第1章8部:アジト潜入
ロジャーのアジトの拠点に行くまではそれほど難しいことはなかった。
道中の敵はほとんどいない。魔物が襲い掛かって来ても、難なく倒せている。
低レベルとは言え、敵もまだ手強くない。
俺達は歯ごたえのなさを感じつつも、順調に先に進んでいた。
「ねぇ。目的地はまだなの?」
アガタがしびれを切らしたように言った。
「もう少しだ。着くまで我慢しろ」
「そうですわ。少しでも近づいているのですから黙々と歩くのですわ」
メリエルがエリザベートの上に跨りながら言う。
「あんたは馬があるからいいよね。あたしたちは歩きでこんなに苦しい思いをしているのに」
「あら? そういうのでしたらら、あなたも乗馬の技術を磨けばいいですわ」
「あたしは魔道を極めるために一生懸命なの。天才とは言え、練習は怠らない。そんなことに時間を割く余裕はないんだけど!」
「まぁまぁ。どんなこともすべてできる者なんていないさ。メリエルにはいいところもあるし、アガタにもいいところはある。それでいいじゃないか」
「だからって、あいつだけ楽するのが納得いかなーい」
相変わらずアガタが突っかかるように何かに不満を言い、ミネルヴァになだめられ、メリエルにいつもの余裕の態度を取らせる流れができていた。
うっそうとした森の中へ入り、邪魔な草木を刈りながら、進むとそこに大きな洞穴があった。人が数人余裕で入れる大きさのため、ここが拠点とみて間違いない。
「ここが、盗賊の頭目がいる場所のようですね。皆さん準備はよろしいですか」
「ああ、さっさと終わらそうぜ」
「ええ。あたしたちの名声を轟かせるいい機会じゃない」
「問題ない。我々の使命だけでなく、あの村の者達のためにも私達は剣を振るおうじゃないか」
「同感ですわ。ヤシアリンセ家の名に懸けて、村の人々に安心で平穏な生活を届けますわ」
ゆーりが息をのみ、俺たちに呼びかけると、俺達は二つ返事で答えた。
ロジャーの拠点は、洞穴の見た目のわりに広く、所々に灯りがあって思ったより明るかった。
所々に何かの骨が散乱しており、妙な生活感がある。おそらくねずみであると思われる黒い影も見える。
ところどころに部屋があり、そこから笑い声や会話が聞こえてきた。
俺達は待機している盗賊達にばれないようにこそこそと動く。
時間も昼間のせいか、巡回しているものがおらず、部屋の数のわりに人気を感じない。
「俺達の目的はアルベルト氏が代々家で持つ、宝の奪還だ。できるだけ戦いは避けたい。だからどこかにある宝物庫のようなものを探すんだ」
「え~!? 戦わないの? せっかくあたしがいるのに」
「バカ。何大きな声出してるんだ」
能天気なアガタの声が、洞穴の中で響く。
天井から注ぐ雫の音ですら聞こえる静寂な空間を、アガタの声が切り裂く。
俺は慌てて、アガタの口を手でふさいだ。
「おい、外で何か聞こえるぞ。珍しく女の声だ」
「へへへへ。また村から奪ったのか? しょうがねえやつらだ」
部屋から盗賊が下品な弾んだ口調で声が漏れてきた。その後扉が開く音が聞こえてくる、
(まずい! このまま騒ぎになると厄介だ!)
俺はミネルヴァとメリエルとゆーりに、俺とアガタから離れるよう首を使って指示をした。
ミネルヴァは一瞬で理解して、ちょうど盗賊達が出てくる方からすると死角になるところ移動する。
メリエルとゆーりも急いで後についていった。
「なんだぁ。お前みない顔に珍しい服だな。新入りか?」
「ええ。そうなんですよ。最近入ったばかりで」
「それでその女は何者なんだ」
「いやぁ、村で高く売れそうな女を見つけたもんで。ですがとても暴れん坊なのが問題なんですよ」
俺は暴れるアガタを抑えながら言った。
「んん~! ちょっおどお触ってんのょ! アカキ」
「ちょっとは静かにしろ。安心しろ、売るつもりはないぜ。多分……」
じたばたともがくアガタに小声で制止するよう言ったが、聞く耳を持たずでますます暴れる。
「元気な方が商品価値があるってもんだ。へへ、おもちゃとしても丈夫な方がうれしいしな」
「どれ俺達にもその顔を見せてくれよ」
盗賊達が興味津々に近づいてきたところ、後ろからミネルヴァが盗賊の脳天を剣で叩くことで気を失わさせる。
それに驚いたもう一人の盗賊には続けざまにメリエルが動きを止める魔法を唱え、すばやくミネルヴァが当身で気絶させた。
「ありがとう。ミネルヴァ。よく気づいてくれたな」
「ああ、この状況ならどうやって切り抜けるかってなると、これしかなかったからな」
「でもあのままですと、野犬が売られるところでしたわね」
「本当よ! あたしが大魔導士になる前なのよ。このあたしがひどい目にあわされたら一生を償ってもらうわ!」
さっきの騒ぎで、盗賊達は続々と巡回しだすだろう。
騒ぎになる前にこの場を離れた方がよさそうである。
「と、とりあえず、ここから離れましょう」
「同感だ。逆に走る方が早く宝物庫を見つけられるかもな」
「わたくしも走るのですの? エリザベートもいないですし、じめじめしていてお洋服や髪も痛みますし、それから疲れるなんていやですわ」
「やれやれ。こんな時だってのに。またこうなるかよ」
俺はメリエルを担ぎ、俺達はその場を走って離れた。
この洞穴のどこかに宝を溜めている部屋があるはずなのだ。大きな騒ぎになって、盗賊達に囲まれる前になんとか依頼を達成してずらかりたい一心だ。
だが筋書きが決まっているストーリー上、それは到底無理な話であると、俺は薄々感じていた。