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・28・「――使者サマ、儀式を始めます」

※注意:残酷描写、流血描写あり







ロベリアは道具がしまわれていた左の小部屋から、黒い岩でできた杯を五つもって、大部屋へ入った。


部屋のほとんどを占める魔方陣は、巨大な外円の中に五つの小さな円が五角形を作っており、さらに中心に2mほどの内円で構成されている。


ロベリアはその五つの円にそれぞれ一つずつ杯を置く。


そして五角形の頂点の下部の左の円の杯に、精霊族の生き血を包を潰して注ぐ。


下部右の円の杯には地竜の生き血を同様に注ぎ、上部三点の内左の円の杯には自身の生き血を、右の円の杯には魔石を入れた。


残る魔族の心臓は中央の頂点に置くが、それは儀式の途中に取り出すものである。


ロベリアは【半身の書】を手に、もう一度注意深く儀式の方法を読み込んでいく。


失敗すると、彼女はほぼ確実に死ぬことになる。


「罰」にしては重すぎる上、そんなつもりがこれっぽちもないロベリアには一つのミスも許されない。


内容を頭に刻みつけ書物を他の荷物のそばに置くと、ロベリアはドレスを脱ぎ、白い下着一枚になった。


ドレスを無造作に放るとかばんから下着をもう一枚取りだし、魔法陣のそばにそっとたたむ。


よし、と一つ頷き、ロベリアは覚悟を決めて魔法陣に向き直った。


「――使者サマ、儀式を始めます」


部屋の隅で血の気配に顔を顰めて待機していた精霊族に声をかければ、使者は口を引き締めながらも音もなくロベリアの隣に立った。


顔は青ざめ、不機嫌というよりは不調に思える使者は暗い深緑色の瞳をロベリアに向けると、促すように頷いた。


ロベリアは魔法陣の内円の中心に進み、目を閉じて深く息を吸い込む。


【 我が名はロベリア 氷竜の血を引く者なり

  これより行うは【再誕の儀式】

  ”王”の血肉となる栄誉を得た者なり 】


両手ひらを胸の前で合わせ、


【 唯一なる者 二つにして一つ 我らが祖なる者

  数多(あまた)の命を捧げ 今呼び掛けん

  我らが”王”はここに 】


氷色の目を開き、ロベリアは両手を広げる。


【 原初の種族 】


その言葉が響くと、精霊族の生き血の入った杯のある円が赤く光り、杯の中の真紅の液体が宙に浮かび上がる。


それは泳ぐようにロベリアを中心に左方向へと動き出す。


【 森と谷の竜 】


次に地竜の生き血のある円が光ると、その生き血が浮かび上がって左方向へ、精霊族の生き血と合流して混ざり合っていく。


【 我が命の源 】


今度はロベリアの生き血が同様の変化を起こし、それらはだんだんと真紅から深紅へと色彩を変えてゆく。


【 器無き力 】


魔石のある円が発光すると、石はその形がゆるい液体になり、他三つの液体と混ざり合って巨大な魔法陣を深紅のベールのように覆った。


精霊族は、深紅の薄幕の向こうから、じっと儀式の様子を見つめている。


そうして、ロベリアはおもむろに下着の胸元を鋭く伸ばした爪で裂く。


【 そして捧げるは我が心臓

  その魂の核となり ”王”と我を繋ぐ(かなめ) 】


ロベリアは爪をその胸に突き立て、胸を縦に切り開いた。


自分で自身を傷つける、その痛みはどれほどのものだろうか。


脂汗が流れ、ひゅーひゅーと狭い呼吸を繰り返しながら、彼女の手は動きを止めることはない。


胸の皮膚、脂肪、筋肉を剥がし、その下の肋骨を露出させると、それをさらに切り取って床に落とし、ヌラヌラとした肺をわずかに持ち上げ、身体の深奥――心臓に爪を伸ばす。


意識を保っていられるのが奇跡のような状態で、ロベリアは自身の脈動するそれを血管から切り離し、身体の外へと取り出した。


がくり、と膝が崩れるが、ロベリアは這うようにして五角形の上部中央の頂点の杯に、がくがくとした手つきで心臓を入れた。


その次の瞬間にはべしゃりと床に倒れ伏したが、まだその瞳は光を失っていない。


【・・・応え、よ・・・応、えよ・・・応えよ・・・

 我らが・・・至宝・・・唯一、なる・・・者・・・

 こた、えよ・・・わが、よび・・・ごえに・・・われらが、”おう”・・・は、ここ・・・に】


最後にはかすれ、音をなくしたロベリアの詠唱は終わった。


その身体から力が抜け、夥しい量の血液は白い下着を赤く染めていた。


儀式は完成した。


詠唱の完了とともに未だ鼓動を刻む心臓が宙に浮かび、ロベリアの真上、魔法陣の中心に動いた。


そして魔法陣を覆っていた深紅の液体が渦を巻き、心臓に吸い込まれていく。


内円の中心に2mほどの深紅の球体が形成され、その下にいるロベリアの姿も隠してしまう。


魔法陣の外で、儀式の見届け人たる精霊族は、感情の窺えない顔で全てをただ見続けていた。


◆◆◆


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