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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
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第2章6部:折れた剣

 俺達は酒場を後にして馬車のある大通りまで向かう。

 市場の中で買い出しをして慌ただしい人々の合間をすり抜けていく。

 馬車に乗り込み次第、依頼のあったゴスア帝国まで向かう予定なのだ。


 人ごみの中を切り抜け、広場に出ると俺はある掲示板に目がいった。

 まるでそこをチェックしろと言わんばかりに掲示板の枠が金色に光っていたのだ。


「なぁ、ゆーりちょっとあれを見よう」

「え、なんですか? 掲示板……ですか?」


 俺が掲示板の方を指すと、ゆーりは不思議そうにそちらの方へ振り向き、俺と一緒に向かう。


「ふーん。なるほどな。こういうことが書いてるあるものなのか」


 掲示板の中にはこの世界と思わしき文字が書き連ねていたが、そこから浮き出るように俺達の使う日本語が表示されていたのだ。


 そこにはガチャの排出キャラの予告、イベントの告知、キャラクターの強化などに関わる調整内容が書かれていた。

 次回は水着イベントとのことらしい。いかにも夏らしい企画だ。


「ちょっと、あんたなんでこんなところで道草してんのよ!」

「ああ、いやちょっとな……」

「ふむふむ、どれどれ。……人気漫画の天才魔法少女セーラの最新刊が発売ですって!? ずっと待っていたのよね!」

「マサキ、この特売品のチラシを見てどう思う。なんと今日は特殊な鋼でできた鎧を特価で提供しているらしいぞ」

「まぁ、新しいお芝居をやるのですの!? ある男と動物の奇妙な友情の物語……恋愛以外を見るのは久しぶりですわ!」


 アガタとミネルヴァ、そしてメリエルがその掲示板を見ながら自由に話し始める。


 どうやら俺の読んでいる内容とは別の物を読んでいるのだろう。

 だがその話しぶりや興味の示し方から、俺のものと根本的に書いてあることが違うのかもしれない。


「ん、なんだこれ。おい、これあいつ宛にだってよ」


 キッドが掲示板の上にぶら下がっている、『召喚士へ』と書かれた袋を取ってくる。

 ジャラジャラと何かが擦れる音のする袋の中を見て、ゆーりは驚いた。


「こ、こ、これって創蒼石じゃないですか!? どうして私宛に……」


 袋の中や外のどこにも宛先以外の文字はない。

 俺はさっとどういうことなのかを察したが、あえて黙っていた。


 おそらくこれはスカディが言っていた詫び石なのであろう。

 まさかこういう形で提供されるとは思わなかった。


「よかったじゃねえか。俺達の働きを評価してくれたんだろう。それにしても結構な量があるな」

「ええ、そうですね! これで新しい人や皆さんを強化できます!」


 ゆーりは満面な笑みで答えた。

 ジャラジャラと石を擦らせて音を鳴らすゆーりの足取りは軽い。

 思いがけず旅を有利にする道具を手に入れたのだ。

 俺だってちょっとした不具合などで石をもらえたら、思わず笑顔がこぼれていたのだ。


「召喚しないのか?」

 俺はとりあえず聞いてみた。

 しかしゆーりはすぐに石を使うことはせず溜めるようだった。


「んー。もう少し溜めてから使うのもいいかもしれないと思いまして……」


 ゆーりは人差し指を顎に当てて少し思案してから答えた。


「そいつはもったいない。せっかく俺達の活躍を支援しているんだ。それに応えるために、少しでも強くなるのが先決じゃないか?」


 俺が食い気味に詰め寄る。

 俺はガチャにおいては我慢できる質ではなく、たまり次第すぐに使ってしまうのだ。

 だから使うのを躊躇気味なゆーりに、いてもたってもいられなかった。


「うーん。確かにマサキの言う通りかもしれませんね。冒険を今後も安全にいけるように、召喚して見ましょうか。今後の願掛けになるかもしれませんしね」


 そういってゆーりは善は急げとばかりに留守中の家に上がり込んでいった。

 あまりにも大胆な行動に俺は慌ててついていった。


