プロローグ2:パーティ結成
それにしてもまさか星一つのキャラとは思わなかった。
全く強くないし、典型的な外れキャラとして召喚されてしまったのだ。
俺がゲームをしてもこんなやつパーティメンバーにしたくはいれないだろう。
この性能では終盤どころか序盤の方でパーティから切られかねない。
かつてはインフィニットサモンサーガでは名の知れた存在で、大量のフレンド登録や颯爽と現れてはボスを倒す様子が生きた災厄と呼ばれる俺だ。
それはまさか最低レアで召喚されるなんて。
あまりにもスカディはあまりにもいじわるすぎないだろうか。
まぁソシャゲで原因で死んだのなら多少はそういうものか。いや納得できない。
せっかくこの世界に転生したのに役立たずで終わるなんてごめんだ。
俺はとりあえず不安とやり場のない怒りを頭によぎらせながら、自分のスキルを見た。
覚えているスキルは一個、「千万変化」だけである。相手の属性に応じて攻撃する属性を変化するというものである。
異なる属性で弱点を突けばダメージが増えるため、工夫の余地があるスキルと言える。
だが他のスキルは何も覚えていない。
ロックされているのを確認できるが、どのような技かはわからないのだ。
(とりあえずはこのスキルだけが俺のメリットだな。しょうがないが気長に他のスキルの開放を待つしかないな)
しかし第二スキル開放には星二つであるスーパーレアにならないといけない。
星一つのレアだとスキルの強化くらいしかできないのだ。早々に入れ替えられる前に何とか戦力になるしかなかった。
特に最高レアであるインフィニットレアが加入し、スキルの選択肢が増える前になんとかするしかない。
俺がそう考えているうちにゆーりは次の召喚に取り掛かっていた。
人気のない馬小屋で、床に石灰で魔方陣を描き、その後中央に青い宝石を五つ置き、手をかざすと石が輝きだすのが召喚の儀式のようだ。
そして原作よろしく扉が輝く演出が始まる。今までの経験上、扉の輝きでどのレアリティが当たるかは大体わかる。そして始めたてのころはピックアップガチャとして必ず仲間キャラクターが召喚されるようになっている。
その時の光は虹色であり、俺はそれを見てハッとした。最高レアであるインフィニットレアの演出なのだ。
ゆーりが扉を開けるとそこには勇ましい格好をした凛々しい女性騎士が剣を携えて立っていた。
「私の名前はミネルヴァ。我が身に代えても、^_^あなたの盾となりどこまでも守り抜くことを誓おう」
ミネルヴァと名乗る女性はゆーりに一礼した後、凛々しい声で自己紹介をした。
ゆーりは年上の女性が現れて少し緊張しているようだ。
いや年上というより高性能のキャラクターが出てきたからか。
「緊張しているのか。なに、問題ないさ。旅をしていくうちに慣れていけばいい。とりあえず名前と目的を教えてくれるかな」
「わ、私はゆーりと言います。両親を探してラインゴッドを目指しています」
「ゆーりか。いい名前だな。それで両親を探すためにラインゴッドを目指しているのか。いいじゃないか。それではあなたの夢をこの盾で守り抜こう」
ミネルヴァは緊張を研ぎほぐそうと、ゆーりに話しかける。
ゆーりは最初緊張していたが、ミネルヴァの言葉で緊張がほどけたようだ。
俺はその会話を聞きながら、ミネルヴァの姿を見た。
ミネルヴァの白銀の甲冑が眩しく、首まで伸びたストレートの髪の毛もまた真珠のように白かった。
顔もきりっとしており赤い瞳を宿す鋭い眼はすべてを射抜いてくるかのようである。
そして同時に俺が本当にインフィニットサモンサーガの世界にいることに驚いていた。
(うわ……まさか本当にミネルヴァのいる世界にいるなんて。それでこんな序盤に引くなんてな)
ミネルヴァはゲームで何度もお世話になったキャラクターであり、ドラゴンのブレスや、デュラハンの強烈な一撃などの攻撃からパーティを守ってくれた。
ネタバレになるが、ミネルヴァの正体は古代人である。
ある騎士団の副団長を務め、自らの失敗で団長かつ最愛の人物を死なせてしまった過去がある。
