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・30・それは君のせいだよロベルト君

ロベリアはうっすらとまぶたを開けた。


目の前には当たり前のように変わらず男がいた。


彼女と同じ切れ長ながら色彩の異なる()で、ただ真っ直ぐのロベリアを見つめている。


どこか諦めた気持ちでロベリアは男に向き合った。


「・・・・・・えっと」


何か言ったほうがいいのだろうか。


『魂の練成』は終了したはずだが、まだこの空間ですることはあっただろうか。


そうロベリアが考えていると、男がゆっくりと手を伸ばしてきた。


一瞬反射的に身を引きそうになったが、その表情がまったく意思を感じさせないもので、ロベリアは不思議に思いながらもじっとする。


と、男はその手でそっとロベリアの頬に触れると、すっと身を寄せてきた。


自身と全く同じ顔が近づいてくるのに、内心で少し慄きながらもされるがままになっていれば、そのまま男は額と額をくっつけた。


そして。


「――ろべりあ。名、を」


拙い言葉遣いでそう乞うた。


「・・・名?」


うん、と男は無表情に首肯する。


ああ、そうか、とロベリアは思い出した。


創りだされた魔王には当然名前が無い。


名づけはいわゆる親の役目であり、それも魔方陣上でとイメージしていた彼女であるが、ここでするのか、と納得した。


(名前かー・・・)


色々と想像していた事と異なるため、唐突に思いつけと言われても、と悩んだロベリアの脳裏に、ふわり。と一つの言葉が浮かぶ。


「・・・・・・ロベルト」


「ろべると・・・?」


「うん、あなたはロベルトだよ」


すとん。と胸の内に収まる名前。


強く確信を持って頷けば、男――第14代魔王・ロベルトは滲むように破顔した。


そのあまりに嬉しそうな表情に、ロベリアは驚きと共にある事に気づく。


じんわりとした喜びが、彼女にも伝わってきたのだ。


(・・・これ、ロベルトの喜び? これが、魂を分けるってことか・・・)


そう、今、ロベリアの心臓を核に創造されたこの男とロベリアの魂は共有され、それによってお互いの感情が交流するようになっていたのである。


(すごい。ロベルトがほんとに嬉しいってのが分かる。・・・なんか私も嬉しくなってきた、かも)


つられて笑顔になって、二人で笑い合う。


喜びが共鳴し、増幅されて、思わず二人は抱きしめ合った。


心地の良いそんな感覚に浸っている内に、気がつけばロベリアの意識はまどろみに落ちていった。


◆◆◆


見届け人の精霊族が見ている前で、魔方陣の中心にできた深紅の球体が回転しながら小さく凝縮していく。


そしてそれは人の形を作り、深紅の人型から徐々に人肌へ変化し、やがてそこにはロベリアを懐中に抱いた一人の男が現れた。


その顔は目を閉じ気絶しているように見えるロベリアと全く同じもの。


しかし色彩は地竜の魔族特有のもので、一糸まとわぬ姿でじっとロベリアを見下ろしている。


『――第14代魔王よ、あなたの名を問おう』


そう精霊族が言うのに、男はロベリアから視線を外さぬまま、


「ろべると」


と簡潔に答えた。


『その誕生をここに寿(ことほ)ごう、魔王ロベルト。あなたの半身たる魔族、ロベリアにも幸あらん事を』


ロベルトは聞いているのかいないのか、わずかに笑みを描きながらロベリアの頬を撫でている。


『我らが”王”より、あなたたちに”王”の象徴が与えられる。しばし待たれよ』


使者は懐から何か紙片のようなものを取り出すと、それを宙に放った。


すると、その紙片が強い光を発し、一瞬、光が消えた後精霊族の姿はなくなっていた。


ロベルトはそんなことに気づいていないようにロベリアの頬を撫で続けていたが、ふと手を頬に置いて、そっと揺すった。


「ろべりあ、ろべりあ、おきて」


囁くように呼びかける。


と、数秒で彼女のまぶたが震えた。


やがて目を開いたその視界には、微笑する自分の顔。


内心でどうしても驚きながらも身を固めるにとどめて、


「お・・・はよう、ロベルト」


頑張って挨拶までした。


「おはよ」


ふんわりと笑う男にロベリアも知らず笑みを浮かべながら、きょろきょろと周りを見渡す。


と、精霊族の姿が見えなかった。


「あれ、使者サマどっか行ったの?」


問いながらロベルトを見上げると、うん? と首を傾げられた。


(あー・・・・興味なかったかー)


