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・27・余った魔石は返さなくちゃなー

(あーもーほんともー最悪ぅぅぅ! もー! もー! ほんとに! 精霊王サマの鬼畜っ! いけずっ! 人でなしぃぃぃ!)


三角座りで頭を抱えながら、内心でひたすら精霊王に対する文句を叫ぶロベリア。


本当なら地団太を踏みたいくらいであるのだが、あの儀式の影響がまだ残っていて、体を動かすことがひどく億劫だった。


ロベリアが魔方陣から目をそらして、もうかなりの時間が経っている。


とっくに魔力還元は終わっていて、魔方陣には男の痕跡はなく、魔石だけが残っている状態であろう。


それが分かっていて彼女が頭を上げることすらできないのは、自分にこれをさせた精霊王がロベリアが厭うことを正確に理解しているということを突きつけられてしまったからである。


魔界に生まれて300年と少し。


その過程で魔族も他の生物を殺したことは幾度とある。


しかし、ロベリアが生まれつき持っていた魔族としての本能にわずかに勝って、もう一つの平和な世界で生きていた頃の倫理観が存在していた。


ゆえに、ロベリアは魔族らしくなく、殺すという行為に抵抗を覚えるのである。


決闘を申し込まれようとも、相手を氷付けにすることはあっても、それを粉砕して殺したりすることは滅多にない。


――否、正確には、放置すれば他の魔族や生物に殺されたり、凍死や餓死する可能性があることをロベリアは承知した上で、それで死んだのなら私のせい(・・・・)ではない(・・・・)と自覚的に責任転嫁をすることで、罪悪感から逃げてきたのだ。


しかし、精霊王に命じられたこの魔王復活の儀式に伴う行動は全て、その手で行われなければならない。


本来なら、血の採血でさえ、その本人の命を奪うのが正式な方法なのである。


犠牲者はホーンレスタ一人、という条件に適うという逃げ道によって、ロベリアは友人や地竜を殺す事なく、その生き血を手に入れた。


そのかわり、生贄たる男を屠るのは、ロベリア自身の手で。


氷竜の力によって、直接的でなくとも相手を封じ込めるロベリアにとって、相手の身体が破壊される音、感触、臭い、それらを感じながらの殺生がとてつもないストレスになった。


精霊王はそれを全て分かった上で、ロベリアに命じていたのである。


(あー・・・でも、何がイヤって、こんなことで落ち込む自分がイヤ、なんだよなー・・・・・・うぅぅぅ・・・魔族なのにー・・・・・・もー)


精霊王に文句を言いたくなるのは、そんな自己嫌悪からの八つ当たりである。


たとえ、平和な世界で生きていた記憶があろうと、自分が今生きているのはここで、魔族として生きているのに、いつまで経っても慣れることができない。


そんな彼女だからこそ、精霊王は禁書の存在を教えたし、妖精王や王族との出会いがあったのだから、ロベリア自身が考えるほど悩むことでもないのであるが、魔族としての(さが)を持つが故の苦悩があった。


『――――いつまでそうしているつもりか。儀式は既に完了しているようだが?』


「っ!?」


駄々っ子のように身体を揺らしてうじうじしていたロベリアの頭上から、そんな言葉が唐突に降ってきた。


仰天して瞬時に身を翻し、壁を背に立ったロベリアが目にしたのは、一人の精霊族。


黒に近いほど暗い深緑色の長い髪を耳下でゆるく結び、端整だが表情の無い顔に浮かぶ瞳は、髪と対照的に輝くほど明るい陽に照らされた若葉のよう。


長く細い耳の片方には、蔓草で作られたらしき耳飾があり、白と緑を基調とした服をまとっている。


精霊族はたいてい外見からは性別が判断しづらいが、先ほどの声音からして、女性のようである。


二つ名のロベリアでさえ気配がつかめない精霊族であるが、なぜ魔界に、それも魔族にさえ秘された『片割れの間』にいるのであろうか。


「いっ・・・いつからいたんでしょうか・・・?」


早すぎる鼓動を刻む心臓を落ち着かせようと試みながら、ロベリアは精霊族に問うた。


しかし、それはどのようにしてここにいるのか、ではなく、いつからここにいたのか、というもの。


精霊族はぴくりとも無表情を動かさずに、淡々と答えた。


『あなたが魔力還元の儀式を始めたあたりから、ずっと』


「あー・・・そうですか・・・」


はぁ・・・と深呼吸ついでにため息を一つ。


この精霊族はロベリアの儀式をしっかり見ていたらしい。


彼女にはなぜこの精霊族がこの『片割れの間』にいたのか分かっていた。


それゆえに、儀式を見られていたことも問題だとは思わず、むしろ納得した。


ロベリアは強張っていた全身から力を抜き、ぐったりとした足取りで、小さな魔方陣に目を向けた。


そこには予想通り、居たはずの男の姿は跡形もなく、魔方陣の外円に並べられた魔石の半数以上が紅い煌きを放っているのみ。


ざっと色の変化した魔石から搾り取った魔力量を計算してみれば、およそ3500の魔力があった。


容量500の魔石が6個、容量100の魔石が5個。


余った魔石は返さなくちゃなー、と考えながら、透明なままのものを皮袋に戻し、かばんの中に入れる。


紅くなった魔石を一まとめにしてその場に置いておき、ロベリアは改めてじっと彼女の行動を見つめていた精霊族に向き直った。


「えっとー・・・精霊王サマの使者ってことでよろしんでしょうか・・・?」


『いかにも。我らが”王”の命により、第14代魔王再誕の儀式およびその行使者たる氷竜の魔族・ロベリアの見届けに来た次第』


肯定の返事に、ロベリアは姿勢を正すとドレスのすそを持って膝を曲げ、精霊王の使者へ敬意を示した。


「我らが祖の寛大なお計らいに心より感謝の旨、お伝え申します」


「確かに。――して、あなたは次に何をなさるのだ?」


「私の血液を採取致します。使者サマにはお辛いと思いますので、距離をとって頂いた方がいいかもしれません」


『あぁ。そうさせてもらおう』


頷いた精霊族は滑るように音もなく部屋の入り口へと移動を始めた。


ロベリアはそれを横目に、床に置いていた採血用吸血バラの鉢植えの横に座り込む。


影蟲に命じて、雪原地帯の自分の部屋から空瓶を二つもってこさせる。


そのうちの一つのふたを開けておいてから、左腕を露出させ、さっと水を出現させて洗う。


吸血バラに大包6個、休憩なし、と指示を出して、蔓を腕に絡ませた。


しばし、体から魔力が失われていく感覚に耐えて、ロベリアは自身の血の採取を終えた。


半身の生き血、精霊族の生き血、地竜の生き血、そして純粋な魔力。


魔族の心臓以外の全てがこうして揃い、ついに魔王を再誕させる儀式が始まる。


◆◆◆

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