俺達には今は隠しているが、これから明らかになるのである。
だがさわりの部分は知っているものの、肝心の核心部分と今に至る経緯は知らないまま死んでしまったから、気になるところだ。
俺は生前の思い出に更けながら、まじまじとミネルヴァの姿を見た。
「ん。私の顔に何かついているのか? 顔に切り傷をつけられるような不覚を取ったことはないぞ」
ミネルヴァは少し誇りながら、だがどこか悲しげに言った。
「い、いやそうじゃなくてさ」
まさか目の前にミネルヴァがいるなんて考えたこともなく、さらに話しかけられるとなると俺は動揺してしまった。
人気キャラだけに二次創作で凄惨な姿を描かれることが多いが、目の前にいるのはちゃんと話ができ、俺と会話できるミネルヴァなのだ。
実際に見ると俺より背が高く、その姿はたくましさと美しさが両立していた。
「ところであなたも召喚されたのか」
「あ、はい。そうなんですよ。マサキって言います。よろしくお願いします」
ゆーりではないが目の前に三つ星のインフィニットレアがいるとなるとどうしても緊張してしまう。
見た目の美しさだけでなく、パラメーターにおいても倍以上に違うのだから。
少しでも舐めた口を聞くと、どうなるかわからないのだ。
ミネルヴァは守備と体力がトップクラスに高く、一方攻撃力はそこまで高くないが、俺の能力値では全ての能力を合計しても、彼女の攻撃力ですら届かないのだ。
「そうかマサキか。改めて紹介しよう。私はミネルヴァ。騎士をしている。ロールはタンクだ。防御力には自信がある。あなたは?」
「俺は……」
そういって俺は自分のメニュー画面を開き、ロールを確認した。
このロールがインフィニットサモンサーガの特徴と言ってもいい。
ロールとはキャラクターそれぞれに割り当てられる戦闘の役割である。ミネルヴァのタンクというのは、前衛に立ちパーティを攻撃から守る役割だ。
同じ前衛なら物理攻撃を行うアタッカーや、多勢との戦いが得意なファイターや巨大な敵との戦闘が得意なデュエリストがおり、他にも後衛で援護するシューターや、魔法を唱えるソーサラー、回復を行うヒーラー、補助を行うサポーターなどがいる。
パーティはメンバー4人で構成されるのだが、そのパーティ内ではロールの重複はできない。例えば同じパーティ内にアタッカーが2人いることはできないのだ。
そのためパーティ内ではすべてのキャラクターに役割が持つことができ、役割に応じた戦略が必要になる。
今回のガチャに限りロールが被らないように調整もされている。
このロールシステムはアップデートにより調整や追加が入るため、キャラクターの個性や特徴、役割が引き立つようにできているのだ。
「……アタッカーですね」
「そうか。あなたがこのパーティのアタッカーか。ということはこのパーティでは私が盾で君が剣というところか。これから長い旅になるかもしれないが頑張っていこう」
ミネルヴァは笑顔で俺を激励した。
俺はそれを聞いて照れ笑いで返す。
ゆーりの方を見ると同じように魔方陣を書き直していた。どうやら召喚のたびに召喚に使う魔方陣は消えるようだ。
ゆーりは召喚の儀式の準備を慣れない手つきで行っている。
一生懸命な眼差しで魔方陣を描く姿はまさに俺が想像する美少女新米召喚士だった。最後に石に手をかざすと同様に扉が輝きだす。
その輝きを見て俺は驚いた。また虹色の輝きなのである。
つまりインフィニットレアのキャラクターがまた加入されるのだ。そして扉が開くと、そこには自信満々に手を腰に当てた少女が現れた。
「はーっはっはっはっはー! あたしを呼ぶなんていい度胸してるわね! あたしは未来の大魔導士のアガタ! 天才魔導士が来たからにはこれからは大飛竜に乗ったつもりでいても構わないわよ」
(ああ、アガタを引いたのか。こいつは結構扱いづらいんだよな)
アガタは大魔導士の血を引いている魔導士の少女だ。
様々な炎と風と光の上級魔法を操り、自動効果スキルの影響で詠唱が非常に早く、確かにレアリティ同様の強さはあるのだが、敵に狙われやすく、本人も脆いためすぐ戦闘不能になるのだ。
