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雷帝の後継者  作者: 森戸 玲有
第2章
8/56

1

 天境界てんきょうかいのほとんどは、鬱蒼とした森である。

 自然のままに長い年月をかけて成長した木々は、散らない葉を枝に蓄え、薄暗い世界を更に黒く覆い隠すように巨大な影を形成していた。


「なぜ小娘が雷帝に? エンラ様に子供がいたなんて、聞いたこともなかったわよ」


 太い幹に寄りかかり、ルーガが言った。


「ああ、私も知らなかった。……王。いや、エンラ様も人が悪い。何のための八連衆だ。一言、話してくれれば良かったものの」


 モーリスがうなだれると、彼の袖を揺らして、サクヤがにっと笑う。


「そうかの……。むしろ、そんな弱点をエンラが公表するはずないとも思うがな」

「じゃあ、何よ? エンラ様は、あの得体の知れない娘を雷帝にして、天境王に即位させるために、何の得にもならない子育てをしていたわけ? 信じられないわ」

「まあまあ。王は八連衆の多数決を取らないと決まらん。エンラの後継者だったとしても、この段階であの娘が王になることは有り得んよ」

「……でも」


 大きな欠伸をして、ぽつりと語ったのは、黒猫のフィンだった。


「……あいつの雷は、エンラ様の能力そのものだった……」

「人間界で見たんだってな。雷帝の力を?」

「まあな」


 フィンは、小さくうなずいた。


「でも、少し見ただけだ。分からねえよ。力だけで、王になれるわけでもないし」

「そうよ。あんな小娘、簡単に王になんてさせないわ。天境王も雷帝もエンラ様のものよ」


 ルーガは、忌々しげに唇をかみしめる。


「今こそ、奪還するべきだわ。私は、あんな小娘に仕える気なんて毛頭ないもの」

「だけど、それがあるのは、あいつの牙城だぞ。絶対ばれるって」

「私は別に、もういりませんよ。あれがなくても、生きていけることを知りましたから」

「ちょっと、ひどいわ。モーリス。サクヤはどうなのよ?」

「わしも、さして興味はないが……」

「ふん。情けないわね。いいわよ。私一人でも……」

「まあ、少し待たんか」


 サクヤは、まったく曲がっていない腰を叩きながら、ルーガの前に立った。


「協力しないとは言ってないぞ。わしは……」


 その瞳は、見た目年端のいかない子供のくせに、妖艶で昏い輝きを放っていた。

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