・11・(・・・正直、めんどいです・・・・・・精霊王サマ)
「あぁぁぁー・・・」
精霊界の緑の屋根の一枝に止まり、ロベリアは胸中の重たい空気をダダ漏らす。
翼と尾を出現させ、大木の一つにドレスにもかかわらず足を広げて、だらりともたれかかっている。
精霊王の御前を辞し世界樹から降りたロベリアは、すぐに魔界に帰る気にもなれず、考えをまとめようと精霊界に留まっていた。
彼女の頭の中は、精霊王に命じられた「罰」でいっぱいである。
閃光蛍の魔族を儀式の生贄として利用し、ロベリア自身を魔王の「半身」として魔王を復活させる事。
内容はその二つであるが、それを実行しようと思うなら、想像できる範囲だけでもかなりの労力とそれなりの準備が必要になる事は分かりきっている。
ロベリアは脳内で、ざっと儀式の全容を思い返してみた。
必要な材料は、多量の純粋な魔力・精霊族の生き血・地竜の生き血・半身の生き血・魔族の心臓を一つ。
材料のほとんどが生き血であるこの儀式では、血を流す事は不可避である。
もっとも、それぞれの量は最低コップ一杯ほどあればよいのだが、かつての儀式では当然のように人一人分を用いられたりしていた。
問題は山盛りである。
半身の生き血、これはロベリアの血液なため、すぐに用意できる。
精霊族の生き血と地竜の生き血は、精霊族には提供してくれそうな人物に心当たりがあるのと、地竜の生き血は最悪眠らせている間に採血させてもらえばいい。
最大の難点は、大量の純粋な魔力である。
この儀式最大の忌避すべき点であり、多くの犠牲をもたらした。
魔力とは、生命力と同義である。
少なければその生き物は病弱であり、多ければ多いほど強く永く生きることができる。
魔王は全ての魔族の”王”であるからと、この儀式を創った魔族は、魔王を再構築するのに魔族数十人の魔力を搾り取り、魔王に捧げた。
当然、搾り取られた魔族は死ぬ。
それが儀式における犠牲の意味なのである。
魔族は自身より強いものに絶対服従で、その命を捧げることを厭わない性を持つため、歴代の犠牲者たちはみな喜んで生贄になったのだろう。
今回、流血と殺生を厭う精霊王は、閃光蛍の魔族をその生贄として使う事で、口封じついでに犠牲者を一人に留めよ、という意味も含めてロベリアに命じたに違いない。
ロベリアの母、ロズレイアによればかの魔族は千年を越えて生きているようであるし、その魔力だけでも儀式に必要な量は足りるだろう。
では、なにが問題であるのか。
「あー、もー、ほんと・・・・・・どーしよぉぉぉ・・・」
ロベリアは悩ましく頭を抱える。
彼女も魔族の一人、戦闘本能と血を好む性質を持ってはいるが、それと同時に魔族として変わりモノで、あまり殺しを好まない。
魔族間の決闘は、両者同意のもとにその勝利条件を決めるため、ロベリアはたいてい気絶するなどにしているが、本来はどちらかが死ぬまで、というような条件の方が多いのである。
300年生きてきた中で命を刈った経験はあるにしても、ロベリアは気が進まなかった。
しかも相手は1000年超えの古い強い魔族である。
真正面から決闘を申し込む気などさらさらないが、奇襲したとしても自分に勝てるのか。
さらに、あの男を倒せたとして、その後に魔力に変換する作業もしなけらばならないのである。
(・・・正直、めんどいです・・・・・・精霊王サマ)
決して口に出せない、ロベリアの本音であった。
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