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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
永劫の鏡奪還編
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第1章22部:当主奪還へ

 俺達がアルベルト氏の屋敷に到着する頃には日が暮れていた。

 道中でアガタが何かとわがままを言ったり、ゆーりが俺の身を案じて、休憩を挟んでいたからだ。

 その時のロジャーは操られていた時に比べると、非常に柔和な表情で俺たちを見守っていたのを覚えている。


 俺はロジャーに布を頭にかぶせて、周りからは顔を見えなく、庭へ入っていく。


「ゆーり様ですね。ご無事でお戻りしたようで何よりです。おや、そこの男の方は」


 庭師がロジャーに怪訝そうに見た。


「ああ、この男は今回の依頼の協力者でな。報告の際には彼もいた方がいいと思ってさ」

「ふむ。そういうことですか」


 庭師は俺の返答を聞くと、作業に戻る。

 俺は何食わぬ顔で屋敷の中へ入っていった。


「あなたはよくもまぁ、そんな風に息を吸うように出まかせを言えるのでしょうか」


 メリエルがため息をつきながら、小声で呟いた。


「まぁまぁ。うまくやり過ごしたんだ。メリエルもそう目くじらを立てることもないじゃないか」

「それはそうですけど、マサキの性格にはやっぱり納得できませんわ」


 ミネルヴァが呆れたメリエルをなだめる。

 せめて頭の回転の速さとか、少しは肯定的に言ってほしいものだ。


 暇そうに会話している番兵がこちらに気づくと、慌てて敬礼する。

 俺達はおろか、後ろに控える布きれを被さった男のことを疑う様子は少しもない。

 俺達が扉を抜けると、背後の番兵同士はすぐに談笑を再開していた。


 アルベルト氏の居室につくと、ゆーりはノックをする。

 すると向こうからアルベルト氏の声がした。


「何ですか。もう食事の時間ですか」

「いいえ。私です。ゆーりです。依頼の件できました」

「そうですか。入りなさい」


 アルベルト氏が興味なさそうな声で返事したので、俺達はロジャーを残して部屋に入る。


「それで、皆様は私の依頼を達成したのですか? あれほどの大言を私に向かって言ったのですよ。もちろん達成したんでしょうね」


 アルベルト氏が偉そうに足を組み、俺達に嫌味ったらしく言う。


「えーと。それがですね」


 ゆーりが言いにくそうに返す。確かにこれから失敗しましたなんて言うのは勇気がいるだろう。

 そして大きく息を吸い込んで、飲み込んだ後、勇気を振り絞って語った。


「ごめんなさい。依頼の方は、達成にはなりませんでした」


 アルベルト氏はそれを聞いて、どっと笑う。

 にんまり笑うその顔は見ている者に不快感を与えていた。


「あっはっはっはっはっは。そうですか。そうですよね。あなたたちでは、できませんよね。わかっていましたよ。あの口もハッタリということを」

「ですが、依頼の物は、取り返してきました。ある協力者のおかげです」


 ゆーりはそう言うと、ゆっくりとドアを開け、顔を隠したロジャーを中に入れる。

 ロジャーは何かを考え込んでいたようで、足取りは重かった。


「何者ですか。あなたは」

「何も変わっていないのですね。兄上は。お久しぶりです」

「そ、その声は!! お、お、お前が、ど、ど、どうして」


 ロジャーが布きれを外し、顔を見せる。

 アルベルト氏が素っ頓狂な声を上げ、目を見開いき、後ろにのけぞってひどく動揺していた。


「そうです。放浪していたロジャーさんとたまたま出会い、彼と協力して賊を打ち破りました。そして」


 ロジャーは懐から、永劫の鏡を取り出す。

 アルベルト氏がさらに驚いた。


「そ、そ、それは……!!!」

「そうです。我がショウイゼ家に伝わる宝、永劫の鏡です。これを持つものが正統の後継者。そう我々は教えられてきました。兄上もご存知ですよね」

「そ、そうだ。ささ、その鏡を私に」


 アルベルト氏が手を伸ばし鏡を受け取ろうとするが、ロジャーはさっと手を引いた。


「な、お、お前! 何をしているのかわかっているのか!?」

「ええ。わかっております、兄上。ですがお渡しするわけにはいきません。兄上はそれを必要ないとおっしゃっていたのですから」

「お前、なぜそのことを……! 兄の言うことが聞けないのか……!」


 わなわなと震えながら腹を立てているアルベルト氏に対して、ロジャーは冷淡に続ける。


「ええ、もはやあなたに貴族としての誇りを感じません。本来であれば斬り殺されてもおかしくありません。もはや兄とすら感じないほどに。ですがそこは血の繋がった弟としての最後の情けです」

「お前、何が言いたいのだ。世迷言をほざくのではないぞ?」

「私が兄上に成り代わり、当主の座を譲ってはいただけませんか。聞けば統治もままならず、村は荒れ果て、自分はおかまいなしに私欲にふけると聞いております。それではショウイゼ家の名を汚すことになるのではないでしょうか」

「黙れ!! 一度家を抜けた分際で! そんなことが通るか! この負け犬め!」


 話を聞いてくれそうにないアルベルト氏を見て、俺は心底哀れだと感じた。

 そこには誇りや威厳の姿はなく、とても支配者の姿として見せられるものではない。


「おいおい。そりゃないぜ、アルベルトさん。お前は依頼を達成したら、何でも言うことを聞いてくれるって言ったんじゃないのか? 俺はよく覚えているんだが」


 俺が口を挟むと、アルベルト氏は目つきを鋭くして、俺を睨みつけた。


「お前が、この入れ知恵をしたのか!? そんなこと私は断じて認めないぞ!」

「やっぱり話を聞いてくれる感じじゃないな」


 俺は頭をくしゃくしゃと掻いて、アルベルト氏の背後の窓の外を見た。

 そこには無数の灯りが少しずつこちらに近づいてくる。

 そして低く重い声が次第に大きくなりながら聞こえてきた。


「アルベルトさん。ですけどそうお前が言っても、世間は許してくれなさそうだぜ?」

「何?」


 俺は窓に近づいて勢いよく開け、にやりとした顔でアルベルトに、窓の広がる光景を見るよう腕を広げる。

 村人たちの声がはっきりと聞こえ始めた。

 男女問わず、年も分け隔てなく様々な声がする。

 その数は俺が立ち寄った村人の数だけではとても足りない。


「本当に疲れたぜ。おい、しっかり報酬はしてくれるんだよな?」


 キッドが窓から勢いよく飛んできた。


「なかなか上出来だな。期待以上だ」

「はん! 俺様を誰だと思ってやがるんだ。やるからには本気でやるのがモットーなんでな」


 キッドが鼻を高々としながら言う。


「と、いうことだ。アルベルトさん。おとなしくしてくれないかな?」


 俺はアルベルト氏を挑発するような言い方をする。

 俺達とアルベルト氏の間に緊張の糸がピンと張りつめた。

 柱時計の時を刻む音が響く。

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