第1章9部:キッド登場
大きな騒ぎが起きる前に、何とかして依頼のものを達成したい。
十中八九無理なのはわかっているが、できることなら無用な戦闘は避けたいのだ。
遥か後方では倒れている盗賊に気づいたのか、その犯人である俺達を探すよう手分けしている声が聞こえた。
(この中のどこかにあるはずだ。宝を隠している場所が)
しばらく走りながら探していると、大きな扉を構えた部屋を見つける。幸い番人は不在で、俺達は難なくその部屋に入ることができた。
部屋の中はこれまでの部屋よりも大きく、部屋の脇には村から盗んだと思わしい、高価そうな金品や宝箱、食料の詰まった袋が置いていた。
「ここが当たりのようだな。幸い無人だし今のうちに探し出そう」
「そうですね。それでは依頼人の品である、永劫の鏡を探しましょう」
部屋の中を探してみるが、様々な品物が見つかるが、肝心の永劫の鑑と思しきものはない。
「本当いろいろあるわね。ひとつくらいもらってもバチが当たらないでしょ。せっかくここまで頑張ってるんだし」
「こら。それはもともと村の人々のものだ。それを持って帰るなんてやめろ」
俺はネックレスや銀貨などを取ろうとするアガタを止めた。
俺だって宝を持ち帰って、売ればそれだけで富を稼げるのはわかっていたが、人道や道徳が俺をかろうじて引き留めていた。
俺達は部屋をあらかた探し回ったが、結局見つからなかった。
ゆーり達は依頼の品を必死に探しているが、俺はその傍ら別のもを探す。
「聞きなれない声だな。おい、お前ら! そこにいるのか!?」
宝物庫の中で大きな声を聞いて、ゆーり達は身構えた。声のする方に視線を向けると、檻の中に短髪で手のひらサイズの小さな妖精が騒いでいた。
「せっかく俺様がぐっすり眠っていたところに、お前らが来たから、うるさくて目が覚めちまったぜ」
「あ、あなたは?」
「俺はキッドってんだ。 ちょっとお宝の匂いがする方にふらふらと寄ったら、あのむさくるしいやつらにドジっちまったんだよ。おかげさまでこんな狭いところに入れやがって。本当勘弁してほしいぜ」
キッドはインフィニットサモンサーガに出てくる、主人公をナビゲートする存在だ。
いわばよくあるマスコットキャラみたいな立ち位置のキャラクターで、戦闘には基本参加しない。
ただゲーム中では機転を利いたことをするため結構有能である。だが口が生意気なのだ。
キッドは檻をガンガン叩きながら、ゆーりに訴えた。ゆーりは苦笑いしながら反応する。
「あ、ははは」
「だからよ。俺様をこっから出してくれよ。このままじゃサーカスの見世物にされちまうんだ。手伝いくらいするからよ」
キッドがさっきより激しく檻を叩きながら頼み込む。
「どうしますか。マサキ。本当に出してもいいのでしょうか」
「まぁ、いいんじゃないか。見たところ本当に困っているようだし。こいつが義理堅ければの話だが」
ゆーりの相談に、俺はキッドを流し目で見ながら言う。
キッドはそれを聞いてむすっとした顔になった。
「俺様がそんなに信用ならねえかよ!? 確かに虫のいい話だと思うけどよ、お前らは今何か探しているんだろ? 少しでも助けになる情報があるってなら少しは信用してくれるかよ」
「ほ、本当に知っているのですか?」
「もちろんだぜ。暇すぎて俺はずっとここでやつらの動きを見てたんだ。ここのことなら詳しいぜ。な? 早く出してくれよ」
「そこまで言うなら……」
ゆーりがキッドの言うことを信じて檻に手をかけようとすると、アガタから待ったの声が入る。
こいつはいつも何かあるたびに、逆のことをしたがる性分があるらしい。
「ちんちくりん! また変なやつを加えるの? もうこれ以上は面倒なんて見てらんないわよ」
「なんだこの生意気そうな奴は? ま、あんなやつ無視してさっさと出してくれよ」
