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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
永劫の鏡奪還編
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第1章23話:情けは与えど施しは与えず

 アルベルト氏が俺の顔に視線を向け、わなわなと震えだす。

 顔を真っ赤に紅潮させ、今にも何か叫びだしそうな様子だった。


「無礼者ども!! ふざけたことをするでない! 我が直属の騎士達よ! この無礼者共をひっ捕らえろ!」


 アルベルトの声とともに、部屋の外から騎士がこちらの部屋に向かって走り出す音が聞こえる。

 おそらく俺達を囲んで袋叩きにするつもりだろう。


「追い詰められたら今度は実力行使か」


 俺はそう言って指を鳴らす。


「ならこっちも考えがある。アガタ! やってしまえ!」

「またあたしに命令? でもこういう展開を待っていたのよね! マインファイア!」

「うおおおっ!」

「な、なんだ!?」


 アガタが楽しそうに言うと、詠唱をすぐさま完了させた。

 近づいてくる騎士の足元に小さな爆発が起こる。

 それが連鎖的に発生し、次々と兵士は倒れていった。


 誰一人としてこちらに辿りつけず、その場で吹っ飛ばされたり、壁に叩きつけられて倒れていた。


「こういう対応をされるのは最初から知っていた。大人しくしていれば良かったものの。まぁ、最初から話し合いだけで決められるなんて思ってないからな」


 俺は倒れて気を失っている騎士達を見渡した。


「あまり訓練とかはしていないようだな。動きもとろく、注意力も散漫。挙句の果てに統率なんて一切取れていない。こんな体たらくで騎士を名乗るなんて、お笑いだな」

「ぐぬぬぬ……! 誰か! 他に誰かおらんのか!!」


 アルベルト氏が必死に世に呼びかけるが、誰も駆け寄ることはない。

「メリエル、倒れた者達の傷を癒してやれ。彼らに罪はない。騎士の道を選ぶことはできても、主君を選ぶことはできないんだ」

「ええ、わかりましたわ。今こそ、彼らの捻じ曲がった騎士としての誇りを正すときですわね」


 メリエルがステッキのような杖を振り、一人ずつ癒しの魔法をかけていく。こうすれば兵士たちは次第に目が覚めていくはずだ。


「さぁ、アルベルト氏。俺達もここまで手荒な真似はしたくない。おとなしく降参してくれ」

「そうです。兄上。どうかマサキさんの言うことを聞いてください」


 ロジャーが頼み込むが、アルベルト氏の顔はさらに赤く染まっていく。

 震えが激しくなり、机を強く叩き、鼻息は荒く、苛立ちが頂点に達しそうになる。


「ええい! 本当に使えない奴らめ! こうなれば私が!」


 アルベルト氏が醜い体を揺らして、短剣を振り上げて俺に向かって走ってくる。


「本当に救えないな。お前は。誇りも何もかもを失ったなら、お前には裁きを与えるしかない」


 俺に向かって短剣が振り下ろされた。

 しかしミネルヴァがその腕を掴み、俺の首元を掠りもせず短剣が止まる。


「見苦しい男だ。あなたに仕える兵士や、家内の人には心底同情するさ。あなたはもうその家系に泥を塗ったんだ。相応の報いを受けるのが筋だ」


 ミネルヴァが呆れかえったように目を瞑り、首を横に振りながらアルベルトに言う。

 アルベルト氏はもはやこれまでと、膝をつき腕を掴まれながら泣いて俺に嘆願した。

 ナイフが落ちるからんとした軽い音と、命乞いをするアルベルト氏の声だけが響く。


「もう許してくれ! 頼む! 命だけは! 命だけは許してくれ!」

「ああ、安心しろ。命までは取らない」


 俺はそういうとアルベルト氏に背を向けた。

 そして床に落ちてあるナイフを拾い、振り向き様にアルベルト氏の方向へナイフを投げる。

 ナイフはアルベルト氏のこめかみを掠り、あっという間に後ろの壁に刺さった。


「だが二度とその面を見せるなよ」


 アルベルト氏はナイフを掠めたショックで、死んだと思い込んだようだ。

 白目をむき、小便を垂らしながら一層醜い姿で、気を失っている。


 俺は近くのメイドにアルベルトをどこかへ連れていくよう指示した。

 メイドたちは担架でアルベルト氏を運んで、医務室へ向かったようだ。


 情けは与えるが、施しを与えるつもりはないのだ。

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