なにかいってたけどきいてなかった、という内心が伝わってきて、そっかーと苦笑するしかない。


このほんのわずかの時間で、ロベリアは彼の性格をなんとなく理解し始めていた。


およそ生まれたばかりの赤子、あるいはあまりに無垢な幼児。


そして兄弟仲がとても良い、と条件つけたせいか、ロベリアに対する親愛の情が振り切っている。


現在の状態はまるで刷り込みされた鴨の雛である。


その興味はほぼロベリアのみに向いていて、使者の存在など、そんな人いたの? くらいに違いない。


(これって・・・後でなんかまずいことにならないといいけどなー・・・)


つい先のことを想像して気が重くなったロベリアであるが、別のもっと大切なことに気がついて思わず飛び上がった。


「――っそういえば! ロベルト、服、着よう!」


「・・・ふく? うん」


こてんと首を傾けた彼は、身長176cmの成人した男性である。


再誕したばかりで服など着ているわけもなく、ロベリアを抱えるようにしていたためかなぜか乙女座り。


ナニとは言えないが丸見えである。


【半身の書】にそのことはしっかり書かれており、故に父の部屋から服と下着をもってきたロベリア。


急いで魔方陣のそばにおいた下着を掴み、きょとんとしている男に差し出した。


ロベルトは素直にそれを受け取って身に着ける。


情緒は未発達であるが、魂を共有しているためか、ロベリアが持っている知識や経験を全てロベルトは知っている。


危なげも無く下着を着たロベルトになんとか目のやり場に困らなくなったロベリアは、次に荷物の場所まで行き、父のシャツとスラックスを取り出した。


その後を、それこそ子ガモのようについていくロベルト。


父はロベリアよりさらに背が高く、身長は183cmもあり、ロベルトが着ればぶかぶかになるだろうと思い、爪で適当にすそを切った。


そして真後ろにいた男にややびっくりして、「なんでさっきからどきどきしてるの?」なんて聞かれてしまう。


それは君のせいだよロベルト君、と内心だけで呟き、今度は自分も手伝ってロベルトに服を着させる。


やっぱりシャツは大きく、まるでワンピースのようになっていたが、ま、いいか、と妥協して一息ついた。


そこでロベリアもドレスを着込み、ケープも身に着ける。


持ってきた荷物をまとめて影移動で部屋に移動させ、さてどうしよ、と思考を始める。


魔王復活の儀式は無事に成功した。


使者はどこに行ったのかわからないが、何か言っていたということはロベルトが現れてから消えたということで、ならば精霊王に報告にでもいったのか。


(これって直接報告に行ったほうがいいのかなー。いや、でも魔界から出ていいのかな・・・もう、魔王だもんね、一応)


腕を組んで考えるロベリアの背中から抱きつくように腕を回すロベルト。


よしよし、と思いつつその腕をなだめるように撫で、思考を続ける彼女はいまや魔王の半身である。


今まではただの力ある魔族として好きに他世界に行っていたが、元々魔族は魔界から外へ出ることを禁じられている種族。


半身とはつまりイコールでもう一人の魔王であるからして、彼女が軽々しく魔界から出ることは叶わないだろう。


その点にかなりがっかりしたのが伝わったのか、ロベルトが「・・・よしよし」と頭を撫でてくる。


答えるまでもなくその落胆が癒され、ロベリアは振り返ってロベルトに抱きついた。


ロベルトからの振り切った親愛は、同時にロベリア自身の感情に還元されて増幅する。


母親くらいにしかしなかった甘えを無意識の内にロベルトに向け始めていた。


◆◆◆


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