アガタは二の腕までの長さに伸びた青髪とマントを自前の風魔法でたなびかせながら高らかに名乗った。
アガタは空を思わせるような青髪にヘアバンドをしている。
上半身には白いブラウスに燃えるように赤いマントを羽織っていた。
赤いサスペンダースカートからは黒いストッキングが伸び、大人ぶっているのか脛ほどまでの長さのロングブーツを履いている。
ゆーりより少し背が高い程度だが、アガタの態度にゆーりは圧倒されていた。
「ちょっと! そこのちんちくりんがあたしを呼び出した召喚士でしょ? あたしが名乗ったんだからあんたも名乗るのが筋ってもんでしょ! ねえ、聞いてんの」
「あ、あ、私は……」
ゆーりはいきなりアガタに指さされてひどく狼狽していた。本来なら自己紹介する場面だが、アガタの様な元気な女の子と接した経験が少ないのか、声が小さくなっている。
「はー? 聞こえないわよ! もっと大きな声で」
「おいおい。そんな自分よりちっちゃい女の子いじめて楽しいか?」
俺がたまらずアガタを制止した。
それを見てアガタが俺を見上げながら生意気な目で見つめる。
「それでぇ、あんた誰よ? まさかあんたもこのちんちくりんのパーティ?」
「ああ、そうだが。マサキっていうんだ」
「ふーん」
アガタは値踏みするように俺の顔を見て、少しするとにやりとした顔になった。
その様子があまりにむかつくので俺は顔が引きつった。
「まぁいいわよ。あんたが何者であれ同じパーティとして、せいぜい未来の大魔導士のアガタの足を引っ張らないことね」
「そのつもりだが」
「あんたが何できるかは知らないけどね~。マサキ……じゃなかった星一個君」
アガタの挑発を聞いて、お灸をすえてやろうとしたが、ミネルヴァが俺の肩を叩いた。
振り返りミネルヴァの顔を見ると、目をつむったまま首を横に振った。
「ん、あんたは」
「私はミネルヴァ。あなたがちんちくりんと呼んだ少女の名前はゆーりだ。ラインゴッドを目指している。よろしく頼む」
「ふーん。話のわかるやつはいるようね。まぁなんであれ天才のあたしがいれば問題ないわね」
ミネルヴァが止めたことで何とかその場は収まったが、ゆーりはまだ涙目だった。
アガタはゲームでも生意気だったが、目の前にいるとまさかここまで腹が立つとは思わなかった。
おそらく俺のメニューを開き、能力値やレアリティなどを見て挑発したのだろう。
なんてやつだ。だがこんな生意気な小娘でも戦力としては非常に優秀だから頭が上がらない。
ソーサラーのリセマラランキングでは常に上位にいるキャラなのだ。
自信満々な未来の大魔導士を連れて、ゆーりは次の召喚の儀式を行う。
少し手が震えていたのはまだ残っている緊張と、不安のためだろうか。俺は居てもたってもいられなくて、ゆーりのそばへ歩いた。
「手を貸そうか」
俺は屈んで、石灰で魔方陣を描いているゆーりに手を差し伸べた。
「いや、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
ゆーりは精いっぱいの作り笑顔で俺を見た。
「でも、その右上の部分間違っているぜ」
「あ、本当ですね……」
「俺も魔方陣のことはよくわからねーけど、次が最後だろ? 頑張ろうぜ」
ガチャの画面を数えきれないほど見てきた経験が活きた。
ゆーりは少しだけ恥ずかしそうに笑って、魔方陣を修正する。
さっきの不安の表情は少し解消されたようだ。さっきより時間がかかったが儀式が完了すると扉が輝き始める。
今度の輝きは虹ではなく金色であった。この色になるとインフィニットレアではなく、スーパーレアになる確率が高い。インフィニットレアより格は落ちるが十分戦力になる。
扉が開くと再び俺は驚愕した。
「プリーストのメリエル=キラバイ=ベルコ=ヤシアリンセですわ。メリエルでよろしくってよ。今はどこかにいるお兄様を探していますの。それまででしたらわたくしのお力添えをさせていただきますわ」
(なんだとぉ!? 最後にもまさかインフィニットレアを引くなんて、なんて運がいいんだよ。レアの俺を差し引いてもガチャ大当たりだろ!)
