表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/34

・4・魔王のために頑張った魔族がいたんだろーなー

友人と希少な果実を味わったロベリアは、雪原に向かって飛行していた。


腕には、行きの黒い箱と入れ替えに、白い布で出来た袋を抱えている。


袋自体と中身はリャンメニカが紡いだ糸から出来た布である。


リャンメニカの種族・カマクラ蜘蛛の糸で出来た布は丈夫で涼しく、妖精界では高く売れる。


リモネを手に入れた報酬として、リャンメニカがくれたのだ。


それと同時に、リモネを手に入れる許可を与えてくれた精霊王への貢物でもある。


貢物を持っていくのは後日にしよう、とロベリアは家へと向かっていた。


・・・が、その道中でも一人の魔族に決闘を申し込まれ、イライラの溜まったロベリア。


西方地域と東方地域の中間、北方地域にあるとある場所に行き先を変更した。


その場所とは――王城である。


◆◆◆


雪原と火山帯の間、永久凍土の上に火山岩で築かれた灰色の建造物がある。


かつて、遥かに数千年前には華やかに栄えたというその場所は、いまは寂れ、人気のない王城。


王城というからには、王――この場合は魔界の王の住まいであり、政治・経済・文化・の詰まった場所だ。


しかし現在、魔界に王はいない。


伝説、及び当時を生きていた齢千年を超える魔族によれば、魔王はある日消滅してしまったという。


崇める王の喪失は、当時の魔界に相当なショックを与えたようだが、すでに数千年。


魔王不在で生まれたロベリアのような若い魔族からすれば、ただのおとぎ話のようなものだった。


人気のない王城は、ロベリアの憩いの場であり、隠れ場所である。


空を飛べば竜にぶつかり、道を歩けば決闘を申し込まれる魔界の生活に疲れたある日、ふと足を向けたのが最初だった。


そこには今はない古い意匠の建築物や家具、そして膨大な書物があった。


魔族として生まれたロベリアは、おそらく、魔族としては変わり者である。


友人のリャンメニカも結構な変人だが、戦闘民族らしくなくロベリアは読書にのめり込んだ。


二つ名で呼び始められた数年は、家に引きこもり、さらに王城に移ってひたすら読書していた程である。


自分の全く知らない世界や、物語、知識を吸収するのは、力を全開にしてぶつけ合うのと同様に楽しかった。


それから、ふと気が向けば王城に通っていたロベリア。


勝手知ったる動作で一つの尖塔のバルコニーに降り立ち、階段を降りていく。


書物のある部屋――ロベリアは勝手に図書館と呼んでいるが――そこは王城の北側、一階から地下にかけてある。


そこまでてくてく歩きつつ、廊下に飾られたシャンデリアを眺めるのも好きだった。


(正直、魔族がこんな繊細な物作れるとか想像できないんだけど)


なんてことを毎回考える。


実力至上主義の魔界で、弱肉強食を物理で行う魔族である。


建物を建てるのはともかく、微細な装飾や繊細な細工など、可能どころか行おうという考えすらあるかどうか。


と、思うものの、現に王城は存在するわけであり、かつて魔王のいた時代には、魔王のために頑張った魔族がいたんだろーなー、と考えるロベリアだった。


ぼんやりとしていても、足は道筋を覚えており、ロベリアは図書館の重い扉をゆっくりと開く。


ここに通ってからすでに120年は経っているが、未だこの蔵書の半分も読めていないだろう。


ロベリアは端からきっちりと読んでいくわけではなく、適当に書棚の間を歩き、適当に目に止まった書物を読んでいた。


そのため、足を踏み入れた場所から適当に進み、不意に視界に入った、【魔界の植物〜西方地域〜】という書物を手に取る。


題名からして、図鑑のようなものだろう。


その場に座り、パラパラとページをめくっていたが、1日の疲れが出たのだろう。


やがて、こっくりこっくりと船をかき、その瞼がゆっくりと閉まった。


そして、それから数刻後――冒頭での出来事に戻るのである。


◆◆◆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