開け中へ入った。


 食堂のおばさん達の元気ないらっしゃいという声に迎えられ、俺達はテーブルを囲んだ。


「マサキは何を食べますか?」


 ゆーりが嬉しそうな声で訪ねてきた。

 メニューを見て、定食を中心に様々な料理名に目が移るが、先ほどジークが勧めていた特大爆弾おにぎりというのに興味がわいている自分がいた。

 いやな予感がするが、名前だけで判断するのは悪いことだ。

 どうにも好奇心が勝ってしまう。


「俺は……この特大爆弾おにぎりかな」

「マサキもですか!? 私もそれにする予定だったんですよ。ジークさんもおすすめって言っていましたし」

「あたしもそれにしようかしら。せっかくなら名物を食べたいわ」


 アガタが何でもいいという風に、指先に小さい風を巻き起こすのぼーっと見つめながら言う。


「わたくしはあっさりしたものがいいですわ。馬車に揺られたあと、戦っただけですけどなんだか疲れましたわ」

「だったらソバがおすすめだ。あっさりしていておすすめだ」


 ミネルヴァがソバを勧め、メリエルはすぐにそれに決めた。


「ご注文はお決まりですか」


 注文を伺いにおばさんがこちらのテーブルに来た。客は俺達しかいない。


「えーっと。この特大爆弾おにぎり三つと、この冷やしソバと……キッドは?」

「俺様はお菓子を食いすぎて腹が膨れちまった。水だけいただくとするぜ」


 キッドが水をちびちびと飲んでいた。


「でしたらミネルヴァは決まりましたか?」


 ゆーりが聞くと、ミネルヴァはメニューに視線を向けたまま答える。


「ヤサイマシマシブタダブルメンカタメカラメギョフンマシ……ニンニクは抜きだ」


 まるで呪文のようなその言葉が放たれて、俺達は凍り付く。

 おばさんのオーダーを書く手が止まり、厨房がざわめき始める、


「以上だ。みんないいか?」


 俺達はミネルヴァに促されるまま頷いた。


「ねぇ、なんなのよ、あの詠唱みたいな言葉? もしかしてミネルヴァも魔導を放てるのかしら」

「いいや違うだろ……」


 アガタが小声で俺に聞く。

 俺は首を横に振り、厨房を睨みつけるように見つめているミネルヴァを見た。


「うーん。なんでしょう、そのようなメニューどこにもないようですが……」


 ゆーりがメニューを見ながらひとりごちた。

 どうやら裏メニュー的なものがあるらしいのだが、どうしてそのようなメニューがあるのか俺には見当がつかなった。


 料理が届くまでの間、周りはミネルヴァのメニューについて考え込んでるように黙っていた。

 そしてまずはメリエルのソバが届く。


「こんなのどう使えばよろしいですの!? フォークとスプーンを所望いたしますわ」

「いや、そう握るんじゃなくてだな。ここに指を置いて、物を挟み込むようにするんだ」

「あら。召使は思ったよりも詳しいですわね」


 俺が橋の使い方を指南する。

 メリエルが俺の手本を見ながら、指を置いて箸を使って食べ始めた。

 できるだけ音を立てずに食べるのは、メリエルなりのマナーなのであろうか。


「使い方さえわかれば、案外便利なものですわね。このソバというのもあっさりしていて食べやすいですわ」


 その後しばらくすると例の特大爆弾おにぎりが届く。

 俺とアガタがその大きさを見てぎょっとする。ゆーりはそれを見て涎を隠そうとせず、目を輝かせていた。


 特大爆弾おにぎりとは人の頭より大きなサイズのご飯に海苔を巻いた料理であった。

 料理と言えるのかも怪しいが、訓練で忙しい軍人にとっては腹を満たすのにちょうどいいのだろうか。


 予想を上回るそのサイズ感に俺は食欲を失ってしまい、四分の一も食べないうちに残してしまう。

 アガタは何とか食べ切ろうとするが、半分も行かないうちに止めてしまう。


「お肉やお魚、いろんな具材が詰まっていておいしかったー。あれ? マサキ、アガタ、もう食べないのですか。いらなければ私がいただいてもよろしいですか」


 ゆーりは既に特大爆弾おにぎりを平らげていた。


「……ああ、食ってくれ」

「わーい! いただきまーす」


 すぐに俺の特大爆弾おにぎりを手に取り、むしゃむしゃと食べ始めた。