「アガタ。有益な情報を持っているのは彼しかいないんだ。彼の言葉を信じてみようじゃないか」
「でも、だってー」
「話の分かるやつがいて助かるぜ。俺様だってプライドや義理はあるんだ。言われたことをしっかりやる。有言実行のキッド様とは俺様のことよ」
ミネルヴァが嫌がるアガタをなだめる。
メリエルは退屈そうに遠くで欠伸をしていた。
ゆーりが檻に手をかける。鍵はなくすんなり開いた。
「ふー。やっと俺様も自由だぜ。それじゃあばよ」
キッドが一瞬の隙をついて逃げ出そうとしたとき、メリエルが光の輪でキッドを縛って拘束した。
「どうしてこう殿方は嘘を吐く方が多いのでしょうか。自分の発言くらいには責任を持ってほしいものですわ。やっぱりお兄様しか信じられる殿方はいませんこと」
「おや、キッド。どうして逃げるんだ? 私たちはあなたの言葉を信じて、あなたを自由にしたんだが。こうなれば然るべき処置が必要かもしれないが」
ミネルヴァが手を鳴らしながら問いただす。
傍から見ると思わず居すくまってしまう威圧感があった。
「そうよそうよ! あんたって見た目通り生意気なのよね!」
「ごめん。ごめん。わかったよ。本当にお前たちに話すし、手伝いもするから、だからお仕置きなんてやめてくれー!!」
キッドが泣きわめきながら俺達に懇願した。ゆーりはその様子を見て、困ったように笑い、俺の顔を見た。
「はぁ。もういいだろう。ここまで謝っているんだ。キッドのことは許してやろうぜ。だが次やったらわかってるよな」
キッドが必死に首を縦に振ってアピールする。
俺はそれを見てメリエルに魔法を解くよう指示をした。
「本当に悪かった。反省してるぜ。だからお前達の助けになるぜ。それで何を探しているんだ」
「永劫の鏡というものを知りませんか?」
「鏡? もしかして大きさはお前たちの手が二つ分の大きさか」
「多分それくらいです」
「だったらあの頭目が大事そうに持っていたぜ。どんだけ大事か知らねーけど、鏡を持っているなんて気色悪い男だぜ。多分あいつの部屋にあるんじゃねえか」
キッドが笑いながら鏡について話した。
やはりこの場にはないとなると、ロジャー氏との直接対決は避けられそうにない。
「ありがとうな。キッド、ところでこの髪飾りどうだ?」
「おお、お前いいセンスしてるじゃねえか。くれるのか?」
「ああ、いいぜ。友好の証ってやつだ」
俺はこの宝物庫にあった宝の一つである羽の形をした髪飾りを渡した。
キッドは喜々としてそれを身に着け、似合うか? と言わんばかりに俺達に見せつけた。
「んじゃ仕事は終わったぜ。じゃあなー」
「おう、じゃあな!」
「待て!」
キッドが飛び去ろうとした瞬間に、キッドが叫びながらその場に力なく落ちた。
「うわああ! あ、頭が! 頭がいてえよ。お前なにしたんだ」
キッドが悶えながら俺の顔を見た。俺は微笑を浮かべながら答える。
「俺達が命令して、それに反することをすると頭に激痛が走る呪いのアイテムだ。どうだ最高にかっこいいだろ」
「お、お前なぁ……さっさと外せ! 何が友好の証だ! 嘘つき野郎」
「俺達の役に立って、信頼を手に入れたらな」
「ちくしょう。こんな奴らに捕まるなんて、俺も本当に運がないぜ」
「だが自由に飛べる分、体に不自由はないはずだが?」
「まぁ、確かにそうだけど……もうしょうがねえな。しっかり俺様の面倒を見ろよ!」
キッドは開き直って投げやりな態度で納得した。
本当なら自分から髪飾りを装備して、失敗する自業自得な展開なのだが、俺の方から誘導して罠にはめる形に、また罪悪感が生まれてしまった。
「で、でしたらその頭目のところに案内を……」
「その必要はない!」
その時勢いよく扉が開けられ、聞きなれない声があたりに響いた。