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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
36/75

第2章10部:積荷の護衛

 西棟の建物に入り、俺達は会議室を目指した。

 階段を駆け上がり、三階に騎士団会議室を見つける。


「お待ちしておりました。あなた様がゆーりさんですね。今回のご依頼を受諾いただき感謝いたします」


 中で待っていたのは椅子に座って机の上で手を組み、物腰の柔らかい口調だが、屈強な肉体を黒い軍服に包んだオールバックでメガネの男性だった。


「私はジークと申します。ゆーりさんにとっては今回の依頼主でございます。私はベルーコ王国より抜け出して、このゴスアの地にて腕っぷし一本でここまで駆け上がりました。元はベルーコでも軍人として武勲を上げようと躍起になりましたが、もっと名を馳せるにはゴスアの方が適しているのではないかと。それからの行動はとても早かったです。すぐに除隊の申請書を書いて、引き留める上司を振り払い、ゴスアの門を叩いたものはいいものの、新参者の私を認める人はほとんどいませんでした。ですがそこを自らの力のみを自分の頼るべきものであるとし、仲間内における政治や妬みからくる嫌がらせを受けながら、私はくじけずに邁進してまいりました。そして紆余曲折ありましたが、同僚はおろか上司をも蹴散らし、今の私がいるのです」


 ジークは朗らかな笑顔で、流暢に言葉を紡いで自らの来歴を含めた自己紹介をした。

 年齢はミネルヴァより上と言った感じだ。

 優しそうな外見や、話すことを純粋に楽しむ様子とは裏腹に剣の実力や、軍人としての才覚は凄まじいのだろう。


 ゲーム内では戦闘することはなかったが、他国のみならず自国ですら畏怖されている存在であり、剣を交える場合があるときは覚悟しないといけないのだろう。


「それではゆーりさん……ですかね?」


 ジークが俺の顔を見ながら尋ねた。


「いいや、俺はマサキっていうんだ。ゆーりは今俺の隣にいる、この小さい女の子だ」

「あ、あの初めまして。ゆーりと言います。召喚士をやっています。え、えーと食べることが好きです。ラインゴッドを目指しています。え、えーと、その……好きな食べ物はみかんです。でも何でも食べます。嫌いなものは、えーと」


 ゆーりがジークの顔を見て緊張しているのか、目を回しながら早口でよくわからなことを話しだした。

 とても混乱したように腕をじたばたさせながら話す。


「ゆーりさん。よくわかりました。とりあえず落ち着いていただきまして、そちらの椅子にお座りください」


 ジークは何一つ取り乱さず、笑顔を崩さずに冷静に返した。


「ささ、ここまで来るのもさぞ大変でしたでしょう。旅に同行している皆様もお座りください」


 俺達はジークに言われるがまま椅子に座らさせる。

 ゆーりは肩を強張らせ、膝の上に手を置いており、まだ緊張している様子であった。


「しかしながら皆様。正門から入るとはとても骨が折れたことでしょう。正門の騎士達も口では服従していますが、腹の中は私を団長としては認めてはいないはずです。裏口の番兵であれば私の直属となるため、そちらを通るようにと、ご連絡を差し上げたはずですが」

