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ソシャゲに転生しても俺はなんとかやっています  作者: 山崎ジャスティス
永劫の鏡奪還編
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第1章11部:脱出

「貴様ぁ……!」

「勝負あり……だな」


「マサキ! 大丈夫か!?」

「少しの掠り傷と、打ち身かな。これだけの軽傷ですんだから上出来だな」


 俺がロジャーに問いただすと、ミネルヴァたちが駆け寄ってきた。

 どうやらあちらも片付いたらしい。

 俺は首を少し鳴らして余裕であることを見せつけながら返事した。


「まさか、あんたがあのおっさんを倒せるなんて、信じられないわね。てっきり返り討ちになって、アガタ様の出番かと思ったのに」

「見せ場を奪っちまって悪かったな。だがもう大丈夫だ。親玉であるあいつを倒したんだからな」

「……わたくしはあなたのことを同じ貴族として許せませんわ。これまでの償いを受けるべきですわ。あなたに貴族としての誇りがあるのでしたら」


 剣をついて息も絶え絶えなロジャー氏にメリエルが強い口調で話す。


「そ、そうです。あなたのしてきたことはひどいことでしたが、今までのことを悔いてもらえれば、命は保証しましょう」


 ゆーりがメリエルと一転して優しい口調でロジャーを諭した。


「だ、誰ガ貴様ラニ……う……おあああああああああああ」


 ロジャーの口から泥状の黒い塊が勢いよく飛び出した。

 あの泥状の黒い物体は地面で蠢いている。ロジャーは吐き出した反動でその場で倒れた。


「な、なんですか!? これ?」

「なによれこれ……うわ……気持ち悪……」

「なんて穢れたものを! 汚らわしいですわ!」

「一体何なんだこれは……」


 ゆーり達が驚きの表情をしていた。アガタは手を口で覆い、メリエルは慌てて後ろを向き見ないようにした。

 ミネルヴァは何か考えているようにその黒い物体を見つめていた。


「大丈夫だ。俺達に危害を加えるつもりはないらしい」

 

 俺はその黒い物体が、まるで逃げるように洞窟の隙間に入り込んでいった。


「あんたはどうして平気なのよ」

「ま、まぁ別に害のある存在じゃないしな。気にしたって仕方ない」

「本当にマサキは肝が据わっているな」

「本当だぜ。あんな気持ち悪いのを見てなんともないなんてな。この世の人間じゃないみたいだぜ」

「妖精のお前に言われたくねえよ」


 あの黒い物体はスクラーヴェリッターと言う名前である。


 ストーリーが進むと対決することになり、物語の核にも迫る強敵だ。

 レアアイテムを落とすことが多く、育ってきたのであれば格好の対象であるが、この時点ではとても歯が立たないだろう。

 いくら俺が攻略方法を知っていても無理なものは無理なのだ。


「とりあえず気絶しているロジャーを運ぼうぜ。鏡がここにないということはきっとあいつの部屋にあるはずだろう。キッド頼むぞ」

「ええ!? 俺様がやるのかよ? 面倒くさい……いだだだ! 頭が!! わかったよ! やればいいんだろ!」


 ロジャーが不満な顔をしながらふらふらと狭い岩の隙間をぬって飛んで行った。


「それでは私達も出ましょう」

「だが仕方ないとはいえ、この岩が邪魔だな」


 ロジャーとの一対一に持ち込んだ際の、退路を塞ぐ岩がここでは邪魔になった。

 手でこつこつと岩を叩いたら音が鈍く、簡単には取り除けなさそうだ。


「やれやれ、結構派手にやってくれたな」

「何よ! あたしのせいだっていうの!? 自分がやったことくらい、あたしがなんとかするわよ。この未来の大魔導士のあたしがなんとかしてあげるわ」


 アガタが頬を膨らませた顔をして、その場で詠唱を開始した。

 戦闘時に比べると詠唱時間は長い。

 ヘイトを集めれば集めるほど詠唱が早くなるアガタのスキルは発動していないようであった。


「エクスプロージョンフレア!」

「おい、ちょっと待て! それ……」


 アガタの手のひらから巨大な魔方陣が展開され、そこから直径が人くらいの火球を放った。

 火球が岩にぶつかると轟音とともに砕け散った。

 その音はあまりにも凄まじく、俺達はとっさに耳を塞いだ。その後しばらくすると、天井から砂や石が降り注いできた。


 そして洞窟全体がグラグラと揺らいでいるのを感じる。


「まずい! お、おい! このまままじゃ崩れるぞ!」

「本当ですか!? マサキ」

「話している場合じゃねえ。とりあえず逃げるぞ!」


 俺はロジャーを背負って急いで走り出した。俺より年上なだけあってロジャーは重い。


 力の限り走り続けるが、拠点の中は思ったよりも広い。

 出口まではまだ時間がかかりそうだった。


 戦いに疲れ休憩したいという気持ちを抑えて、体に鞭を打つように走る。

 降ってくる岩片を交わし、次第に充満してくる砂埃を受けながら何とか俺達は前へと進んでいく。


「はぁ、はぁ……待ってくださいませ。わたくしもう走れませんわ。こんなときにエリザベートがいてくれたら……」


 メリエルがヘロヘロになりながら訴えた。

 この崩れる音と洞窟と言う場所の都合上、笛を呼んでも頼れる相棒のエリザベートは来ないのだろう。


 刻一刻と洞窟は崩壊していき、悠長なことをしていたら、生き埋めになるかもしれない。

 パーティメンバーの犠牲だけは避けようと俺は焦りながらも指示を出す。


「しょうがない! ミネルヴァすまん! ロジャーを頼む。俺がメリエルを担ぐ!」

「ああ、了解した」


 俺はロジャーをミネルヴァに渡し、メリエルを背負った。

 ミネルヴァは軽々とロジャーを担いだ。日ごろから重い鎧や盾を持っているだけに鍛えられていた。


「ええー!? あたしはー!? いつもメリエルばっかずるいわよー」

「状況を考えろよ。そもそもお前が加減を知っていれば。こんなことにならないんだがな」

「むきー! またあたしのせいにしたわね! 意地でもあんたの力なんかに借りないわ。あたしだってこんなところで押しつぶされたくはないわ」


 疲れ切ったようなアガタに再び活気が戻り、また走り出した。

 性格が単純でこちらとしては助かる。




 崩壊していく洞窟を背に俺達は駆け抜け、なんとか出口の光へと到達した。

 間一髪と言ったところで、俺が出たころに洞窟の入り口は塞がれていた。


「はぁはぁ……キッドは無事か!?」

「なんとか無事だぜ。全く無茶させやがる」


 俺が息を切らしながら、大声で呼びかけたら、キッドが木陰涼みながら休憩しながら返事した。

 

 その隣には依頼のものと思わしき鏡がある。


「キッド! ありがとうございます」

「でかしたぞキッド!」

「はぁはぁ……けっ。俺様にかかれば造作でもないぜ。あとでうまいお菓子でもおごれよ?」


 キッドがぜえぜえと息を切らしながらも、生意気な風を装って言った。


「これで依頼達成ですね! やりました!」

「ああ、そうだな」


 想定外のハプニングがあったものの、なんとか依頼をこなした俺達は、あとはアルベルト氏の屋敷に戻るだけであった。


 ここに来てからまだ日は暮れておらず、真昼である。


 このまま魔物の襲撃などもなくイベントは進行し、俺達は報酬を受け取るだけのはずである。


 そう、この時の俺は完全にこのクエストを完了しているのであると思っていたのだった。

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