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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
永劫の鏡奪還編
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第1章24部:一件落着

「マサキ……思い切ったことをするんですね……」


 ゆーりが少し俺から距離を置いて、引き気味に言った。

 確かにナイフを高速で投げて威嚇したのだ。

 もし顔面にでも刺さったら大変なことになっていたことだろう。


「あー。やばいな……やっぱやりすぎたか?」

「いいえ。あの者には然るべき罰が必要ですわ。家の名を汚すものは恥を知るべきですわ」

「あいつはあれくらい痛い目見た方がいいわよ。せいせいしたわ」


 メリエルが俺の言葉に同調して頷いた。アガタは満足そうにしている。


「マサキはマサキの信じるべきやり方をした方がいい。まぁこれはお灸をすえるにはやりすぎかもしれないがな」

「ああ、確かにやりすぎたのかもな」


 ミネルヴァが俺の肩にポンと手を置いて言った。俺は思わず苦笑する。


 ロジャーは特に心配する様子もなく、灯りをつけている村人が待つ庭へと出ていく。

 その歩く様子はひどくドライなもので、本心では兄への尊敬の念が消え失せているのが感じられた。

 俺達もロジャーを追いかけて、屋敷を出る。


「皆のもの聞くがいい!」


 庭からロジャーの高らかな声が響いた。

 雲一つない夕闇に、月がはっきりと庭を照らしている。


 灯りにぼぉっと映る村人の顔に生気はない。

 何か不満なことがあればいつでも暴動が起きそうな一触即発な空気が流れる。


「今、皆を支配し、搾取のみを行う、アルベルト・ショウイゼは倒れた。アルベルトに統治をする器もなく、上に立つという傲慢さのみがある。皆の生活を豊かにする友愛すら持たず、税収を搾取する邪知のみがある。ショウイゼ家に脈々と繋がる伝統を捨て、しきたりを捨て去る不遜のみがある。それが皆の生活を脅かす結果となった。そこはこの場を借りて謝ろう。申し訳ない」


 ロジャーの演説に皆聞き入っていた。

 何もかもを信じられない村人はただロジャーの顔に、何かを求めているかのように視線を向けている。


「だが、ここにショウイゼ家を継ぐ者に、必要な証である、我が家系代々伝わる秘宝、『永劫の鏡』がある」


 ロジャーはそういって懐から、永劫の鏡を掲げる。鏡が月の光を反射し、輝いていた。


「怠惰なアルベルトの失態によりこの鏡は、あろうことか一度盗賊の手に落ちた。だが私と、後ろに控える冒険者たちが取り返したのである」


 ロジャーが振り向き、こちらに手を伸ばした。

 村人の諦めきったような視線が俺達全員に向かう。村人の中には、村の酒場にいたマスターの顔もあった。


 俺やゆーりは視線を受け照れていたが、アガタは自信満々に腰に手を当て、メリエルは退屈そうに髪をいじり、ミネルヴァは顔色一つ変えていなかった。


「そして私はこの場で宣言する。私がショウイゼ家の次の当主であると。そして約束しよう。先代の過ちは繰り返させない。失った信頼を取り戻すのは簡単ではない。口で言うのであれば簡単だ。だが私は何としても奪還せねばならないのだ。そう、この鏡を取り戻したように」


 そしてロジャーは村人の前で勢いよく頭を下げる。

 さらに毅然と決意に満ちた顔つきで村人たちを見つめた。


「どうか。私は皆の生活を豊かにさせ、脅威から皆を守ることを誓おう。そしてこれまで山積みとなっていた問題を解決して見せよう。皆の声を直に聞き、その身を以て実行しよう。どうか私に、ショウイゼ家にもう一度機会をいただけないだろうか」