スーパーレアの演出かと思ったらヒーラーのインフィニットレアのメリエルを仲間にすることには俺も驚いた。
メリエルは弱体効果の回復や蘇生を行うだけでなく、体力回復と魔力の供給を行うハイスペックな純ヒーラーとなっている。
攻撃手段も相手の足を遅くする効果が備わっている。
しかしその分威力が低く、メリエル自身が遅いという欠点がある。
メリエルは金髪のロングツインテールに、赤いリボンを結っている。
まるでこれからパーティでも行きそうな金色の刺繍が入った、淡いピンク色のワンピースドレスを着ており、銀色の胸当てを装備している。
フリルのミニスカートをなびかせて、白いニーソックスの足でヒールをカツンカツンと音を立てさせながら、自分を呼び出したゆーりに近づいた。
「あなたがわたくしの召喚士ですの? まぁなんと背丈はわたくしと同じくらいかしら。」
ゆーりはひどくきょとんとしていた。
「あ、あの」
「あなたのお名前や旅の目的は結構ですわ。また知る必要もありませんの。なぜならわたくしはお兄様を探すために旅をしますの。それでは、それまでわたくしの召使程度には働いてもらいますわ」
「め、召使……」
「そうですわ。家事に炊事にお洗濯、お掃除やお買い物をしてもらいますわ」
「で、できるかなぁ……」
「あんま気にすんじゃねえぜ」
ゆーりはメリエルに言われるが頷き、困った顔をして俯いていたので、肩を叩いて励ました。
「ゆーりはこの中では多分最年少だ。俺達も分担してやろうぜ」
「私は賛成だ。癒しの杖の使い手は私も世話になる。少しでも役に立てるよう努力しよう」
「はーーー? なんであたしがそんなことしなくちゃいけないのよ!」
ミネルヴァは当然かのように賛成したが、アガタがきつい口調で反対したのだ。
「いいだろ。これからは同じ釜の飯を食う仲間なんだ。誰かに押しつけるんじゃなくて、分担した方がいい」
「だーかーらー。そんなの未来の大魔導士のあたしがやるなんてごめんよ。そもそもあんた、なんで来て早々そんなに偉そうなのよ!」
「いやここの全員が来て早々だから」
アガタは野犬が噛みつくようにメリエルに指さして言い放つ。一方メルエルは涼しそうな顔をしながら金色に輝く髪をいじっていた。
「あら? わたくしの命令が聞けませんの? 見たところここの皆はわたくしの癒しの杖が必要ではなくて? ならば戦うだけでなくてそれ以外にやってもらっていただけませんと」
「ぬぅー! なんていう口のいい方なのよ!? その偉そうな顔叩き潰してあげ……ぐぇっ!」
アガタは手に持っている本を振り上げて、メリエルに殴りかかろうとしたが、俺がアガタのマントを掴みそれを制止した。
「おいおい。何やってんだよ。いきなり喧嘩はよくないだろ」
「この星一つ! バカキ! 何やってんのよ! あのむかつく顔とピカピカの服に泥をつけてやるのよ!」
「さっきも言っただろ。メリエルはこのパーティで傷ついた仲間を癒せる唯一の仲間なんだ。お前がケガしたときに癒せるのは現状メリエルだけなんだ。お前だけじゃない。俺やパーティの守りの要のミネルヴァの仕事をサポートできるんだ。パーティの盾であるミネルヴァがやられたらどうする? お前は安心して魔法を撃てないんだぞ」
「そ、そうだけど……」
アガタは少し涙目になっていた。だがどうもまだ納得できないようだ。
「わかったよ。実はお前あまり家事とかできないんだろ。俺がかわりにやってや……ぐほっ!」
振りかぶったアガタの本が俺の頬を直撃した。
「う、うるさいわね! やってやるわよ! やればいいんでしょ」
「召使と野犬の方はもう終わりましたの。でしたら今日から頼みますわ」
メリエルは胸のリボンを正しながら俺達に言った。
(ふぅ。これでなんとかメリエルの自動発動スキルの仕送りも問題なく発動しそうだな。へそ曲げられたらたまらないしな。これからかかる費用を考えれば多少のバイトと思えば安いもんだ)
俺が俯いてしめしめしてると、後ろから不意にポンと肩を叩かれた。
「これから大変になるな。体力仕事なら任せてくれないか。日ごろの鍛錬のついでにやらせてもらうよ」
「それじゃその時は頼むぜ。俺も家事くらいならできるからさ」
ミネルヴァがうれしそうな顔で俺に語りかけた。
そしてそれに応えて俺も親指を立てる。ゆーりはさっきからぶつぶつと家事や料理などと震えながら呟いていた。
「本日はご苦労さん。お前の分もフォローするから、あんま心配すんじゃねーぞ」
「炊事…そう……え? う、うんありがとう。私召喚くらいしかできることがありませんので、ちょっと不安です…‥」
ゆーりは恥ずかしそうに顔を手で抑えた。
後ろではミネルヴァが直立不動で待機し、横ではアガタが「天才だからできるわ!」と喚き、前はメリエルが杖の手入れをしている。
これから初めてのクエストを受注するが、どんなことが待っているのか、知っているようでわからない。
だが俺が弱くても他のメンバーのステータスは高いからなんとかなると、俺は楽観的に物事を考えていた。
俺はこのゲームをやりこんだ、その経験が今の自信となっているのだ。