「いや、まったく聞かされていないんだが」


 俺は首をかしげて答えた。


「これは大変失礼いたしました。私の不手際でございます。これからは正門をお使いください。騎士達にはこちらの方に伝えておきます」


 ジークが頭を下げて陳謝する。


「それで依頼の件ですが……」


 ゆーりが懐から英雄の証を取り出して話を切り出すと、ジークははっとしたような顔をする。


「そうです。そうなのです! 今回皆様をお呼びしたのは他でもありません。ゴスアの命運を賭けるともいってもよい計画のお手伝いをしていただきたいのです」


 ジークが目を輝かせて俺達を試すように視線を配っている。

 そして提出された英雄の証を読み、うんうんと頷く。


「ショウイゼ家という貴族からの推薦状ですか。その年齢で義理ではなく実力で得たということは、こういっては何ですが見かけによらず相当な手練れということですね。素晴らしい! それでこそ資格があるというものです。最近は英雄の証を親族からの義理で得る方が散見しており、半ば形骸化し、その意義を失っているということに私は憤りを感じていました。本来であれば実力のあるものにのみ渡すべきものを、義理で渡すなどと! そんな義理許しで英雄の証を渡す者への推薦理由はいつもこうです。優れた指導のもと訓練を地道に重ね、指導者をも認めさせる力量を得たため授けるとね。いやぁ、反吐がでますよ。つまり私はまだまだ実戦経験がありませんが、訓練と家柄だけは一丁前です。だから強い仲間のいる高い難易度の依頼をさせてくださいって言っているようなもんですよ。いやぁ、戦闘をなんだと思っているのかと、小一時間説教したいですね! 強者に寄生するだけでは何もためにならないというのに! 自分で欲しいものは自分でつかみ取れ。それで力をつけ知恵を絞れと……」


 ジークが流暢に熱弁しており、俺達は苦笑いをする。ゆーりも同じく苦笑いしており、怖い人と言うよりは変人なので、緊張は多少ほぐれたといった感じなのであろう。


 一度火が付いた場合の、ジークが話した時のセリフ量が他と比べると圧倒的に多く、思わずスキップボタンを押したくなる。

 しかしいざ本物を見ると圧倒されてしまうのだ。ないはずのスキップボタンを探してしまうし、こんな気持ちよさそうに話しているジークの会話を飛ばしたら、何かバチでも当たりそうで怖かった。


「おっと。失敬。また話しすぎてしまいました」


 ジークが短髪の頭を下げる。


「それで今回の依頼ですが、ご存知の通りゴスア帝国特製の花火をベルーコ王国にまで運んでいただきます。ネルトゥスへの祝祭に彩りを添える物として、ゴスアの技術を紹介するのです。それを通じまして、ゴスアとベルーコの長年における対立を氷解させることを考えております」


 ここまでの話は出発前に聞いたことなので、俺達はジークの言葉に相槌を打つ。

 聞きたいことはここからなのだ。


「それでなのですが、積荷の護衛として実力者のある方を選んだ訳は、ゴスアから天然の要害に囲まれたベルーコに向かうまでの道のりには湿原地帯を超える必要があります。そこは獰猛な魔物が潜んでおり、その退治も含めて護衛してほしいのです。本来であれば我々が行うべきなのですが、騎士を率いてベルーコへの難所を通過するのは、ベルーコにとって圧力や不信感を与えかねません。そこで依頼とあれば受諾し、実力のある勇敢な冒険者に依頼をしているのです」


「積荷の護衛と魔物の討伐を兼ねているのですね。それで積荷はどうやって運ぶのでしょうか」

「何の変哲もない馬で引いて運ぶことになりますが、先ほど申し上げた通り湿地地帯と言うことで地面がぬかるんでおります。おそらく車輪や足がぬかるみにはまり、うまく動けなくなる可能性がございます。その際は皆さまが協力して運んでください。そのためには事前に魔物を倒し、周りの安全確保をお勧めいたします」


 ジークは詳細だけでなく、攻略の手引きのようなものも教えてもらえる親切さであった。

 実際にゲームを遊んだ場合は先ほどのように詳細に語られずに、導入部分はシンプルに片づけられるのだ。


「わかりました。気を付けて進むようにします。それで魔物についてご存知なことはありますか」

「魔物ですね。様々な種類の魔物が襲ってきますが、最も注意すべきは怪鳥・エルダーグリフォンでしょう。我々よりも二回り以上の大きさです。口から電撃を吐き出し、直撃した獲物をまるこげにさせます。鳥ということもあり、飛んでいますので、ぬかるみに足を取られた獲物を、鋭利な鉤爪で的確に仕留める狡猾な一面を持ち合わせております。比較的乾いた場所であれば戦いやすいでしょう。我々もそのようにして討伐を行っております」