 あまりの食いっぷりに見ていて気持ちがよかったが、自分で食べる気にはなれない。


「あんた、本当に化け物ね……あんな小さい見かけしてるのに」


 アガタが水を飲み、呆れたという目で、見かけによらずがっついて食べるゆーりを見た。


「とってもおいしいですよ! 量もあっておいしいですし。もったいないじゃないですか」

「……次からは少し考えてから頼むようにするわ」


 そしてゆーりが二つ目の特大爆弾おにぎりを平らげ、アガタの分を口にしようとした時に、ミネルヴァが注文したものが届く。

 俺の予想通りそれはラーメンであった。

 どんぶりの上に大量の野菜がそびえたち、周りにぶつ切りの肉が添えられている。

 その下にスープと麺があるのだろうが、全て野菜に隠れていた。


「わー! ミネルヴァ、すごいです! 次は私もそれを食べます」

「ああ、これもおいしいぞ。どうもゴスアンシールドを装備すると体力の消耗が激しくてな、がっつりいただこうじゃないか」


 ミネルヴァがゆーりの羨望に満ちた眼差しに微笑んで返すと、手を合わせて高く積みあがった野菜を食べ始める。


「あなたたちよくこんなに食べられますわね……」

「本当よ。お腹がどうなっているか見てみたくなるわ」


 メリエルとアガタが、とてつもない量の食べ物をがっつくゆーりと、黙々と食べるミネルヴァをぼんやりした目で見つめていた。

 まさかミネルヴァまでここまで食べる性質とは考えたことがなかった。

 まるで岩のようなゴスアンシールドを担ぐのは、やはりそれ相応のエネルギーがいるのだろうか、と考えてしまう。


 三個目の特大爆弾おにぎりはあっという間に半分になった頃には、ミネルヴァの食べるラーメンは野菜をほとんど平らげ、麺を勢いよくすすっていた。


「あのように音を立てますとは、下品ではないこと?」


 メリエルが俺に質問するが、俺は首を横に振った。


「あれは、ああいう食べ物なんだ」

「そうですのね。汚らわしく思えますが、とてもおいしそうに食べる姿は、羨ましいとすら思ってしまいますわね」


 メリエルが一心不乱に麺をすするミネルヴァの方を向きながら呟いた。


 そしてあっという間に大量の野菜と麺を食べ終え、ミネルヴァは一息をついていた。

 同じ頃にゆーりが全て食べ終わり、腹をさすりながら満足げな顔をしていた。


「もう食べられませんー。お腹いっぱいですー」

「ゴスアの兵士はこれくらい平気で食べるのだろうか」

「日々厳しい訓練を受けているだろうから、これくらい当り前だろうな」


 ミネルヴァが何もなかったように俺の疑問を拾って答えた。

 先ほど凄まじい量の料理を食べたのに、顔色一つ変えないのはさすがだ。


 食べ終わり、俺は食堂から出た。

 しかし一人のおばさんがミネルヴァを引き留め、俺はその一部始終を窓から眺める。


「あなた、ちょっといいかい?」

「どうしたんだ」

「どうしたじゃないよ。どうしてあなたみたいな初めて顔を見る人が、あんなメニューを知っているんだい。騎士の中でも知らない人が多いというのに。新参者じゃないでしょうに」

「ああ、そうだったな。それが……」


 最後の方が聞き取れなかったが、ミネルヴァが苦笑いをしながら懐から何かを見せた後、そそくさと部屋を出ていく。

 残らされたおばさんは信じられないと言うように、口を手で押さえていた。


「なぁ、ミネルヴァ。いったい何を話したんだ。おばさん達に何を見せたんだ」

「今は話す時じゃないんだ。だがいずれ話すさ」


 ミネルヴァが俺の耳元で囁いた。

 そして俺達は騎士が門番をしている広場に出た。

 俺は後ろを振り返り、西棟の建物の隣にある荘厳な建物にかかっている時計を見ると、まだ昼間で散策する時間はありそうだ。


 空を見上げると曇り空であったが、雨雲ではないのでまだ雨が降る心配はなさそうだ。

 だがもし明日に雨が降ったとなると、湿地がさらに歩きにくくなり、依頼の達成が困難となる。

 俺は明日雨が降らないようにと、考えながら門を抜けた。


 騎士達が見張っている巨大な門を抜け、俺達はとりあえず今日の宿について考えることにした。


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