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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
殷賑の祝祭防衛編
29/75

第2章3部:馬車の中にて

 俺達は屋敷を後にして、ギルドへと向かう。

 ロジャーの好意で馬車を用意してもらい、到着まで車内で時間を潰すことになった。

 馬車の中は賑やかなものでまるで遠足のようだ。


「ちょっと! あたしにもそれをよこしなさいよ!」

「嫌だね。お前もあの貴族のおっさんからもらいな。これは俺様のもんだ」

「何言ってんのよ! もう屋敷からは離れているんだけど! それにあんた独り占めしようなんてそんなことあたしが許すわけないでしょ!」


 アガタとキッドが何やら揉めているようだ。

 どうやらキッドの持つビスケットをアガタが欲しがり、キッドがそれを断っているようだ。

 キッドはアガタの周りをバカにしているかのように笑いながらフラフラ飛んでいる。


 ミネルヴァは微笑ましい光景を見るように静観しており、メリエルは関心を示さず外の景色を眺めていた。

 鳥たちが元気よく飛び、野原を動物が駆けまわっている。遠くでは鳥や動物だけでなく、旅人や交易に向かう商人が他の土地へ移動している姿を確認できる。


「ちょっと、バカキも何か言いなさいよ。こんなわがまま通したら、みんな喧嘩しちゃうわ」

「どういう理屈だよ。それ」

「みんなでお菓子を分け合った方がいいってこと!」

「お前が食べたいだけじゃないのか」

「う……それは」


 俺はため息をついてキッドの髪飾りを作動させる言葉を発しようとする。

 するとキッドが一目散に俺の元へ飛んで行き、わめきながら謝った。


「やめてくれ! わかった。わかったよ。やればいいんだろ! やれば」


 キッドが渋々一枚の焼き菓子をアガタに渡した。


「わかればいいのよ。わかれば」


 アガタは焼き菓子を一枚口に放り込む。


「うーん! とっても美味しいじゃない。もう一枚よこしなさい」

「はぁ!? 一枚やれば十分だろ! どんな思いでお前にあげたのか少しは考えろよ!」

「何よ! このケチガキ!」

「うるせー! わがままバカ女」


 二人の口論は終わる気配がない。俺はそれを眺めて肩をすくめた。


「やれやれ。騒がしいな。少しくらい静かにしてくれ。ゆっくりできたもんじゃない」

「でも皆さん楽しそうでなによりです」


 ゆーりが弾んだ声で言った。ニコニコした笑顔だが、口元によだれが垂れている。


「ゆーりは食べないのか?」


 ゆーりが俺の問いかけに対し、ゆーりはすぐに口元を拭って、愛想笑いで返す。


「さっき凄まじい量のパンを食べたばかりじゃないのか。お前の胃袋はどうなってんだよ」

「えへへ。すみません。でも甘いものやお菓子は別腹って言いますよ」


「やれやれ。キッド、うちの召喚士にもお菓子をくれてやれ」

「はぁ。次から次へと……しょうがねえ。今度はお前らが持ってくるんだぞ。俺様は俺様の分しか用意してないんだからな」


 キッドは渋々ゆーりに近づいて、ビスケットを渡す。


「ありがとうございます。キッド。おいしくいただきます」


 ゆーりが大事そうに少しずつ、焼き菓子を食べ始める。


 メリエルの方を見ると、頬杖をついて風景を眺めている風だったが、様子がおかしい。

 様子を確認しようと首を伸ばすと、ミネルヴァが口に人差し指を当てて、俺の方を見た。


 首を一定のリズムで揺らしており、その目を瞑らせている。

 先ほどコーヒーを飲んでいたが、どうやら寝ているようだ。


 俺はミネルヴァに対し、こっくりと頷いた。


 それからしばらく時間は流れる。野を越え、うっそうとした茂みを迂回した。

 その間に賊の襲撃などは起きていない。


 賑やかな街の声が聞こえ始め、初めて依頼を受けた酒場の近くに到着した。

 街中は買い物かごやメモを持って行きかう人が多く、活発な雰囲気が溢れ出ている。

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