 グリフォンと聞いて俺は息をのんだ。

 ゲームでも通常のグリフォンであれば、少し強めの魔物であるが問題なく倒せる。


 しかしそれより強いエルダーグリフォンが相手となると話は別だ。

 通常種よりも鋭い爪に、見境なく獲物を迅速かつ確実に仕留める獰猛な性格、そして電撃を放つという性質があり、装備の強化やメンバーのレベルも十分高くないと倒せないほどの強敵だ。 

 特に繁殖期に近づくとさらに凶暴かつ好戦的になる。


「エルダーグリフォンですって? 骨のありそうな相手じゃないの。そんなのあたしの魔導で一発で焼き鳥にしてあげるわよ。なんたってあたし天才ですし」


 自分の魔力を発揮できそうな相手となるや、アガタは目を輝かせ声を大にして喜んだ。


「アガタ、エルダーグリフォンは相当な強敵だ。心してかからないと足元をすくわれかねないぞ。まだ正体のわからなかった頭目とはわけが違うんだ」


 ミネルヴァが期待を膨らますアガタを注意する。


「そうですわ。怪我を最小限に抑えて、もしもに備えて、力を蓄えることが肝要ですわ。わたくしの魔力や、ミネルヴァの体力が無制限にあるわけではないのですわ」


 メリエルがミネルヴァに続いて、アガタを注意する。


 二人の言っていることはもっともで、できるだけエルダーグリフォンと接敵した場合は被害を抑えながら戦いかった。


「はいはい。よーくわかったわよ。今までは人間相手だと手加減しちゃうから、魔物……それも強いやつが来るとなると、久しぶりに全力を出せるから楽しみにしていただけよ」


「まぁ、アガタに忠告しても無駄と言うのはわかってはいた。あなたが忠告程度でやめるような性格でもない。ならば私のやることは全力で盾となることだ」

「いいえ。ミネルヴァ。あの犬にはいつか厳しさと言うものを教える必要がありますわ!」

「お前達やめとけって。あのわがままバカ女のことだ。どうせあんな大言を吐くのも、自分が目立てるからってことだろうよ」

「なんか言った? ケチガキ」


 キッドの小言にアガタがきりっと睨みつけて威嚇する。

 キッドはそれを見て仰々しく驚いた振りをしてゆーりの裏に隠れる。


「ははは。皆様は自分の力には自信がおありのようで、依頼する側としても安心しました。エルダーグリフォン相手に臆せず立ち向かうなんて、さすが英雄の証を手に入れた方々です」


 ジークが仲間達の口論を見て、和やかなコメントをする。


「鳥の丸焼き……どんな量なんでしょうか……そもそもグリフォンっておいしんですかね……」


 一方でゆーりは先ほどのアガタの鳥の丸焼きと言う発言で、涎を垂らして空想に更けている。

 間もなくして腹の虫が鳴る間抜けな音がした。


「皆様は昼食を済ませていないのですか? それはなんということでしょう。何事をするにしても腹を満たしておくことが大事です。訓練のみならず会議でも、空腹のままでは訓練も身に入らず、大事なことも頭にも入らない非常に効率の悪いことになります。古い体質の教官が多いときはまさにそうでした。根性論と言うのですか、精神論というのでしょうか。そんなもので力が出るのであれば、食事の時間なんて設ける必要がございません。そういう教官は獣は餓えた時が最も強くなるとお考えと聞きます、ですがそれは改めた方がいいのです。なぜなら我々は人間であり決して獣ではないのです。食う時には食う、寝る時には寝る。そして訓練や実戦時はそれに集中する。何事もメリハリが肝心なのです。でないと効率性はもとより、一番の要な時にこそ邪念が現れて、結果が失敗に終わったり無駄なことに費やしていたとなるのです。ああ! せめて空腹でしたらそうおっしゃっていただければすぐに用意させていただいたのに」