 ロジャーの勇ましい言葉が夜空へと溶ける。

 するとさっきまで冷めていた村人達から、まばらな拍手が起こり、次第にそれは屋敷全体を覆うほど響き始める。


「皆。ありがとう。それでは今日この日を以て、ショウイゼ家の当主をこのロジャーとする」


 ロジャーが宝に宣言すると、村人は新しい当主の誕生を祝い、ロジャーを称える声があがる。


 俺達は歓声を受けて立っているロジャーの後姿をただ眺めていた。

 ゆーりが俺の顔を覗き込んで、嬉しそうに話しかける。


「村人の皆さんも活気が戻ったみたいですね」

「ああ。新しい当主がでてきたんだ。それだけでも期待されるもんだ」

「だけど大丈夫なのかよ。同じ貴族の家だと同じ過ちをするもんじゃないのか」


 キッドが肩をすくめて、俺に尋ねた。


「そのあたりは大丈夫だろう。彼にはアルベルト氏にはない、貴族としての誇りや意志がある。やり通してくれるだろう」

「本当かよ。俺様には信じられねえな。全ての問題を解決するなだって? 到底無理だろ。それをあんな即興の演説でまかせで誤魔化すなんてよ」

「無理だって? そう言う時のために、俺達がいるんじゃないのか?」


 俺が屈託のない表情でキッドへ返すと、キッドはため息を吐いた後、観念したように俺の顔を見た。


「やっぱりそういうと思ったぜ。まぁこうなりゃどこへでもついていってやる。どうせこの件がある以上、俺様に自由なんてあったもんじゃねえしな」


 キッドが嫌味っぽく、髪飾りを指さしながら俺を見つめた。

 俺はそれに対してにこやかな笑顔で答える。


「物分かりが良くて助かる。これからもよろしくな」

「はん。まぁ、俺様は報酬についてはシビアだからな。そこんところ覚悟しろよ」


 キッドが小さい指を俺に向けて言い放つ。


(さて、ロジャーから依頼が来るようになれば、宿や食事はもちろん。資金や装備に困ることはないだろう。一先ずは功労者として、依頼の斡旋や推薦を出してもらって、もっと冒険者として名を上げるか)




 村人たちが新たな当主の誕生を祝い、ひとしきり盛り上がると、ロジャーが手を大きく叩いた。


「さて今日はもう夜は遅い。皆様にお酒やご馳走をもてなしたい気持ちがございますが、申し訳ないのですが、ショウイゼ家はまだまだ下級の貴族です。財や蓄えを持ち合わせてはおりません」


 ロジャーはさらに続ける。


「ですが、皆の生活の安定と充足。それをお約束しましょう。それが実現するころには皆の食事は前とは比べることができないものになっていることでしょう。後払いと言うことでよろしいでしょうか」


 ロジャーの言葉を聞いて、再び村人は拍手をして同意する。

 ロジャーは感謝の意を込めたように大きく一礼をした。


「ありがとうございます。皆、お足元が暗くなっております。くれぐれも魔物の襲撃にお気をつけてお帰りくださいますよう、よろしくお願いいたします」


 村人は庭をぞろぞろと出て、それぞれのねぐらへと向かい始める。

 村人それぞれが新しい当主のことについて、口々に好意的なことを話しているのが印象的であった。


「ゆーり様ご一行、大変お待たせいたしました。それでは改めて屋敷をご案内いたします」


 俺達は屋敷に入るロジャーについていく。

 そして夕食の準備ができていたのか、食堂へと入った。


 ゆーりの腹が大きな腹の音を空かして、顔を赤くしている。

 いつものことのように俺達が呆れた表情をしていたが、ロジャーは微笑みを浮かべていた。


「今回のご依頼を解決するほどの力をお持ちのご一行ですが、こう言う時は年相応ということでしょうか」

「うう……恥ずかしいです」

「ですが、こういう一面がある方が、安心できるというものです」


「ああ。そうだな。仕事一筋のプロフェッショナルもいいが、今回みたいな案外こういう方が思わぬ戦果をあげる場合もあるしな」


 俺がゆーりとロジャーの会話に割り込んだ。


「ところで話しは少し変わるんだが、今後もし依頼とかが起きた場合、俺達を優先的に受注できるよう手配できないか? 俺達もまだまだ半人前だから食い扶持に困っていてな。一回の幸運で次回も依頼があるかどうかわからないんだ。そこで推薦状などをいただけると大変ありがたいんだが」

