第1章12部:依頼達成、しかし
盗賊の頭目であるロジャーを倒し、依頼人の品である永劫の鏡を手に入れた俺達は、一安心といった風に洞窟の外で休憩していた。
「本当今回は大変だったわね。最後にあんな脱出劇があるなんて。びっくりしたわよ」
事の発端であるアガタが何事もなかったかのように振り返った。
「ああ、おかげさまで明日は筋肉痛だな」
ロジャーとの激闘や、その後メリエルを担いでの脱出はいくらなんでも疲れた。
崩れた洞窟の岸壁にもたれかかりながら言う。
「でもどうしてロジャーがあんなことを言ったのでしょう。本心で言っていたのでしょうか」
「いや、そうじゃないと思う。あの黒い物体があっただろ。きっとあいつがロジャーの持っていた悔しさや妬みを爆発させたんだろう」
ゆーりの疑問に俺は返答した。
黒い物体――スクラーヴェリッターの正体はゲーム中に語られていたのだ。だがその目的や数がどれほどいるのかとまでわからない。
「おいおい。なんかよくわかんねえけどよ。詳しいなお前」
「本当よ。なんであんな気持ち悪いのに詳しいのよ」
キッドとアガタが俺に突っかかるように質問した。
確かにこのように答えたのはいささか不自然である気もする。
「まぁ、推測だよ。だって村を巡回していたロジャーが、村を襲うほど豹変するなんて一時の気の迷いだけじゃない気もするぜ。正気を保ったままなら良心が残っていると思うんだが」
あくまで俺は知らない体で、もっともらしい理由をつけて説明した。
単純なアガタは納得するが、キッドはまだ疑っている素振りだ。
「もしマサキの言う通りなら、ロジャーはまだ同情の余地はあるな。だがこのままロジャーをどうするんだ。アルベルト氏に連れ帰っても、そのまま処刑されるのではないだろうか」
「そこでだ」
ミネルヴァがロジャーの今後の処遇について腕を組んで話し始めると、俺は待ってましたと言わんばかりに提案をする。
「ロジャーが目覚めたら、こいつを新しい当主になってもらうんだ」
「この男にそんなことが務まりますの? とても信じられませんわ」
「まだロジャーに良心が残っていれば、そこは解決するだろう。なんだかんだ盗賊を集める求心力がある。加えて以前より村を巡回するような心遣いもある。アルベルト氏に比べれば統治能力はあるんじゃないか」
「確かにあの無責任な貴族に任せるよりも、まだましな統治をするかもしれませんわね。あくまでましですけど」
切り株に座り、片手で頬杖を突きながらメリエルがアルベルト氏とロジャーを比べ、妙に納得した表情をした。
メリエルもあの村の惨状と、アルベルト氏の行いを見て思うところがあったのだろう。
特に反対する様子もないのだ。
当のロジャーは気を失ったまま倒れている。彼も聞いていないうちにこんな話をされているなんて思いもしなかっただろう。
「ですがどうやってロジャーがアルベルトの代わりにするように仕向けるのですか」
ゆーりの質問はもっともだった。俺はキッドの隣に置いてある永劫の鏡に視線を向けた。
「ロジャーがこのクエストを達成したことにするんだ。鏡を取り返したのがロジャーで、アルベルト氏はその鏡を取られたことの責任を問わせるんだ」
「おいおい。ちょっと待てよ。それじゃ俺の報酬のお菓子はどうするんだよ」
「そうよ。クエスト達成できなきゃ、私達も報酬を受け取れないわ。またあのギルドにバカにされるじゃない」
キッドとアガタが俺の提案に猛反発した。
「いいか? ここでロジャーに恩を売っておけば、屋敷を使わせてもらえるだろう。そうならば少なくとも宿には困らない。加えて報酬ならアルベルトがよこすものよりはるかに価値が高いものを得るはずだ。なぜならロジャーが欲しかったものを俺達が与えてやったんだから」
俺はかなり都合のいいことを諭す風に言った。だが事の顛末をロジャーに話せば、これくらいは当然ではないかと考える。
得体の知れない者に操られている自分を助けてもらったのだから。
「まぁ、ギルドでまたなめられるかもな。だが今後はロジャー、つまり当主からの推薦状をいただくことができれば、今度はそれであいつらは目を丸くするかもな」
「本当なのそれ!? いいころばかりじゃない」
単純なアガタは俺の提案に笑顔がこぼれた。
「そこでキッド、またお前の出番だ」
「ん、なんだよ。またなんかやらせるのかよ。俺はもうへとへとなんだが」
「そういうなよ。お前が村に言って大きな声で話してほしいんだ。アルベルト氏が代々家に伝わる永劫の鏡を奪われたこと。そしてそれを隠蔽しようとしたこと、行方不明の弟だったロジャーが取り返したこと」
「なるほど。そこで村人に現状の不満を思い起こさせるのか」
「あまりにもえげつないですわ……」
ミネルヴァが感心したといった風に頷いた。メリエルは非難ともとれるような言い方をする。
そして周りは全て言葉を失っていた。
キッドは一通り聞くと、一息ついてわかったと頷く。
「やってやらねえことはないが。やるからには、お菓子の量も倍にしてもらうぜ」
「ああ、それくらいなんとかしてやるさ」
「その言葉忘れるんじゃねーぞ。俺様は根に持つタイプだからな」
俺はキッドの要望に、胸を叩いて答える。
キッドはそれを聞いて、俺に指さして生意気な顔を向けた後、村へと飛んで行った。
「なんかあんたを敵にしたくなくなったんだけど」
「同感ですわ。ここまでやるなんて、尊敬を通り越して怖さすら感じますわ」
「褒め言葉として受け取っておくぜ。アガタ、これからは俺に生意気な口を利くんじゃねえぞ」
「それは無理ね。これはあたしの生まれついてのものだし。今更どうこうできるものじゃないもの」
アガタが指先でくるくると風の魔道を操り、ちぎった葉を浮かせながら拒否した。
「それでは、キッドさんも行きましたし、私達は屋敷へ向かいましょう」
ゆーりが立ち上がり、永劫の鏡を懐に入れて、呼びかける。
メリエルは笛を吹いてエリザベートを呼んだ。
エリザベートは丘のふもとから砂埃を巻き上げながら駆けていき、メリエルの前に行儀よく止まった。
「むぅ。いつ見ても本当にずるいわね」
アガタが不満そうにエリザベートを見つめながら面倒くさそうに立ち上がる。
「ああ、そうだな。マサキの次は今度は私の番だ。マサキはゆっくりしていてくれ」
ミネルヴァが気を失ったロジャーに近づき、まるで荷物のように担いだ。
軽々と背負う姿は非情に頼りになり、男から見ても惚れ惚れするくらいかっこよかった。
「ああ、ありがとうな。お言葉に甘えさせてもらう」
俺もゆっくりと立ち上がり、体の調子を確かめる。
体を打った個所の痛みは引いており、掠り傷の部分も止血していた。
そして屋敷へと向かい始め、俺の目論見を完遂するだけである。
しかし俺はこの時、空が夕暮れではなく、禍々しく赤に染まり、辺りに淀んだ空気が立ちこんでいることに気づいていなかった。