「いえ、話の途中となってしまって、ごめんなさい」


「もう話はあらかた終わったので、問題ありません。明日の明朝に外で荷台を待たせていますので、その御者を護衛してベルーコへ向かってください。スムーズにいけば半日もすれば到着するでしょう。宿の方は前金を渡しますので、これで各自取ってください。ああ! それよりも食事ですね。下に兵士用の食堂がありますので、そちらでお取りください。口酸っぱく申し上げますが、肝心な時ほど邪念と言うものが発生します。まずは腹を満たして、体調を整え明日に備えてください」


 ジークが金の入った袋をゆーりに渡す。

 ゆーりは中身を見て目を丸くしたので、俺もその中をのぞき込む。

 金貨や銀貨が大量に入ったその袋は、前金にしてはいささか多すぎるような気もした。


「ひゃー! これなら遊び放題贅沢し放題だな!」


 キッドが嬉しそうに飛び回る。


「こういうのは後で中身を見たうえで分配するからな。もしお前が取り分以上に取ったらどうなるかわかるよな」


 俺がキッドに釘を刺すように言った。

 ここで金銭面で何かもめ事が起きたら、後々収集がつきにくくなるので、あらかじめ行動に打っておいた方がいいと考えたのだ。


「へいへい。俺だって頭の痛さに比べれば、金をとるような真似なんてしねえ。だけど俺は報酬の分だけ働くことがモットーだ。報酬以下、それ以上の働きはしないぜ」


 キッドが手を頭の裏で組み、口笛を吹きながらゆーりの周りを飛ぶ。


「わかっているならいいんだ」


 俺はキッドにそう言うと、今度はジークの方に向きなおす。


「一点だけ質問いいか」

「なんでしょうか。食堂のおすすめでしょうか」

「それも気になるが違うんだ。俺達以外にもこの護衛の依頼を与えているんだろう。そいつらも全員湿地を通ったのか」


 朗らかなジークの眼鏡の奥の目つきが、一瞬だけ鋭くなり、俺の目を強く見た。

 まるで殺気のようなものを含み、相手を恐怖させるその眼光に俺は一瞬たじろいだ。

 しかしすぐに優しい表情に戻った。


「いい質問ですね。他の方は湿地の脇にある山道を通っていきました。こちらは最短ルートになるのですが、道幅が狭く、積荷を輸送するにも限界がございます。今に残った量が職人の張り切りも相まって大量となってしまい、例外として湿地を向かうことにさせていただきました。もっとも山道の方こそグリフォンの住処でありますゆえ、あちらの方こそ戦闘が避けられないかと」


「……なるほどわかった。言うまでもないと思いますが、仕事はスムーズの方がいいと」

「その通りでございます。ですが何が起きるかわからないのが今回の依頼です。祝祭の開始よりも早めに納品したいと考えております」

「了解した。なんとかしてやり遂げるようにする」


「ご武運をお祈りしております。ゴスアの命運がかかっておりますゆえ。あ、そうそう食堂のおすすめですが、ゴスア名物・特大爆弾おにぎりがおすすめです。騎士や私もおすすめです。特に朝の訓練の後の昼食にはたまりません。手早く済ませたい。だけど腹を満たしたい。その両方を満たしているこの特大爆裂おにぎりは我々のニーズに応えています。しかも日替わりで具材を変えておりまして、昨日は紅鮭、おとといは昆布のつくだに、今日は様々な具材を混ぜたものとなっており、皆様はとても幸運ですよ。いやー頼もしい方々の来訪日に、ミックスだなんてまるで我々に景気祝いをしているのではないでしょうか。私も大きな戦や負けられない戦いの時は……」


「えー、そろそろ俺達出ます。食堂の時間とかもありますので。ありがとうございました。吉報を期待していてください」


 ジークの話が長くなりそうだったので、俺達はいそいそとその場を後にする。

 ジークは何も聞こえていないのか、ずっと特大爆弾おにぎりについて熱く語っている。

 その弾んだ声は俺達が部屋を出た時にもまだ聞こえていた。

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