 ゆーりは家の中で、初めて会った時のように魔方陣を描き始める。

 鼻歌交じりで描いており、魔方陣はあっという間にできあがった。


「ちょっとちんちくりん! あたしにとっての最高の魔導書を召喚しなさいよ! あたしの天才っぷりを助けるような優れた魔導書をね!」

「おいおい。本当にバカ女かよ? 新しい魔導士がやってきて、お前のライバルが来るかもしれないんだぞ?」

「ふん! どんな奴が来ようと、あたしに勝てる魔法使いなんていないわよ。なんたって未来の大魔導士なのよ!」


 キッドの小言を払いのけるように、根拠のない自信でアガタが腰に手を置き、自信満々な顔をする。


 魔方陣が輝き、扉が光りだす。

 虹色に輝いている。俺はガチャの結果がインフィニットレアであることを確認し、高鳴る胸を抑えながら扉を見る。


 ゆーりが扉を開くと、人が立っておらず、赤い刃の曲刀が荘厳な台の上に鎮座していた。


 俺は曲刀に近づき、手に取ってみる。触ると曲刀の上部に、『真紅(ヴォーパル)滅鬼刀(エッジ)』と書かれていた。

 ランクは最高レアのインフィニットレアだ。


 俺はその武器に強く興味を惹かれ、血塗られたような艶やかな赤色の刃を吸い込まれるように見つめた。

 なぜなら俺がゲームをしていた時には、この武器は未実装だったのだ。

 アップデートで追加された武器は、能力値が高かったり、強い特殊能力が付与されていたりと、高性能なものが多い傾向にある。

 付与されているエンチャントは、『覇統鬼に対してダメージ増加』とあり、これからのクエストに役立つことは間違いなさそうだ。


 装備し使い心地を試したいところだったが、まだ召喚は終わっていなかった。

 ゆーりは先ほどの石を全て使い、5回の召喚を試みているのだ。


 次に出てきたのが、巨大な盾であった。

 表面がごつごつした岩のようなものが表面を覆っており、ミネルヴァが使っている盾よりもとても分厚い。

 ゴスアンシールドという名前の盾で、レアリティはスーパーレアだ。

 爆発などの衝撃を耐えることに特化しているのであろう。

 だが見た目が非常に重そうで、持ち歩くだけでも大変そうに見えた。


「私の盾か。非常にありがたい。これだけ分厚ければ守ることだけでなく、武器としても使えそうだ」


 ミネルヴァは軽々と持ち、その表面の岩肌をさすった。

 そして今まで使っていた盾と入れ替えるように、背中に担いだ。

 白銀の髪が邪魔なのか、盾を一旦おろし、後ろで短く結ってから担ぎ直した。

 その後も何事もないように歩いていたため、どうやらミネルヴァからすればそこまで重くないようだ。


 次の召喚で魔導書の姿が浮かび上がると、アガタは喜々とした表情で、長い青髪を揺らしながら台へ近づき、現出した魔導書を手に取り、掲げた。


「あっはっはっは! これって魔導書じゃない! やったわ! これであたしがますます天才に近づき、あたしの魔力はさらなる高みへ行けるわ!」


 アガタが上機嫌にその魔導書をペラペラめくっている。キラキラ輝かせて、その中身を見ていた。

 魔導書は一見すると何の変哲もない普通の形をしている。

 名称は噴火のグリモワールと表記されていた。

 効果を確認すると炎属性のダメージを上げ、爆発の追加ダメージを与えるとのことだ。

 スーパーレアだが、多人数を蹴散らす時や、相手に強烈な爆発を与えるアガタのクライマックスアーツと相性がいいだろう。


 アガタが嬉しそうに詠唱を始めたので、俺は慌てて口を塞いだ。


「おい、やめろ! ここでそんなものぶっ放したら、下手すればこの家がぶっ壊れちまうぞ」

「んー! いいじゃない! 新しいものを手に入れたら、早速試したくなるのがサガってものでしょ!」

「そういうのは、戦闘で発揮するもんだ。ここでは大人しくするのが大魔導士としての器じゃないのか?」


 俺はため息をつき、やれやれと肩をすくめる。

 アガタは水を差されて機嫌が悪いのか、俺を睨みつけながら頬を膨らませて我慢している。


 ミネルヴァ、アガタと来て次はメリエルだろうと、予感すると、それは見事に的中した。

 台座の上には色とりどりの宝石で装飾されたといよりは、ステッキが置かれていた。


「まぁ、とてもきれいな杖ですわ。まるでわたくしのためにあるようなものですわ」


