第1章14部:予感、そして……
俺の予感は悪い方に的中した。
スクラーヴェリッターに致命的なダメージを与えるにはいたらず、先ほどよりは少ない黒い物体とともに、体が再構成されていった。
「嘘よ……! あたしの攻撃を受けてぴんぴんしてるなんてありえないわ!」
「そんな……あれ以上の魔法なんて、わたくしにはありませんわ……」
「くっ……攻撃が甘かったか……!」
仲間たちは呆然とした様子で、スクラーヴェリッターの体が修復され、別の形へと変貌する過程を見つめていた。
その姿は俺達よりも少し背丈が高いくらいの人型で、足と腕が二本とほぼ人間と変わらない姿をしていた。
人間と大きく違うのは、黒いジェル状の物体で構成されているのと、頭部が一つ目のコアが埋め込まれている点である。
「巨体ヨリモ、コチラノ方ガ動キヤスイモノダナ」
スクラーヴェリッターが自分の腕に視線を向けながら呟いた。
その声色はまるで今まで俺達を試していたかのようだ。
「貴様達モヤルデハナイカ。我ニココマデの傷ヲ負ワセタノダ。称賛ニ価スル。ダガ、ココカラハ全力デ貴様達ヲ屠ル。我ガ血肉トナルノダ。光栄ニ思ウガヨイ」
スクラーヴェリッターがそういうと、手の形が巨大な爪となり、先ほどよりも鋭く、強烈な殺気がほとばしり、禍々しいものになっていた。
(倒しきれはしなかったが、あの一連の連携を直撃させたんだ。あいつのHPはそこまで多くないはずだ)
「ここがもうひと踏ん張りだ! あいつを倒して全員無事で生還するぞ」
スクラーヴェリッターが人型となり真の力を開放したところで、俺は仲間に発破をかけた。仲間はそれぞれ頷き、陣形を立て直し、戦闘態勢をとる。
「愚カナ……手短ニ終ワラストシヨウ……」
スクラーヴェリッターが残像となり、三人に分かれた。
残像はそれぞれ独立したような動きを持ち、正面・左右から俺に向かって爪を向けてくる。
ミネルヴァがその動きを察知して、防御へ向かい、盾を構えて俺の前に立った。
「邪魔ヲスルナ……」
「うわぁぁああああ……っ!!」
ミネルヴァは正面からの攻撃を防いだが、左右からのスクラーヴェリッターの攻撃を防ぎきることができず、挟撃される形となる。
ミネルヴァの鎧の一部が砕け、体に深々と鋭利な爪の高速な一撃を受けてしまい、その場で跪き剣でかろうじて体を支える。
「すまない……ここまでのようだ……」
ミネルヴァが俺の方を見ながら、吐血しながら俺に語りかける。
「邪魔者ニ口ヲ与エルベカラズ……」
三体のスクラーヴェリッターがミネルヴァに爪を向け、射出する準備をする。
そのときスクラーヴェリッターの一人が火球を受け、影となり消えていく。
「ちょっと! あんた。そこまでする必要ないんじゃないの! あたしが承知しないわよ」
「貴様……何ヲスル」
スクラーヴェリッターの目がぎょろりと動き、ターゲットがミネルヴァからアガタへと変わる。
一つ目の瞳孔が見開いていた。
俺はその隙にスクラーヴェリッターの頭に向けて剣で斬りかかる。
しかし不意打ちともいえる俺の攻撃はいともたやすく回避された。
「貴様ノ方カラ来テクレルトハナ……小娘ハ次ニトッテヤロウ」
メリエルが傷ついたミネルヴァを癒そうと、回復魔法を放とうと杖を振る。
「こんなところで倒れてはいけませんのよ!」
「次カラ次ニ邪魔者ガ……」
スクラーヴェリッターが地面を強く踏むと、メリエルの下から巨大な魔方陣が発生する。黒い物体が勢いよく吹き出すとメリエルを包み込み、十字架に貼り付ける形でメリエルを拘束した。
メリエルが必死にもがいて、拘束を解こうとするがびくともしていない。
「な、なんですのこれ! 離しなさい!」
「貴様ハ最後ニトッテヤロウ。一番苦シイ方法ヲ与エテヤル。絶望ヲ感ジナガラ死ヌノダ」
スクラーヴェリッターがメリエルの方を見ずに、俺の方に視線を向けながら言うと、俺から距離を取った。
「貴様ニハ確実ナ死ヲ与エル……」
二体となった分身が両腕をこちらに向け、目が赤く光ると、その鋭利な爪を備えた腕ごと発射した。
前方と左右から迫る超高速な爪が重なり合う前に、俺は後ろへ退くことで回避した。
「凶飛爪ハ貴様ヲ逃ガサン。ドコヘ避ケヨウト無駄ダ」
「危ない! 後ろです!」
「うわぁああああああああああっ!!!」
ゆーりの叫び声が聞こえた時にすでに遅かった。
後ろからの高速な爪が俺を切り裂く。無属性のため被ダメージが大きく、凄まじい激痛が走る。
さらに追撃と言わんばかり、回避したはずの爪が方向を変え俺を縦横無尽に切り裂いた。
腕に足に腹に胸に、無数の切り傷がつけられ、血が吹き出る。
最後に胸を爪が通り抜けて、抉られるような痛みを感じた。
受けたダメージがもはや戦闘不能ではなく、ロスト――死に至るものであると、体が直感的に告げていた。
「ここ……まで……かよ……うっ……」
「マサキ! 返事をしてください……お願いです!」
「ちょっと! マサキ! あんた、ウソでしょ!? ねぇ!!」
「そんな! マサキ……返事をしてくださいませ。どうか返事を!」
「マサキ……本当に、すまない……」
容赦ない攻撃を受け、全身から大量に出血をしている。俺は仲間の声が遠くなっていくのを感じた。
目の前が段々と暗くなり、体に力が入らない。
(ちくしょう……これでまた死ぬのかよ……やっぱり倒すなんて無理じゃねえか。こんなクソゲー二度とやんねーよ)
遠くなっていく意識の中、俺はゲームをする時に発するような諦めの言葉が頭によぎった。




