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雷帝の後継者  作者: 森戸 玲有
第6章
38/56

2

 大人たちが騒いでいた。

 久々に水鏡に現れた「あの方」が第二王子を殺すようにと、指示を出してきた。

 リエルより、少し年上の仲間たちは、それに従うつもりだったけれど、でも雷帝と名乗ったお姉さんは、そういうことがあったら、自分に報告するようにと言い残していた。


(僕は、お姉さんを信じる……)


 リエルは誰にも行く先を伝えず、初めて集落を出て、あらかじめ聞いていた王子の住まいに急いだ。

 いつもと違う珍妙な装いのお姉さんことユラは顔色を変えて、ロカ兄さんと一緒に集落まで来てくれた。

 直接、雷帝が来てしまったのなら、集落の皆も「あの方」の命令を鵜呑みに従うことは出来ない。

 何の恨みもない、第二王子を殺すなんて、物騒な命令だ。

 ユラ姉さんは、しばらく集落で「あの方」こと「モーリス」を待っていたが、陽が暮れる前に諦めて、第二王子のもとに戻って行った。

 危険なので、「あの方」の言うことは聞かずに、全員集落に留まるよう頭を下げて行ったけれど……。

 しかし「あの方」を裏切ることのできない一部の仲間たちは、血気盛んに森の中で第二王子を襲う計画を立てていた。


(やめておけばいいのに……)


 早朝から動いていたリエルは疲れ果ててしまった。


「まだ間に合う! 今から、馬車を飛ばして行けば今日中に王子を狙うことができるはずだ!」

「「あの方」が殺して欲しいって言うのだから、やっぱり王子は悪人なんだよ」 

「あの娘、雷帝って言っていたけれど、本当にそうなのか? ほとんど人間みたいじゃないか……」


 口々に、そんなことを勝手に言っている。

 ロカ兄さんだけが唯一、彼らを止めていた。


「そんなことしたら、絶対に駄目だからね!」

「ロカ兄さん……」


 弱気なのか、頼もしいのか分からないロカの顔を、リエルは仰ぎ見た。

 普段、大人しいロカの声に、最初全員目を丸くしていたものの……。


「ロカ、お前だって最初の襲撃には加わっていたじゃないか?」


 誰かがそう言えば、刹那にそうだそうだと、大合唱が始まった。

 ロカはたじろぎつつ、しどろもどろに説明する。

 ふさふさの白い耳がピクピクと動いていた。

 ロカが緊張している時の癖のようだった。

 まるで皆から苛められているみたいで、リエルはロカ兄さんが不憫になってしまった。


「確かに、俺は従ってたけど……。でも、今回は殺せって言っているし、ハルア様はね、俺が襲撃犯だってこと、最初の時点で気づいていたんだよ?」

「はっ、だから、何だ? 元々、俺達がこうやってひっそり生きなくちゃならなくなったのは、イラーナの王族のせいだろうが?」


(そこまで、遡っちゃうんだ……)


 要するに、倫理観など飛び越えて、みんな鬱憤がたまっているのだ。

 口で何を言っても意味がないのかもしれない。

 それでも、ロカは小さな体で両腕を横一杯に伸ばして、「行かせない」の体勢ポーズを取った。


「で……でも! ハルア様は……確かにちょっと変な人だけど、悪い人じゃないよ。それに、ユラさんだって……。正直、天境界の雷帝と聞いた時は驚いたけど……。嘘をつくような性格じゃないから……」

「何だ、ロカ。もしかして、王子に金でも積まれたのか?」

「ち、違うよ!」

「ちょっと、、みんな落ち着いてよ……」


 さすがに、リエルも黙っていられなくなってしまった。

 ロカが不器用な性格だということは、リエルの方がよく知っている

 自分が口を挟んだところで、火に油だって分かってはいるけれど……。


「あの方、あの方って……さ、ほとんど皆、直に会ったことがないのに、どうして忠義心みたいなのを持っているの? そのほうが僕には、わからないんだけど……」

「…………いや、あの方は……な」


 ……だが、そこで言いよどんだ幼馴染は、どうしてか突然目の色を変えた。


「はっ?」


 リエルは首を捻る。

 ロカ兄さんと自分の背後に、彼らの視線が一斉に向けられていた。


「何?」


 ロカ兄さんが言いながら……

 二体同時に振り向いた。


「……あの方だよ」


 その低い声は、少々機会が遅かったようだ。

 リエルもロカも硬直した。

 見上げるまでに背の高い男。

 青い外套が微風に翻っていることから、本当にそこに実在しているのだろう。

 こめかみから角が生えた男は異様な外見であった。

 だけど、違和感なく、気配を消して、そこに立っていた。


「…………何で?」


 ここにいるのか?

 そして、男は何を思ったか、いきなりその場に膝をつくと……。


「申し訳ない……」


 ―――突然、謝罪したのだった。

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