 メリエルがそのステッキを手に取り、軽く振る。

 すると宝石の輝きが軌跡を描き、軽やかな音色が鳴り響く。


「素晴らしいですわ。持ってこの杖に力を加えるだけで、精神が落ち着いて、集中力が研ぎ澄まされているようですわ」


 メリエルがスカートをなびかせながら回り、ヒールでステップを刻み、まるで踊っているかのようにステッキを振り鮮やかな軌跡を描く。

 その動きはまさに優雅であった。


 杖の名称はエーデルハルモニーというもので、レアリティはインフィニットレアである。

 そして特筆すべきは、そのステッキがメリエルの専用装備であるという点である。


 キャラクター個人には専用装備が用意されており、装備することで能力が強化され、特殊な能力を発揮したり、特別なエフェクトが発生する。


「メリエルよかったじゃないか」

「ええー!? どうしてあんただけそんないいものもらえるのよ!? あたしも欲しいわ!! ちんちくりん! あたしにもあんなきれいで強そうなものちょうだい!」


 メリエルが楽しそうにエーデルハルモニーを振り、鮮やかな弧を描き、軽やかな音色を鳴らしている。

 ミネルヴァは満足そうに称賛と、アガタが子供のように駄々をこね始める声がした。


 そして最後に出てきたものを見て、俺を除いた皆は言葉を失う。

 最後に出てきたのは、朽ちて折れてしまった剣なのだ。


 特徴的なところが、剣の鍔の部分が丸い空洞となっている点しかない。

 そして名称も折れた剣とあり、ステータスを確認すると能力値は最低であった。

 どういうものか気になる武器の詳細を確認すると、不明としか書かれていないのだ。


 レアリティはレアであるが、どう見ても外れのようである。

 強化すれば強くなるというありがちなものとして、捨てずにとっておくのが吉であろう。


 俺は何も言わずにその剣を手に取って、懐にしまった。

 それに誰も文句は言わない。

 各々の装備が整い盛り上がっていたところに、白けてしまった感じである。


 全員が折れた剣について反応に困っていた。

 ゆーりもなんと言えばいいかわからず、おろおろしている。


「あ、あの、その……ごめんなさい。最後にちょっと不良品みたいなの出しちゃって。おまけに旅の仲間も召喚できませんでしたし。やっぱ私ってまだまだ見習いですよねぇ……」


 ゆーりが最後に自嘲気味に笑うが、俺は励ました。


「まぁ、気にすることじゃない。全部大当たりなんてことの方が珍しいんだ。これくらいあっても仕方ない。むしろこの剣が元はどんな姿か気になるほどだ」


 ゆーりに言ったこの言葉はお世辞ではなく、俺の好奇心によるものだ。

 正体不明の武器に、未完成な状態。

 俺はとても心がゆさぶれた。

 真の姿を目にしたいという楽しみが生まれたのだ。


「そうだぜ。ちょっと修理したり、強化すれば使えるようになるだろ。もしかしたら何か意味があるかもしれないぜ。例えば伝説の聖剣とかさ。だったら最高だぜ。交易都市のミルタマスで珍品として俺様が売り飛ばして、豪華なケーキをたらふく食えるんだぜ?」


 キッドが俺に調子を合わせるようにしゃべり、場の空気を和ませようとする。


「見た目から察するに相当な時間をかけたか、遠くから流れ着いたものだろう。もしかしたらラインゴッドに関わる装備かもしれない。そうなれば旅の目的にもつながるんじゃないか」

「ま、あたしは自分の魔導書があれば問題ないわね。そんなしょうもないものは、バカキにお似合いだわ」

「わたくしはこんな杖をいただけたので十分ですわ。むしろこちらが礼を尽くすべきですわ。それに一つくらいダメなものがあっても気にしてはいけませんわ。そういうのもまとめて受け入れることこそが大事ですもの」

「皆さん……ありがとうございます」


 ゆーりが俺達に深く頭を下げて、礼を言った。


「よし。装備も整ったし十分だろう。とりあえず依頼先へと向かおう」


 俺達は無人の家屋をを出て、広場のすぐそばに止めてあった馬車に乗り込んだ。

 馬車を操縦する御者は、心地よい陽気の下で寝ていたのか、目が少し眠そうであった。

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