第2章4部:英雄の証
俺達はドアを開け、外へ声が漏れるほど賑やかな酒場の中へ入る。
酒場の中は冒険者達同士の会話で騒がしく、入口のベルの音に気づいた受付の女性が俺達を見て、ひどく驚いた顔をした。
「あ、あなたたちは!? 生きて帰ってくるなんて、もしかして先日の依頼は!?」
受付の驚いた声で場が静まり返り、俺達に視線が集まる。
先日見た顔もちらほらいた。
朝から酒を飲んでいる酔っ払いや、食事をしている冒険者が動きを止めて、俺達を注目する。
「えーと、それがですね」
ゆーりが目を泳がせながら答える。
「達成したといえば達成したのですが……」
「ですが? どういうことなんですか」
受付の詰められるゆーりの言いたいことはわかった。
表向きではロジャーが依頼を達成したことにしているため、報告する俺達の立場からすると失敗だ。
だがロジャーを助け、実際に依頼品を取り戻したのは俺達だから、実質達成したのは俺達になる。
「まぁ、結構ややこしいことになってるんですよ」
ゆーりが助けを求めるようにこちらを見ていたので、俺はやれやれという風に頭を掻きながら割り込む。
「単刀直入にいうと、今回の依頼は失敗です。依頼の物は俺達ではない他のものが取り返していたようなんです。その報せは届いていませんか」
俺の言葉で場が凍り付く。
そして客達は元に戻ったように談笑を再開したり、酒を飲み始めた。話の内容には俺達を嘲笑するような声も聞こえる。
「いえ、その報せについてはまだ着ておりません。しかし失敗したとなると、報酬等はないということですね。命あっての物種と言いますが……」
受付がわざとらしく大きなため息を吐き落胆する。
依頼成功による、依頼主からのマージンを受け取ることができないからであろうか。
「まぁそうお考えになるのは無理もありません。ですが気を落とすことはありませんよ」
俺が笑顔で励ますように言う。
それを聞いた受付は俺を睨みつけた。
眉間を皺に寄せ、目を細めて、まるで今にもどこかに不満をぶつけたいといった感じだ。
「手ぶらで帰るほど俺達も間抜けじゃありませんので」
合図をするように指を鳴らすと、俺の後ろから鷹が紙を携えて飛んでくる。
そして受付のカウンターに行儀よく止まり、紙を置き、再び飛び去った。
その突然の鷹の来訪に受付は驚いている。
俺は指をトントンとカウンターを叩き、その紙に注意を向けさせた。
「さぁ、とりあえずはそれを読んでみてください。何かもっと驚かせるようなことが書いてあるかもしれませんので」
俺が余裕綽々に言った。受付はそれを読みながら震えている。
最初は懐疑的だった表情は次第に歓喜に満ち、笑顔がこぼれていた。
「す、すごいですね。ゆーりさん達……まさか、こんな……すごいですよ」
「えーっと。何が書いてあるんですか」
ゆーりが少し困惑した様子で尋ねる。
「ゆーりさん達は依頼を失敗したものの、差出人であるロジャー・ショウイゼ氏は、その成功の秘訣の大部分は皆さんのおかげであると。そしてロジャー氏が当主となったのも皆さんの協力があったとのことです。当主の入れ替わりについては公布がまだされていないため、私も知りませんでした。噂なら昨晩より流れていましたが」
受付が書類から顔を上げ俺たちの方を見た。
「まさかそれすらもゆーりさん達の力とは」
「いえいえ。私はマサキさんに従ったまでです」
「これくらいの依頼ならお手の物ですよ。もっとも手柄はロジャーさんのものですがね。そのおかげでいい方向に転がったのですから、失敗したとはいえ後悔はしていません」
俺はごく当たり前のように返事をした。
キッドがジト目でこちらを見ている。
「それで最後にですが、この功績を称えて、ロジャー氏が管轄する地域での依頼をこちらの酒場へ優先して振ると。その代わりゆーりさん達に他の重要案件を優先的に斡旋するようにとあります。その証明として英雄の証を渡すとのことです」
受付は書類に添付されている小さな紙をゆーりに渡した。この世界の文章とともに赤い印鑑が押されている。
これを所有することで高難易度の依頼を受けられるようになるのだ。
例に漏れずキャラの育成やレアドロップにも関わる。
俺たちとしても早くこんな貧弱な装備は手放したい。
本来はランクを上げることでイベントを経て取得し開放されるため、序盤で手に入れるのは不可能なのである。
英雄の証という言葉が周りに漏れたのか、再び酒場内がざわつき始める。
そして視線はユーリ持っている小さい紙、英雄の証に注がれていた。
これでなんとかここの連中を見返すことにはなったので、俺達は新しい依頼について話を始めようとする。