「承知いたしました。できる限りゆーりさん達の冒険に役立つよう尽力させていただきます」


 俺の方からロジャーの方へ頭を下げて頼みごとをする。するとロジャーは微笑みを崩さす即答した。


「仕事が早くて助かる。ありがとう」

「いえいえ。私にできることをさせていただくまでです。あなたたちは私の命の恩人だけでなく、ショウイゼ家の誇りを取り戻した英雄なのですから」


 ロジャーが、恥ずかしく口に出しにくいことを自然に言った。それを聞いて俺は照れを隠すように笑う。


「ま、あたしたちがいたからできたってことよね。でも英雄ってのはあたしのガラじゃないわね。やっぱあたしと言ったら、天才魔導士じゃないと!」


 アガタがご機嫌と言った感じで声が弾んでいる。いつもの生意気さが存分と発揮されていた。


「人々を助けるというのは気分がいい。これからも依頼達成だけでなく、人々の幸せのために剣と盾を振るいたいものだ」


 ミネルヴァがいつもの鋭い表情を崩して、嬉しそうに俺に語りかける。

 とても充実感に満ち、幸せそうであった。


「ええ。あんな貴族の風上にも置けない者のために、依頼品を持ってくるなんてこっちから願い下げですわ。もしあのままですと、何の解決にもなりませんもの。結果的に皆が幸せになる最良の結果を目指してこそ、わたくし達も納得できるというものですわ」


 メリエルが当然というような顔で言う。

 自分が貴族として妥協はしたくないという、そのプライドの高さや自信が伺えた。

 だが人々を思う事に貸しては、ここの誰よりも真摯なのであろう。


「それでは皆様は席についていただきまして、食事をお待ちください。皆様分ぐらいでしたらこちらもご馳走を振る舞うことができますゆえ」


 ロジャーが机のベルを鳴らして、待機しているメイドを呼び、オーダーした。

 メイドは深々と礼をし、そのまま部屋を出ていく。


 しばらくすると目もくらむようなご馳走がテーブルの上に並べられる。魚を煮付けて香り高いソースをかけたものや、七面鳥の丸焼き、黄金に輝くスープ、山盛りのパンが詰まれたバスケット、見たことないようなフルーツの盛り合わせが目の前に広がっていた。


 こんな豪勢な食事はフリーターはおろか、生まれてからしたこともない。

 そのため俺はきょとんとした表情で、見つめている。

 ゆーりが食べたそうに、よだれを隠そうともせず今か今かと目を輝かせてこちらを見ていた。


「食べて、いいのですか……?」

「ええ、もちろんですよ」


 ゆーりが漏らした独り言をロジャーが拾う。

 それを聞いたゆーりが端を発したように、食事にがっつき始めた。


「うーん! とってもおいしいです」

「あんた、本当に味わってんの?」


 ゆーりが満面の笑みで食べているところ、アガタは呆れながらゆーりの食べる姿を横目で見た。


 メリエルは器用にナイフやフォークを使いながら上品に味わいながら食べている。さすが貴族のお嬢様と言ったところであろう。

 ミネルヴァは何も言わず、ゆっくり咀嚼をし黙々と食べている。


「このような食事は本当に久しぶりだ」


 ミネルヴァが口を拭いたあとに呟いた。俺がそのミネルヴァの言葉に疑問をぶつける。


「そうなのか?」

「ああ、野戦食や質素なものしか普段は口にしないからな。明日知れぬ命だ。このような食事を食べる機会を大切にしないとな」

「生きている限り食事を食べられるように、依頼をこなしていかないとな」


 俺が笑顔でそう言うと、つられてミネルヴァも微笑みを浮かべた。


「おいおい。料理を楽しむのもいいけど、お菓子の方も頼むぜ」


 キッドがフルーツを口に頬張りながら飛んでくる。


「ああ、任せとけ。なんとか話をつけてくるからよ」

「頼んだぜ。じゃなきゃ一生お前のあることないことを言いふらしてやる」


 俺達は出てくる豪勢な食事に舌鼓を打つ。そしてあっという間に食事の時間は終わり、俺達は幸福な満腹感に包まれた。

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